第87回 数奇な出会いを繰りかえした、とあるホモ達の皮肉な人生。宮崎順一著『ホモの影を慕いて』

 

ひさしぶりに「街パン」発見! こりゃ、春から縁起が良い。私が、街に落ちている男物パンツの写真を撮り続けていることは、以前の記事でも書いた。かれこれ数年。撮った「街パン」の数は、50数点を超える。それぞれの「街パン」には、それぞれのストーリーがある。それを読み解くのが、何よりの楽しみとなっている。
街パン
写っているのは、ほの明るい職安通り。パンツの傍らに、空のショッピングバッグが捨ててあるのが、さらに想像力を掻き立てる。新しいパンツを買ってきたもののか?
例えば、である。今回紹介する「街パン」は、今年の2月末に撮影。仕事帰りの新宿・職安通りにて発見。「ドン・キホーテ」のはす向かいである。時間は、朝の6時。詳細に観察すれば、ブルーとネイビーのツートーン。幅広のゴム。若向けのデザインである。この「街パン」の主は、20代~30代前半か。特筆すべきは、靴下らしきグレーの物体が写り込んでいることである。それは、この「街パン」が、吹き飛ばされた洗濯物ではないことを証明している。つまり、だ。その場で脱いだ可能性が高いのである!
しかし、何故? まだうら寒い2月の夜。彼はパンツを脱ぐことになったのであろう? しかも、靴下を片方だけ履いたまま。チンコをぷらぷらさせながら、歌舞伎町のはずれをさまよわなければいけなかったのか?(笑)
「街パン」との出会いは、一期一会である。そんなに街中に男物のパンツが落ちているはずはない、と人は言う。しかし、多いときは、毎月といっていいほど「街パン」に出くわすのだ。毎週、見つけたこともあった。
ところがである。この1年ばかり、まったく見つからなかった。生活範囲が変わったわけではない。いつも通りに過ごしてきたつもりだ。ただ、体調を崩したり、心に余裕のない1年であったことは確かだ。そういう時は、街を歩くにも、ただひたすら目的を目指してせかせか歩く。道端に目をやることもしなかった。気まぐれに、いつもと違う横道に入ってみるゆとりもなかった。それじゃ、「街パン」との出会いは期待できるはずはない。
そのことに思い至り、気持ちの余裕を持つように心がけるようにしたところ、どうだ! 次々と「街パン」を見つけるようになったではないか!
街パン
上)「街パンだ!」と小躍りしながら近づいて、写真を撮影。下)ところが、どうやら女物のようだ。残念。
これは、先の「街パン」から、2日後。今度は、高田馬場と新大久保の間にある公園にて発見したものだ。夜目にもすぐに認識出来るのは、我ながら、素晴らしいと思う(笑)。私はiPhoneを片手に駆け寄った。喜び勇んで、数枚の写真を撮った。撮ってから気がついた。どうもおかしいと。なんと、男物ではなかったのだ! それは、淡いモーヴ色に紫色の縁取り。明らかに女物である。
私はがっくりと落ち込み、家に帰った。パソコンに取り込んだ写真を見ながら考えた。これは、はたして“本当”に女物なのだろうか? 発見した場所は、山手線の線路と平行に走る道路を挟んだ向かいにある公園だ。このあたりには民家は無い。吹き飛ばされた洗濯物ではないはずだ。それに、都会では、女物の下着を屋外に干すとは考えにくい。しかも、タグを見ると「ドン・キホーテ」製で、どことなく安っぽい(笑)。
そこで、私は仮説を立ててみた。これは、露出プレイ好きの女装子さんが、野外プレイの置き土産にしたものではないのか、と。この地は、ホモのハッテンバとして名高い戸山公園にもほど近い。都会のど真ん中でありながら、夜中のこの道路の人通りは皆無。タクシーの運ちゃんが車を停めて、居眠りをしているぐらいなものだ。女装子さんの外出や、プレイには最適ではないのか、と。はじめから脱いで捨ててくるつもりで、安いパンツを履いてきたと考えるのが、自然だ。……って、自然ってなんだ?(笑)
