第70号 やっぱり気になる、「LGBTは7.6%」

 

 ●伊賀市のパートナーシップ証明でも引用された数字

2月16日、三重県の伊賀市が同性パートナーシップを公認する制度を4月から始めると発表しました。実施されれば、東京都以外でははじめての事例です。世田谷区と同様に宣誓書を受け付け、その受領証を交付するかたちで同性パートナーシップを公に証明することになるそうです。
このことを伝えた地元ニュースサイト「伊賀タウン情報 YOU」では、市議会議員からもいろいろな意見があったことが載っています。

「啓発は大事だが、もっと研修や勉強してからでも遅くなく、時期尚早。やるなら条例でやるべき」
「まずは市内の現状を把握すべきだ。性急過ぎる」
「さっさとやるべきで、0人であっても器を用意しておくのが市のスタンスとして大事だ」

時期尚早論から、数が問題ではなく市の姿勢が重要、まで、私のように制度が広がってほしい立場としても今後どうやって社会を説得していくかのヒントに感じました。
ところで、この記事ではつぎのような記述も気になりました。

人権政策・男女共同参画課によると、昨年実施された全国約7万人を対象にした民間調査で、7.6%が同性愛者や両性愛者らの性的少数者にあたり、同市に当てはめると5000人から7000人の市民に該当するのではないかと説明。

「ああ、また例の7.6%か」とも思いましたが、

 ①この数字がアクティビストでも新聞記者でもなく、市役所サイドの説明で引用されたこと、
②7・6%の内容が同性愛者や両性愛者らになっていること(同性パートナー証明の導入説明だからでしょうが)

が私の目を引きました。そして思ったのは、「こういう引用の仕方や数字の一人歩き、いいのかなぁ」……。

 ●7.6%が一人歩きしていない?

ここ1年内外、いわゆるLGBT記事にかならず盛られている「LGBTは7.6%(13人に1人)」。この出どころは、電通ダイバーシティ・ラボが「LGBT調査2015」として発表したものです。大手広告代理店が出どころだけあって、記者も安心して紹介するのでしょう。
この7.6%という数字は「佐藤・鈴木・高橋・田中」を合わせた数より多いそうで、それを講演などで紹介する当事者活動家もいます(こちらこちら)。

ただ、ウェブ上での調査レポートを読むと、身体的性別と性自認が一致し、性的指向が異性である、いわゆるストレート男性とストレート女性を除いたほかの人びとを「LGBT層」と規定し、該当者を7.6%としたものであることがわかります。
この「」というのが注意点で、かならずしもLとGとBとT、その合計が7.6%というわけではなさそう。LGBT層とは、男女の性別二元制や異性愛規範に違和感のある人の総体と見たほうがよいのかもしれません。

1b56cec468e89bcfb750a1b7a32e76ee
LGBT調査2015より
ストレート男性(2)とストレート女性(10)を除いた残りがLGBT層7.6%……。

実際、レポートにはL・G・B・T個別の割合や数値はありません。じつは電通は、2012年にも同様の調査を行ない、そのときは5.2%という数字が発表されていました。そこでは個々の割合が出ていて、L・G・BにくらべてTが全体の半数近くを占めていて、私は驚いた記憶があります。上のマップで言えば、4〜9をみんなTとしたからなのでしょう(この報告は、現在はWEB上から削除されているようです)。

この数字は広告代理店がマーケティング資料として出した数字であり、性別二元制や異性愛規範で割り切れない(取りこぼしている)消費ニーズを見積もるーーしかも企業にアピール力があるようなるたけ額が大きくなるように出した数字といえるかもしれません。
しかし、こうして出された「LGBT層は7.6%」は、新聞引用では「LGBTは(あるいは性的少数者は)7.6%」になり、伊賀市では「7.6%が同性愛者や両性愛者らの性的少数者」になっています。数字の伝言ゲームで変化したのか、意図して変化させているのか。政策導入の根拠として引用していいのかな……と思わなくもない私です。

