第1回 要するに女装趣味の変態趣味はゲイなのか。

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こちらでは初めてお目にかかりますね。はじめまして。大島薫です。
普段タレント兼文筆家と名乗っているだけに、最近はコラムのお仕事も多くなってきました。しかし、LGBTに特化したサイトでの文章の執筆は、これが初めてになります。

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ボクのことを端的に表すとXジェンダーのパンセクシャルである生物学上≪男性≫の人物となるのでしょうか。めんどくさいですね。
来歴をお話しましょう。すでにボクのことをご存知の方は読み飛ばしていただいても構いません。ボクは15歳ごろに女装を始めて、普段は男性として生活をしていました。18歳のころゲイビデオに出演し、24歳のころ男の娘AV女優としてデビュー、その後とある大手メーカー様と単体契約を結び、AV女優引退後はタレントに転向、現在に至ります。

性自認的には男性ですが、性転換はしておらず、見た目は世間一般に言われる≪女装≫に近い格好をしているので、最近の呼び方でいうとXジェンダーということになるのでしょうか。性的趣向は男性も女性も好きなので一般の方にはバイセクシャルと名乗っていますが、男装の方も女装の方も性対象恋愛対象です。正確にいうとパンセクシャルですね。

LGBT界にも多種多様な≪性のカテゴリー≫が生まれました。いま挙げただけでも、ゲイ、Xジェンダー、バイセクシャル、パンセクシャル、女装——これはトランスヴェスタイトとも表現できますね——当事者からしても眩暈がするほどです。
原始的な男と女という大まかな分類から、男を好きになる男がいて、女を好きになる女がいて、どうやらその中にも色々と趣味趣向があるらしいぞというのがわかってきたのが、いまの世の中ということですね。こういったサイトをご覧のLGBT感度の高い皆さまには、ここまでの説明などは釈迦に説法かと思いますので、ここからはボクの一風変わった≪お友達≫の話でもしてみたいと思います。

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女装趣味の変態趣味はゲイなのか
昔ゲイビデオの監督から、こんなことを言われたことがあります。
「女装してても、女になるつもりがなくて男とセックスができるならゲイなんじゃないの?」
うーむ、難しい質問です。
またとある女装趣味の友人男性はこうも言ってました。
「俺は女になる気はないんだよ。ただ女装するときは女になった自分を想像して抱かれてる。だから、これはホモとは違うんだ」
さて、それもわかるようでわからない理論の展開です。結局どうしてこういった性を取り巻く命題が提示されると、要するに気持ちの問題としか定義できないというよくある結論しか導き出されないように感じてしまいます。

啓蒙活動はしない
ボクはよくこの「大島薫」という活動を、何かしら一種の啓蒙活動のように取られることがあります。しかし、ボク自身そんな気は一切なく、トイレは今まで通り男女の別があっていいと思ってますし、セクシャルマイノリティーへの偏見をなくそうだとか、いわんや世界を変えようなどとも思っていません。

正直いうと、冒頭の性別のカテゴライズも必要ないのではなどと考えています。だって普通の男女が恋愛ドラマで「愛に形なんてない」とのたまってるこのご時世、セクシャルマイノリティーだけが≪愛の形決め≫を行うなんておかしな話ですからね。

愛に形なんてないが、だがしかし……
しかし、自分でも認めておきながら、こうも全員右倣えに『人それぞれなんだから』と結論付けているのを見ると、ボクの理屈っぽい男の部分が頭をもたげてきて、要するに何なのかという目に見える形での答えを求めてくるのです。ですからここでは、カテゴライズできないこの不思議な性というやつを無理くりカテゴライズしてみて、逆説的に彼ら彼女らの性について触れてみたいと思います。

ゲイとは何なの
まず、女装趣味の変態趣味がゲイかどうかを語る前に、ゲイというのは何なのかをはっきりさせておく必要があるでしょう。一般人にこれを尋ねると『男性が好きな男性』ということになるのでしょうか。これだけ聞くと女装趣味で男性が性対象の男性はゲイなような気もしてきます。

