第75号 介護や医療は高齢セクマイをどう支える?〜シンポジウム書き起こし(後編)〜

▶︎第74号 性的マイノリティの高齢期、どう支える?〜シンポジウム書き起こし(前編)〜はこちら

 ●病院へ来る前に、法的な書面などを整えてくれていたら

永易 つづいて、パープル・ハンズの代表理事、北村浩をご紹介します。彼は都内の終末期医療にかかわる病院(ホスピス)で内科医師をしています。

北村 永易さんと同様90年代の世代ですが、私たちは、自分の職業・専門性を生かしてコミュニティに貢献したいという志向をもった最初の世代かもしれません。性的マイノリティ当事者の医療者のグループを立ち上げ、私も加わっていわゆるセクマイフレンドリーな診療所を設立しました(しらかば診療所)。
以前、私は、性的マイノリティをめぐる状況の改善には、当事者じゃないとわからない・できないことがあると思っていました。でも、語弊はありますが、役に立たない当事者より理解のあるヘテロのほうがどれだけ役に立つか(笑)。きょうは石崎さんがヘテロですが、Aさんの事例でもいろいろな人がかかわっており、やはり外部に向けて情報を発信し、セクシュアリティを超えて協力をしていくことが必要だなと思いました。
私は緩和ケア病棟、ホスピスに勤めています。そこへは独居でガンで、家族とは断絶している……などの人が終末期を迎えて他院から送られてきます。まだ性的マイノリティだとわかって来たかたの事例はありません。でも、看護師さんは性的マイノリティについて知らないことも多いのですが、知れば受容的に対応しよう、最近のキーワードで言えば「寄り添い」を実践してくれる人が多い。看護師はもともとそういうメンタリティーの人が多いと思います。それに比べれば医師のほうが頭が固いかもしれませんね。

永易 身寄りのない終末期の人の受け入れには、医師や病院としてどんな困難があり、それはどんな解決方法があると思いますか?

北村 うちはよその病院から送られてくるのが前提で、それ以前にだいたい生活保護の手続きなどは終わっているのですが、入るときも一人、亡くなって出ていくときも一人。まるで「病院のなかの孤独死」で、見送る側としては寂しい気持ちです。いままで死んだあとのことは関係ないと思ってきたのですが、朝の3時や4時に亡くなり、家族はだれもおらず、荷物は廃棄処分になり、行政の決められたところへ運ばれるのを何人となく見送りました。すごく寂しかったですね。
LGBTコミュニティというのがあるとして、友だちとか互助とか、そういう体制が病院のなかでも受け入れられる余地はあると思うんですよ。医師によって温度差はあるけれど、実際、責任とってくれるなら、絶縁した家族より近くの他人のほうがいい、と。病院としても血縁を探しはしますが、血縁者が拒むなかで友人たちが、「私たちが身元引受人になります、署名もします」といえば通る面もある。
パープル・ハンズでも将来、法人としてひとり暮らし性的マイノリティの成年後見を受任することを考えています。そうした法的な書面などをきちんと用意しておいてくれると、病院側も安心できます。

A 私のまわりでも、すでに多くのゲイが老後のサポートを必要とする時期に差しかかっていますが、その人たちはセクシュアリティをオープンにできない、すごくクローゼットな人たちです。でも加齢の現実は否定することはできません。その人たちをどうサポートするか。アンビバレントな思いです。

北村 パープルとしては、カミングアウトするにこしたことはないけど、それができない・しない人も支えられるように、多職種のいろんなセクシュアリティのかたがかかわることがポイントでしょう。セクシュアリティなんて人の一部分でしかないので、「そのかたご自身」として遇することが大事ではないでしょうか。

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シンポジウムの様子。奥から、永易、淺沼さん、北村さん、石崎さん、手前(背)はAさん。

