第69号 ふたたび医療同意権と同性パートナーを考える

 

患者本人にかわって、パートナーが手術の同意書にサインできるのか。
東京都庁で開かれた集会、「市民と行政の協議会〜〜東京都における性的指向および性自認に関する課題解決のために」では、そのことが話題になりました。私もその医療同意権について67号で記事を書きましたが、最近、他媒体でも記事がアップされていました。今回はそれを素材にあらためて考えてみたいと思います。

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女性の好奇心が目覚める情報サイト「ウートピ」(2月8日、ライター:渋井哲也氏)。

 ●「医療同意」は一身専属
渋谷区のパートナーシップ証明書は、原則、任意後見契約(公正証書)を作成していることが要件です(特例方式あり)。私自身、同性パートナーシップ保証に取り組んできたものとして、同性間には法定型(レディーメイド)である婚姻という制度がないので、書面を作成する契約型(オーダーメイド)によるパートナーシップ形成の方法を探求、紹介してきました。任意後見契約は、その重要な方法の一つです。
さて、その任意後見契約では、パートナーによる医療同意の代理ができるのか。上記の「市民と行政の協議会」のなかで、それが問われました(以下、記事紹介)。

 都側は「成年後見人は手術や治療方針まで及んでいない。意識不明など生命に関わる重大な事態になったときまで普遍化できない」と説明しました。その上で、「親族とのコミュニケーションの中で、キーパーソンを決めていくしかない」と述べました。手術の同意までは委託されない「任意後見人」では、親族との関係性に左右されるのです。
つまり、「任意後見契約」では、生命にかかわる場合の医療行為の同意がない、とされてしまうのです。

この記述によると、任意後見人は医療同意権がないが、親族は手術の同意まで委託される医療同意権がある、と都の人は考えているように読めます。しかし、私はそれは不正確な理解だと思います。
すでに67号の記事にも書きましたが、医療同意権は一身専属権であって、たとえ親族でも手術を受ける受けないまで決めることができるわけではありません。「成年後見人は手術や治療方針まで及んでいない」と同様に、法律上は「親族も手術や治療方針まで及んでいない」のです。
たしかに現場では「家族優先主義」のグレーな対応がされていますが、この点を押さえておかないと、「なにをやっても、やはり親族には勝てない……」という、あらぬ誤解が生じることになります。

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つぎに、その誤解が前提にはなっているのですが、同性パートナーが医療同意をするにはどうしたらいいか。つぎのような記述があります。

 その部分については別の公正証書を作成することでカバーができます。……別の公正証書とは、「医療に関する意思表示書」などです。……この任意事項について都側の説明がなかったために、私も含めて一部の参加者で誤解が生じました。

この「任意事項」として、「療養看護に関する委任」という日本公証人連合会が作成したヒナ型が引用紹介されています。

第〇条【療養看護に関する委任】
1 甲乙は,そのいずれか一方が罹患し,病院において治療又は手術を受ける場合、他方に対して、治療等の場面に立ち会い、本人と共に、又は本人に代わって、医師らから、症状や治療の方針・見通し等に関する説明を受けることを予め委任する。
2 前項の場合に加え、罹患した本人は、その通院・入院・手術時及び危篤時において、他方に対し、入院時の付添い、面会謝絶時の面会、手術同意書への署名等を含む通常親族に与えられる権利の行使につき、本人の最近親の親族に優先する権利を付与する。

私自身、行政書士といういわば「書面作成屋」として思うのは、「なにもわざわざ別の公正証書にしなくったって、まさにこの委任事項を任意後見契約のなかに盛り込めばいいじゃん」です。だって、「任意」後見契約です。後見制度の説明をするとまた長いですが(とりあえずこちらをご参照)、法定後見と違って自分たちにあわせて中身を自由にアレンジできるのが、任意後見契約です。こうした委任事項を盛り込むことも、なんら問題ないわけです。
ただし、任意後見契約は本人の判断能力が永続的に低下した段階で効力を開始するものです。それ以前の一時的な判断不能時(重病時など)にも、こうした療養看護にかかわる場面は出てくるでしょうから、その部分をカバーする委任契約やパートナーシップ合意契約などにこうした条項を盛り込んでおけばいいと思います。療養看護の場面だけに特化した書面をつくることも可能です。

この記事は、当日の貴重なやり取りを伝えてくれる興味深い内容だと思いますが、都の誤解に書き手の誤解が重なって、さらに誤解を増幅するような内容になっているのではないかと思います。

 ●具体的には、どう対処すればいいのか
では、医療や手術の場面で同性カップルがどう対処すればいいのか、あらためて考えておきましょう。

 本人の意識がある場合
医療は本人へのインフォームドコンセント(説明と同意)によって行なわれます。意識があるのですから、あくまでご自分が同意すればいいわけです。
また、診察室や病室にパートナーを入室させ、一緒に医療説明をしてほしい、などの要望もあるでしょう。それも本人がハッキリ主張してください。医療者がそれを拒む理由はないはずです。もちろん、「このかたは誰ですか」と言われるでしょうから、どう答えるか、日頃から考えておいてください。パートナーとか同性の恋人ですと言いづらいなら、親友、同居者/ルームメイト、一緒に仕事をしている人、母方のいとこ……なにかないかしら? パートナーにも付き添ってもらいたいなら、自分で考えましょう。
そして入院や手術をするときは、手術中や急変時などの保証人というか身元引受人を求められるでしょう。そのときも、自分の口で「この人を」とハッキリ指定してください。「肉親のかたでなければ……」と言われても、「家族はいません」「疎遠です」「関係を切っています」「連絡しないでください」、ともかく自分で主張するしかないでしょう。それで入院できない、手術できないと医師が言うなら、「それは医師法の応召義務違反ではないのか?」「転院します」「弁護士を呼びます」などなど……(汗)。

