第4回 マンガ家 ヨネダコウさんとの対話(後編)

 

2007年商業誌デビュー、2008年のデビュー単行本『どうしても触れたくない』(大洋図書で一躍人気作家になったヨネダコウさん。2016年1月現在、既刊単行本が6冊と比較的寡作ながら、そのすべてが大ヒット。さらに2015年には『囀る鳥は羽ばたかない』(2013〜、大洋図書)で「フラウマンガ大賞」受賞、「SUGOI JAPAN」ノミネートなど、幅広く評価されています。

私ももちろんヨネダさんの大ファンなのですが、『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』では論じきれなかったため、前回に引き続き、対話編へのご登場をお願いしました。

第4回ゲスト:ヨネダコウさん
511832d7441d9348a91c57512332027f

インタビュアー:溝口彰子
3190788880216c3b283da328f9e2cfd8
©Katsuhiro Ichikawa

▶︎ヨネダコウさんとの対話編 前編はこちら

一つの作品のなかで、原作と二次創作の両方をやってしまいたかったんです

溝口:『囀る鳥は羽ばたかない』での「第3回フラウマンガ大賞」の受賞、おめでとうございます!

ヨネダ:ありがとうございます。……いやー、『フラウ』さん、こんなイロモノな作品に大賞を出しちゃって大丈夫なのかな、と本気で心配しました。すごくうれしかったですけど。混沌としてました。

溝口:いやいやいや。フラウ世代(30-40代)の女性が現実を忘れて楽しめる作品だから、っていう選考理由ですから、きわめて妥当な大賞受賞だと思います。私も「激賞メッセージ」を寄稿させていただいたんですが、ヤクザ取材歴の長いジャーナリストの鈴木智彦さんが、『囀る〜』がヤクザの世界をすごくリアルに描いていて、作者がヤクザの情婦かと疑ったほどだというメッセージを寄せられていたのにはびっくりしました。

ヨネダ:(笑)それは、おそらく鈴木さんがサービス精神で書いてくださったんだろうと思います。ただ、男性読者の方で『囀る〜』を褒めてくださる方のなかには、私が現実にヤクザが好きなんだろうと思う方はいらっしゃいました。ヤクザの若頭を紹介しましょうか? って言われたこともあります。残念ながらお会いしてはいませんが(笑)。

溝口:えー! 男性は腐女子よりも現実と作品(表象)の距離が近いんでしょうか。……でも、例えば三池崇史監督にも「若頭に会わせてあげるよ」って言うのかなあ? 謎です。

ヨネダ三池監督だったら逆に若頭のほうが会いたがるんじゃ(笑)……そう言われるのは私が女だからかもしれませんね。「ヤクザ好きの女」っていうイメージを持たれたのかもしれません。私の中でヤクザはあくまで萌えの記号なので。お会いしたいというよりも見てみたい気持ちはありますがそこは専門雑誌等もありますので(笑)。

溝口:(笑)。とはいえ、若頭であり「受」キャラである矢代が、ヤクザは「仮性ホモの集まり」と考えているシーンに、ジャーナリストの鈴木さんも注目なさったのは「やっぱりそうなのか?」と思いました。私も同じシーンに注目したので。「兄貴や親父」との4Pを妄想として描いてみせているのも秀逸で。

ヨネダあそこを描くのはとっても楽しかったです!(笑)ヤクザの男惚れっていう概念もですけど、男の人同士の憧れだとか友情だとかって、暑苦しいですよね。なんていうか、男って「男という生き物」が本当に好きなんだなあーと。男性バディものの多さを見てても顕著。

溝口:飲み屋でおっさん同士が取っ組み合いのケンカを始めたのに居合わせたことがあったんですが、ものの15分後には抱き合って頬をすり寄せていたので仰天しました。

ヨネダ:女同士でそこまで大げんかしたら、一か月くらい口きかないか、ケンカ別れしますよねぇ(笑)。

溝口:どんだけ男同士で愛し合っているんだ!(笑)で、そういった男同士の絆が身体的な「いちゃこら」をも含んでいるけれどもあくまでもホモソーシャルである、「男同士でセックスするようなホモセクシュアルとは違う」とホモフォビアをむき出しにする。さらに、異性愛者であるというアリバイのために女性を利用することもある。矢代が男相手に「公衆便所」状態で、矢代を愛する「攻」の百目鬼(どうめき)がインポだっていう『囀る〜』は、「仮性ホモ」家父長たちへの痛烈な批判としても機能していて、BLが「発明」されねばならなかった背景へ切り込むメタな次元も持っていると「激賞メッセージ」にも書きました。

ヨネダ:メタな次元っていうのは意識していなかったですが、指摘されてなるほどそうだったか、と思いました(笑)。そこまで大それたものは自分の中ではないですが、漠然と頭の中にあって、掴めないけど確かにそこにあるテーマみたいのはあります。言葉にしたり活字にするとなくなってしまいそうな泡みたいなものなのでそこはマンガで表現できたらいいのですが。