しかし、LGBT当事者側からすると、自分のことを「女性だと思っている生物学上男性」の場合はこの限りでないことを知っています。例えば手術やホルモン治療を受ける前のニューハーフ——MtFのほうがわかりやすいのかな?——さんなんかがこれにあたりますね。ですので、このサイトをご覧になられている方々は、もう一歩踏み込んで「男性を男性として愛することのできる男性」と考えてみましょう。

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MtFの人に男とかゲイとかいうと怒られる
上述でご理解いただけるかと思いますが、つまり自分のことを女性と認識している男性や、男性としての自分の性別に不一致を感じている男性が、男性を性対象恋愛対象にしていても、所謂『ゲイ』ではないということになります。しかし、ここでの命題は「女装趣味の変態趣味の男性がゲイなのか」ということです。そもそも自分のことを女性だと思っている人に、女装男子とか男の娘とかいう呼び名はたしかに適さない気もします。

そういえば、だいぶ前ニューハーフ(工事済み)の方に初めてあった若い女の子が
「あ、知ってる! お姉さんみたいな綺麗なニューハーフの人を『男の娘』っていうですよね!」
といって、当のニューハーフさんから
「『男の娘』とか『ニューハーフ』じゃなくて、アタシは『女』なのよ!」
と怒られてるのを見て、気の毒に思ったことがあります。いやはや、性の名前は難しい。

MtFと女装趣味って何が違うの?
女装という言葉を分解すると、女を装うと書きます。つまり、自分が女性でない自覚はあるわけです。対象的にMtFという言葉は、ご周知のとおりMale to Female、男から女へ。自分の自意識が女であることを主軸とした呼び名です。こうして見てみると男性であることを受け入れていて、尚且つ男性と性交渉ができる女装男性は、やはりここでいうところのゲイの定義である「男性として男性を愛することのできる男性」に当てはまる気がします。

そもそも性別と性的趣向は別問題
ここがなかなか一般の方には理解されにくい点ではありますが、性別と性的趣向はそもそも別問題です。
「女の格好するってことは男が好きなんでしょ?」
というのは、あくまで男性は女性を、女性は男性を好きになる前提での話であって、自分の見た目が女の見た目だからといって、必ずしも男性を好きになるとは限りません。トランスヴェスタイトが見た目の性別だけを表すのに対し、ゲイという言葉はそれだけで男の見た目で男を好きになるという性別と性的趣向を一挙に表すことのできる言葉です。

トランスヴェスタイトが性趣向を表す言葉でない限り、女装男性やMtFの方が女性を好きになることだって当然あり得ます。あくまで自身の性別や性自認と、性的趣向は別問題です。LGBT当事者であっても、ここの違いを理解している人は少ない気がします。

[PB] 変態趣味とは何か
以前知人の女装趣味の男性でこんなことを言う方がいました。
「俺はさ、女装してるときは男に抱かれたいんだよね」
そう言った彼には奥さんとお子さんがいました。ボクのそんな疑問はお見通しとばかりに彼は続けます。
「別に男が好きなわけじゃないんだよ? たださ、男なのに女の格好をして男に抱かれてる自分ってのが好きなんだよねー」
なるほどどうして、言い切ってしまえばこれほど単純なこともありません。もちろん浮気を肯定するということではありませんが、女になりたいわけでもないし、男が好きなわけでもないのに男に抱かれるという心理を表す言葉として『変態趣味』というのは非常にわかりやすいもののような気もします。

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自分が好き
つまり、前述の男性の例でいえば、≪男が好き≫というよりかは≪男に抱かれている自分が好き≫という論理から男性に抱かれるわけです。いま自分が置かれている状況を客観視して興奮するというのは、何も女装趣味の男性に限った話ではありません。SMプレイに興じるM男性や、女性を満足させている自分の技術にウットリするS男性だっているでしょう。そう考えると、女装男性が男性に抱かれていても『男性として男性を愛することのできる男性』とはいえないのかもしれません。