 ●セクマイの友人ネットワークを、社会はどう認知し受け入れるか

永易 最後に、行政書士でもある私からは3点。一つめは、介護や福祉のかたにもっともっと「性的マイノリティは孤立化しやすい、それは社会的疎外の結果でもある」という理解をもっていただきたいですね。たとえばHIV医療の場でも、医療者は患者さんへのサポートは本当に献身的にやってくださるのですが、病気ばかり見て、いまいちセクシュアリティやゲイの置かれた社会的背景に関心が薄いようなのが気になるのです。
2つめは、Aさんをささえる「サポート家族」ができたわけですが、それを社会の側がどう認知し対応するのか。日本はまだまだ家族主義が横行しています。そばで現実に支えている友人や同性パートナーが、なぜ正式な代理人として認められないのか。
そして3つめは、Aさんが、自分が支援される側になることを予想していなかった、支援される自分を受け入れられず引きこもってしまった、と言ったことです。最近よく聞くのは、援助を受ける力、「受援力」の大切さですね。パープルでやるような制度や法律を知る勉強会も大事ですが、困ったときに「ヘルプ!」と言えるようになるためのアサーショントレーニングみたいなのが大事なのかも、と思いました。
ところで、私からAさんへの質問です。先週べつのところでAさんのお話を支援者のかたもまじえてうかがい、実際にはアマチュアの人たちで支えるなか、大変なことも多かったという報告を聞きました。支援体制をつくる大変さは、どこにあったでしょう。

A 自分自身が病人なんだ、支援を受ける立場なんだと理解するまでが大変でした。たとえば、自分がうつだと気づくのが去年の暮れぐらいで、その自覚がなかったので、私の周りは「Aさん、あなたうつ病よ」と言えなくて困ってたんです。ようやく私が、「俺、うつだったんだ」と言うと、「とっくに知ってましたよ」って。
あと、彼らも素人で、友人として集まってくれたんだけど、実際的な場面でどう対応していいかわからなかったり、どこにどうつないでいいかわからないこともあった。
私は自分の主治医と近い関係だったのがラッキーだったし、支援団体やソーシャルワーカーの支えも大きかった。そこは専門家が入ってくれていました。いくら思いのある友人でも、素人では難しかったと思います。

石崎 だれでも今回の報告のような高水準でのサポート体制構築ができるわけではないですよね。専門家の知識もないと組みづらいサポートを提供するには、性的マイノリティの場合、それをパープル・ハンズが直接行なうのか、それともAさんの場合のように、すでに本人がもっている友人ネットワークなどを活かしながら、パープルがそのコーディネートのようなことを行なうのか? 興味深いですね。

北村 私はホスピスで働いていて思うのは、性的マイノリティに限った話ではないですが、自分の意思をあらかじめはっきり書面にしたり後見人を決めている人は皆無なんです。生活保護がついていればとりあえずケースワーカーがいますが、そうでない人はいろいろ困る事態も生じる。たとえば、最初は自分で銀行にお金をおろしに行けたのが、病状が悪化して暗証番号を忘れてしまった。その人は離婚してお一人で、後見人もなにも用意してないと、もうだれも通帳でかわりにお金をおろすこともできず、医療費の支払いさえできないことになる。自分にとってのキーパーソンをどうするのか、こういうこともそろそろ考えはじめていいのかな、と思います。

永易 後見制度についてはまだ社会の理解が乏しいうえに、最近は後見人の弁護士が使い込み事件を起こしたとか、預託金を受け取っている後見法人が倒産したとか、評判も悪い。とはいえ、一人暮らしで身寄りに乏しく、判断能力も低下した人を支えるのは、法律的な権限をもった後見制度であり、これは私たちにとって「外づけ家族」とも言えます。われわれも研究し、もっと広報することが必要でしょう。この点、おなじ行政書士として、石崎さんはいかがですか?

 石崎 終末期の医療意思決定の代行権限などは、後見業界でも課題のままです。あと、きょうの発見ですが、トランスジェンダーのかたは生物学的にはありえない状態を人工的に維持しているので、認知症などで自己管理(ホルモン投与など)ができなくなったときに、だれがなんの権限でそれを維持管理していくのだろうとしみじみ思いました。そこに自費診療(お金がかかる)の問題ものしかかるとなっては、簡単には解決できないですね。

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今回のシンポジウムに合わせて作成された小冊子『介護や医療、福祉関係者のための 高齢期の性的マイノリティ 理解と支援ハンドブック』。ご希望のかたに送料無料でお送りします(5冊か10冊単位で、お広めくださるかたに)。info@purple-hands.netへ、送り先と冊数をお知らせください。個人でもご覧になりたいかたは、パープル・ハンズのイベント(パレードでブースも出展します)、aktaなど各地のコミュニティセンターなどで手にとれるほか、近日、pdf版のダウンロードを準備中です。詳細はお問い合わせください。

