第85回 「Bar 9モンスターズ」摘発から考える、ホモバー今昔。 1955年、XYZ著『そどみあ御案内 男色喫茶店・酒場の東京地図』。

 

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2016年2月9日、「9モンスターズ」摘発! といっても、皆さんご愛用のアプリではない。新宿2丁目にある「Bar 9モンスターズ」の方である。容疑の内容は、以下の通り。
 新宿2丁目の飲食店「Bar 9モンスターズ」の責任者・大橋晟容疑者は9日未明、無許可にもかかわらず、男性従業員に酒を提供させ、客と長時間会話をさせるなど接客をさせた疑いが持たれています。 
いわゆる風営法違反での逮捕である。記事中にある「無許可にもかかわらず」というのは、風俗営業許可2号を取らずに“接待”をしたという意味である。この“接待”については、法律では次のように規定されている。「歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすこと」だそうで、談笑、お酌、ダンス、カラオケでのデュエット、ゲーム、スキンシップなどがこれに当たる。へ? こんなの水商売じゃ当たり前のことじゃん! と、思うかも知れないが、そのためには風俗営業許可2号を取らなくてはいけないのだ。ところが、この風俗営業許可2号を取ると、営業時間が深夜0時(場所によっては1時)までという規制がある。つまり、深夜酒類提供営業の許可を取り、“接待”なしで酒だけ出す店なら朝までOK。“接待”するなら深夜0時(場所によっては1時)までしか営業できない。痛し痒しの状況なのだ。
それにしても、“接待”の規定の曖昧さは、いかがなものか。「歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすこと」というだけでは、あまりに玉虫色。これでは、警察の恣意によって、あらゆる“接客”も規制の対象になってしまう。お客さんが来たら、挨拶もするだろうし、世間話のひとつもするだろう。グラスが空けば酒を作ってやることも、カラオケを歌えば合いの手のひとつ入れることもある。それらの行為すら、取り締まろうと思えば取り締まれてしまうのだ。そんな状況が、気持ち悪くてならない。
新宿2丁目の店の多くは、深夜酒類提供営業の許可で、“接待”なしという建前で朝まで営業している店がほとんどだろう。これまでは、それが問題になることは無かった。お目こぼしにあずかっていたのかも知れない。たかがホモの街だと軽んじられていたのかもしれない。
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ところが、2011年、ニューハーフショウパブ「ら・せぞん」が同様の容疑で摘発。翌2012年、有名店「ミラクルボンバー」と、その系列店が一斉に摘発されたのである。これには、いよいよ2丁目への切り崩しが始まったか! と、2丁目に激震が走った。警察が本気になれば、ほとんどの2丁目の店を摘発することが可能なのである。2丁目壊滅である。だが、それからしばらくは何事もなく過ぎていった。バーの摘発よりは、薬物事犯の方が忙しかったのだろうか。2丁目に巡回するパトカーが増え、街角のそこここで職務質問と持ち物検査をする警官の姿が増えた。
ところが、昨年の5月。「DISCOVER」が、従業員が客とカラオケでデュエットを歌ったとして摘発される。そして、今年。「Bar 9モンスターズ」である。だんだんと摘発の間隔が短くなっていくようだ。警察は、いよいよ本腰を入れ始めたのだろうか? 東京オリンピックを控えての浄化作戦などという俗説もまことしやかに語られているのだが……。
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「Bar 9モンスターズ」摘発の報道が出た翌日の、店の入り口。仲通りに面し目を引いていた看板は、すでに撤去されていた。階数を示す小さな看板は残っていたが、ホームページなどは閉鎖。はたして、営業再開は?
