第8回 小説家 岩本薫さんとの対話(後編)

 Comment  連載   BL進化論〜対話編〜  岩本薫              

1997年、第7回ビブロス(現:リブレ)小説新人大賞で期待賞を受賞し雑誌デビュー。1999年、単行本デビュー。2000年代に入ると、小説(小説:岩本薫、イラスト:不破慎里)とマンガ(マンガ:不破慎里、原作:岩本薫)が同時進行する「YEBISUセレブリティーズ」(通称:エビリティ)シリーズのメガ・ヒットで一躍人気作家になった岩本薫さん。私も岩本作品の大ファンなのですが、『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』では論じられなかったため「前編」に引き続き、「対話編」にご登場をお願いしました。

第8回ゲスト:岩本薫さん
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インタビュアー:溝口彰子
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©Katsuhiro Ichikawa

 

▶︎小説家 岩本薫さんとの対話(前編)はこちら

 

「シウヴァ」はチャレンジングな作品で本当に楽しく書いています

 

溝口:もうひとつの現在進行形の「プリンス・オブ・シウヴァ」シリーズ(大洋図書、2013—)ですが、南米の、しかもジャングルが重要な舞台っていうのはBLでは珍しいですよね。その意味で「攻めている」作品だと思いますが、精神的に落ちていた状態のトンネルから抜けられたからこそ、でしょうか?

 

岩本:リハビリの総仕上げ的な(笑)。BLは、意外と海外を舞台にするハードルが高いのですよね。あえてチャレンジする場合も、比較的馴染みのある場所にするのが定石で、以前の私だったら、イタリアにしよう、イギリスにしよう、と、読者さんがイメージを共有しやすい国をチョイスしていたと思うんです。でも、このシリーズを始めるに当たっては、これまでとは違うものにしたいなと思いました。それで担当編集さんに「南米どうかな?」と聞いたら、編集さんも「いいですね南米! ジャングル、萌えますよね」って言ってくれて。

 

溝口:編集さんもジャングル萌え!

 

岩本:はい(笑)。でもあらかじめ、「ごめんね。数字的には難しいかもしれないよ」という話もしました。そうしたら、「先のことはわからないし、いまやりたいものをやりましょう」と言っていただけて。一話完結シリーズではないという意味でも難しいんですが、そこも含めてOKしていただけました。

 

溝口:あ、そうですね、「発情」シリーズのほうは複数カップリングだから、好きなカップルの1冊だけ読むのもできますよね。岩本さんファンの方は全部通して読む人が多いと思いますが、入り口がたくさんあるのは強い。

 

岩本:そうなんです。このキャラはちょっと好きじゃない、という場合でも、シリーズの次の本が別カップリングであれば、こっちは好きかもしれないと、手にとってもらえる可能性があります。シウヴァのように、主人公カップルがずっと同一の場合は、「私、このキャラにはあんまり萌えない」ってなったら、そこでもう終わりになってしまいますから。

 

溝口:そんなに勇気ある決断で始められたシリーズだとは……!

 

岩本:実際はそんなに立派な覚悟もなく、単に萌えに突き動かされているのですが(笑)。私の書いているものは、いわゆる王道BLかなと思います。王道展開は大好物ですし、書いていてとても楽しいのですが、どうしてもカップリングや展開が似通ってしまうのは否めない。王道の安定感を求める方がいらっしゃる一方で、いままで読んだことがないような新しい作品を読みたいという読者の方も増えているように感じます。そのふたつを両立させるのはなかなか難しく……単に私に両立させる力がないせいもありますが。そんな中で、年齢的に、あと何年現役で書けるんだろう、あと何冊書けるんだろうという危機感もありまして。

 

溝口:いやいや、あと何年でというようなお歳ではないですけども。

 

岩本:いえいえ(笑)。明日のことは誰にもわかりませんし。

 

溝口:それは確かに(笑)。それと、私がBL研究を始めたのが1998年と、岩本さんのデビューとほぼ同時期なので、あの頃に比べたら、漠然とした「前途はまだまだたっぷりある」感がなくなっているのはよくわかります(笑)。具体的に体力が落ちたとかは感じないとしても。ところで、蓮川愛さんのイラスト、なんだかノリノリに感じるんですけど、南米ものっていうことは抵抗なく受け入れてもらえたんですか?

