第74号 介護や医療は高齢セクマイをどう支える?〜シンポジウム書き起こし(前編)〜

 

 ●高齢ゲイ、独居、HIV、車椅子……のAさんを一つのケーススタディとして

72号の記事でお知らせした、性的マイノリティ高齢期の課題を考える講演とシンポジウムのつどいが、さる20日、主催・パネラー側もあわせて約60名の参加で無事、終了しました。ゲイの患者が多いエイズ拠点病院のソーシャルワーカー、支援団体などのほか、介護関係者、医療や介護系の出版社、そして老後や孤立を心配する(?)セクマイ当事者など、多彩なかたがたに聴講していただきました。アンケートでも、今回の内容を真摯に受け止め、さまざまな感想を寄せてくれています。

今回と次回の2CHOPO「老後の新聞」では、当日後半のシンポジウムの模様を書き起こしスタイルでお届けしたいと思います。そのまえに、シンポジウムのベースとなった、前半のAさんの講演の概略をお伝えしておきましょう。

Aさんは63歳のゲイ。HIV陽性でひとり暮らし、糖尿病のために腎臓透析のほか、現在、足の壊死から下肢切断による車椅子利用などの状況を抱えています。いささか特殊な事例に聞こえますが、高齢期も含めてひとり暮らしゲイ/セクマイは多いし、ゲイにはHIV陽性やガチムチで糖尿病予備軍みたいな人もそこそこいるし、わたし的には、ちょっとキツめだけどゲイなら陥りそうな状況だな、と思います(ビアンやトランスの状況ものちほど)。
当日はAさんを見舞ったここ数年の状況をたんたんとお話しくださいました。そのポイントをメモ風にあげてみます。

  • 2013年ごろ転居のために新しい透析病院を探すが、HIV陽性を理由に40軒断られ、うつ悪化(いったん転居断念)。
  • 1992年にHIV告知以後、当時は「死の病」と思われていたので老後は無いものと思い経済的な準備がなく、長期延命できたが経済困窮に。
  • 家でこもりがちになり、服薬や透析をさぼり、生きる気力をなくしていく。
  • HIVの主治医が軸となり友人たちにも呼びかけ、サポートチーム結成、定期的見守りを継続。
  • 昨年、自宅で昏睡しているところを発見され救急搬送、入院。糖尿病の壊死により右足切断。転院・リハビリ。

さて、退院後は社会生活への復帰を考えることになりますが……。

  • ソーシャルワーカーや支援団体らのサポートで「使える制度は全部使う」体制づくり。生活保護や介護保険の利用。
  • 新居探しは、生活保護はむしろ収入が保証されるので問題ないが、高齢ひとり暮らしや車椅子利用が敬遠され、難航。サポート団体の人脈のなかでようやくアパートを確保。
  • 懸案の透析も、入院先の病院がそのまま継続。週3回、送迎。
  • 友人たちによる入院中の身辺の世話(買い物等)、遠方の血縁者への連絡や報告の体制。自宅復帰後も随時、連絡とりあう体制づくりへ。

こうした過程をへて、現在、23区内でひとり暮らしを再開したAさん。「公助、互助、自助……さまざまなレベルの支援を使って生き残った自分は、これからなにができるのだろう」と講演を締めくくりました。

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 ●困難な人をどう「発掘」し、支援につなげるか

 永易 前半はAさんからいろいろ状況をお話しいただき、ありがとうございました。パネラーをご紹介しながら、コメントやご質問をいただきたいと思います。最初の石崎祐子さんはケアマネージャー、介護の専門家です。また行政書士でもあり、行政書士会中野支部の先輩として、私も日頃からいろいろお世話になっています。

 石崎 グループホームと小規模多機能施設でケアマネージャーをしています。きょうの事例をうかがうと、Aさん救出計画はじつにすばらしく、あれがなかったら今日ここにはいらっしゃらなかったでしょう。救急搬送から入院、リハビリ後も、ご家族がいても在宅に戻れずそのまま他の施設や病院へ送られることがよくあるなか、これだけのハードルがありながら自立生活に戻ってこられたのは珍しい、すごい事例だと思います。
介護保険では地域包括ケアシステム、つまり地域でなんとかしてくださいと呼びかけられています。それは厚労省の財布にお金がないからですが、Aさんの場合はそれが当事者のがわからスマートに、サックリと実践されている感じですね。

 A 私自身、以前はうつで籠っていましたが、足のリハビリに没頭するなか、うつも消えて、自宅生活に戻ってきました。自分はあまり自覚がなかったですが、介護の専門家から見てかなり難しい事態に直面していたとは驚きです。

 永易 Aさんのようにネットワークが多い人は珍しい。性的マイノリティ/ゲイはセックスだけでつきあい、本名や住所も教えあわない、リアルな人間関係を築けない場合が多い。そんな人が突然、HIV発病などに直面し、人間関係の持ち合わせもなく、セクシュアリティと病気の両方の課題を一気に突きつけられ、かなり困難な事態になることがあります。介護の現場では、そういう困難な人を受け入れられるでしょうか。

 石崎 受け入れる・受け入れないというまえに、そういう人をどうやって「発見・発掘」するかが重要です。いま地域の行政などが主導して高齢独居を見守る、あるいはサーチする仕組みはありますが、Aさんのように前期高齢者(65歳)以前だったり、性的マイノリティのように行政などのサーチに引っかかりにくい人は、自分から声を上げないと制度に乗せることができません。いまは個人情報保護の壁が高くて、こちらが気づいても、なかなかそういう人にアプローチできないんですよ。

