第65号 50代からの終活〜遺言作成は相続税の検討も〜

 

 ●お守りがわりの「一行遺言」教えます
こちらでもときどき報告記を書いたりしている、性的マイノリティのための老後準備講座「にじ色あんしん老いじたく」(ゆうちょ財団助成事業)も最終の第3回を迎えました(1/16に開催)。今回は、

 遺言や相続、お墓や片づけ
いつかかならず来る日のために

と題して、いわゆる「終活」について、私たちバージョンで考えてみました。
私たちバージョンとは、一人暮らしだったり、法律上まだ親族と認められていない同性ふたり暮らしだったり。そんな場合でこの世を去るときどんなことが起こるのだろう。年のはじめだからこそ考えてみたいあれこれです。
老後のお金や住まい(1回)、高齢期に多い発病時や認知症時(2回)と、継続して参加してくださっているかたもおられ、第3回も会場定員の36席が満席になりました。

今回のメインは「遺言」。同性パートナー間で、突然一方が亡くなったとき、法定相続がないので相手の親族が現れてみんな持っていった、という話はおなじみです。たとえ相手の親族の理解があっても、法律上はいったん親族が相続し、そこからパートナーに渡してもらうので、贈与税という大きな負担がかかります。
しかし、法律にのっとった遺言を作成しておけば、直接パートナーに渡すことができます。ふたりでローンを折半してマンションを買ったなどの場合、まだまだ共有名義にすることは難しいですから(現実には共有名義にしないほうがなにかと便利かもしれませんが)、名義者に万一のことがあった場合にそなえて公正証書で作る遺言は、購入費用の一部だと考えてほしいほどです。
そうした遺言の作り方や効力については、この連載拙著等でもご紹介していますので、ぜひ基本的なことは頭にとどめておいてくださいね。

自分は財産なんかなにもない、と言っても、モノにはすべて所有権があります。本に挟んでおいた1万円札や着古したコートを「形見に貰っとくね」というのはご愛嬌としても、さまざまな品物を遺品整理屋さんなどに片付けてもらうとなると、依頼人が相続人ではない、遺言もないとなれば、処分権がだれにあるのか不明確で、業者もコンプライアンス上、引き受けてくれないかもしれません。若い人も、まずは「お守り」だと思って、

 遺言書
私が所有するすべての財産を、◯◯◯◯(×年×月×日生、住所ーーーーーー)に包括して遺贈する。
△年△月△日  だれのだれべえ 印

 以上を全文自筆で書いて、日付と名前と押印を確実にして相手に渡しておくことをお勧めしています(最低限の自筆証書遺言です)。

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「LGBT」への認知もあがって、ゆうちょ財団など一般の社会からも助成の対象と理解してもらえるようになりました。来年度もまた開催できるよう、先日、応募書類を出したところ。開催できるときはまた2CHOPOでも告知しますね。

 ●パートナーと親族で、相続税の計算がぜんぜん違う!
今回の「にじ色あんしん老いじたく」講座では、私が最近気をつけていることで、遺言と相続税との関係についてもお話しました。同性カップルの場合、たしかにパートナーに遺言で財産を渡すことはできるのですが、相続税もかかるかもしれない。そのための現金の手当ても考えておく必要があるかも、というお話です。

相続税は、相続財産から基礎控除額を引いて、それを超えたときに課税されます。
昨年から相続税の基礎控除が縮小され、以前なら大金持ちの人しか相続税がかからなかったのに、中金持ちぐらいの人もかかる場合が出てきました。
基礎控除の計算には、法定相続人の人数を使います。べつにその親族に遺産を渡さなくても、あるいは縁を切っているといっても、計算には必要です。
法定相続人は、親が生きていれば親、両親とも亡くなっていればきょうだいです。亡くなっているきょうだいに子がいれば、子(甥・姪)も法定相続人です。基礎控除の式は、