 

岩本:はい、ありがたいことに。蓮川先生はチャレンジ精神の旺盛な方で、むしろ描いたことのない世界観として、積極的にキービジュアルからかかわってくださいました。特殊な設定ですので、私もアジアのジャングルに行って写真を撮ったり、資料となる写真集やDVDを集めたりしています。

 

溝口:ジャングルの植生の絵がいいなー、リアルな気がする! と、ジャングルなんて行ったこともないけど(笑)思っていたんですが、やっぱりそこは手間暇かけていらっしゃるんですね。

 

岩本:1冊目の『碧の王子」の表紙イラストが出来上がってきた時、緻密なタッチと緑の濃淡に圧倒されました。主人公たちが、密林に搦め捕られている……共生している感じがとてもよく出ていて。このシリーズの表紙は、引きの構図が多いのも特徴かもしれません。人物がわりと小さめで、背景がみっしり描き込まれているんですよね。世界観重視というか。あと、タイトルに毎回異なる「色」が入っているので、表紙イラストはどうしても「色縛り」が出てきてしまいますが、『碧の王子』では熱帯植物の緑、『青の誘惑』では夜の温室に差し込む月明かりの青、『黒の騎士』ではジャングルの闇で黒を表現してくださり、毎回「そう来たか!」と膝を打ちつつ、感動しています。執筆の際も、頭にテーマカラーを思い浮かべて書くのですが、書きながら「今回の色は、どんな表現になるのかな」と楽しみで。

 

溝口:私もこのシリーズは、カバー折り返しを伸ばして、背表紙や折り返し部分も含めた1枚の絵としてじっくり眺めてから読み始めるようにしています。ちなみに、同一カップル、南米、とハードルの高い作品なわけですが、読者さんからの反応はいかがですか?

 

岩本:おかげさまで巻数を重ねても、比較的脱落される方が少なく、読み続けていただけている感触があります。あと、私にしては珍しく、お友達の作家さんや編集さんが読んでくださって、感想のメールをくれたりしますね。南米が珍しいからですかね(笑)。

 

溝口:南米はたしかに珍しいですが、このシリーズってなにげにすごいテクニックが駆使されているなあと思うんですよ。蓮がちっちゃい時、10歳から、物語の現在で18歳ですけど、16歳までの、いわば子供から青年の入り口までの長い時間を単行本1冊で描いてますよね。しかも、舞台がジャングルから都会、それもお屋敷からスラムまでと多様で。これって相当の描写力がないとできないし、また、どこをはしょっていいか、という編集能力もすごく高くないと。南米の小国エストラニオにおけるシウヴァ家のこと、蓮の実の父母のこと、ジャングルでの養父母のこと、義理の兄のこと、「弟分」のジャガー、エルバのこと。ジャングルの説得力ある描写、養父母の家庭の幸福だけど貧しい様子、彼らのために蓮が寂しさや猛特訓や祖父の冷たさを我慢してシウヴァの当主になる人生を受け入れること……などなど、すごくたくさんの要素がつまっているんだけど、するっと読めて、腑に落ちる。だからこそ、ヴィクトール鏑木と蓮との関係にがっつり楽しく萌えることができる、という。で、もちろん読者さんはそんなこと考える必要なく楽しめばいいんですけども、プロの方々は、そのへんの難易度の高さがわかるから、注目されているのではないでしょうか。ところで、私、3巻まで読んだ今、蓮の亡き母の兄の未亡人、つまり蓮の叔母、の婚約者である超美形のガブリエルがほんとは悪い人なのかも、途中で協力してたけど得体が知れない! ってドキドキしてます(笑)。

