最終号 地方でどっこい生きているセクマイ・コミュニティ〜沼津の場合〜

 

セクシュアルマイノリティ、LGBTライフといえば、それは東京など都会だけのもの。「地方」は地縁・血縁が濃く、とてもセクマイなんてカミングアウトもできなければ、都会みたいな「イケイケゲイライフ」とも無縁……。
都会と地方の「格差」は、おりにふれ語られてきました。都会の動きがメディアの脚光をあびるにつれ、「都会は地方を見捨てて先へ進まないで!」、そんな地方の“活動家”からの声も、ツイートその他で見かけたこともあります。これから東京では大きなパレードイベント(東京レインボープライド)やウイークが展開するだけに、「東京一人勝ち」への疑問も高まります。
こうした指摘には、たしかに一理あります。私も1986年、進学のために上京して以来この春で満30年。自分のゲイアイデンティティの確立やその後のゲイとしての生き方は、「東京」という場所と無縁ではありえません。
とはいえ、圧倒的多数の性的マイノリティが住むエリアは、「地方」です。周囲に「ゲイです」「トランスです」と放送して歩く必要はないけれど、これからの「老い」を含めてどうやって自分をそこそこ楽しくしながら暮らしていくのか? 地方でもできることはないのか?(もちろん都会が楽しいとは限りませんし)。
きょうはその一つの事例として、静岡県沼津市にあるNPO法人の活動とシェアハウスについてご紹介します。

 ●おひとりさまの料理教室と交流会

性的マイノリティは、カップルさんで暮らしている人もいますが、お一人で暮らす人も少なくありません(むしろ多い)。地方では仲間と知り合う機会が乏しく、自分のことを固く秘めて、いろいろストレスを抱えながら暮らす場合もあります。
沼津市にある特定非営利活動法人メリメロ(連絡先メールアドレス記載あり)は、そうした「おひとりさま」的生活形態から来る健康不安・精神不安を解決し、健やかに人生を過ごすための集いや助け合いを、地方でできる可能なかたちで行なうことを目的に掲げるNPOです。現地に暮らすゲイカップルの、岩口達真さんとパートナーのダイキチさん、岩口さんが大阪に在住時からの友人で看護師の緋和さんという女性らが呼びかけて設立されました。メリメロとはフランス語で「ごちゃまぜ」という意味。

具体的な活動の目玉が、隔月に開催される「おひとりさまのための料理教室」です。沼津には登録市民を講師として派遣してもらえる制度があるそうで、料理教室のできるかたを講師に迎え(グループの趣旨も了解してもらって)、かんたんにできて栄養バランスのよいメニューを、地域センターの調理室を使って学んでいます。会費は材料費こみで1500円。
先日(4月10日)、私も取材かたがた参加してみました。東京や京都からをふくめ12人が参加。静岡、裾野、富士、熱海などから、本当にきょうを楽しみに、いろんなセクシュアリティのかたが参加していました。
講師の要領よい説明をもとに、いっしょに協力しあって調理し、完成品でおいしい昼食会。講師が帰ったあとは3時までそのまま交流サロン。地方では貴重な交流の機会になっているようです(この日は後述のように、別イベントへ移動しました)。

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料理教室の模様。この日は鶏肉のピカタ、野菜とコンビーフのトマト煮、人参ごはん。タンパク質と豊富な野菜の健康メニューです。講師の後方(坊主メガネ)が私。(笑)

 ●沼津の自宅をシェアハウスに

もう一つの活動の柱が、「シェアハウスをつくろう」。岩口さんが2015年に買った住宅を、みんなで住むシェアハウスにしようと呼びかけています。
老後の一人暮らしは、気ままな反面、孤独死をふくめなにかと不安。なので「ゲイのための老人ホーム」などというと、みんなワッと関心が集まったりするわけです。ただ、「施設」として企業が作るとなると、なかなか難しい面もありそう。
ということで、そこはあまり敷居を高く考えず、おなじマンション内の他のゲイとつながる(なりゆきグループホーム)、近隣のセクマイとすぐかけつけあえる関係をもつ(なりゆきゲイタウン)など、できる範囲でできることをと、こちらでも書いてみました。
おなじように、自宅に空室があるなら同居人を募ってもいいわけです。岩口さんたちははじめからそれを意図して家を買ったという次第。地方にいくと、中古住宅が意外にお安い値段のようです(私も値段聞いてビックリ)。

沼津の御用邸公園がある海岸にもほど近い場所に、その3階建ての住宅はあります。1階のリビングやキッチンがみんなの共有スペースで、2階と3階のプライバシーが確保される居室に入居者を募る体裁です(3階には岩口さんカップルが住んでいます)。
今回(4/9)は私を含め5人の宿泊がありましたが、沼津港でうまい魚で会食したあと、1階のリビングでいろいろだべる楽しい時間を過ごしました。このリビングは、メリメロ会員の自由な交流スペースともなる予定です。また、パートナーのダイキチさんは介護の仕事をしていますが、将来、ここを拠点に訪問介護ステーションや配食サービスなどにも取り組めたら、という夢があります。
夜もふけたころ、明日にそなえてそれぞれ割り当てられた部屋に休ませてもらいましたが、こうしてときどき将来の沼津移住を考えての、お試し宿泊の希望者があるそうです。今回、私が東京からお連れしたかた(67歳)は、そういう興味から来沼しましたし、もう一人はその後、実際に沼津で仕事を探して移住を決めたそうです(これで入居1号です)。熱海に在住で沼津に職場のあるゲイがときどき泊まりにきて、将来、同居の母親を看取ったら入居したい、とも。今後、食事作り(合宿形式か個人賄いか)など、具体的に家のルールを入居者の呼吸を見ながら決めていくそうです。
なお、高齢で自分自身が介護が必要になったら、との懸念ですが、1階にも部屋はありますし、また近隣に有料老人ホームなども点在。岩口さんは認知症のお母さんを入居させていますが、地方だと食費込みで月16万程度(安い!)、介護もなんとかなりそうです。
ハウスの様子を写真特集でお楽しみください。