 ●「自分はホモだから(老後の不幸は)仕方ない」をどう乗り越えるか

永易 お時間が少し残りましたから、フロアからご発言を募りたいと思います。

フロア1 私は自治体で精神障害者のケースワーカーをしています。自分の判断で入院できない人を、精神保健福祉法にもとづく首長同意で入院してもらう担当で、配偶者もいない、親族とも連絡がつかない、などの場合があてはまります。認知症のかたの成年後見も首長申し立ての制度があり、そちらの担当もしています。今年は昨年の5倍ぐらい増えて、高齢期のお一人のケースが増えている実感があります。
申し立てには、戸籍でその人の2親等以内の親族の有無を洗ったり、主治医の意見書を揃えたりで、裁判所への申し立てには半年ぐらい時間がかかるのが通例です。

 永易 セクシュアリティにかかわらず、親族がいなくて本人の判断能力が低下した場合の問題など、自治体でもますます課題のようですね。

フロア2 Aさんのお話に自業自得という言葉があり、すごく心が痛みました。高齢クローゼットゲイのなかには、自分はゲイだからしかたない、ホモだからこんなことになったんだ、という自業自得感情が強い印象があり、だからこそなかなか福祉にも相談できないんだと思いました。ゲイをはじめ高齢の性的マイノリティのかたが、自分へのカミングアウトというか、自己肯定感を高めていかないと、そこから先へ踏み出していけないと思いますが、パープル・ハンズは自己肯定感の低い高齢セクマイのかたにどうアクセスやサポートをしていかれますか?

A 私が使った自業自得という言葉はたしかに誤解を呼びやすいかもしれませんが、この言葉を使うことで事態を客観視し、自分で受け入れ、それで前へ進めようとしているのかもしれませんーー反語的かもしれませんが。問題は、それができない、自分がゲイだということを自分で許せない人の問題。パープルにそのへんの橋渡しがしていただけるといいなと思います。

永易 パープルは暮らしや老後を実践的に考える場で、その前提としての自己受容・自己肯定の問題は、いまコミュニティに増えてきた若者のサークルや自助グループを通過するなかで、あるいは学校教育が改善されてそこで肯定的な情報を得るなかで、自分で解決してきてほしいとは思っています。自分探しに一定の決着がついたら、暮らし探し・老後探しにパープルへ来てください、と。でも、現実はなかなかそうはいかないようですね(苦笑)。

北村 60、70過ぎて自己肯定感の低いゲイはもう年季が入ってまして、こちらもできることしかできませんので(苦笑)。

永易 ひどい!

北村 とはいいますが、いま上野地区の会場でもライフプランセミナーを始めましたが、大変好評とのことです。それを根付かせることで、繋がれる人とは繋がっていくことを期待したいと思っています。

フロア3 精神疾患をかかえている当事者の自助グループです。Aさんのお話のように、HIV領域は支援団体が多く支援もできていますが、精神疾患や発達障害領域はそうした団体がなく、当事者が自分の障害を抱えながら支援もする、たいへん苦しい状況です。非正規が多く貧困に陥りやすく、生活保護も使いづらく、かつ制度を使う知識にも欠けているので、来月の家賃にも困る当事者が多いのです。HIV団体とも連携をとって、メンタル領域での性的マイノリティ支援も充実させていきたいと思っています。
うちのグループにはトランスで生活保護の人もいますが、ホルモンは医療券ではまかなえないので、生活費つまり食費を切り詰めてホルモンを買っている現状です。そこに精神疾患をかかえて何重にも苦しい当事者は、とくにトランスの人には多い。いまコミュニティで活躍してメディアなどで注目を浴びている人にも、これらの課題に関心を払っていただけたらと思います。

永易 最後にパネラーから言い残したこと、ございますか?

浅沼 ライフプランの問題では、トランスジェンダーにもHIVのかたはいらっしゃいますし、生命保険に入りにくいとか老後が見えないなどの問題もあります。パープルさんにはゲイにかぎらずセクマイ全体の視点で取り組んでほしいと思います。

北村 Aさんの事例はHIVでしたが、結局最後は生活習慣病であり、肥満であり、ガンの問題だったりします。自助の第一歩は、自分の体を自分で守ること。性的マイノリティのかたは健康に気をつけていただけたら。

A ハハハ。お医者さんとしてはそう言うよね(笑)。

永易 今回、介護や医療の領域からご聴講くださったみなさま、いかがだったでしょうか。セクマイがからむとなかなかディープだなと思ったかもしれません。ニュースなどで流れるLGBT話題とは相当、違った話も多かったと思いますが、これを機縁に、今後ともご関心を継続していただければありがたく思います。

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