第2回 ​ゲイビデオ業界とノンケAV業界の裏側から見るセクシャリティー

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心理学者にいわせると、性欲というのは本能ではないらしいですね。どうも、大島薫です。

冒頭から何の話だという感じですが、心理学的には「絶対に我慢できない行動」以外は本能とは呼ばないそうです。近年、他者に対して恋愛感情や性的欲求を感じないアセクシャルという新しい性的趣向が認知され始め、どうやら人間は性欲無しに生きていけるらしいぞという考えは、一般社会にも広まりつつあるように思えます。

とはいえ、AV業界低迷期と呼ばれて久しい昨今でも、アダルトビデオ発売タイトルは月に4500本以上といわれ、性欲は本能ではないにしろ、そこにはある程度の需要があるようにも感じられます。今日はそんなえっちなビデオにまつわるお話。

ゲイビデオとAV業界の裏話
第1回のコラムでも書かせていただきましたが、ボクはゲイビデオ業界からノンケAV業界に転進したという経歴を持っています。一般の方からすると、「どっちも同じAV業界じゃないの?」と思われがちですが、この二つの業界の間には大きな隔たりがあります。

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先述のアダルトビデオ月間発売タイトル数4500本以上に対し、ゲイビデオ業界の月間リリース数は大小様々なメーカーを合わせても大体100本程度。男性の同性愛者と両性愛者を含めた人数が総人口の2.8%程度といわれているので、AV業界も大体同じような割合になっていることがわかります。

そんなごくごく小規模なゲイビデオという市場に一般のアダルトビデオを製作しているメーカーが手を出すことは非常に稀で、そのためゲイビデオを専門で作っている会社がそのほとんど全てを担うことになります。そんなある意味孤立しているゲイビデオ会社は、製作方法も、販売ルートも、モデルのキャスティング方法も、ノンケ向けAV業界とは違った独自のやり方があるようです。

ゲイビデオ業界にはプロダクションがない!?
ゲイビデオ業界とAV業界の大きな違いといえば、まずプロダクションが存在しないことでしょう。AV業界の裏話などは引退した女優さんがインタビューやエッセイ本などで語っているものが数多存在するので、いまさら説明するまでもないとは思いますが、一応AV出演までの流れを説明しますと下記のような図になります。

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AV女優さんはほとんど全員といっていいほどプロダクションに所属していて、そのプロダクションを通じてメーカーに面接に行き、採用されて初めて現場へ呼ばれることになります。一方、ゲイビデオにはプロダクションというものが存在しないので、以下のような流れになります。

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AV業界と大きく違うところは、メーカーに直接面接に行くところですね。ゲイビデオメーカーは自社のホームページなどで常にモデル募集を行っていて、出演したいと思った男の子は直接メーカーを訪問することになります。AV業界だとプロダクションを通してメーカーから採用不採用の通知が女の子に届きますが、メーカーを直接訪ねるゲイビデオ業界は早いものだとその場ですぐ撮影を組むこともあり、非常にスピーディーです。

ゲイビデオは専属契約しかない
そうなってくると、当然モデルが会社と交わす契約内容もまったく変わってきます。

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AV女優の場合はプロダクションとこういった契約書を交わすことになります。これは自身がそのプロダクションのモデルであると証明する旨が記載された書類で、メーカーを限定するものではありません。つまり、基本的にAV女優さんはプロダクション一つにしか所属できないけれど、プロダクションを通じたメーカーであれば様々なAV会社に出演することができるということになります。

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ゲイビデオの場合はモデルの囲い込みをプロダクションに代わって、メーカーが一手に担うことになります。AV業界でいうところの専属契約ですね。つまり、ゲイビデオモデルと呼ばれる人たちは一つのメーカーに出演したら、しばらくは他のメーカーに出演できないということ。その期間はビデオ会社によって様々ですが、おおよそ大体最後に出演してから6ヶ月程とされています。

ゲイビデオに男優は存在しない
「男優ってAVに出てる男はみんな男優でしょ?」という疑問が聞こえてきそうですが、AV業界ですら男優と呼ぶに足る人物はごくわずかしかいません。

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この図でいうとAV業界でいわゆる男優と呼ばれる立場にあるのは、上から三番目の本番ができる男優さんまでで、それ以下の方々は女優さんと絡みすらさせてもらえず、男優とは呼んでもらえません。AV女優一万人といわれる中、この領域にまで達している男優さんはAV業界全体で約70名ほどしかいないといわれています。ボクがAV時代自分のことを男優と名乗らなかったのも、こういった理由からでした。

一方ゲイビデオ業界はどうかというと、男優という呼び名すら存在しません。ゲイビデオに出演する男性はタチ役だろうが、ネコ役だろうが、全てモデルと呼ばれます。ノンケ向けのAVを観る男性は当然女性が好きな男性が多いので、男優というのは多くは黒衣に徹します。あくまで女優の引き立て役というのが男優の本分というわけですね。

