第67号 パートナーに医療同意権は、あるの?ないの?

 

 ●都いわく「成年後見人に医療行為の同意権はない」
1月27日、東京都庁で「東京都×LGBT」をテーマに、東京都の担当者と当事者らが意見交換する初めての会合が開かれました(NHKの報道)。ツイッターなどを検索すると、200名近くが参加して立ち見も出る盛況だった模様です。
私も傍聴したかったのですが、ちょうどあるゲイカップルさんのパートナーシップにかんする公正証書の作成に立ち会っていて不参。まあ、こちらも当事者の権利推進に役立った、ということで……。

ところで、あるツイートによれば、席上、同性パートナーは相手の医療行為について同意権があるのか、についても応答があった模様です。
昨年は渋谷区や世田谷区などで行政による同性パートナーシップの公認制度が始まりましたが、証明書で病院が同性カップルにきちんと対応してくれるのか、が問われたのでしょう。それにたいして、
「都側の説明では、成年後見人制度では医療行為の同意権はないということ。ということは、パートナーシップ証明書に必要な公正証書だけでは、医療機関の対応は難しいということか」
「今日の都側の説明では、法務省に問い合わせたとして、成年後見人では、医療行為の同意権はないと言っていました」
といった趣旨のツイートが見られました。

渋谷区ではパートナーシップ証明書を発行する前提として、原則ふたりのあいだで成年後見制度の一つである任意後見契約(公正証書)がされている必要があります。その効力によって「婚姻に相当する関係」とされるのでしょう。
しかし、このツイートが伝える都の説明を見ると、成年後見制度では医療行為の同意権はない、とされています。ということは、任意後見契約を前提とする渋谷区の証明書でも、結局、病院などの医療機関の対応はむずかしい、ということなのでしょうか? 渋谷区がいう「婚姻に相当する関係」とは、やはり絵空事でしかないのでしょうか?
たぶん多くの人が混乱したことは想像に難くありません。これはどう考えたらいいのでしょうか。
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 ●医療同意権は一身専属、夫婦でも代理できない
じつは、たとえ婚姻した男女の夫婦でも、法律上は相手の医療行為への同意権はない、とされています。医療行為への同意権は、「一身専属」とされているからです。
一身専属とは、他人がなりかわることができないということ。身分にかんすることは一身専属です。他人のかわりに結婚するとか、他人にかわりに養子になってもらうなどはできません。
身分事項以外では、たとえば慰謝料請求権は、原則、ひどい目にあったその人だけが請求できるものとされています。医療同意権もおなじで、手術を受けるかどうかを他人がかわりに決めることができない、と言われれば、そりゃそうだ、とわかるでしょう。夫婦間であっても、それはおなじなのです。

ただ、ここで問われているのは、本人に意識がない場合、病院ではどうするのか、などでしょう。
じつは意識があってもなくても、それはやはりおなじなのです。医師の責務としては、本人にとって医学上、最善と思われる措置を継続することになります。そのため、(意識があれば)本人が望まないような延命措置が続けられ、さまざまなチューブにつながれた、いわゆる「スパゲッティ症候群」という状態になるかもしれません。
それで近年は「回復の手立てがない場合には、不要な延命措置はしないでほしい」などのいわゆる尊厳死宣言をして、あらかじめ医療への自分の意思を表明しておく動きもあるわけです。かつては、それは医師による自殺幇助や殺人にならないのか、など議論がありましたが、時代の変化にともない医療現場でも自己決定を尊重するようになってきました。

でも、「病院などでは実際には医師が家族に病状を説明し、治療について家族から同意を得て進めているではないか」とおっしゃるでしょう。
それは家族がかわりに同意しているのではなく、「家族なら本人の医療についての意思をよく知っているだろう」「家族の話によれば、本人はきっと同意するだろう」という推測にもとづいた、あくまでも「グレーな措置」にすぎません。くり返しますが、法律上、家族だからといって医療同意権があるわけではないのです。