ならば、女装子さんの履いていたパンツなら、男物か? 「街パン」コレクションに加えるべきか? 私は、ずっと悩んでいる(笑)。
1c504e053eb41ccbedf1af94b3973b1c
「街パン」との出会いは、偶然か。写真を撮り続けるうちに、「街パン」と私は、必然で結びついているのではないかとさえ考えるようになったのである。さて、今回は(無理矢理であるが)、偶然とも必然ともしれない出会いをくり返すホモの話。出典は、『問題SM小説』1974年8月号。この本は、「マゾ専門誌」と銘打っているが、SMはもとより、女装、ホモの三本柱で構成されている由緒正しき総合変態誌の末裔である。毎号必ず1篇はホモ小説が。多いときは、2本。さらに、女装ものが加わったりと、読みでがある雑誌だ。紹介するのは、宮崎順一著『ホモ愛欲 ホモの影を慕いて』である。
三十年前,出征前夜に陸軍少尉の阿川に抱かれた波村海軍中尉は,今や波村建設の社長である。いまも瞼に残る青年将校阿川の凛々しい面影。その阿川に三十年目に出会った。その時,阿川は不精ヒゲをはやした中年男になっていたが……
(タイトルページに添えられた、リード文より)
e747df836387c5fdeabf357bcf76dd9e
宮崎順一著『ホモ愛欲 ホモの影を慕いて』扉ページには、関好による挿絵。点描によるなまめかしさが、素晴らしい!
物語はいきなり、30年ぶりの再会を果たした二人の愛欲シーンから始まる。
「あああ……あ、阿川さん!!」
 波村は急いで口に含み、男臭い阿川のその味を、存分にむさぼりながら目をつむった。
(ああ、この味!! この味を俺は三十年間求め続けながら、ついに一度も口にしなかった。事業に成功した建設会社の社長として、美人の妻と子にも恵まれ、何不足ない男とはた眼には映ったであろうが、俺の心には常に隙間風が吹き抜けていた。この味を……この味をオレはいつも忘れることが出来なかったんだ。たった一度だけ経験した、男と男の愛の行為を、オレはこの三十年間絶えず求め続けていたんだ……)
 だが、ふいに波村は想念を断ち切られ、波村の勃起を愛咬し始めた阿川の腰に、顔を埋め下半身をくねらせた。
6c207b4b3863797520c5c0d72ec4fe57
同じく、関好による挿絵。コンピュータのない時代。点描は、さぞかし大変であったろう。
互いが果てた後、波村は、阿川と出会った日のことを回想するのだった。
 唾液に濡れたグランスの、雁の張った赤黒い肉の丸みも、反転した包皮が盛り上がって型成されたリングも、左にねじれた筒の部分も、絶叫したいほどに素晴らしかった。
(ああ、ずーっと前から夢みていた同性との愛の行為を、いまオレはやっている。こうして現実に、男の性器を握り、すでにその味を味わった。
(略)
 裸一つの湯上がりの体で、風通しの良い部屋の、茣蓙の上に並んで横になった時、阿川は天井を見ながら、毛深い太腿の外側を、波村の体にピタッと押しつけたままいった。
「君、陸軍の将校ともあろう者が、海軍士官の君の褌を外したり、風呂場の中であんな事をしたり、さぞ軽蔑するだろうな?」
「いえ、軽蔑なんかしません。僕はあなたに抱かれた時、この世にはこんな素晴らしい事があったのか── 本当に思ったしあなたのものを……口に含んだ時には、涙が出るほど感動したんです。(略)いまはっきり気付きました。僕も同性愛者なんです。その僕に、あなたを軽蔑する資格なんてありませんよ」
「そうすると。おれと君とは同じ片輪者同志という訳だ」
d2fff6135b4e4032b41d1fb86cdc5669
同じく、関好による挿絵。波村に犯される若い社員。突き出した舌が、苦悶を表現している。
戦中、戦後。30年という時は、二人の境遇を大きく変えた。成功した波村に対し、阿川は落ちぶれ、道端で反物を売るインチキ香具師であった。それを引け目に感じたのか、自分の会社に迎え入れようという波村の申し出を断り、阿川は姿を消した。