 *こういうときに行政のパートナーシップ証明書があると、医者も人の子、お上のハンコには弱いのか、なんらかの効果が期待できるわけです。もちろん、そうした制度のない自治体の人でも、パートナーと任意後見その他の法的に効果のある書面を作成しておくことが有効です。
 事例「性的マイノリティーの老後…同居人の権利、書類に」 

 はじめから本人の意識がない場合
問題は、本人が主張できない場合です。日本の病院を覆う、法的根拠にとぼしい「家族優先主義」によって、パートナーが病室に入れない、医者から説明を聞けない、という事態が予想されます。
家族にカミングアウトできているなら、家族が駆けつけたあと入れてもらうとか、遠方なら電話で一言、口添えしてもらう、などが考えられます。
ただ、家族にカミングアウトしていないとか疎遠、あるいは親族より先にパートナーが会う必要があるとかの場合(たとえば親族にはHIV陽性を伝えていないなど)は、そういうときに備えて、パートナーを医療のキーパーソンに指定するような書面による意思表示をあらかじめちゃんとつくっておいてほしい……(そう言い続けて10余年。でもそれしかないでしょう)。
もちろん、それに先立って、外で倒れたりしたとき、おたがい異変情報を得られるように、緊急連絡先カードぐらいは持ち合うことから始めてください。

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上のカードはパープル・ハンズ(連絡先は下欄)で配布している「緊急連絡先カード」。裏面に3人までの連絡先を書けるほか、表面には主治医の連絡先も書けるので、HIV陽性などの場合には便利かも。下は、私の事務所で作成している医療に関する意思表示書。

実際、病院が「家族の同意書がないと医療ができません」というなら、これだけ「おひとりさま」の多い時代、そんな言い草は通用しないと思います。そもそも、なぜ家族の同意書が必要なのかは定かではなく、医者も医療説明義務を果たしたという確認をとりたいわけで、親族から取れば問題ないだろうということのようです。ただ、誰からもらえばいいのかの線引きはあいまいで、何年も会ってない親族と、長年一緒に住んでる同性パートナーと、どっちに合理性があるかは明白でしょう。

ともあれ、私たちもいつまでも「病室で最期に立ち会えませんでした」という、いつもの不幸物語にひたるばかりでなく、医療の場で同性パートナーシップを守るためにできることから始めませんか。

 親族だからといって医療同意権があるわけではない
 本人の自己決定を尊重(医療のキーパーソンについても)
 書面等で外部への意思表示を
 主張なければ権利なし

  このへんをぜひ頭のすみにでもとどめておいていただければ幸いです。

 *認知症高齢者の増加で成年後見人の需要が高まる一方、他人(家族や後見人)による医療同意の代行について見解が定まっていななか、医療や介護の現場では日々、混乱が続いています。日本弁護士連合会は2011年に「医療同意能力がない者の医療同意代行に関する法律大綱」を発表し、議論を呼びかけています。法律論に興味のあるかたはぜひ一読されてみてください。

 ●法的拘束力についても誤解があるのでは?
なお、今回素材にした記事で、気になる点がありましたので、もう少しコメント。

渋谷区の証明制度とともに、世田谷区の宣誓書の制度も紹介されていましたが、「法的拘束力は渋谷区ほどありません」という記述がありました。
「ほど」とか比較級でいうとますますわからなくなると思いますが、私はどちらの証明書や宣誓書にも、そもそも法的拘束力はないととらえています。ただ行政の名前が出ているので、見せられた人が納得してくれる(くれやすい)、というわけです。どちらの制度にも法的拘束力はないけれど、人びとが同性パートナーシップに「慣れる」、大きなきっかけになっているのではないでしょうか。

中野区の「住み替え支援事業」も紹介されています(私は中野区民です)。これは、同性ふたりでの同居を理由に不動産屋さんに断られた場合に区に相談すると、区が登録してもらっている原則区内の150軒あまりの不動産屋さんにファックスで情報が送られ、家探しを手伝ってくれる制度。従来から対象としていた高齢者、障がい者、ひとり親家庭などに加えて、中野区では同性カップルにも対応してくれるという点で、悪い制度ではありません。
ただ、私自身は「小さな政府」論者なので、こうしたシステムの維持管理に税金もかかるだろうし、「なんでも行政に」という考えには疑問をもっています。区がみずからやらずとも、それぞれの対象ごとにサポートしている区内外のNPOなどへ紹介するほうが民間活用でいいのでは、とも思っています。パープル・ハンズでも、連携している不動産屋さんがあります(こちらの記事も参照)。

 

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