だとすると、本人が意思表明できない状態のとき、その意思を推測するのに、日頃から生活をともにしているパートナーと、たんに血族だというだけの、日頃は遠方にいたり、場合によったら関係がよくない「家族」とでは、どちらに依拠するのがより合理的なのかーーこれは言わずとも明らかでしょう。

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 ●パートナーを医療のキーパーソンに指定する書面
私は行政書士といういわば書面作成の請負人で、人生のさまざまな場面で同性間のパートナーシップをきちんと書面で保証していこうと思い、この資格をとりました。医療もその重要な場面の一つです。
医療の同意権は一身専属という前提から、パートナーの同意権を代理することはできませんし、自分の同意権をパートナーに委任することもできません。しかし、自分が意思を表示できないときは、医療者は治療方針についてパートナーによくよく説明し、パートナーの理解・納得のもとに進めてほしい(私はそのことを望んでいる)。パートナーを私の医療におけるキーパーソンに指定するーーそこまでは言うことができます。

都庁で都の回答がされていたであろう同時間帯に、私はあるゲイカップルの公正証書(任意後見契約)を作成していたわけですが、契約には「身上配慮義務」条項として、おたがいがパートナーの医療にかかわる旨も盛り込みました。また、条項を補完する「医療における意思表示書」も公証人とはべつに作成し、お渡ししています。
任意後見人とは、元来は、認知症などになった本人の財産管理や契約などの法律行為を代理するもので、都の説明のようにたしかに医療の同意権はありません(念押しですが、それは夫婦間や親子間でもおなじです)。しかし、自分が判断できないとき、医療について自分はどうしてほしいのかをきちんと意識し、あらかじめそれを公正証書などの書面にしておくことで、万一時に、自分の望む対応をしてもらったり、逆に本人の意思がわからないために周囲の人が不要な混乱をしたりすることを回避することができるわけです(その代表的な方法が任意後見契約です。また、書面でなくても最低限、市販のエンディングノートなどを活用してもいいです)。いまはなにごとも本人の自己決定が尊重される時代です。

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以下は「営業記述・ステマ」みたいなものですから、不要なかたは飛ばしてください。

私の事務所では、任意後見契約公正証書の作成はひとり5万円で受任しています。カップル相互で作成する場合は8万円です(べつに公証役場での手数料が必要です)。法律にもとづき二人の契約は東京法務局に登記され、登記証明書を取ればパートナー証明書にもなるでしょう。もちろん、任意後見は老後のための実際的効果も期待できます。上述のように弊事務所では、行政書士による私文書として医療意思表示書もサービスでつけています。遺言など他の必要書面といっしょに作成すれば、さらに割引します。
また、こちらでも紹介しましたが、まだ若いカップルなどには同性パートナーシップ契約書で備えるのもよいでしょう。医療意思表示書も付属して5万円ですが、公正証書の作成料も込みですからお得です。
とりあえず病院対応だけでも備えておきたい、ということなら、医療意思表示書だけの作成も面談込み1万円でお受けしています(書面だけの“通信販売”はしていません。かならずお話をさせてください)。
そして同性パートナーシップのためのご相談は、初回(1時間程度)は無料です。夜間や土日、ご自宅への出張など、可能な限り対応しています。トラブルを生じていない場合は、弁護士などより行政書士のほうが一般的に廉価です。また、拙著『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』もご参考にしてください。

私の事務所へときどき「同性パートナーがいます。ご相談したいです」と、言葉少ないメールが届きます。きっと勇気を振り絞って送ってくださったのでしょう。しかし、来談のご案内をお送りしても、ご返事がなくそのまま立ち消えになることがけっこうあります。
もっといい先生が見つかったのか。お金が心配なのか。それとも、私がおなじ同性愛者だとわかっていても会うのがやはり怖いのか……。
でも、一歩を踏み出さない限り、まだまだ同性のパートナーシップを守ることはむずかしい現状です。法律や書面、ライフプラン情報もふくめ、一生懸命研鑽に励んでいます。ぜひ事務所の知恵をご利用いただき、自分たちの生活と同性パートナーシップを守っていただけたらと願っています。

 

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