第3回 マンガ家 ヨネダコウさんとの対話(前編)

2007年商業誌デビュー、2008年のデビュー単行本『どうしても触れたくない』(大洋図書)で一躍人気作家になったヨネダコウさん。2016年1月現在、既刊単行本が6冊と比較的寡作ながら、そのすべてが大ヒット。さらに2015年には『囀る鳥は羽ばたかない』(2013〜、大洋図書)で「フラウマンガ大賞」受賞、「SUGOI JAPAN」ノミネートなど、幅広く評価されています。

私ももちろんヨネダさんの大ファンなのですが、『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』では論じきれなかったため、対話編へのご登場をお願いしました。

 

第3回ゲスト:ヨネダコウさん
511832d7441d9348a91c57512332027f

インタビュアー:溝口彰子
3190788880216c3b283da328f9e2cfd8
©Katsuhiro Ichikawa

 

最近、自覚したんですけど、私、脇キャラを立たせるのが好きみたいなんです

 

溝口:ヨネダさんのデビュー作である『どうしても触れたくない』は、2014年に実写映画化もされましたけど、大きな事件が起こるような物語ではないんですが、キャラクターもエピソードもすごく印象的で、それが大勢の読者をじりじりさせてメロメロにしました。

 

ヨネダ:ありがとうございます。初めての商業作品だったので反省する点は多々あるんですけども映画のおかげもあって今も新しく読んでいただけたりしていて、読者さんに大事にしていただいてる作品だなあと感じます。

 

溝口:とくに「攻」の外川(とがわ)は、BLのキャラとしてすごく珍しくて新鮮でした。だっていきなり、初出勤の朝のエレベーターで、二日酔いだしお風呂にも入っていないからもわっと臭い「攻」に「受」の嶋がうんざりするんですよ。こんな出会いシーン、他で見たことありません(笑)。

 

ヨネダ:単純にカッコいい完璧な「攻」っていうのが描けないんですよね。どこかダメだったりしてしまう。「スパダリ」は一度も描いたことがないと思います。

 

溝口:すばだり?

 

ヨネダ:「スーパーダーリン」っていうことみたいです。私も最近、知ったのですが。

 

溝口:「スーパー攻さま」みたいなことですかね。

 

ヨネダ:ですね。で、外川の場合は、「受」の嶋からみて、「げっ。やなヤツ」って思われるように描きたかったんです。すごく嫌なヤツだと思っていた人からちょっと優しくされたり、あとからいいところが見えたりするほうが、ふらーっと惹かれてしまうじゃないですか。そういうギャップがあったほうが面白いだろうと。

 

溝口:外川の、言い方は悪いかもしれませんが、そこらにいそうなノンケ男っぽさも際立ってるんですよね。

 

ヨネダ:そこらにいそう(笑)。まさにそんな根本的考え方がナチュラルに「俺は男」が前面に出てるひとをイメージしてました。ほんとよくいますよねこんなタイプの男性。そんな外川を好きだと言ってくださる読者さんが多いので、これ言ってしまっていいのかわかりませんが、私自身は外川のこと、「こいつはなんて嫌なやつなんだ!」って思いながら描いてたんです(笑)。

 

溝口:ええっ?

 

ヨネダ:嫌なやつだけど惹かれるっていう意味も込めて。だって例えば、最後のほうで、嶋と再び結ばれたあと、遠距離がつらかったらおまえが京都に来ればいい、みたいなこと言うじゃないですか。「こっちで2人で暮らしたっていいわけだし」って。なんなんだこの嶋に対する女扱い。なんで嶋が外川のために仕事辞めなきゃならないんだ、そもそも、おまえが転勤するなよ、っていう話なのに!……と(笑)。

 

溝口:確かに(笑)。

 

ヨネダ:外川はノンケだから、当たり前にこういうこと言うだろうな、って思って描いてるんですけどね。……私、最終的には、セックスの時に、「俺が受けてもいいよ」っていう「攻」が好きなんです。そのくらい「ケツの穴が大きい」「攻」が(笑)。でも、外川って全然違うじゃないですか。

 

溝口:はい。外川は、自分が突っ込まれる方にまわるなんて絶対考えたこともないですよね。ケツの穴、小さいな、外川(笑)。

 

ヨネダ:小さい小さい(笑)。小野田や百目鬼なら相手に望まれたら喜んでお尻を差し出すはずです(笑)。そういうジェンダー的な公平さに欠ける意味で外川と嶋って、ゲイの人が見たら怒るだろうなと思っていたんですが、意外なことに一部のゲイ受けが良くて。で、お手紙とかからわかるのは、この作品が好きだっていうゲイの読者さんって乙女思考なんですよね。少女マンガを読む乙女のように、全然リアルではないところで、「こんな恋がしたいなー(ありえないのはわかっているけど)」みたいなドリームとして読んでくださったのかなあって。

 

溝口:なるほど。現実には「千本斬り」でも、最近増えているという「草食系ゲイ」でも、乙女としてファンタジーを楽しむことはできますもんね。

 

ヨネダ:せんぼんぎり……? あ、そっちの意味ですね(笑)。

 

溝口:『このBLがやばい! 2016年度版』で映画版の監督・天野千尋さんのインタビューを読んだのですが、最初の脚本では外川が嶋に自分の過去を語るシーンが後半に置かれていたのを、原作通り、序盤に持ってきてほしいとヨネダさんがリクエストされたとか。