私が2丁目で働き始めた頃、先輩ホモから「2丁目にはヤクザも警察もいない」と聞かされたことがある。たしかに、ヤクザ(らしい人物)も警察の姿も見かけたことはなかった。彼らにとって、ホモなんぞ取るに足らない存在であったのかも知れない。
ところが、今回の一連の報道を見ていると、2丁目=ホモは、警察も無視できないほどの存在になってきたという実感がある。それは、もちろん同性愛者の可視化と連動している。同性愛が社会的に認知されるようになるほど、法や罰則も、一般=異性愛と同様になるのだ。歌舞伎町ばかりを取り締まっていたのでは、片手落ちである。2丁目にも当然、風営法の規制が適用されるようになったということだ。平等はありがたいことだが、なんだかなぁ……という気持ちも。これまた、痛し痒しである(笑)。
今回の事件を報道する記事で、気になるものがあった。TBS系のニュースサイト「Japan News Network」では、次のように報道された。
東京・新宿にある主に男性同性愛者を対象にした飲食店で無許可で接待をしていたとして、店長の男が警視庁に逮捕されました。 
 逮捕されたのは、新宿2丁目にある主に男性同性愛者を対象にした飲食店『Bar 9モンスターズ』の店長・大橋晟容疑者(26)で、9日未明、風俗営業の許可がないにもかかわらず、男性従業員に客の接待をさせた疑いが持たれています。 
 この店では、同性愛者の客だけ料金を安くしていたため、客との間でたびたび料金トラブルとなっていました。 
 大橋容疑者は、「接待にあたらない」と容疑を否認していますが、警視庁は、3年前の営業開始以降、およそ2400人の客からあわせて6000万円を売り上げていたとみて詳しく調べています。(10日11:41) 
(TBS系「Japan News Network(2016/02/10 14:05)」)より。
この中の「この店では、同性愛者の客だけ料金を安くしていたため、客との間でたびたび料金トラブルとなっていました。」の一文である。風営法違反の記事であるならば、これは、まったく余計な一文である。しかも、わざわざ行替えまでして、目立つようにしている。
そもそも、客によって値段設定が異なるのは、なんら問題がないだろう。ならば、女性客と男性客と料金が違う、いわゆる女性料金も問題にされるべきである。また、料金トラブルの実態について、違法性や事件性があるのか明らかにされていない。つまり、記者の思い入れだけで書かれたものと推察できる。2丁目を、異性愛者が食い物にされる恐ろしい場所とミスリードさせようとしていると考えるのは、穿ち過ぎか。この記者、バカなんじゃないの?(笑)
そもそも、2丁目には、ノンケ客を相手にする“観光バー”と呼ばれる店があり、ノンケ客とホモ客の棲み分けがなされていた。“観光バー”は、当然、高めの料金設定である。ところが、最近は、その境界が無くなりつつあるようだ。男も女も、ホモもノンケも受け入れる店が増えた。「Bar 9モンスター」も、そうした“ミックスバー”なる店だったらしい。もし、問題があったとしたら、料金システムをキチンと説明しなかったことではないだろうか。
だいたい、ノンケ客には、誰彼かまわず「イイ男ねぇ」ぐらいのリップサービスをしなくちゃいけないし、チンコぐらい触ってやるのがおもてなしってもんだ。おかげで、後日、「俺って、オネエにもてるんだぞ」ぐらいの自慢話も出来るわけだし(笑)。それに、どーでもいい女に、機嫌を損ねない程度に「アンタ、バカねぇ」とか「ブス!」とか言わなきゃいけないのは、結構な知的労働なのだ。少しぐらい料金が高くても、文句言うんじゃないよ!