この攻め役も受け役も観られる立場であることを表すモデルという表現は、ゲイビデオ独特の感覚といえるでしょう。

ゲイビデオモデルとAV女優のギャラの違い
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AV女優のギャラを見る際に最初に理解しておかなければいけないのは、これはあくまでメーカーが支払うお金であって、実際のところ女優さんに入ってくるのはプロダクションの取り分を差し引いた額ということです。これも事務所によって様々ですが、大体4〜5割が女優さんのギャラと言われています。つまり、仮に1本100万円のお仕事をしたとしても、実際に女優さんが受け取るのはその半額の50万円程度ということになります。

ましてやこれが一つのメーカーとしか契約できない単体女優ともなると、その他の収入も見込めないのでどれだけハードな現場をこなそうが月給50万円です。華やかに見えてなかなか厳しい世界ですね。

一方ゲイビデオモデルというのは全員が契約上は専属契約とはいえ、実際のところノンケ向けAVのように自分だけが収録されたオンリーの作品は多くて1、2本くらいしか撮られることはありません。その他の撮影は、様々なモデルのシーンを一本にまとめたいわゆるオムニバス作品が中心となります。通常のAV業界でいうところの企画物ということですね。そのため、ゲイビデオの基本的な支払は1本撮り終わるまでではなく、1カラミ毎取っ払い(その場で現金をもらうこと)となります。

そんな中唯一ゲイビデオに何度も繰り返し登場し続けられるのが、一番下のゴーグルマンと呼ばれる役での出演者です。サングラスや、水泳用のゴーグルをかけ、顔を隠しているモデルですね。攻め役も受け役も観られる立場であるゲイビデオでは、珍しくAV業界でいうところの男優のような立ち位置を求められます。一回のギャラはごくわずかですが、モデルの消費を気にせず何度も出演できるため、もしかすると一番稼ぐことができる演者かもしれません。

ゲイビデオモデルは短命
事務所を通していない分上記の金額が丸々手元に入ってくるため、ときに需要が少ないはずのゲイビデオモデルがAV女優さんのギャラを越えることがあります。

例えば仮にAV女優さんが一本キカタン(企画単体)作品を撮ったとして、ギャラは手取りで10〜20万円前後。一方、ゲイビデオの場合オンリー物一本となると5万円前後の仕事を4シーン〜5シーン程度撮るわけですから、20〜25万円前後のギャラを受け取ることとなります。これだけ見ると一見ゲイビデオのほうが、個人のお給料は高いように見えますが、市場の小さいゲイビデオの場合1人の青年のオンリー物を撮るのは非常に稀で、多くのゲイビモデルたちは月に一回か二回の現場に呼ばれて2〜3万のギャラを受け取るのみです。

先ほどのAV女優さんの例はあくまで一本のみのギャラの話。専属契約をしていない女優さんの場合は、また同じ月に別の現場に呼ばれる可能性があります。たとえ1本のギャラが10万円のAV女優さんがいたとしても、その月に3本出れば30万円。あっという間にゲイビモデルのギャラを越えてしまいます……。AVのキカタン女優さんのように、その他のメーカーさんに出られるわけでもないゲイビデオのモデルの稼ぎには限界があるというわけですね。

ゲイビデオモデルからスターは生まれにくい
その需要の少なさから、ゲイビデオモデルからスターが生まれにくい状況にあります。これを読んでいる方々の中にも、近所のアダルトショップに「AV女優さんが来店!」なんてイベントを目にしたことのある方がいらっしゃるかと思いますが、ゲイビデオ業界でそういったイベントを行ったという事例は皆無です。

ちなみにAV女優さんがそういったイベントをした際には、ギャラがほとんど出ていないことをご存知でしたでしょうか?

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これはあまり女優さんも語ることが少ないお金の流れですが、通常こういったイベントはアダルトショップ側からオファーを申し出ることが一般的です。メーカーはそれを受けて、プロダクションに連絡をし、ショップへAV女優さんを派遣します。このときアダルトショップから支払われるお金は、AV女優側、メーカー側へのギャラや交通費等諸々合わせて7〜10万円程度ですが、多くはメーカー側かプロダクションで止まるお金です。

というのも、こういったイベントの実施は撮影前からAV女優さんに撮影と込みでお願いされることが多く、出演料が支払われた時点でイベントをすることも前提での撮影依頼だからという事情があります。プロダクションや女優側としても、自身のタレント性を発揮できる場ではありますから、まったく無意味というわけでもありません。