溝口:ヤクザものBLって実は多くて、一種の定番というかサブジャンルなんですが、『囀る〜』の個性は際立っています。まず、ノワールな世界観でハードなテンションのど真ん中に、これぞBLというセリフがぶっこまれてくること。たとえば、1巻の80ページ目くらいで、ローン会社の事務所から組の事務所に移動する車のなかで、百目鬼が矢代に向かって突然、「綺麗だと思ってました 頭のこと」って言うとか。ヤクザものBLでは、そういう甘いセリフを言うのは2人きりのプライベート空間で、「ラブラブ」な時間帯っていうのが多いです。『囀る〜』では、ヤクザとしてのハードな仕事の場からハードな場への移動中で、いちおう2人きりではあるものの、甘さは一切ないシーンだというのがとても珍しくてインパクトがあります。

ヨネダ:そうですね。なるべくヤクザな部分と同じテンションで甘い部分も描きたいです。ハードな場面で甘いことを言う方が甘さが際立つので、ハードなところはちゃんとハードに描きたいと思っています。……私は同人活動をしていたことがあるんですが、二次創作って、少年マンガをもとにしたものが多いですよね。原作では、とにかくストイックにスポーツとか冒険とかに邁進していて、恋愛要素なんかはない。だからこそ、そのキャラクターが恋愛したらどうなるんだろう、辛口なキャラたちが甘いことをしたらどうなるのかっていうことを想像して描きたくて二次創作をする。『囀る〜』は、一つの作品のなかで、原作と二次創作の両方をやってしまいたかったんです。辛口な世界観のなかにほんの少し甘さが混じる、というのを。

溝口: なるほど! だから矢代は「総受」(不特定多数の男性キャラから挿入されるキャラ)なのに、若頭としてシビアに仕事をする描写も多いわけですね。

ヨネダ:矢代は淫乱だけど強くて有能な設定ですから(笑)……正直なことをいうと、3巻が出る時には、矢代が乙女っぽくなりすぎているって言われてしまうのではないかと心配だったんです。でも、結果的には、読者さんから、乙女なところがすごくいいという反応をいただいて……。

溝口:え? 乙女になっていますか?

ヨネダ:私は基本的にはキャラが赤面しているところも描くのが苦手で……。でも、3巻では描かざるをえなかった「これは赤面じゃなくて発熱! 発熱だから!」って自分で言い訳をしながら描いていました。結果、「矢代が赤面しているところを見られるなんて」と喜んでくださった読者さんは多かったようです(笑)。

溝口:原因が怪我による発熱ではあっても、矢代の赤面したかわいい表情を見られて嬉しいってことですよね。それはわかります(笑)。ちなみにBLで描かれるヤクザは、経済ヤクザだから荒っぽいことはしないとか、風俗店を経営していても女の子たちの扱いが他の店よりもとてもいい、といった、BLならではのファンタジックなソフト・ヤクザが多いのですが、『囀る〜』は、違いますよね。

ヨネダ:それは、私がヤクザを肯定的に描こうとしていないからかもしれません。私が読んできた青年マンガのヤクザの描き方が、ほとんど「ヤクザ、すげー」「男かっけー」っていう全肯定で、そういうふうには自分は描けないな、と。もう少し現実に寄せた描き方をしたかったんです。現実、といっても、本などで多少のリサーチをした程度で、私自身がとくにヤクザについて詳しいわけではなくて、一般的な社会通念上のヤクザ像からかけ離れたくないという意味ですが。そういう意味で平田というヤクザキャラはかなり牽引してくれてるなと思います。……この辺は結末にかかわってきちゃうので、あまり話せないんですが。

溝口:なるほど。話は「フラウマンガ大賞」に戻るのですが、私、激賞メッセージは寄稿させてもらいましたけど、選出理由や作品紹介などにはもちろんノータッチだったので、掲載誌を送っていただいた時に、「これはBLを超えた作品だ」みたいな表現がなかったことに、実は、ほっと胸をなでおろしたんです。っていうのは、優れたゲイ映画に対して「ゲイ映画を超えた普遍的な愛を描いている」みたいな言い方をされることに長年、不満を抱えていたこともあって。……「超えたって何だよ。超えなきゃ褒められないっていうのはゲイが劣等枠かよ。単に優れたゲイ映画っていえよ」みたいな。で、幅広い人気を得たBL作品に対して、「BLを超えた」っていわれているのを見かけたこともあったんです。だから、今回、『囀る〜』が「BLを超えた」からじゃなくて「優れたBL」として受賞したんだ! と、じーんときました。おおげさかもしれませんが(笑)。

ヨネダそういえばそういった表現は無かったですね。似たようなことでいえば、私アニメの劇伴が好きで、よくCDも買って聴きながら仕事するんですが、この前そのレビューに「アニメのサントラを超えている!」と書かれていてびっくりしました。そこ超えるものだったの!? と。「超えた」っていう表現が微妙だというのは、たしかにそうですよね。 

溝口:そうなんです。「超えた」を禁止にしたいです!(笑)

次回の対話編ゲストは、哲学者の千葉雅也さんを迎えてお送りします!

【関連記事】
▶︎第3回 マンガ家 ヨネダコウさんとの対話(前編)


■参考作品
囀る鳥は羽ばたかない大洋図書
e483d21ff2c04ed5bbb7d164ff1a112f
©Taiyohtosho Company. All rights reserved.

 

Top