第68号 書面と親族、どっちが強いの?

 

 ●意思表示の“見せ方”と費用対効果
前回の「パートナーに医療同意権は、あるの?ないの?」は、医療同意権についての誤解や思い込みを解いて正しく理解するとともに、病院で本人が意思表示できない状態で、医療にパートナーがどうかかわるかについて解説しました。さいわい多くのかたに関心をもっていただけたようです。
基本は、本人の自己決定と意思表示の尊重です。ただ、自分の口で主張できればいいのですが、意識不明時や終末期、死後に自分の意思をどう表示するか? 「書面屋」である行政書士としては、書面の作成を提案しています。
ただ、それはなにもお金のかかる公正証書でなくてもいいわけです。自分で作ったものでもいいだろうし、場合によっては市販の「もしもノート」などに書き残していたことが、周囲の人の判断根拠になる場合もあります。

とはいえ、中身はおなじ本人の意思表示でも、それの表示のされ方で、医師や親族など周囲の人の受け取り方が違うことはある。手書きの便箋メモと行政書士が作成した文書では、見せられた側の印象は違うでしょうし、公証人が作成した公正証書では、さらに印象は強いでしょう。「権威主義」は私の好むところではありませんが、カタチの面でも説得性を増すよう工夫するのは一策です。
あとは、どこまでの効果を望むのかと、それにどれだけのお金をかけるのかの兼ね合い、ということになります。

今号では書面の意味について、もう少し述べてみたいと思います。またしても若干ステマ記事の趣きがあると思いますので、必要だと思う場合はご高覧いただき、お役立ていただければさいわいです。

 ●公正証書があっても、親族が反対したらどうするの?
医療の意思表示で、本人が治療方針への希望を記したりキーパーソンの指定をしている。そこに親族が駆けつけ、その内容に反対したり、パートナーの退室を命じたりした場合、どうなるのか。医療者もどちらにつくのか?
とくにカミングアウトしてなくて、親族をまえに、自分はこの患者のパートナーであると言い出しにくい場合には、いっそう心配になるでしょう。

病床でパートナーと駆けつけた親族とが顔を合わせる「鉢あわせ問題」。そのとき実際どうなるのかは、正直言って私もわかりません。
とはいえ、もう「自分はパートナーである、医療のキーパーソンに指定されている」と、覚悟を決めて親族や医師に臨むしかないだろうと思うのです。

やって来た親族をまえに自分は身を引き、病室で最愛のパートナーの死に目にあえなかった。遺体も葬儀もそのあとのことは親族がやって、自分はわからず、お墓がどこにあるかさえいまも知らない。そう語ってくれたゲイの先輩がいました。「まだ時代がそうだったからね。ヤツも私とゲイ関係だったことを親族には知られたくなかっただろうし」、そう言って自分を納得させていました。

もうこんな悲しいことはやめにしませんか。これを言うとそのかたを責めることになるかもしれませんが、最期ぐらいケツまくってでも、「二人はパートナーなんだ」と言うしかないでしょう。社会の理解も足りないでしょうが、私たち自身の勇気も、足りないのかもしれません。

書面やパートナーシップ証明書があれば、カミングアウトしなくていいわけじゃありません(同性婚ができてもそれはおなじ)。公正証書や証明書は、親族や医師に向き合うとき、自分の権利を応援してくれる支えです。日本の病院を覆っている法的根拠のない「家族優先主義」に立ちむかう、有力な武器です。
医師によっては、「心情的には入室させてあげたいが、法的にどうなんですか?」という人もいるかもしれない。だからこそ、法的な裏付けのある書面を作成してほしいと思うのです。

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「親のこころにそむいてまでも 恋に生きたい二人」のためには、きちんと法的裏付けのある書面を。
(画像引用元:http://amaike-and-orange.blog.so-net.ne.jp/2011-04-02