ある意味制作会社としては損をしないこういった販促イベントを、なぜゲイビデオメーカーが行わないかというと、要するにオファーする側であるゲイビデオを扱っているショップが圧倒的に少ないからなんですね。ゲイビデオ会社としても1本や2本で消えて行くモデルに、販促の意味を感じないというメーカーがほとんどというのがまた、トップAV女優のようなスター性の高い人物を生みにくくすることを助長しているようにも感じます。

今後のAV業界、ゲイビデオ業界の未来
これははっきりと宣言できることではありますが、この世からアダルトビデオという存在が消えることはありません。もちろんいまのようなAV業界の形式がなくなることは十分にありえます。しかし、そういった『エロビデオ』のようなものは、存続し続けるでしょう。

現在、アダルトビデオ誕生から35年余り、AV業界は未曾有の低迷期を迎えています。AVメーカー、AV監督が制作した渾身の新作が、発売の翌日にはネットに違法アップロードされる時代。もはやAVを買うのはネットの使えない高齢層のみとまでいわれるようになってしまいました。それでもエロを映した映像作品というのはなくなりません。それがネット配信なのか、ひと昔前のように裏ビデオのような歴史を辿るのかはわかりませんが、人間の欲望がある限り存在し続けることでしょう。

一方、ゲイビデオメーカーのほうは新たな時代を迎えつつあります。それが女装物BL物のゲイビデオの登場です。

少し前ゲイビデオメーカーがこぞって女装物に手を出した時期があります。それまでゲイビデオの女装物といえば、ウィッグやメイク無しにセーラー服やナース服などの女物を着ただけという、男性の姿を残した女装が主流でした。そこに5〜6年前くらいから、フルメイクやウィッグ着用で比較的女の子に近い見た目の女装男子を撮ったゲイビデオが登場したのです。

男性が好きなゲイが女の子に近い見た目を装った美少年物のゲイビデオを買うだろうかといった疑問はありましたが、意外や意外これが見事にヒットしました。購入した層は従来のゲイビデオファンではなく、AV業界のニューハーフ物、女装物に飽き飽きしていた女装子好き男性たちでした。
ゲイビデオはゲイ男性にしか売れないが、女装物なら美少年好きのゲイ男性にも売れるし、ニューハーフなどを好むトラニーチェイサーの男性にも受けるということで、いままでにない市場があったというわけですね。

また最近のアニメ人気にもあやかり、既存のアニメのパロディや、ドラマパートを重視するBL的なゲイビデオも話題を呼んでいます。やはり女装物と同じく、既存のゲイビデオファンではない、腐女子と呼ばれる女性たちや、ただただ美少年が好きという女性の人気を得ているようです。

しかし、こういった女装物、BL物を扱ったゲイビデオは最初の勢いはいいものの、次第に減少傾向にあります。それだけの大きな需要を満足させるには、いままでのゲイビデオの業界の制作のノウハウ、モデルの技量、販売ルートでは限界があるのです。そのため最近はノンケ向けAVメーカーと手を組むゲイビデオ会社も現れました。ゲイビデオ会社はAV業界が知り得ない美少年モデルのキャスティングを、AVメーカーはいままで培ってきた幅広い販売ルートをそれぞれで提供し合っているというわけですね。

もしかすると、ゲイビデオ業界、AV業界の壁はもはやそう厚いものでもないのかも知れません。

ゲイビデオとノンケAV業界の裏側から見るセクシャリティー
趣味趣向は人それぞれだという考えが広まる中で、やはり我々がマイノリティーだと自覚せざるを得ないのがこの≪性≫に関する分野です。エロに関するメディアが溢れるアダルトショップに足を踏み入れた際、棚の隅に追いやられているであろうわずか2%の需要が、痛いほどにそれを主張してきます。

逆にAV女優の数というのは飽和状態です。ひと昔前なら借金を苦にAVに出演するといった小説やドラマのような理由でAV女優になる女性しかいなかったのが、いまや自ら進んでAV女優になりたいという人々が各プロダクションには溢れかえっています。知人のスカウトマンの男性はこう言っていました。

「いまホント大変なんだよ。スカウトしてもみんなAVに出たいっていってさ。こっちはAVで稼げる子なんか一握りしかいないから、実入りも少ないし、それをなんとか説得して水商売や風俗で働いてもらおうと必死なんだから」

もはや一般の女性たちにとって、AV女優というのは決して『人生最後の砦』ではなくなりつつあるのです。一時期は1本手取りで100万を越える時代もあったAV女優のギャラが、軒並み低下傾向にあるのも「AV女優と一般職の偏見が少なくなったから」とするAV関係者もいます。

ゲイビデオがゲイとは違うニーズで売れる。これは当事者からすれば必ずしも喜ばしいことではないかもしれません。しかし、2%外の需要が生まれたとき、それがスターの誕生であり、マイノリティーがマイノリティーでなくなる瞬間なのかもしれません。

 2016/03/09 13:00    Comment  コラム              
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