第14回 マンガ家 石原理さんとの対話(後編)

 Comment  連載   BL進化論〜対話編〜  石原理              

商業BL業界の黎明期、1992年に商業デビューした石原理さん。私が1998年にBL研究を始めた時には、すでに人気作家のひとりでした。そして2016年7月現在も『バーボンとハニートースト』を人気雑誌『シェリプラス』で連載中と、間違いなくBLの歴史と現在を代表するマンガ家さんのひとり。とはいえ、同時に、しばしば「硬派」と評される作風で独特の存在ともいえる石原さんに、「前編」に引き続き、「対話編」にご登場いただきました。

 

第14回ゲスト:石原理さん
23a93aec4ee23c9bf5e2fc42788cf067

インタビュアー:溝口彰子
3190788880216c3b283da328f9e2cfd8
©Katsuhiro Ichikawa

 

初めて自分をインスパイアするものに出会った時って、
それを探し求めていたけれど出会えずにいた
だからそれにインスパイアされるという図式があると思うんです

 

溝口:前回、過去のスランプのお話をうかがって、衝撃を受けると同時に、全然気がついていなかった自分にちょっとあきれました。私が商業BLを読み始めたのが1998年後半からで、しかもコミックス派なので雑誌連載の動向にうとかった、というのはあるにせよ。それで思ったのですが、石原さんのデビュー当時からリアルタイムで追っているファンの方達はきっと心配しながら見守っていらっしゃったんだろうなあと。デビューのころからの「もちあがり」の読者さん、いらっしゃいます?

 

石原:はい、長い方、すごくいらっしゃいます。ほんとにありがたいなーと思います。私がもう忘れているような初期の作品から読み込んでくださって、キャラの名前も私よりもよく覚えていらっしゃって。宝だなと思います。

 

溝口:初期作品の『カリスマ』(1994)は、NYを舞台にマフィアやストリートキッズたちのハードボイルドな世界観で、こんなBLありなんだ! 映画みたい!と思いました。(当時はもちろん言葉としては「やおい」とか「ボーイズラブ」と呼んでいましたが)前回、「物語が降りてくる」というお話をされていましたが、そのもととなる刺激とか影響を、もしも他のジャンルの表現物から得ているという感覚があるようでしたら、うかがいたいのですが。

 

石原:完全に映画ですね。ただ、たぶん、どんな作家さんでもそうだと思うんですけど、初めて自分をインスパイアするものに出会った時って、ずーっとそれを探し求めていたけどそれまで出会えないでいた、だからそれにインスパイアされる、っていう図式があると思うんです。だから、私はものすごく映画が好きで、映画に影響を受けますけれど、映画と響き合ったところって、もともと自分のなかにあったものです。映画を見てそういう作品を描きたいと思うわけじゃなくて、映画は、映画という表現物としてインスパイアされるという感じです。

 

溝口:なるほど。では、具体的にお話がひらめくのはどういった時なのでしょう?

 

石原:ひらめきは、辞書を開いた時とか、ドキュメンタリー本を読む時とか、科学情報を読む時とか、そういう時ですね。具体的な作品のイメージがわく瞬間、っていうのは、日常のそういう瞬間です。

 

溝口:そこでうかがいたいのですが、『カリスマ』では、マーフィーという色白でほっそりして知恵遅れの兄と、アーチャーっていう頭脳も身体能力もたけている弟、っていうとても独特な兄弟が出てきます。彼らは続編の『犬の王』(2007-)でも引き続き登場している、石原さんにとってとても重要な兄弟キャラクターだと思いますが、変な聞き方ですが、この兄弟はどこから出てきたんでしょう?

 

石原:これは、児童虐待について知ったことからです。当時は日本ではまだあまり取りざたされていませんでしたが、アメリカでは問題になっていて。虐待されて育った子供が、今度は自分が虐待者になる、とか。今でこそ「愛着障害」という言葉がありますが、それもまだない時代でした。で、虐待された子供はどうやって育っていくのか、という本にインスパイアされたんだったと思います。当時は私、アメリカの社会情勢とか犯罪とかにすごく興味があって、ドキュメンタリー本を読み漁っていたんです。で、虐待の問題についても読みました。私自身は親に虐待されたことはありませんが、でも、自分が子供として家のなかで感じていたこととか、自分のなかの社会への怒り、といったこととまざりあって『カリスマ』が生まれたと思います。……それで、守るものがなければふんばれないんじゃないかな、と思って、マーフィーという知恵遅れのお兄ちゃんキャラが生まれたんです。知恵遅れだけど、純粋で、汚したくない、守りたい存在。それがアーチャーのよりどころとして必要なんじゃないか、と。

 

溝口:最初は同人誌で描いたそうですが。

 

石原:はい、同人誌で「18禁本」っていうのを作った時に。「18禁」といっても性的なほうではなくて、モラル的にやばい話っていう意味で。友達2人と「PC18」、パレンタル・コントロール、っていう意味ですね。その本を作る時に、この兄弟の話がやばいかなーと思って、描いたんです。

 

溝口:アメリカの社会情勢などに興味を持ったきっかけは覚えていらっしゃいますか?

