第12回 マンガ家 中村明日美子さんとの対話(後編)

2000年、デビュー。2006年にBL誌『OPERA』で連載を開始した初のBL作品「同級生」シリーズ(2008-2014)が、BLランキング1位を何度も獲得するなど、一躍、BLを代表する作家のひとりとなった中村明日美子さん。『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』では、ホモフォビアを乗り越えるヒントを示す「進化形」BLの代表作として同シリーズを考察。また、表紙のイラストレーションを中村さんに描き下ろしていただきました。いわば『BL進化論』に「顔」を与えてくれた中村さん。アニメ版『同級生』も大評判な2016年初夏、前編に引き続き、対話編にご登場いただきました。

 

第12回ゲスト:中村明日美子さん
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インタビュアー:溝口彰子
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©Katsuhiro Ichikawa

 

自分の思い・信じていることが、キャラの心理に重なると気持ちがいいですし、消化できる感じがします

 

溝口:「マリリン・モンローになりたかった少年Jの物語」『Jの総て』(2006-2008)について、学生時代にトランスジェンダーのお友達がいたことから発想したとうかがいました。で、ラスト3巻のあとがきで、あえて「オカマ」という言葉を使って、オカマが強く生きるお話を描いた、と。アメリカを舞台に、マリリン・モンローになりたかった少年やビート詩人といった設定はどこから出てきたんでしょうか?

 

中村:ビート・ジェネレーションやビートニクはもともと好きだったんです。それと、その時代、1950年代はマリリン・モンローがいろんな人にとって「そうなりたい」っていうミューズだったんじゃないかな、と。だからJもマリリンになりたかっただろうなー、と。

 

溝口:全寮制男子校の描写は「24年組」の「美少年マンガ」「少年愛もの」に通じるところもありつつ、JがMtFトランスジェンダー性の強い人だっていうところは全然違います。

 

中村:この話に関しては、Jのキャラクターがぽん、ってできちゃったんですよね。

 

溝口:どのように?

 

中村:髪型からです。「2週間のアバンチュール 南仏」(2003年雑誌掲載。『2週間のアバンチュール』2008年に収録)を描いた時に、オットーっていう先生の髪型を描いていて、面白いなあこの巻き毛、って思って。先生っていっても変態なんだけど(笑)。で、Jも巻き毛にしようと。性格については、女言葉を使うっていうことを自分のなかで最初から決めていました。BL的には女言葉を使う男性キャラっていうのはほぼありえないし、人気はないけど、「ま、いっか、『マンガ・エロティクス・エフ』はBL誌じゃないし」、っていう感じで担当さんにもOKをもらいました。

 

溝口:Jの、完全に女性として生きたいわけではないけれども女扱いされることは必要だ、っていう微妙なトランスジェンダーぶりも、あまり表に出てこないけれど実際にはけっこういるタイプだと思うのですが、それもお友達をモデルにしているんですか?

 

中村:いえ、私の友達は、手術もして今は完全に女性として生きているのでJとは違います。……描いているうちに、Jがそれほど女の子っぽくならなくなっていっちゃったんですよね。これも、「キャラクターが勝手に動きだす」っていう気持ちの悪い話なんですが(笑)。

 

溝口:気持ち悪くないですってば!(笑) 多摩美の特別講義の時に、物語の最後のほうでは、ポールとの関係性において女扱いされているから、なにもフル女装しなくても、ちょっと中性的なパンツ姿でも大丈夫になっているんだ、ってお話をされて、ああなるほど、ってすごく思いました。

 

中村:そうなんですよね。まあ、ラストシーンで母親とよりそっているところは、象徴的なシーンなのでワンピースにしているんですけど、このころも、スカートをはく日もあればパンツの日もある、っていう感じで考えています。

 

溝口:Jって、「総受」的な、男性との性行為で挿入されまくっている人生なのに、リタという女性ともセックスして、その1回で子供ができて、父親になるというびっくりの展開です。でも、1巻の最初のページで大人になった娘のジーンが「あたしママが2人いるの」「あたし2人のママから生まれたのよ」って言っているので、Jが「ママみたいな父親」になることは最初から決めた上で描き始められたんですよね?

 

中村:はい。最初はJと娘の話を描こうと思っていたんです。前日譚のほうがいろいろあるなということでJの話になったんですが、娘ありきでした。

 

溝口:そうなんですねー。ところで、Jとリタのセックスシーンって、『鶏肉倶楽部』(2002)に入っている「マー様にささぐ」でのマー様と女の子のセックスシーンにつながりがあるように感じるんですけど。このマー様ってドラァグクイーンのマーガレットさんがモデルですよね?