ちなみに、「学術的調査」としてはどんな数字があがっているかを調べてみました。
日本の成人男性におけるMSM(男性とセックスする男性)の割合を調べた2009年の調査では、20歳以上60歳未満の男性を対象として得た1659件の回答のうち、性交渉の相手が同性のみ、または同性と異性の両方と回答した割合は2.0%でした。性行為の有無とアイデンティティやライフスタイルがどこまでリンクするのか、あとレズビアン・バイ女性の場合はどうなのか、かんたんには言えませんが……。
トランスジェンダーについてはどうでしょう。トランスジェンダーのうち、性同一性障害との診断を得るレベルの人の発症率について、北海道文教大などのグループが生年別の比率調査の結果、札幌市内では約2800人に1人と推計できるとの研究を発表しました(2013年)。地域や生年で発症率は変わらないと考えられ、国内の総人口に当てはめると、全国では約4万6千人。日本の人口比では0.0036%になります。
これらを合わせても、いずれにしろ7.6%とはけっこう開きがある気がします。

 ●数字のしっぺ返しを恐れる理由

性的マイノリティへの差別は、「そんなにいるの? 会ったことないけど」といった誤解や無関心にもよるところが大きいでしょう。ですから、じつはあなたの身近にいる、という認識の転換を促していくことはひじょうに重要だと思います。「LGBT」という新語や「7.6%」という数字は、その大きな武器となることは間違いありません。
とはいえ、話題になればそれでいいのか、と思わないでもない要素が「7.6%」という数字には含まれている気がしてならないのです。「現実以上に大きくふくらませると、あとでかならず反動が来るのではないか」という恐れが、私の胸裏を去らないのです。

古い話を思い出します。

1994年、アジアで最初となる国際エイズ会議が横浜で開催されました。いまから22年前ですね。
当時、エイズには現在の何倍もの社会的関心が高まっていて(エイズブームとも言われました)、厚生省も総力戦でこの国際会議の準備に臨みます。その一方、他の疾病や障害、マイノリティの課題と同様、当事者(HIV陽性者ーーゲイやセックスワーカー、ドラッグユーザーなど社会的に差別される人びと)の声や存在が無視されたまま、たんなる医者や研究者の学会として進行されてしまうことへの懸念が、ゲイやHIVの活動家にはありました。

8月7日、皇太子夫妻も出席し、パシフィコ横浜・国立大ホールで開かれた開会式に、私もゲイの市民グループの一員として参加していました。HIV陽性であることを公表した私たちのグループのメンバーが登壇(学者でも公職者でもない、一介の陽性者、しかも性感染によるゲイの陽性者を登壇させるところへ至るまでにも、激しい攻防がありました)。開催国の公表した陽性者として、当事者の声に耳を傾けることを訴え、「この会場にも世界から多くの陽性者が参加していることでしょう。みなさん、ぜひお立ち下さい」と呼びかけたのです。
現在の何倍も誤解や偏見、差別が激しかった時代、陽性を明かすことは相当の勇気が必要でしたが、客席の随所で立ち上がる人の姿がありました。皇太子夫妻をはじめ会場から大きな拍手が沸き起こりました。
そのとき、じつは私たちのグループのメンバーも揃って立ち上がりました。かならずしもHIV陽性ではないのに、です。多くの起立する人影は陽性者の存在を印象づけ、医者や研究者の独走をけん制する効果をあげたでしょう。しかし、その姿は実数以上に水増しされたものでした。

この件はあとで事実がスクープされ、批判を浴びます。私たちは「立ち上がったなかには実際、未公表の陽性者もいたので彼のプライバシーを守るために全員で立ったのだ」「陽性者の存在を印象づける社会的意義があった」など、苦しい弁明に追われました。私自身もそれがグループの方針だったとはいえ、立ちあがったことを苦い思い出とともにいまも恥じています。

24b24f5107d1fbcf2c3c018d4a225a25
朝日新聞1994年9月18日(朝刊)

こうして起立者の姿を多く印象づけようとする起立事件と7.6%がおなじものだと言えるかどうか、人それぞれ見解が分かれるでしょう。しかし、私のなかではそれ以来、自分の実感のもてることだけを言おう、運動上メリットがあるからといってそれを言い訳にはすまい、そもそも数の多寡は問題ではないのだから、と思うようになりました。

性的マイノリティは明かせないだけで、じつはあなたの身近にいる。だから社会はもっともっと関心を高めてほしい、という主張は大切です。同時に、そこで引かれる7.6%という数字がどういう内容をもった数字なのかには、引用して紹介するほうも、受け取るほうも、もう少し慎重である必要はないのだろうかーー。
7.6という数字がいまや一人歩きする記事や動きを目にするたびに、古い記憶のうずきとともに、気になる私です。

 

Top