第57回 恋愛をしていてもハッピー・シングル

 

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子供の頃から小銭を握って一人で近所を散策するのが大好きだった。古本屋の100円コーナーで面白そうな漫画を漁って、駄菓子屋でうまい棒とジュースを買って、公園の芝生に座って日が暮れるまでまったりした。自分からすれば自然なことだったが、周りからよく心配されたこともあった。一人っ子だから性格が歪んだと思われることも少なくなかった。友達と一緒に大はしゃぎするのが嫌いだったわけじゃない。一人の時間も大切だっただけだ。

 

今になってもそれは変わらない。財布が少し重くなって、行動範囲も広くなったが、心に抱いた好奇心は子供の頃と同じだ。可愛い家具屋やギャラリーを眺めながら、美味しそうなデザートがあるカフェで小腹を満たして、疲れ果てるまで街歩きをする。メールや着信は全部無視だ。そんな一人の時間が自分を幸せにしてくれる。

 

恋愛をして、同棲をして、愛犬の世話までしているとそんな時間を持つ機会が驚くほど減る。平日は仕事に追われながら夕食を用意するだけでいっぱいいっぱい。やることを全部を終えた頃には寝る時間になっている。せっかくの週末は平日にできなかった家事をしながら、二人で時間を過ごすことが多い。忙しくてなかなか会えない友人とコーヒーを飲みに行ったり、犬をお風呂に入れたりしていると、あっという間に日曜日の夜になってしまう。子供の頃の有り余った時間はどこへ消えてしまったのだろう。

 

そうして自分自身のための時間を過ごせないと、段々悪いものが心に溜まって性格が悪くなる。自分にも優しくなれず、他人にも厳しく接してしまう。恋人との関係も険悪になる。彼氏という役割を担うことに押しつぶされて、それが不満となって吹き出るのかもしれない。自分の幸せを犠牲にしてまで二人の幸せを優先しているから、相手にも余計な期待をしてしまっているのかもしれない。理由はどうあれ、そんな恋愛をしていても誰も幸せになれない。

 

そんな時は誰かの彼氏ではない自分自身の世話をすることにしている。おかしな話かもしれないが、恋人がいても幸せな独身になる必要があるのだ。人によって、それは友達と集まって騒ぐことだったり、リゾート地の砂浜に横たわることだったりする。自分にとって、それは一人の時間を堪能することだ。そうやって自分自身を取り戻すことで不思議と心も平和になる。昨日まで頭に来ていた小さなこともどうでもよくなっている。

 

誰かの恋人でいる時しか幸せになれないなら、それ以外の自分がかわいそうだ。二人の幸せを追求していても、自分自身が幸せであることを忘れたくない。だから、たまには家事と犬の世話を彼氏に任せて、一人で出かける。独身時代のように気ままに歩く。そして、同じように彼氏が独身になれる時間を過ごせるように配慮してあげる。そんなわがままなハッピー・シングル同士だからこの恋愛も豊かなのかもしれない。

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