 

石原:そもそもは映画でした。『真夜中のカウボーイ』(ジョン・シュレシンジャー監督、1969)とか『ディアハンター』(マイケル・チミノ監督、1978)とかを見て、カルチャーショックを受けて、いろいろ調べたんです。

 

溝口:なるほど。ところで、コーキが日系アメリカ人なのは、読者への配慮ですか?

 

石原:いえ、自分への(笑)。自分が日本人なので、キャラが全員外人だと感情移入しにくいから、ひとり、日本人の名前のついたキャラを作りたかったんです。でも、純粋な日本人だと浮くんですよね。ありえない、っていう感じになるので、それで、日系2世ということにしました。

 

溝口:プレッシャーをかけたいわけではないのですが、『犬の王』コミックス1巻目が2007年、2巻目が2009年に出て、そこで止まっていますが、再開のご予定は……?

 

石原:この作品も、まだ調子が悪い時に連載を始めてしまったので、実は出だしからつまづいているんです。だから他の、回収待ちの作品もそうなんですが、いろいろ大変になっちゃってて。悩ましいところです。……でも、読者さんからもTwitterで問い合わせをいただいたんですが、『犬の王』については、必ず完結はさせます。商業誌でできればいいですが、もしできなくても、同人誌ででも完結させますので、待っていてくださいね、と、お返事しています。自分にも言い聞かせるように。

 

溝口:私も、お待ちしています。その流れでなんですが、中断している他の作品も、「回収待ち」、つまり、再開予定があるということですよね。『ひまわり』『逆視眼』『怜々蒐集譚』。

 

石原:はい。『バーボンとハニートースト』の連載の合間に、『怜々蒐集譚』はweb版『クロフネZERO』で続きを発表してまして、その他もぼちぼち収拾しつつあります。『ひまわり』では、子供たちをちゃんと描き始めたら面白くなったので、イクメンがたくさん出てくる展開にしたいと思ったりも。どれも、いつ、単行本の形で世に出せるかはまだわからなくて、あんまりだらだらやっていてもご迷惑をおかけするな、と思うんですが、一方で、これでまたエンジンがかかっちゃったら同じことになっちゃうかも、と思うので、自分を追い立てないようにしています。

 

溝口:はい、読者としても、どんなにゆっくりペースでも読ませてもらえることが一番ですので、ぜひ、無理をなさらないでください。……といっても、そもそもが「赤い靴」体質となると、規則正しく1日何時間と決めてお仕事して、土日はお休みする、とかっていうのは難しそうですが。

 

石原:無理です(笑)。どうしても、締め切り直前は、マイクロナップっていって、15分づつ睡眠をとる方法があるんですが、それをやって、ずーっと描いたりしてしまいますね。でも、ここ4年くらいは、新連載の前には6か月くらい準備期間をいただくようにしています。……そういえば、いまさらこんなこと言うと変かもしれないんですけど、最近は、読者さんのために描きたいという気持ちにもなっています。今までは、私の世界観を好きな人が読んでくれればいいっていう考え方、というか、「私はこれしか描けないから、これを読んでくれた人が、これをいい、と言ってくだされば、それが一番幸せ」というような感じで。もちろんそれは変わらないですし、読者さんのニーズに迎合したいという意味でもないのですが、読んだ人が幸せになるようなものを描きたいな、というのが自分のモチベーションとして出てきた、っていう感じです。

 

溝口:最後に、ベテラン作家さんだからこそうかがいたいのですが、石原さんにとってご自身に一番近いキャラクターは誰ですか?

 

石原:一番なまなましいのは、『カリスマ』と『犬の王』で描いたアーチャーですけど、一番ラクなのは『カプセル・ヨードチンキ』(1995)ですね。あの全員。

 

溝口:モズ、アケ、エージ、カラスの4人組と、克郎とシーナですね。出てきたとたんにほんとにしっくりと存在しているキャラたちで、アンサンブルとしても個々としても大好きです。……それにしても、ネットワークのことを扱うSF作品なのに、つい先日読み返したら全然、古く感じなかったのですごいなと思いました。

 

石原:わざとその時の最新技術を外しているからだと思います。「レトロ未来」って呼んでいるんですけど(笑)。

 

次回の対話篇ゲストはマンガ家のスカーレット・ベリ子さんのご登場です!


■参考作品
犬の王』(リブレ
194f079bacbc53fcf189caeb195e42eb
© libre inc. All Rights Reserved.

 

 2016/08/03 13:45    Comment  連載   BL進化論〜対話編〜  石原理              
Top