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建物全景。前庭には車3台が停められます。

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リビング(洋室)の右隣にキッチンがあり、手前に和室があります。みんなの共有スペースです。

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2間つづきの居室が1人分です。壁などは今後、自由に改造できます。

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吹き抜けの階段と廊下。居室はこのようにプライバシーが確保されています。

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前庭側のベランダからは海岸の松林が、反対側の3階ベランダからは富士山が見えます。

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家から5分も歩けば海岸です。

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ある日の夕食(客人を迎えて)。鯖の干物、明太子、イカの塩辛、ネギザーサイの冷奴、ズッキーニのバターソテーパルメザンチーズ、コブサラダ。みんなで食べれば美味しいな。

 ●地域への活動。隣町にはカフェもできた

岩口さんたちは、パートナーとの同居関係をほどほどにオープンにしながら、意外に地元の町内会(神輿活動なども)にも溶け込んでいますし、性的マイノリティとして地元行政への申し入れなどもしています(NPOの認証自体が沼津市が管轄です)。今後はぜひ地元が選挙区の細野豪志議員と直接面会したい、とも(笑)。

このほか沼津には(正確には隣の清水町)、最近セクマイの人の立ち寄りカフェ「Rainbow Door」がオープンしました(もちろんセクマイ限定というわけではありません。笑 地元の人も気楽に訪れます)。FTMトランスジェンダーを公表している後藤理玖さんとそのお兄さんの兄弟が経営するお店。料理教室のあとこちらへ移動してみましたが、ちょっとレトロな純喫茶の雰囲気で、コーヒーの味わいもなかなかでしたし、食事は富士宮焼きそばやオムライスが好評だとか。
ちなみに料理教室には、実家が下田で料理旅館を営むFTMの人も来ていて、今後セクマイの人にも安心して来てもらえるリゾート旅館にしたいという夢を語ってくれました。

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お店の様子。いろんな団体などのパンフレットや情報も置く予定。

「地方」と一口に言いますが、どっこいみんなそれぞれの場所で根を張りながら暮らしています。それらが地域でつながれば、いろんなことが実現できそうです。
岩口さんたちは、もともとが他のエリアから転勤してきて沼津に居ついたので、地元民にはまたべつの思いや事情があるかもしれませんが、「なに言われても気にしまへん」「自分の暮らしが第一」と思えば、どこでだって生きていけるものかも。そのたくましさ、ずぶとさ、そしてほがらかさに、「ああ、地に足がついているって、いいな〜」と思って帰京した私でした。

岩口さんたちNPO法人メリメロでは、5月8日の東京レインボープライドの会場で、パープル・ハンズとともにブースを出展し、活動案内やシェアハウスへの入居説明等を行ないます。また当日は、「Rainbow Door」の人たちも来場します。沼津に興味のあるかたは、ぜひ、ブースへお立ち寄りください。また、入居のためのお試し宿泊を土日限定で1泊3000円で受け付けています(沼津駅への出迎えも可能です)。お気軽にご相談ください。

 ●お知らせ
さて、2014年の9月から長らくご愛読いただいたこの連載ですが、今号で終了させていただくこととなりました。
連載では、私自身の行政書士の業務を生かして同性パートナーシップ保証のための対策、またセクマイとして暮らすこと・年をとることを考えるルポやライフヒストリーの聞き書きなどをお届けしてきました。昨春は渋谷区条例問題が起こり、公正証書などについても精力的に紹介しました。いろいろな面からセクマイに必要だなと思うことを私なりに選び、一面的な意見の押しつけでなく、バランスのとれた見方で少しでもわかりやすくお伝えしようと努力したつもりです。いかがだったでしょうか。
私の2CHOPOでの連載はいったん終わりますが、仲間と運営するパープル・ハンズの活動をはじめ、今後も私なりにネット上でも発信していくつもりですので、どうぞ検索その他でおりおりフォローしていただけたらありがたいです。もちろん身体が空きましたので、「うちの媒体でこういう連載はどうよ?」というお申し出は心から歓迎ですよ。
(笑)
もちろん、同性パートナーシップの法的保証、シングルの老後不安など、専門職としてできるご相談はいつでも承っていますし、毎週木曜にはバー「タックスノット」におりますので、お気軽に遊びに来てください(いずれも下記プロフ参照)。

 長いあいだご愛読くださり、ツイートその他でも応援してくださったみなさま、また私に書く場を与えてくださった2CHOPOの歴代編集のみなさま、まことにありがとうございました!

 

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