何が好きなのか
趣味で女装をするにも色々な理由があります。単純に女性の美しさへの憧れで女性を装う人もいれば、Mで男性なのに女性の格好をしている倒錯感に酔いしれるために女装をする人もいます。自分はただの女装趣味だと割り切っているつもりで、その実本当に女性になりたい気持ちにまだ気づいていないMtF予備軍の方もいるでしょう。

自分がこういう性癖だと気付いているつもりでも、ひも解いて見ると違った側面が見えてきます。
これもまた知人の話で恐縮ですが、ゲイの方がこんなことをおっしゃってました。
「アタシ、この前『男みたいなのにメスみたいな声出しやがって』って彼氏に言葉責めされて興奮しちゃった!」
そういった彼はいわゆるジャニ系と呼ばれるタイプで、ゲイ業界的にはかわいい雰囲気です。ボクはそれを聞きながら「うーむ、ゲイにしては女装的な発想だな」と考えてしまいました。

こうなってくるとゲイもゲイか怪しい
当たり前のことですが、ゲイにも様々なタイプがあります。短髪でヒゲといったイカニモなタイプや、いわゆるかわいい系の男性と呼ばれるジャニ系、パッと見では女性と見紛うような中性的な男性だっています。自分のことをゲイだと思って男性として過ごして来たゲイの人の中にも、実はMtFになりたいという願望があったことに気付いて性別適合手術を受ける方や、女装に目覚める方がいます。

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ボクの話
ここまでの話は実は、ボクが迷ってきた過程の話です。ボクは15歳のころ、アニメや漫画に出てくる男の娘の存在に憧れて女装癖に目覚めました。思春期で性的なことにも興味もあったため、女装した姿で男性と性交渉を行ったこともあります。しかし、あくまで恋愛対象は女性で、いうなれば上記に登場した≪変態趣味の女装男性≫と同じ感覚だったような気がします。はっきりと女性になりたいわけではないという自覚もありました。

あくまで男性なのに男性として性交渉ができる自分はゲイなのかと考えた時期もありました。ゲイビデオに出たのがちょうどそのころですね。しかし、ゲイ男性たちと交流する中で何かズレのようなものも感じてきていました。
「どうして男が好きなのに女装なんかするの?」
ゲイの方からこういわれ、それは確信に変わります。ここは自分のいる場所ではない。
そう考え、次に飛び込んだのがニューハーフ業界です。女装が元々趣味で男性と性交渉のできる自分は、実は『女性になりたい男性』なのではないかと考えたわけですね。
しかし、やはりここでもニューハーフさんたちから辛辣な言葉をいただきます。
「女になりたいなら、去勢とか女性ホルモンとか打ったらいいのに」
自分が女性になりたいなんて思ったことは一度もありません。ここでもない。
女性になりたいわけでも、男性として男性が好きなわけでもない。——どっちかにしなきゃいけないのか? ボクはボク自身でいてはいけないのか? それが『ボク』の性に気付いた瞬間でした。

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性別の名前に囚われると本質を見失う
ボクがMtFなのかゲイなのか一体何なのかという問いに、迷い続けた原因は自分の存在に名前が付いていないことの不安からだったのだと思います。はっきりとノンケですと言い切ることもできず、かといってゲイでも、ましてや女になりたいわけでもない。
曖昧な存在でいることの恐怖。そこに名前を付けてすがりたくなるのはごく普通のことです。しかし、ここに出て来た数々の登場人物と同じく「男性」や「女性」、「ノンケ」だとか「ゲイ」だとか「ニューハーフ」、それはボクらを捉える表面でしかありません。

車やスポーツに興味のない一般男性がいるように、ピンク色やスイーツに興味のない一般女性がいるように、ゲイの男性の中にもヒゲや短髪が嫌いな人がいてもいいし、女性を好きなニューハーフがいたっていいのです。大切なのは何が好きか。ただそれだけに嘘をつかないこと。

人が人を好きになることに形式や名前を付ける必要はないのですから。

 2016/02/12 10:30    Comment  コラム              
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