第6回 イスラムゲイのセックスを覗いてみた

 

“生きにくさ”を叫ぶ私達マイノリティは、いつもどこかに理想の楽園を描いてしまう。肌の色、宗教、そしてセクシャリティ、全てが平等でそして平和な世の中。全ての喜び、悲しみを分け隔てなく分かち合える世界こそが、唯一無二の幸せというのなら、それが訪れるのはまだ時期相応なのだろう。今でこそ日本においてもLGBTの基本的人権そして同性結婚の議論が絶え間なく続いているが、それは実に自己満足に過ぎないオナニー的ゲイリブ運動と紙一重に感じることもある。

 

私達が日本でゲイ解放運動とやらをしている裏で、世界のどこかでゲイであることで弾圧されている人がいる。特にイスラム諸国のそれは、目を覆い隠してしまいたくなるほどだ。まあイスラム世界の同性愛否定は今に始まった事ではないが……(いや実際イスラムと少年愛は切っては離せない関係なんだけど)私が住むスペインにおけるイスラム嫌悪も酷いものだが、今日はとあるムスリムゲイのストーリーで夜更しして頂ければと思う。


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イスマイルが生まれた街はブルガリア北部ルセという街。一人っ子として育った彼はいつも大切にお人形を抱えていたそう。彼の両親は純トルコ人で、いわゆるトルコ系ブルガリア人と言うやつだ。かつてオスマン帝国の支配下であったブルガリアには、未だに多くのトルコ人が住んでいる。そしてブルガリア人はトルコ人が勿論嫌いだ。

 

多感な青春時代を保守的な田舎町で過ごしたイスマイルにとって、祖父母が住む隣国トルコに遊びに行くのは一番の楽しみであった。彼は誰がどう見てもゲイとわかる様相で、その容姿と態度からいじめに会うことも少なくなかったそうだ。そんな彼の唯一の親友は、トルコはアンタルヤ出身のベチュル。オープンな彼女は彼のセクシャリティをいち早く理解し、誰よりも彼を支えた。

 

イスマイルの母親はイタリアに出稼ぎに行ったまま帰らず、父親は彼が生まれる前に蒸発。絵に書いたような不幸な家庭に育ったイスマイルだが、決してその悲惨な青春時代は彼の心を蝕みはしなかった。イスマイルには学歴がない。だけどそんな事には目もくれず、毎日ルセのカフェテリアで給仕の仕事をしながら日銭を稼いでいた。

 

ベチュルの紹介でイスタンブールのカフェにて、彼と出会ったある夏の昼下がり。汽笛が響き、路面電車がオスマンの栄華という石畳の上を走っている。そんなエキゾチックな街で水パイプを吹かせながら、10も年上の私に甲斐甲斐しくコーヒーをご馳走してくれるイスマイル。初対面の日本人ゲイに興奮しながらも、屈託のない笑顔で話す彼。イスタンブールの街角でケバブを売るザ平〇堅(を30倍濃くした感じの)的中東人、欧米系の金髪碧眼のイケメンガイ……そんな上玉のイケメンを見慣れた私にとって、イスマイルのなよなよした手足の動き、そして言葉の端々から溢れるおネエのテイストが何とも新鮮に感じたものだ。

 

甘い芳香を漂わせた彼は流暢な英語で、生々しい質問を私に問いかける。私も負けじとイスラムのゲイ事情を、突拍子もなくあれやこれやと尋問してしまう。特に気になるのはあちらのお話しだ。そしてニヤリといやらしい笑みを浮かべ、彼は口を開いた。


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「イスラムがゲイを否定したいのはわかるわ。だってコーランがそう教えているんだもん。あとムスリムのゲイにとっても5度の礼拝に、ラマダンはとっても大切なの。ゲイもレズビアンもラマダンの最中は同じ月に祈りをかけて、ひたすら我慢我慢禁欲の毎日を送るの。そして夫婦以外は日没を過ぎても、夜の営みはタブー」

 

そしてこうも付け加えた。

 

「あっ、あたしセックス好きよ。でもヤってる時にアザーンが流れると、とりあえず腰の動きは止めるわね。ガハハ。www(アザーンとは礼拝前に街中のスピーカーから流れるコーランの一節の復唱)」

 

へえ。でも同級生のトルコ人はラマダンの最中にカツレツ食べてたし、普通にカップルもチュッチュしていたけれど。なんて思いながらも、ムスリムにとってラマダンのセックスはダメなんだってことは納得。

 

例え人間の本質的な部分に宗派でアレコレ制限をつけたとしても、いつもどこかで均整を保てるようになっている。つまりムスリムにとってゲイが罪だとしても、その思いの術を発散させるには十分すぎる出会いも転がっているわけだ。同じ思いを持ったムスリムが集まれば、そこで形のない感情が生まれ自身の欲を爆発させることもできる。

ムスリムは抑圧された自由があるからこそ、マイノリティの恋愛にそしてセックスに火がつくのだ。イスラムの性は極限の精神状態スレスレのところまで我慢。そして見えそうで見えないそして触れそうで触れられないエロティシズムに、ゲイもストレートも性的興奮を感じるってことか、などと勝手に妄想してみた。


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そして私はイスタンブール名物のサバサンドを頬張りながら、遥か昔コンスタンティノープルの陥落を彼の瞳の中に見た気がした。憂いに満ちた私の様子を実に興味深そうに眺めるイスマイルに、私はただ挙動不審になるしかなかった。妖しく水面に揺れるガラタ橋のネオンにイェニジャーミー(モスク)。ビザンチンの幻夢に我を忘れる私だが、誰かに身体の敏感な部分をなぞられて、ハッとした。私は街角を行く群衆に目を逸らせ、ラマダンがいち早く訪れることを願わずにはいられなかった。

 

P,S イスマイルは得意の英語とバイテリティでサンフランシスコで逞しく生きていると、風の噂で聞きました。強いなあ。

 

今日の一言 スペインにおける代理母出産に関する法案が、2票差で否決されました。今回は期待していたのでショックすぎる。

 

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