第3回 女の私がメンズスーツで学校に行った話

今回は私が初めてメンズスーツを着た話をお送りします!
なお、先に断っておきますが私は男性になりたいという意識はありません。あくまで今回の件ではしっくりくるのがメンズスーツだったということです。

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デビューした日の写真。

2015年のクリスマスの朝。さすがにもうサンタさんは来てくれないようだった。プレゼントのないツリーをぼんやりと眺める。ついに今日が来てしまった。昨日の夕食が豪華だったとかそんなことはもう頭の中にはなかった。これから私の一世一代の大勝負が始まる。

今日は卒論発表だ。私は3年生なので主役じゃないが、スーツ着用と言われた。玄関の鏡を見つめる。そこにいたのは「男性」の姿だった。メンズスーツにメンズの上着。着慣れないフォーマルな服装の歯がゆさに加え、初めてのメンズスーツで不安は増すばかりだった。同期、先輩、先生にどう見られるんだろう。靴もメンズだけど、気付かれるかな……。そんな事を考えながら、通販で買った先の細いビジネスシューズの靴紐を結んだ。

移動中、トイレに行きたくなった。迷った挙句、多目的トイレに入った。女子トイレに入る勇気はなかった。混乱させたくない。後ろ指をさされたくない。そういう気持ちだった。イベントに行けば女装コスプレの人は男子トイレに行く。でもそれはそういう場だという共通認識があるからであって、ここは公共の場だ。私はきっと男として認識されているだろう。ボーイッシュどころの話ではない。知らないおばさんに凝視されて、最悪声をかけられるかもしれない。そんな現実的な想像が膨らむ。トイレ問題が深刻化する要因は他人の目を考えなければいけないことにあると思う。

気が付いたら手を固く握っていた。汗で少し湿っていた。緊張はピークに達し、口から心臓が出そうとはこのことかと思った。正直帰りたい気持ちでいっぱいだった。けど、ここで逃げてはいけない。これから就活が始まりこの格好で戦うのに、最初から躓く訳にはいかない。深呼吸をする。過去最高とも言える緊張感に襲われながら、一歩ずつ会場に向かった。

結論から言えば何もなかった。もしかしたら何人か気付いたり、思ったことがあったかもしれないけれど、直接的なリアクションは何もなかった。なんだ。あんなに悩んだのに、誰も気にしてないや。拍子抜けだった。同時に嬉しかった。これでいいんだって。

「いてもいいと思います」「君が認めなくても“いる”んだよ」

いつだったかネットで見かけたつぶやき。私はいる。ここにいる。ちゃんと存在している。意思を持っている自分を認識するのはこれが初めてだったかもしれない。

大成功の裏で、私は(めずらしく)事前に準備をしていた。

1つめ。まず学校の相談室での相談。性違和・ジェンダーについて相談できる人がほとんど、というかまったくいなかった。だからとにかく話を聞いてもらいたかったし、第三者の意見がほしかった。スクールカウンセラーの方と何回か話し合ったがとても親身に話を聞いてくれた。これまで自分の中だけで考えていたが、誰かに伝えることで頭の中が整理され、客観性も得られたと思う。

2つめ。先生への相談。正直言うと、ここで折れる可能性はかなり高かった。「はぁ?」とか言われてしまったらもう立ち直れない気がした。しかし悩んでいても仕方ない。意を決して言った。

「レディススーツに違和感があるので、メンズスーツを着ようと思っています」

繕うものは何もない。正真正銘、自分の言葉だった。先生は神妙な顔の私を少し怪訝な表情で見ていたが、話を聞いたあとはごく普段通りの様子で言った。

「いいんじゃない? それが君の個性だから。むしろそんなの全然許容範囲だよ。就活もそれで行くんでしょ? 変な人だと思われるかもしれないけれど、そういう(価値観の合わない)ところに行っても(相性)合わないと思うよ。お互い合うところにいけるのが一番いいと思う」

正直、予想外だった。ネットで見た一般論は辛辣どころか露骨な嫌悪感を醸し出しているものばかりだったから。けれど現実にはちゃんと向き合ってくれる人がいる。理解しようとしてくれる人がいる。もし私が今回諦めていたら、きっとそのことに気付かずにずっと殻に閉じこもっていたんじゃないかと思う。

私がメンズスーツで就活をする自信が芽生えたのはこの出来事のおかげだ。きっと世の中には私と似たような人が少なからずいるし、これからも現れるだろう。私の経験談で似たような境遇の人達の役に立てればと思って2CHOPOさんに連絡したのはそれから2ヵ月後の話でっす。

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