番外コラム フロリダ銃乱射事件の容疑者を「ゲイ」と呼ぶ、ということ

★ 2016年6月13日、朝8時だった。

家を出る直前の10分で私は朝ごはんをかきこみ、急いでお茶碗を洗っていた。ギリ間に合うな、と思いながら泡を流し水を切る。背後ではテレビのニュースが流れていた。

「アメリカ・フロリダ州で、銃乱射事件が発生しました。死傷者は100名を超えるとみられ、アメリカで起きた銃乱射事件としては史上最悪といえる被害者数になります……」

またかよぉ、と言いながらお茶碗を置いた。振り向きながら手を拭く。もう出なきゃいけない時間だ。
私はかばんを掴み、玄関に向かおうとした。が、足が止まる。テレビ画面にこんなテロップが流れた。

「同性愛者向けのナイトクラブ」

足がすくんだ。「悲しくて仕事に行けないですぅ~って電話しようかな」と茶化してみたけれど、わりとマジだった。いったいどういう動機でこんなことをしてしまったのか聞きたいと思ったが、容疑者はもう死んでいた。

仕事中もこのことが頭を離れなかった。集中するためにiPhoneを切っていたけれど、twitterやニュースサイトを検索したくてたまらない気持ちだった。ひと仕事終えて、やっとこのことについて調べ始めると、あちこちのメディアがこぞってこんなことを報じていた。

「彼はゲイだったと思う」 乱射容疑者の元同級生が証言

米乱射事件 容疑者は現場クラブの常連 級友「ゲイ」と証言

オーランド銃乱射事件 容疑者の元妻 彼は同性愛者だったと語る

★ つまりは、こういうことらしい。

・事件現場となったクラブ「Pulse」のパフォーマーによると、容疑者は3年間、月に2回ほどクラブに通っている常連だった(CNN

・「Pulse」の常連客であるスミス氏が、「容疑者はクラブで大酒を飲んでいた。酔いつぶれて店から追い出されてしまうほど飲むこともあった。妻や家族の前で酒を飲むことは許されず、父親も彼に厳しいようだ」と証言した(TIMEDailyMail

・容疑者の元妻は、婚約者を通し、「(容疑者は)同性愛者だった。父親にもそう呼ばれていた」と語っている。また婚約者は「このことをアメリカのマスコミには語らないようにとFBIから言われている」と述べた(Sputnik日本版

・容疑者はJack’dやGrindrといった男性同士のための出会いアプリを利用しており、アプリを通じて容疑者とやりとりしたことがあるという人物の証言もある(DailyMail
もう死んだ容疑者について、いろんな人がいろんなことを言う中、こんなコメントが胸をえぐった。
 

「誰も彼を好きじゃなかった」

 
ゲイ、ゲイ、ゲイ、ゲイ、ゲイって何度も見出しに並ぶ。容疑者に女性との結婚歴があることから、彼を「バイセクシュアル」と書いたメディアも見つかった。ここにきて私は、何か月もの間、「LGBTニュース」と呼ばれる類の記事を書けなくなった原因にある違和感にとらわれるのだ。

いったい誰が、いったい何を根拠に、いったい何をもくろんで、人を「ゲイ」とか「ゲイじゃない」とか言うんだ?

 
2016年、いまや「LGBTメディア」と呼ばれるものは、まったく乱立といっていいほど量産され、日々の「LGBTニュース」と呼ばれるものを配信しつづけている。
 

★ でも、いったい何がLGBTニュースとLGBTニュースでないものを分けるんだろうか?
 

たとえば私は、イスラム国を自称する組織による同性愛者殺害について書いた。でも、ここで犠牲になった方を「同性愛者」と呼んでいるのは誰だろうか? それは彼らを殺害した自称イスラム国側であり、そのことについてSNS含むメディアで書く人間であって、彼らが同性愛者であったのかどうかは、他ならぬ彼ら自身が決めるべきことではないんだろうか?

ゲイだとかゲイじゃないとか、人を好き勝手に分類することが当然のように行われている中で、私は、虹を眺めている。世界中でかかげられた虹を眺めている。

いままで紹介してきた写真の通り、世界各国で今回亡くなられた方への追悼が行われている。イギリスで、メキシコで、フランスで、チリで、ニュージーランドで、オーストラリアで、ポーランドで、ベルギーで、韓国で、そして日本で、世界のあちこちでレインボーフラッグが掲げられたことに、事件現場となったクラブ「Pulse」は公式ツイッターアカウントで感謝のツイートをしている。

LGBTコミュニティの象徴として掲げられることが多いレインボーフラッグは、よく、「性って虹みたいにグラデーションだから」という例えに使われる。だけど、本物の虹を思い出してみよう。虹の七色がグラデーションでくっきり区別できないのと同じくらい、虹と空の境界だって、あいまいなものじゃないだろうか。

メキシコでは、亡くなったのが「100人じゃなくて50人だったなんて残念だ」なんてコメントした人がいた。ブルックリンでは、バーの客が「クソホモども! この店もあの事件みたいにしてやる!」と叫んで逮捕された。不安が募り憎悪が増幅される中、人を「敵」と「仲間」に切り分けて「連帯して戦おう!」「私たちは負けない!」と叫ぶことは非常に気持ちがいい。危険なほど気持ちがいい。
★ だからこそ私は、忘れたくないのだ。本当の虹を。本当の空を。
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Photo courtesy Calvin Bradshaw (calvinbradshaw.com)

その境界ははっきりしているようであいまいだし、日々刻々と変わっている。地球という星ができて大気が生まれ空が青くなって以降、一瞬たりとも同じ空はなかった。一瞬たりとも同じ虹の出たことはなかった。

レインボーフラッグを掲げる時、ちゃんと本当の虹を見ていたいと思う。

何か特定の宗教、民族、思想を持つ人を敵にして旗を振りかざしては、同じことの繰り返しなのだ。不毛なのだ。本当の虹に境界はない。そのことを私は忘れないでいたい。

「LGBT」と「アライ」と「その敵」みたいな世界に、私は、突き落とされない。たとえどんな不安や恐怖にさらされても、心に本当の虹を掲げ続けていたいし、そのために私が戦うべきなのは、私が負けちゃいけないのは、他の誰でもない。私自身だ。

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