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『風俗科学』1955年2月号と、PLAYMOBILのガイコツフィギュア。
さて、今回は、こんなに2丁目がメジャーな存在になる遙か以前。まだひっそりと、知る人ぞ知るのホモバー事情を紹介した、XYZ著『そどみあ御案内 男色喫茶店・酒場の東京地図』(『風俗科学』1955年2月号より)。
 東京はまさに男色謳歌時代である。私などはそういう眼で見るせいか、道を行く男の中で、十人に一人はソドミアではないかと思っている。そういう男色流行時代の産物として、都内には一週間に一軒の割合で、ソドミアの集まる喫茶店や、酒場が開かれて行く。そしてそこにはソドミアのベテランが「マスタ-」或いは「ママ」となり、数人の美少年、又は年配者のソドミアをボーイとして置き、無聊にかわき切ったソドミア達の魂をうるおしている。
一週間に一軒というのは、いくらなんでも誇張のし過ぎだろうが、それほど勢いがあったということだろう。それを喜ぶ著者の気持ちを、「無聊にかわき切ったソドミア達の魂をうるおしている」の一文が代弁している。良い表現だ。当時のホモバーは、同性愛者にとっては、まさに砂漠のオアシスごとき存在であったのだろう。
この著者、なかなか鋭い分析力がある。続く一文では、ホモバーの経済学にも言及しているのだ。
しかしそのどれもこれも、ちゃんと採算がとれて経営出来るから、ソドミアの数も大したものだと言わなければなるまい。
 東京都の人口が七百万と言われるが、その半分三百五十万を男と見て、更にその半数の百七十五万を成年とすれば、その一割十七万五千人がソドミアだと、私は観察している。そしてその一割程度一万七千五百人が、ソドミア喫茶店に出入りすれば、全部で五十軒あるソドミアの喫茶店や酒場の一軒当たり平均得意は、三百四十人ということになる。
昨今、電通が、LGBT人口と、その市場価値を算出し発表したことが話題となったが、オカマ市場への関心は、もうすでにこの時代から存在していたのだ! いまさらノコノコしゃしゃしゃり出てきて、同性愛者を食い物にしようとする企業には気をつけなくてはならない。しかも、それが身内だったら、なおさらだ(笑)。
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XYZ著『そどみあ御案内 男色喫茶店・酒場の東京地図』(『風俗科学』1955年2月号)より。
記事はその後、都内のホモバーを地図入りで紹介しているが、すべてを紹介することは出来ない。ここでは、新宿のホモバーを中心にお届けしよう。
 この種の喫茶店の草分けは、何と言つても新宿の「夜曲」であろう。「夜曲」のマスタアS氏は、長身の好男子で、すでに戦前からソドミア喫茶店を経営していたその道のベテランである。だから地方でも「夜曲」の名は有名で、上京する度にここに寄つて行く馴染客が多い。店は喫茶と酒場を兼ねて、ボックスが二つ、それにスタンドがある。この種の他の店と同様に、狭いのが残念だが、なかなか客には親切である。
 ボーイは三四人いるが、中でも「イツちゃん」という綺麗な子が、この「夜曲」の人気の中心だ。
(略)
この「夜曲」へは、一人で二千円は持つて行つた方が、恥をかかずにすむだろう。
(略)
 新宿で変わっているのは、なんといつても「アドニス」だろう。これは今年の九月末に新しく開店したばかりで、ここのマスタアは某大学の哲学科に在籍中の学生だと云う。
「私は頼まれマスタアです」
 と彼は言っているが、やはりアルバイトの一種かもしれない。そのせいか、ここの客は金ボタンの学生が多い。階下が喫茶で、会場が酒場だ。
 ここで学生達の言葉を聞くのも面白い。外へ出ると、
「ふざけやがんな。なぐるぜ」
 と乱暴な言葉をつかつていたくせに、一旦この店のドアをあけて入つたトタン、
「まあ、おネエさん、ひどいわ」
 と、男同志でやさしく豹変した会話のの(注/原文ママ)応酬である。
(略)
新宿にはこの外に、「夜曲」とともに古い店の「イプセン」があり、美青年三四名置いているが、記者は一二度しか行つたことはないので、あまり知らない。
なんとまあ! いまと変わらぬホモバーの風景ではないか。当時のホモ達の嬌声まで聞こえてきそうなルポである。これは、その記事に掲載されていた新宿界隈のホモバーマップである。注目して欲しいのが、紹介されている店のすべてが、2丁目ではないことだ。最も2丁目に近い店は、現・要町あたりにあった「イプセン」だ。1956年の売春防止法の前夜。2丁目がゲイタウン化していく、ちょうど端境の時期の新宿ホモバー事情なのである。
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新宿界隈のホモバーマップ。XYZ著『そどみあ御案内 男色喫茶店・酒場の東京地図』(『風俗科学』1955年2月号)より。
ホモバー今昔。ホモバーは今も昔も変わらないようでいて、ホモバー=同性愛者を取り巻く状況は大きく変わっているのだなぁ。なかなかに感慨深い記事であった。
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『風俗科学』第03巻 第02号/1955年02月号(第三文庫/1955年 発行/定価100円)

 

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