失意の中、ふたたび火のついた男への愛欲。これまで押さえつけてきた男への欲望が炸裂! 波村は、若い社員に車を買ってやることを条件に、やりたい放題。セクハラ、パワハラ社長である(笑)。一方で、忘れられない阿川の消息を探り、二人が出会った横浜の街に出向いたのであるが……。
30年経った街はすっかり様変わりし、途方にくれる波村に、ポン引きらしき男が声をかけた。
「女はいらんよ」
「へえ。じゃ、若い男はどうです?」
 思わずハッとした波村の眼を覗きこみ、その中年男はニヤッとした。
「旦那。旦那はあの方の趣味のお人ですね? クロウトのあっしには一目で判りまさ。ま、騙されたと思って一緒に来なさい。美しいコが何人も、デッケエやつをブッ立てて待っていますぜ」
誘われるままに波村は、古めの洋館へと連れて行かれる。洋館というのが、横浜らしい。ここで、「年は二十五か六、顔は平凡だが、逞しい体の」修ちゃんというボーイを選ぶ。個室で遊び終わった波村に、修ちゃんは「もちろん泊まれます。料金はうんと高くなるけど、その代わり、泊まれば実演が見られる筈です」となかなかの商売熱心(笑)。
 ドアが開けられ、この家の男に案内されて、ショーの二人が入って来た。年配らしい男と若者のペアだ。(略)その二人を眺めていた波村は、アッと叫んで息を呑んだ。
 阿川だった。
(略)
 わざわざこの横浜まで探しに来て、ついに阿川の所在を知り得ず、絶望の中で気まぐれに買ったゲイボーイと、セックスの疲れ休めに覗いたホモの実演で、探し求める阿川その人の、男色行為を見物することになるなんて!! そんなバカな!! そんな!! だが、波村の驚きとは関係なく、間もなく素っ裸の股間にバタフライをつけた阿川たちが、スタンドの方に出て来てショーが始められた。
ああ! なんという皮肉な出会い!! 悲劇の再会!!
波村は眼を覆いたい思いであった。が、バタフライを取り去り、床の上で次々と体位を変えながら、男色ショーを続ける阿川から眼をそらすことが出来なかった。
(略)
灯の下でうごめく阿川の中年の体は、醜かった。あれほど恋い焦がれたことがバカバカしいように、下腹がたるんで小ジワの浮いた体は、何の変テツもない醜悪な中年男に過ぎなかった。
(あんな男に、おれは死ぬほど恋していたのか!! この世にはゴマンと若い男がいるというのに ── )
阿川に見切りを付けた波村は、さっそく修ちゃんと第2ラウンドを始めるのであった(笑)。
8687210d8f5cc893dee98de25c711247
同じく、関好による挿絵。手前が、波村。奥が、修ちゃんか。
てか、この波村ってオッサン、ひどくないか?(笑) 遅咲きの狂い咲きか。勝手に惚れて、追いかけて。30年という時が、二人を遠く遠く隔ててしまったのか。
この小説の面白みは、二人の生き方が違ったことが、暗に読み取れるところだ。生き方、つまり、同性愛者であることへの考え方の違いだ。はじめて出会ったときから、阿川は同性愛者であることに誇りを持っていたらしいことが、「性愛者を片輪者と呼ぶ時代であった。しかし、その阿川の口調に暗い響きはなかった。」という一文から分かる。方や、波村は、どういう事情があったにせよ、結婚し、隠れホモ生活を送ってきたのだろう。もしくは、同性愛者であることを忘れ去ってしまえるほど、鈍感であったのか。その彼は、会社も成功し、押しも押されぬ立場を手に入れてからは、権力を笠にきたホモセクハラ親父と成り下がったのである。
ホモを貫き落ちぶれるか、プライドなく隠れホモとして(社会的に)うまくやっていくのか? ああ、我が身に置き換えると、身につまされる。きっと、私は、前者。落ちぶれたホモなのである(笑)。
e7a9da123853b1af7a6db1bc6a154383
『問題SM小説』1974年8月号(コバルト社/1974年 発行/定価450円)
さぁ。落ちぶれたホモ。街に落ちてるパンツを見つけに出かけることにしようか……。

 

Top