第5回ゲイが聖職者の愛人になるとどうなるか?

 

愛人。配偶者としてではなく、日陰のオンナとしてイキル。ココロの絆よりも、もっとエキセントリックで激しい感情に依存するそんな愛だっていいと思う。白馬に跨ったイケメン王子にさらってもらうのを、指を咥えて待った蒼い時。しかしアラサー間近にもなると、そんな非現実的ドリームとは疎遠になってくるものだ。人間とは不思議なもので性の嗜好や恋愛対象すらも、自身の置かれる環境によって七変化することがある。年上のタバコ臭いキスの味、安定した経済力、そして加齢臭漂わせる体臭にさえクラっとしたり。皆さんは酸いも甘いも経験したアラフィフに、抱かれたいと思ったことはありませんか?

年下の旦那とチョチョクリ合う毎日を過ごしていても、そんな刺激的な出会いを懐かしく思ったりする。そうそれは初彼に会いにドイツはケルンを訪れた時のこと。待てど暮らせど現れない彼氏を待ちぼうけ。結局ドタキャンされた訳で、私は一人ぽっち粉雪舞うゲイの首都ケルンを一人歩く。私の海外生活の中でも1、2を争う悲惨な毎日をケルンで過ごしたことは言うまでもない。

だが結局のところ人生毎分、毎秒と、意味のない時間は存在しない。どこに繋がるかわからない、そんな不確かな人生の航路は、いつも新たな出会いを提供してくれるからだ。

ケルン駅前にそびえ立つ大聖堂。クリスチャンではあるが、特別に信仰心が厚い訳でもないが、神に何かをすがりたいそんな気分だった。そんな時、一人の聖職者に何故毎日大聖堂にいるのか? 中国人か?(←毎回毎回中国人と間違われる)と尋問される。教会側からは、きっと頭のおかしいアジア人がいるとマークされていたのだろう。

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真っ赤なローブが神々しく、指にはサファイアがあしらわれたビショップリングが光る。信仰心が薄いくせに、その時ばかりは神の使いに助けを求めるが如く、人生の不条理、到底納得できない人種差別etc……を主張したりした。

初老の彼は優しく私の頭を撫で、「住む家はあるのか、これからどうするつもりなのか?」と神のお膝元で尋ねる。私は訛りがある英語で、安宿に宿泊してること、1週間程ドイツにいることを伝えた。彼は穏やかな顔で、そっと私の霜焼けた手にキスをして、パーソナルな連絡先をよこしたのであった。

彼氏に初デートをすっぽかされたことに怒り心頭の私は、ムシャクシャしながらもとりあえず聖職者の携帯にSMSを送る。返信は確かこんな感じ、「美味しい食事と暖かい布団を用意しているから、安心しなさい、哀れな子羊よ。アーメン」。

極貧留学生活ではあるが、ホームレスではない! と何故かイラつく私だが、結局ドタキャン野郎に対する苛立ちは収まらず、とりあえず誰かと話したい。この言葉にならない感情をぶつけるはけ口が必要だった。そんなこんなでディナーだけならまあいいやと、外出の身支度を整えた。

「修道院とかだったらイヤだな。とか新手のゲイ狩りとかじゃないよね?」そんな一抹の不安はあったが、人生勢いと直感に任せることも必要だ。もう30年近く生きたし、悔いがないといえば嘘になるが、正直人生を突っ走った感はあったので、例えここで死んでも自業自得。そう自分に言い聞かせる。

上質なシルクに身を包んだ彼は、ダニエル・クレイグに似た笑顔で私を迎えてくれた。崇高なオーラをその背中にヒシヒシと感じながら、案内されたリビングを舐めるように見渡す私。金の装飾で飾られた絵画にKPMやマイセンの高級磁器が、異次元の世界へ私を誘う。「ああ、このおっさん金持ちなんだな。聖職者の癖に」とボヤく私に甲斐甲斐しく寿司を振舞うおっさん。

実に色んな世間話しをした。彼が以前北米で、多くのLGBTの為に祈りを捧げたこととか、駅構内のスタバはゲイの巣窟なんだとか。正直どうでもいい四方山話ばかりだが、ココロを形成する大切な1ピースを失くした私にとって、誰かと時間を共有することは必要不可欠。ウンウンと彼の話しを相槌で聞き流しながら、私は突然の提案に耳を疑った。

「私の妾にならないか?」

 

パートナーでもなく家事手伝いでもない、もっとソウルフルで高徳、そして神に近い存在だという。ビザの手配もOK、ホームレスとして生活する必要なんかない、豪奢な生活を約束すると力説される(ホームレスじゃないのに!)。毎度ホームレス呼ばわりされることに苛立った私は、単なる白人のセックスドールになるだけで、何が高徳なんだ! と毒づく。そして彼はこう続けるのだ、己の魂の救済とイエス・キリストの本当の真理を知りたくはないかと……。

そんな抽象的なものよりも、値上がりするユーロ建ての授業料を払ってよ、が本心だ……聖職者は単なる情夫への誘いにも神の名を出すのか、けしからん。と思いながらも雑誌ムーが愛読書の私にとって、どこかキリストの真理とやらが気になった。

 

「ドイツの成り金野郎の庇護? 楽しそう! 神に祈ってタダ飯なんて、最高じゃん!」。悪魔がいたずらに微笑むと、どこかにいる善良な自分が私の頬を叩いた気がした。

色んな思いが交差する中、大抵は良心が勝ってしまうもの。このままドイツに残れる可能性にしがみついても、聖職者の仮面を被った悪魔に身を売るのはゴメンだ。私は食後の高級磁器に注がれたコーヒーを口に含みながら、丁重に断り文句を放ち、いつもの定宿に足を急がせた。

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それからというもの大聖堂にはどこか近寄りがたく、ベルリンに経つその日まで安宿に引き込もる日々を送った。そしてケルンを去る朝、私は悲壮感に暮れながら、夜行列車に乗り込む。辛い思い出だけが詰まったゲイのメッカ、ケルン。煌びやかに闇に踊る大聖堂の影を横目に、大きな溜息一つで私の初デートは終わりを告げた。

その後ベラルーシに帰国し、野犬に追いかけられる度に、不甲斐ない自分を罵り、遥か遠くの超大国の幻影と赤いゲイの誘惑に苛まれるのであった。

今日の一言スペインで代理母出産が可決されるのはまだまだ先になりそう。はあ。

 

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