 永易 福祉は申請主義が原則だけど、当事者は性的マイノリティであることがネックになって、福祉や行政にうまくヘルプと言えないことがありますね。

 石崎 さっきも雑談で永易さんがアサーティブと言ってましたが、当事者がみずから言う姿勢や気持ちがないと、取り残されたり手遅れになる可能性が高まると思いますね。

 永易 介護の現場では、ケアマネさんやヘルパーさんの性的マイノリティやHIVへの受容性、理解はどうでしょうか。

 石崎 たいへん難しい(苦笑)。たぶん頭ではわかっていると思うんですが、実際にわかったうえで受け入れた経験のある事業所はほぼないに等しいでしょう。特別養護老人ホームなど入所施設での陽性者受け入れの事例はあるようですが、ケアマネさんやヘルパーさんが自宅を訪問する場合、それらの人が当人の事情を理解して対応しているなどの事例は、私は承知していません。

 永易 現在、要介護年代のかたは結婚されているかたが多いので、純粋に性的マイノリティの介護問題が生じるのはむしろこれからだと思います。ただ、HIVではすでに顕在化し始めていて、受け入れ拒否の事例も報告されていますね。介護や福祉現場で働く性的マイノリティ当事者はけっこう多い印象がありますので、当事者自身による改善の動きも期待したいところです。

 A 私は新宿区で介護サービスを利用していますが、地域のゲイ率も高いようです(苦笑)。私がお世話になっている事業所では、ゲイをカミングアウトしてサービスを受けているのは私がはじめてらしいけど、ケアマネさんなどに聞くと、どうも利用者のなかにゲイらしい人はいる、と(笑)。当然ですよね。
でも、彼らはゲイであることを必死で隠しながらサービスを受けているようなのね。介護は自分の生活空間に他人を入れることですよね。ゲイはそれを嫌がって、介護サービスを利用することをできるだけ避けている人も多いんじゃないかな。たとえ介護を受けざるをえなくなっても、自分のセクシュアリティは必死で隠している。
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会場は60人ほどのかたが、熱心に聴講してくださいました。

 ●トランスの受診困難の解消はまだまだ遠い

 永易 つづいて浅沼智也さんです。看護師で、FTMトランスジェンダーであることを公表して当事者サポートなどにも取り組んでいます。

 浅沼 僕は戸籍も変更して、現在、男性看護師として働いています。このお話で40軒も透析を断られたということですが、性的マイノリティについて医療従事者が言葉を知らない、対応の仕方がわからない、ということが多いんですね。もう少し、ゲイ、レズビアン、バイセクシュアル、トランスジェンダー、ほかにもいろいろおられると思いますが、そういうかたの情報や対応を知っていれば、透析を断ってAさんのうつ症状も進行させずにすんだと思います。
こうした貴重なお話を、Aさんには医療現場でもっとしてほしいというのが僕の希望です。当事者の意見を聞かないとわからないことがたくさんあります。看護学校のとき教科書で読んで学習しますが、会うのと勉強ではぜんぜん違います。
また、「福祉制度を使い倒せ」もいいと思いました。医療福祉制度をよく知らない看護師も多いんですね。看護師は365日、24時間、患者さまとつきあうなかで、医療福祉制度の情報を知っていれば、それを紹介してもっと早く使えたのに、という場面も多いと思いますね。

 A 看護師さんは医者とはまた別に、患者にとって独立した重要なポジションなのに、日本では医者のアシスタントとして扱う人が多いし、自分でも役割を限定しちゃっている看護師さんが多い気がします。HIV領域では、私もずいぶん看護師向け講演などをして、看護師さんのあいだにセクシュアリティへの理解も進んできました。当事者がこうして話せる時代になってきたので、さらに足元を固めていけるといいですね。どうぞ私でできることでしたら、呼んでください。

 浅沼 性的マイノリティ、とくにトランスは、患者として医者にカミングアウトすることはなかなか困難で、10分の診療時間のなかで言うのは難しいし、実際、そのために医療を受けることを避けている人が多いんですね。病院へ嫌悪感を感じたり行きづらく思ったりしているようなので、病院がもう少し多様性に配慮して、だれでも来やすいようになったら、早期発見・早期治療につながると思います。

 永易 見かけはヒゲもあって男性風なのに、内部の手術をしていないので婦人科にかかる場合があったり、あと介護など身体(とくに生殖器など)を見られることに懸念するトランスの人は多いでしょうね。

 A わたしの友人にはMTFの「パス」しきれない人ーー見かけから男性性を消し去れない人もいます。いま、日本でLGBTのムーブメントが進展してきましたが、そういう人たちが「積み残し」になっていくことが、かつて米国の運動でもあったり、自殺したケースもあったりするそうです。

 浅沼 MTFは40代以上が多いのですが(逆にFTMは若い世代が多いですが)、高齢期の問題が生じ始めていますね。いつまでホルモン投与を続けるのかとか。ホルモンは、戸籍変更後は健康保険の適用になりますが、戸籍変更には体への手術も必要で、費用はもちろん、決断するにもハードルが高いです。戸籍変更しないので自費でホルモンを打ちつづけることになります。ほかにも高齢期のホルモン注射は、施設入所や入院時にも対応してもらえるのか、気になるところです。

 永易 HIV治療ではじめから公費助成が使えるのとは違って、ホルモンやトランス医療をめぐっては事情が複雑ですね。

(以下、次週に続く)

 

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