第38回 オーガズムに達しないと不安になる

 

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「もうイッてもいい?」

セックスが終盤に差し掛かって、息遣いも腰使いも荒くなった頃、大抵こんな質問が飛び出してくる。男性は射精してしまうとそこで終わる人が多いために、オーガズムに達する前に相手の意見を聞くのがエチケットのようだ。コミュニケーションなしに片方がいきなり終わってしまうと相手もいいところで急に幕が降りるから、それに配慮をした親切心なのだろう。映画を観ていて、そろそろクライマックスだなと物語がわかりやすく進行するようなものなのかもしれない。盛り上がりのピークでいきなり終わったり、クライマックスの後にダラダラと物語が続く映画はなかなか大衆に好かれなかったりする。ただ、個人的に困るのはこの次の質問だ。

「もうイキそう?」

そんなことを聞くということは、相手はこっちがイクのを目標に頑張っているということだ。もしかしたら、一緒にイキたいとか非現実的なことを望んでいるのかもしれない。「こっちはイキたい時にイクから、そっちも勝手にイキたい時にイッていいよ」なんて素直な気持ちを伝えると、向こうはショックで今にも泣きそうになってしまうのでなかなか言えない。もうイッた後なのに、しょんぼりした背中でまだイッてないこっちをイカせようとする姿はあまりにも健気で、「もう家に帰りたいんだけど」をどのタイミングで口にするか悩んでしまう。

どうしてそこまでオーガズムにこだわるのか、とたまに相手に聞くこともある。セックスも終わって、火照った体を冷ましながらのピロートークには最適なトピックだ。お互いにオーガズムに達さないと、セックスが中途半端で気持ち良くなかったと不安になってしまうと多くの人が打ち明けてくれた。自分だけ楽しんで、相手を置いてきぼりにしたんじゃないのかという罪悪感や、相手をイカさなきゃいけないという責任感がそこにはあるようだ。

いつか見た『ショートバス』という映画ではオーガズムが大切なテーマだった。その主人公であるソフィアはセックス・セラピストとして働きながら、オーガズムをまだ一度も経験したことがない。それ故に真剣に悩んでいた。彼女がイキたいがために本気で頑張る姿がとても一途で、少し滑稽だった。彼氏とのセックスで演技していることがバレているのに、ソフィアは頑なにそれを認めない。セックスはこうあるべきだという既成概念に抗いながらも、オーガズムに達せない自分が許せない彼女のキャラクターにとても共感できた。

この社会には確かにイクことに対するプレッシャーが存在する。そのおかげで、自由に羽を伸ばして楽しみたいのに、逆に狭いボックスの中に押し込められているような気分になる。セックスをどう楽しむかは人それぞれだ。前戯が好きな人もいれば、オーガズムに至るまでの過程で満足する人もいる。最高潮のオーガズムが大好きな人だっている。イキたいときにイッて、イキたくないときはイカなければいい。そんなことはわかっているが、周りからオーガズムを期待される中でそれを貫き通すのは難しい。説明したところで、理解されないことも多い。「もういいよ」と相手をガッカリさせるか、我慢してイクか、今日もその間でぶらぶら揺れている。

 

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