 ●同性婚ができたら公正証書は必要ない?
公正証書はお金がかかります。これは渋谷区のパートナーシップ証明書への批判点として、何度も繰り返されました。曰く、「結婚なら婚姻届一枚出せば無料でできるのに、なんで渋谷区の証明書には、高価な公正証書が必要なのか」と。
日本に同性婚ができれば、公正証書なんか作らなくても、届け一枚出してふうふ(夫夫、婦婦)になればいいでしょう。「そうしたら永易さんも仕事なくなっちゃうね」と言ってくれるかたもいます。

私が同性パートナーシップ保証に必要だと考えている書面は3つあります。

 ①財産承継のための遺言
②財産管理や暮らしのマネージメントをたがいに委任しあう委任契約や任意後見契約
③医療の場面での意思表示書

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拙著『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』より。

このうち①遺言は、もし同性婚が可能になったら法定相続が起こるので、必要なくなるかもしれません。ただ、財産の一部は法定相続人であるパートナー「以外」の甥や姪にやりたいなどの希望があれば、遺言が有効でしょう。逆に、法定相続人にはやりたくないーーたとえば「第二パートナー」にやりたい、などの場合も、法定相続人に2分の1の遺留分を請求されるでしょうが、遺言が有効です。本妻さんと別宅さんの問題は、今後ゲイにも起こるかもしれません。

②の委任契約や任意後見契約が目的とする、財産管理や暮らしのマネージメントの委任は、これは法的夫婦だからといって自動的にできるものではありません。だんなが呆けたときの貯金の解約や介護施設の契約は、妻でも銀行などから「本人確認」「委任状」といわれる現代です。本人に判断能力がないなら、裁判所から後見人に指定してもらって行なう必要があります。そうしたわずらわしさに備えて、あらかじめ夫婦間や親子間、あるいは信頼する見守り法人などと委任契約や任意後見契約をする人もあります。
相手の財産管理やマネージメントは、婚姻の結果として自動的にできるものでないことは、覚えておいてください。

そして、③の医療場面でのキーパーソン、いわゆる医療同意権と家族の関係については、前回説明したとおりです。

いかがでしょうか。婚姻できさえすれば書面は不要だとは言い切れないようです。
逆に、同性間でも婚姻できた場合、現在の民法や判例によれば、同一戸籍の編成、ふうふ同姓、種々のふうふ間義務(同居・協力・扶助、貞操など)、相手の血族とは姻族関係に(扶養も)など、さまざまな義務も一式もれなくついてくることになります。
書面でパートナーシップに必要な中身だけ調達して、義務の部分は取捨選択するほうがいいわよ(貞操義務なんて、どうせ守る気ないんでしょ?)、とは悪魔のササヤキ?(苦笑)

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 *ただ、配偶者の地位がないことで、税制上の配偶者優遇の恩恵にあずかれない場合があります(相続時など。こちらでも解説)。ただし、これも相続税のかかるほどお金がなければ関係ない、ともいえます。

 ●公正証書を作っても別れたら無駄になる
まあ、それを言えば身も蓋もありませんわなぁ(笑)。別れようと思って結婚式する人はいないのと同じでしょう。証書を作ったことで、これからも二人で人生をともにしていこう、と思うきっかけにしてくだされば嬉しいです。フルスペックで証書を作るのは重たくても、ライト型のパートナーシップ契約書(さくらセット、64号で紹介)などもおすすめです。

とまあ、ステマ記事だったかもしれませんが、たとえば、パートナーシップ10年目を一つの区切りとして、あるいは一方が50代に入ったのでそろそろ、などの契機に、「今年は二人の海外旅行をやめて、その費用で証書作ろうか」などと考えていただけたら嬉しいかな、と思います。
事務所(プロフ欄参照)では同性パートナーシップのためのご相談を、初回は無料でうけたまわっています。ご事情をよくうかがって、少しでも合理的な方法での備え方を、ご一緒に考えたいと思っています。

 

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