 

ヨネダ:はい。まだ関係をもって早い時点で、そして、嶋が自分に真剣に気があるのをうすうすわかっていながらああいう自分の家族の過去のヘビーな話、そして、だから家族には憧れがあるっていう話をするのってひどいじゃないですか。外川はそういう、ひどいというか、図太いところがある。好きになったら優しいけれど好きじゃない時点では無神経になれる。読者さんは嶋と一緒に傷つくだろうなと思って私は描いたわけなので、それを後ろにもってこられると、外川は嶋を好きになった後に無神経なセリフを言うことになってしまうのでそこは違うな、と、その変更はお願いしました。

 

溝口:なるほど。映画版で脇キャラの小野田も存在感があるなと思ったのですが、それって原作からそうなんですよね。10ページ目くらいで初めて登場するときに、「しーまちゃん」って呼びかけて嶋にいやがられて、コマこそ小さいけどバストアップのニカっと笑った顔も印象的で。

 

ヨネダ:最近、自覚したんですけど、私、脇キャラを立たせるのが好きみたいで。『囀る鳥は羽ばたかない』でも、恋愛要素ナシに色んなエピソードを入れたくなるんです。あと意外性を出したくなる。小野田って最初のほうではとても大人で、いい人なんだけど、途中で変わっていくのもそのせいです。こういう人なんだろうな、と思わせた範疇におさまったままで進んでいくと面白くないというか。そして、意外性を出そうとすると、どんどんヘタレていってしまうんですね(笑)。

 

溝口:その小野田が主人公のスピンオフ作品が『それでも、やさしい恋をする』(2014、大洋図書)ですね。

 

ヨネダ:『どうしても〜』の最後のほうで、小野田が、自分はもしかすると嶋のことが好きかもしれない、ってなってとまどっていますよね。そういう要素が出てくると、それを拾って、この人をどうにかしてあげなくちゃ、って思ってしまう。それで、小野田の相手はどういう人がいいかな、と考えて出口が生まれました。

 

溝口: 出口は自覚的ゲイ・キャラで、小野田より年上の28歳だけど、すごく若く見えるので初対面の時に小野田が年下扱いするっていうのが絶妙だなあと。実際にゲイって若く見える人が多いから。

 

ヨネダ:それは知りませんでした(笑)。そうなんだ~。確かに若々しい人が多いかも。

 

溝口:ありゃ、私の勝手な深読みでしたか(笑)。

 

ヨネダ:出口については、まず、小野田には年上の相手がいいだろうな、と思ったんです。それと、『どうしても〜』の嶋が、同性愛という性的指向について否定的に考えているキャラだったので、対照的に肯定的な人を出したかったんです。で、明るい性格で、小野田よりも年上で、カッコいい遊び人なんだけど、それだけだと出口が「攻」キャラっぽくなりすぎて小野田が好きになる要素が減るので、童顔にしたんだと思います。顔を可愛くさせると中身を可愛くしやすいですし。

 

溝口:実は私、ヨネダさんがいま言われたように、『どうしても〜』の嶋が、自分がゲイであることをあまりにもネガティヴに考えていることに対して、ちょっと複雑な思いだったんです。腐女子としては、それが、じりじり感を出していることに萌えるのは事実だけど、一方で、自分が同性愛当事者である立場からすると、いまどきゲイであることをそこまで否定的に考えなくてもいいじゃないか! と(笑)。

 

ヨネダ:『どうしても〜』での同性愛の解釈については物語上否定的に描いてしまっているので、BLという娯楽として、いわばネタとして嶋がゲイであることを描いているのではと、同性愛者の方に申し訳ない気持ちがありました。上手く描けず納得がいってない部分もありますが、ただ描きたかった部分はつまづいた人間の再生であり、同性愛を否定することではなかったです。

 

溝口:それをうかがって嬉しいのですが、作品だけを追っていても、もやもや感がじょじょに晴れてはいったんです。まず、スピンオフの『それでも〜』の、ゲイであることに肯定的な出口が登場したことで、作家さんが同性愛を否定的に見ているわけじゃないみたいだ、と思えたこと。それと、『どうしても〜』の映画版のDVDボックスに収録された11ページの描き下ろし短編にも救われました。

 

ヨネダ:つきあって半年後の嶋と外川の後日談ですね。2人の喧嘩の原因。

 

溝口:半年もたっているのに、嶋がものすごく照れ屋で、モジモジしているんです。「あ、本編で嶋がウジウジしていたのって、ゲイであることの劣等感もあるかもしれないけど、何よりもこの人の性格なんだな。ウジウジとかモジモジとかして否定的なところがあるのって」って納得できたので。

 

ヨネダ:そうなんですよ。私が無表情好きというのも相俟って嶋はああいう暗い子になっちゃってますけど、ちゃんと普通な時でもこういう人なんだよっていうことを描けたのが良かった(笑)。くっついてハッピーになったからっていって、いきなり性格が変わったら変ですもんね。

 

溝口:嶋がニコニコして外川と外で堂々と手をつないでいたら、むしろおかしいです(笑)。嶋は、ウジウジモジモジしながら「ハッピー・ゲイ・ライフ」を送っているんだろうなーと思っています。

後編につづく)


■参考作品
どうしても触れたくない大洋図書
dad43636eb5a43b4fddf10e656e29ec8
©Taiyohtosho Company. All rights reserved.

 

Top