 

中村:そうです。同じ大学出身なんですよ。和光大学。で、友達が芝居を打ったときに、イベントがあって、そこにバビ江ノビッチさんとチッコーネさんとマーガレットさんが来て、ショーをしてくれたんです。で、もちろん私とマー様はこのマンガのようなことは実際にはなかったんだけど(笑)、そういう夢を見たんです。マー様と私がねんごろになる夢を。

 

溝口:えー、じゃあ、このマンガの女の子は明日美子さん自身がモデルなんだ!

 

中村:そう(笑)。で、その後、なにかでお会いする機会があったときに、そういう夢を見たのでそれをネタにマンガを描いていいですか? ってきいたら、「いいわよ」っておっしゃったので、描いたんです。もうご本人はお忘れかもしれないですけど。

 

溝口:明日美子さんがこんなに人気のあるマンガ家さんになっていることは、もしかしたら気づいてらっしゃらないかもしれませんね。で、コトが終わったあとで、「また ショー見にきても?」ってきくと、マー様が「いつでもいらっしゃい」って言うのもいいんだなー。

 

中村:そうそう。1回ねんごろになったからってたいしたことじゃない、っていうね。人生において、悲劇でもなければ喜劇でもなく。

 

溝口:あと、これ、明日美子さんのほうが……じゃない(笑)、女の子キャラのほうがマー様を攻めてるんですよね。Jとリタの場合は、Jが挑発しているけど。

 

中村:そういう構図は好きなんですよ。そういう女の人の話はいつか描きたいです。

 

溝口:「マー様にささぐ」の続編的な作品でしょうか。楽しみにしています(笑)。話はJに戻りますが、ポールは、最後のほうで、ジャーナリストのエドからゲイっていう言葉をきいて、自分がゲイである、同性愛者であるっていうことを受け入れて、おばさんにも告げています。でも、この人、男として男が好きだというよりも、Jの女性性の部分に惹かれているから、ゲイとはいえないような気もします。

 

中村:そう。ほんとにゲイなわけじゃない。そもそも、好きになられたから自分からも好きになった、っていうか、ちょっかい出されたら、好きになっちゃって、それが恋だと思ってしまった、みたいな。

 

溝口:Jがそう言ってますよね。3巻で。誰とだってやれればいいんだ、来るもの拒まずだ、ポールだってそうだ、って。それでポールがショックを受ける。その他大勢と一緒だなんて、って。

 

中村:そこは、書いていて本当にそうだなって思ったんです。ポールは勘違いしやすいんです。でも、誠実に生きているし、実際にそれを行動に移しているわけだし。嘘からでた誠でいいんです。最初は勘違いでも、誠実に行動にうつせば、それは本当になるんです。モーガンは、はっきりゲイっていえるほどゲイかどうかはわからないですけど、行動にうつさないから友達どまり。ポールは、理屈はわかってないけど行動に移したから、欲しいものを手に入れた。Jを。

 

溝口:なるほど……。ところで、3巻で、Jが飛び降りようとするところがかなり衝撃的でした。

 

中村:追い詰められるところまで追い詰められたなーと……。ポールはなんだかこのままぬるっといくと思っていたみたいなんだけど。

 

溝口:なんとなく、このまま同棲していけばなんとかなる、と。

 

中村:そうそう。

 

溝口:そんなふうに思っていたところに……!

 

中村:エドさんがいてよかったですよね。ひとりじゃ引き上げられなかった(笑)。

 

溝口:はい。なんとか間に合って引き上げることができた。でも、助けられてからJが、全部自分のせいだっていうのが切ないです。

 

中村:私が考えうる限り一番悲しいセリフです。

 

溝口:「生まれてこなきゃよかった」。

 

中村:そのセリフは、本当に悲しい。それで、それを言われた時に、シンプルに返す言葉が、「すきだ」「それだけじゃ2人で生きてく理由にならないのか」「離れたくない」で。これは、私自身がそう思っていることです。だれかひとりでもそばにいれば、生まれてきていい、生きていていい、と。だからここでは、私自身の感情とキャラの感情が一緒になっています。……クライマックスのシーンでは、自分の思っていること、信じていることが、キャラクターの心理に重なることが、自分的に気持ちいいのかもしれない。そこで、消化できる感じがします。「同級生」シリーズでもそういうのがちょいちょいあって、最後のほうで草壁が、どういう風に生きても、得るものもあるし捨てるものもある、って言うのも、私自身が思っていることで。

 

溝口:草壁の、「なにもかもは無理でしょ」ですよね。ここは私もぐっときました。異性愛か同性愛かに関係なく、ほんとに、生きるってことは何かを選んで何かを捨てることの連続で、そのことをぽんっと、いっているセリフで。……そっか、明日美子さん自身の言葉が草壁にシンクロしたのか! だからこその説得力なのですね。

 

次回の対話篇ゲストはマンガ家の石原理さんのご登場です!


■参考作品
Jの総て』(太田出版
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© OHTA PUBLISHING CO. All rights reserved.

 

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