第17回 金持ちゲイの驚愕の金銭感覚に驚く!

 

「ピアノ、イングリッシュティー、乗馬に舞踏会が趣味。気の合う仲間、募集中。ただし若くてイケメン以外は返信しません」

 

こんな苛立つ文面のプロファイル。だけどなかなかイイオトコ。というか渋い面持ちに影のある笑みを含ませた、トム・クルーズといえばいいのだろうか。色んな男がいるさ、ゲイもバイもね。こんな上から目線のオッサンは大概2ちゃんでフルボッコにされるのがオチだけど、流石にオーストリアに2ちゃんの魔の手は及ばなかった。

 

オーストリア=ハンガリー二重帝国、輝かしきハプスブルグの誇り高き風を受けながら、黙々と男探しに耽る自分。基本私のような内気で少々対人恐怖症な人間は、SNSで顔の見えない恋をするにも奥手になってしまう。つまりハッテン場で寝たふりしながらマチ子になるのと同じで、結局自分からはアクションしないのがマイウェイ。

 

だってイケメンにメールして罵倒されたり、Fucking Chino! とか言われたら嫌じゃない? そんな一歩も二歩も後ずさりするような遊び方で出会い系を楽しむのが私。そんな折件のプロファイルのオッサンからメールが来たわけだが……

 

Ich●▽☆デ我■こ>フジコ! ←ドイツ語

 

きっとハロー、キューティー。何してんのって意味かな? 英語でプロファイルを書いているのに平然とドイツ語でメッセージを送るゲイにイライラしながら、まあオーストリアにいるんだからドイツ語でメッセージをもらうのが普通かと納得してみる。

 

彼の名前はDr.T。ウィーン在住の高名な精神科のドクターである。私も医学をかじった一人として、卑猥なメッセージなどは気にもせず、ある種の人脈をたぐり寄せるかのように甘い声で返信。

 

データー

 

名前:T

 

年齢:詐称前49(詐称後40

 

居住地:シュテファン大聖堂目の前のオサレマンション

 

彼氏:建築家の彼有り

仕事:開業医兼、医大の講師

 

その辺のブサイク高望み婚活女子が飛びつきそうな勢いのスペックだ。しかも趣味が乗馬に紅茶? 舞踏会ってなんですか? 貧相な貧乏学生丸出しのアジア人と、サンダル姿も様になるオーストリア人のリッチゲイ。自分をついつい卑下したくなる程の爽やかな笑顔で飛んできた先生は、優しく私の手をとりウィーン中心部を案内してくれる。

 

私の二丁目、出会い系サイト(Gayromeo)の経験からして、やっぱりゲイの医者ってのは少なくない。基本皆洗練されてて、常識があるのが常。もしくは本物のキチ◯イかのどちらかにキッパリと別れる。T先生の場合は、一言で言うと洗練された変態だ。

 

20年選手、事実婚の彼を持ちながら、堂々と顔写真を載せて出会い系サイトで遊ぶ。こんなふしだらな関係、彼氏は嫌がらないの? と疑問をぶつけてみても、強いドイツ語訛りの英語と哲学用語を駆使した高度な会話にはついていけない。

 

私は留学中の貧乏旅行の時から、ある種のジャーナリズムと言うか人間というかゲイの生態観察に勤しむようになっていった。多分初恋のドイツ人に心を奪われ、ガラスのハートが砕けたが故に起因する行動なのだと思う。

 

今回の案件は医者→金持ち→彼氏持ち……この後にどんな展開が待っているかだ。

 

予想①ヤリ目的

 

予想②お茶のみ仲間(共通の趣味を持った)

 

予想③側室募集

 

こんな感じの3択が浮かんできたが、100人中99人は予想①に挙手することだろう。まあゲイだし、さっきから下半身テント張ってるし、これは間違いない……ということで、案の定先生のクリニックで心の処方なるセラピックヨガと美味しいイングリッシュティーで癒されながら、じゃあと先生がズボンを脱ぎ始めたのは言うまでもない。

 

結局大概こうなるであろうと予想がつく典型的なパターンで面白くない。白人男に慣れてきた私はウブなフリをカマす。

 

「初めては好きな人じゃないと嫌だ」

二丁目のビデボで無理矢理童貞を捨てた20の夏。三十路前のおっさんゲイがかます言葉ではないが、肌荒れが収まり、そして全身脱毛済みのツルピカ肌の日本人は、年齢を言わずとも若く見られる。

 

Oh~!」

 

とか叫びながらT先生は、驚嘆した顔で私を抱き寄せて、世界の名茶を次から次に勧めてくる(どちらかというとコーヒー派なんだけど)。転がされてばかりの私が、初めて白人ゲイを手のひらで転がした瞬間だ! 彼は何故か子どものようにはしゃいで、今度ミュージカルを観に行こうと執拗に誘ってくる(彼氏と行け、バカと言いたくなるが)。

 

流石に短パンしか持ってきていないし、そんなハイカラな場所はスーツコードで引っかかるっていうの。案の定それを悟ったのか、先生は別れ際封筒を私に手渡すのだ。なんだか紅茶の飲みすぎでブヨブヨになった体を摩りながら、彼氏がいる男とお茶をした自分にどこか腹を立てた。

 

いつもの定泊の安宿に戻って、何かしら? と期待に胸膨らませて、封筒を開けるボク。不貞レター? いやいやもしかしたらAmazonギフトカード? それとも……ワクテカ

 

そこには20ユーロ札と紙切れ一枚。

 

“新しい服と靴、買うといいよ!ミュージカル楽しみにしています!”

 

と。。。

 

えっ、20ユーロ? 何度数えても20ユーロだ。お金をもらうようなことは何もしていない、だけど20ユーロで何をしろと言うのだろうか? コイツはシャツの一枚も買ったこともないのか! と、お金を受け取ったにも関わらず何故か怒り心頭。あそこで断らずにシャブっていたら200ユーロになったのだろうか? それとも都合のいい男娼として、蔑まれていたのだろうか。

 

結局その20ユーロ札は、ムカついたから路上にいるイケメン風のホームレスにあげた。Thank you Thank youと繰り返す彼を見つめながら、医者ってなんでこんなケチなんだろうか? と一人憤る滑稽な自分。こんなホームレスにはなりたくない!、だけど服の値段も知らないケチな人間にもなりたくない! そう強く願ってウィーンの趣ある路地裏を後にした。

因みに私のお気に入りブランドは、Tシャツ1枚2ユーロからのPrimarkというブランドである(Made in Chinaかもしれないが、アイルランド発のブランド)。絶対にMango MensやZARAでは服を買わないのが私の揺るぎないポリシー(だって高いから……)。

 

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