 

岩本:ガブリエルは主役2人に次ぐ重要なキャラですので、描写に力を入れています。下手をすると、主役よりキラキラしく(笑)。謎めいたキャラは、とにかく魅力的でないと意味がないので、「ガブリエルが気になります」と言っていただけると「やった!」ってなりますね(笑)。

 

溝口:まんまと岩本さんの術に嵌ってしまった(笑)。ところで、「攻」の鏑木はルックスや仕事能力からいえば「スーパー攻様」なんですが、彼のほうがシウヴァ家に仕える立場なんですよね。「受」の蓮は10歳から、鏑木をある意味、絶対的な庇護者として必要としているんだけど、蓮のほうが当主だという主従関係ゆえの様々な葛藤も説得力があります。

 

岩本:ありがとうございます(笑)。……そういえば、最初「攻」の鏑木は、もっとチャラかったんです(笑)。無頼で飄々としていて、しゃべり口調も軽くて。主役の蓮が生真面目なので、そのほうがバランスいいかと思ったんですが、初稿を書き上げて担当さんに見せたところ、「これでは次男キャラですよ」と言われまして。シリーズの主役(攻)たるもの、もっと重みがあって、どっしりとしていなくてはいけない。「長男キャラにしてください」とリテイクが入りました。そう言われて過去の仕事を振り返ってみたら、確かにロッセリーニ(『ロッセリーニ家の息子」KADOKAWA、2006ー)の時も、1冊目は正当派の長男「攻」からスタートしました。エビリティもマンガは「ボス」からでした。ボスに関しては、担当さんがよく「ボスは、エビリティワールドの世界獣ですから」とおっしゃっていました。ワールドを支える主柱だということですよね。まずは、どっしりとした杭を打ち込んでシリーズの世界観を安定させなくてはならない。変化球を投げるのであれば、それから、ということ。シウヴァの場合、舞台が南米で馴染みがないですし、ジェットコースター展開ですので、なおのことブレない主柱が必要。それで全編書き直してみたら、「まだ軽い」と(笑)。3度目でようやくOKが出ました。いまになってみれば、やっぱりこれくらいの重みがあったほうが、主従という関係性的にもよかったと思います。いずれにせよ、初手で躓くと、のちのちまで響きますので、シリーズの立ち上げは本当に難しい。何度やっても、毎回試行錯誤です。

 

溝口:全編を3度も書き直し! いやー、ほんとに手間暇かかったシリーズなんですね。そういえば、3巻が終わってもガブリエルの得体が知れないことも、スラム育ちのジンという、蓮の唯一の年相応の友達である魅力的なキャラにまったく恋愛方面の気配が感じられないことも、なにげに王道BLの定型から外れていますよね。そういう実験作なのに、全体としてはゴージャス感のあるエンタテイニングなBL小説として読者さんに受け入れられているのってすごい、と、改めて思いました。

 

岩本:私がわりと「型にはまりがち」なので、シウヴァに関してはできるだけ定型に囚われないよう、意識して書いています。長くBL作家をやっていますが、こういった書き方をするのは、初めてかもしれません。そういった意味でも、自分としてはチャレンジングな作品です。本当に楽しく書いているので、あとは読み手さんにもそのワクワク感が伝わり、一緒に楽しんでいただけたら最高に幸せです。シリーズ4冊目、『Prince of Silva 銀の謀略(たくらみ)』(5月9日発売)もよろしくお願いします。

 

溝口:今度はシルバー! 楽しみです。

次回の対話篇ゲストはマンガ家の羽生山へび子さんのご登場です!


■参考作品
碧の王子』(大洋図書
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カバーイラスト:蓮川愛
©Taiyohtosho Company. All rights reserved.

 

 2016/03/18 17:00    Comment  連載   BL進化論〜対話編〜  岩本薫              
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