3,000万円+法定相続人数×600万円

両親が亡く、きょうだいが1人の場合は3,600万円。きょうだいは先に亡くなっているが、甥と姪がいる場合は4,200万円となります。一人っ子で相続人がいないとなれば、3,000万円だけです。
 *参考 2014年末までは、5,000万円+法定相続人数×1,000万円でした。

つぎに、相続財産がトータルでいくらになるかを計算する場合、配偶者や親族が相続する場合と、非親族(同性パートナーもこちらに含まれます)に遺贈する場合とでは財産の評価方法が違い、配偶者や親族の場合に適用されるさまざまな優遇がなく、まるまるが計算対象になります。それだけ相続税がかかる可能性が高いわけです。

例で考えてみましょう。家(3,000万=宅地2,500万、住宅500万)と預貯金(1,000万)と生命保険(1,000万)を相手に残してあげたいとします。
預貯金(現金)は、だれが受け取っても額面通りの評価です。
しかし、家の場合、その家に配偶者や親族が住むなら、宅地は330平米まで評価額を80%減額してもらえます。そうでない場合は、まるごと算入されます。例だと、親族が相続するなら宅地部分を500万円で評価してもらえますが、パートナーに遺贈するならまるまる2,500万円で計算されます。
また、生命保険金は「みなし相続財産」として遺産額の計算に算入されます。これも、相続人が受取人の場合は、500万円×法定相続人数を差し引いてもらえますが、そうでない人が受け取る場合はこの適用がありません。遺言で受取人をパートナーに変更したり、最近出てきた同性パートナーを受取人と認める保険でも、保険金全額が遺産への算入対象になることに注意が必要です。
合計5,000万円の遺産といっても、親族が受け取る場合は、ぐんと少ない額で評価され基礎控除の範囲内に収まるのに、同性パートナーが受け取る場合には相続税がかかる場合があるわけです。

さらに、相続税の計算方法は複雑なので省略しますが、相続税は実際に財産をもらった人がその額に応じて按分して払います。しかし、相続人以外の人が相続税を払うときには、驚くことに、相続税額が2割加算されるのです! ちなみに、法律上の配偶者が相続する場合は、その相続財産が1億6千万円までは配偶者は非課税なんです!
今後、同性婚の必要性は税金の面からも求められるべきかもしれませんね。

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●法律だけでなく、税金や、なにで残すか、も検討

遺産が不動産しかない場合、それを遺言できちんと受け渡すことで、その後もそこで安心して暮らしつづけることはできるでしょう。しかし、相続税の可能性や、かかりそうな場合の現金の手当てを考えておかないと、せっかく受けついだ不動産を売って納税せざるをえないことになりかねません。
また、自宅以外にも不動産があって、そっちはかわいい甥っ子や姪っ子にやろう、という場合には、不動産に相続税分ぐらいのお金もつけてやらないと、貰ったほうが困ることになる場合もあります。
相続税対策に土地を買う、家を建てるということを聞きますが、それは親族が相続する場合は評価額が下がるから。うちらの場合、そもそも現金を不動産や保険といったものに変えないほうが逆に融通がきく面もありそうです。
パートナーに遺言で財産を渡せるとか、同性パートナーも指定が可能な生命保険など、方法の可能性は広がりつつあるものの、税制のハードルはまだまだ高い。場合によっては最末期に養子縁組(パートナーと親族になる)で回避することも検討する場合があるかもしれません。
形式的に適法なだけでなく、その後の税金や残る人のことまで考えた遺言の作成には、一度、当事者の事情に通じた専門家にも相談してみることが大事ではないか、と思っています。
公証役場の公証人は、「これを誰々に渡したい」という希望に沿った遺言をまとめてくれるだけで、それ以上のコンサルティング的なことをするわけではないことに注意が必要です。

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「老いじたく」講座には今回も多くのかたが参加され、終了後の交流会にも12名が参加。老後のことをちょっと真面目に話せる仲間ができてよかった、と、ラインのグループを作ったりしていました。意外にご近所さんどうしであることがわかり、いざというときはよろしく、と挨拶する人も。知識が得られるとともに、人のネットワークを作れる場として喜ばれました。

 

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