第8回 家族に送金する為にハゲオヤジと結婚したゲイの話

 

日本のような先進国にいるとお金を稼ぐ手段はあって当たり前。しかし海外では意外とそんなことはない、そんな現実を思い知る。世界には様々な方法でお金を稼いで、そして家族を食べさせている苦労人もいるのだ。

 

ドイツ、それはフランク王国を礎に持つ欧州連合きっての優秀国家。中東の紛争地域に世界の経済難民がここぞとばかりに目指すドイツこそ、まさに地上の楽園なのかもしれない(我らがスペインにおいても多くの若者が、ドイツで出稼ぎをしている)。そんなドイツは欧州一の経済大国という一面だけでなく、パツキン美女に美男が揃うウハウハな国でもあるのだ。薄汚いオッサンもそれなりにイケメンで、路地に佇むホームレスでさえよくよく見るとナイスミドルであったりする。


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ゲイにとっても難民にとってもなんだかんだ魅力的なドイツだが、己の経済力を活かして若い嫁を外国から娶るオヤジも少なくないそうだ。今日はそんなドイツで出会った一人の黒人ゲイのお話。それは私がベルリンの地下鉄をウロウロと彷徨っていた時のこと。フードを被った挙動不審なアジア人にここぞとばかりに助け舟を出してくれたのが、小柄な黒人青年ヨセフだ。クリアで聞き取りやすい英語に流暢なドイツ語を操るヨセフは、私の知らないアフリカの小国ガボン出身。

 

色んな人種を見てきたが、私自身ガボン人と接するのは初めての体験で、どこかココロが踊ったのを覚えている。正直白人国家にいると、どうしても人の目が気になり、マイノリティ同士だとやけに落ち着いてしまうのだ。真っ黒で艶やかなその肌と、どこかアッシャーを思わせるルックスの彼は当時まだ19歳。私の疲れきった肌とは対照的だ。年齢の壁を超えて、思わず見ず知らずの漆黒の瞳に吸い寄せられてしまった。

 

彼はつい1年前に母国から遠い遠い縁戚を頼りに、ドイツに渡ってきた。母国語のフランス語が通じる洒落乙国家に何故行かなかったのかなどetc……初対面なのに踏み込んだ愚問を繰り返す私にも、白い歯を浮かべ答えてくれる優しいヨセフ。

 

「だってお金持ちの恋人をドイツで見つけたからだよ」

 

あぁ、そういうことか。私も新宿二丁目や欧州のゲイシーンに身を沈めた者として、なんら驚くこともなく淡々と、彼の人生模様を受け入れることができた。世界何十億という果てしない人混みの中で、たった一人特別な人間と出会う奇跡。それは時として、己の分身のような人間を引き合わせる必然的偶然を帯びる。

 

底抜けに明るくて、身なりもスタイリッシュでありながら、知的な雰囲気すら感じさせる彼。だけど彼の両親は10人以上の子どもを育て、食べて行くのには決して十分ではない環境で生活しているという。典型的アフリカ貧困層出身の彼が、異国の地ドイツで歳の離れた旦那(推定年齢66歳)を見つけて生活をする。そこには愛はあるのか? またぶしつけな質問をしてしまう私の民度の低さにちょっと失望した。

 

「僕は彼の経済力と精神性を愛している。そして彼は僕の肉体を愛して、家族に愛(お金)をくれる。それってつまり愛がなければ成り立たないでしょう?」

 

確かにどこの輩ともわからないゲイボーイに、毎月数千ユーロのお金を送金しようとは思わない。だけどそれってただの金持ちの道楽というか、風俗に入れ込んだ客が金銭をチラつかせて風俗嬢を釣るのと同じなんじゃないかなあ。と年の功で諭そうとも思ったけれど、まあ彼がそう思えるのならきっと、それが彼の愛し方なんだよ。

 
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私達は度々フリードリッヒ・シュトラッセの某珈琲店でお茶会を楽しんだ。お互いがゲイだし気を使わないから非常に楽だ。貧困、マイノリティそして人種差別、そんな苦難を経験したからこそ分かち合える感情の上に私達は腰をかけ、チャイティーで乾杯! チンチン!!

 

「あのパツキンの男イケメンだよね?」

 

「えぇ、自分はあのキアヌ・リーブス似の人がタイプだなあ」

 

こんなスモールトークで笑い合える幸せ。私達人間は時に望み過ぎてしまうことがある。社会的名誉、お金、物欲など望めば望む程、遠のいていく幻影は、きっと本当の意味での幸せをむしゃむしゃと食べてしまう。そんなことを思いながら男観察に勤しむフード被りの黄色人と成金ブラックのコントラストは、言わずもがな注目の的であった。

 

ふと彼がカサカサとヴィトン(!)のバッグを弄りiPhoneに保存してある、旦那の写真を見せてくれた。真ん丸眼鏡のジャムおじさんみたいな肉塊が、艶かしいタンクトップ姿のヨセフの腰に手をかけている。「こりゃ、誰も相手にされないだろうな」とは勿論言えず、「バリバリ仕事をこなしそうな彼だね!」なんて必死の褒め文句をぶつける。彼はポッと顔を赤らめて、それは嬉しそうに微笑んだ。何でも某有名企業のシステムエンジニアだそう。何はともあれ、ヨセフと彼の家族が幸せなのなら、私も安心できる。よかったね、ヨセフ。

 
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あくる日駅構内のウエスタンユニオンで大家に家賃を振り込んでいると、見たことのあるヴィトンのバッグと後頭部をギラつかせるオッサンが視界に飛び込んできた。直感でヨセフの旦那がガボンの家族に送金しているのだとわかった。挨拶するべきか迷ったが、やっぱりやめた。

 

私はただ上の空なヨセフの雰囲気が気になり、彼に視線を追った。そこにはこれまた上玉のドイツ人男性の姿……。ふと前にヨセフが面食いだと言っていたことを思いだした。「……」私はどこか悲しくなって、溜息を一つ。

 寒い冬の一日が、気持ちをやるせなくさせている気がした。

視界から遠のく二人の影はダークグレイのベルリンの空と同化し、どこかへ消えていった。雨に滲んだコンクリートを歩く彼らの行方は誰も知らない。でもいつかきっと、雨雲で覆われた空に虹が掛かる頃、ヨセフは本当の幸せを見つけるのだろう。そう願いをかけて、私は小さく手を振った。バイバイ。。。

 

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