第15回 マンガ家 スカーレット・ベリ子さんとの対話(前編)

2008年、『ウィングス』で少女マンガデビュー。2011年、『シェリプラス』でBLデビュー。同時期にイラストレーションを担当した『ラブシーン・デッサン集』をはじめとする「マンガ家と作るポーズ集」シリーズがBL業界内外で話題に。電子書店パピレスRenta!で配信された『みのりの手』と『四代目・大和辰之』が2014年、2015年連続でBLコミック部門第1位を獲得。両作品が2015年に単行本化されると、紙派のBL愛好家にも熱狂的に迎えられ、一躍人気BL作家になったスカーレット・ベリ子さん。新連載『ジェラシー』開始、新刊『ジャッカス!』発売と、勢いに乗る2016年夏、「対話編」にご登場いただきました。

 

第15回ゲスト:スカーレット・ベリ子さん

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インタビュアー:溝口彰子
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©Katsuhiro Ichikawa

 

私の描く作品は「攻」「受」が逆だと勘違いされますけど
包容力があって「ケツの穴がひろい」男性が「受」というのが
正しいカップリングの方程式だと思っています

 

溝口:まず、ペンネームについておうかがいします。「スカーレット」は緋色のことだとわかるんですが、「ベリ子」ってどこから来たんでしょう?

 

スカーレット・ベリ子(以下、スカベリ):むかーし使っていたペンネームが苺関係だったので、友達から「ベリ」って呼ばれていまして(笑)。

 

溝口:あ、「ストロベリー」の「ベリ」なんですね! そこに「子」がついた、と。略して呼ぶ時はなんとお呼びすればいいですか?

 

スカベリ:ベリ子、でも、スカベリ、でもどっちでも大丈夫です(笑)。

 

溝口:わかりました。なんだかスッキリしました(笑)。さて、私は紙派なので、2015年12月に出た『このBLがやばい! 2016年度版』のコミックスランキングで『四代目・大和辰之』が5位になっていたので早速読んでみて、すごく面白い!って思ったんです。で、『このBL〜』の他のページもパラパラ見ていたら、「期待のニューカマー」のトップで『みのりの手』が紹介されていて。「あれ? 期待のニューカマーなのにランキング5位にも入ってるの?」って、ちょっと混乱しました(笑)。『みのりの手』も買って、奥付を見て、ああ、電子でこっちが先に連載していて、辰之があと、で、コミックスは2冊同時発売だったんだ、とようやく理解しまして。

 

スカベリ:電子が好きな方には読んでいただいていたんですが、紙派の方にとっては、「突然出てきた人」って見えたみたいで。

 

溝口:はい。それと、同時期に友達からBLデッサン集のことを聞いて、1冊買ってみたんですが、すごいですよね、パラパラアニメみたいにちょっとづつ角度が変わっていく絵がぎっしり描いてあって。

 

スカベリ:そうなんです。男同士のからみとかキスとかを30度ごとにデッサンして。1冊で500カット以上あったかな。

 

溝口:デビューは『ウィングス』だとうかがいましたが。

 

スカベリ:「漫画大賞」に応募しまして。2008年だったと思います。下のほうの賞にひっかかって、担当編集者さんがついて、当初はBLではない作品でネームを描いていたんですが、全然面白いのが描けなくて、1年半くらい仕事がありませんでした。その後、ガールズラブ(GL)のアンソロジーに読み切りを描かせてもらいましたが鳴かず飛ばず。『シェリプラス』が2011年に創刊したので、デッサン集の仕事をしつつ、短編を描かせてもらうようになりましたが、全然人気が出ず(笑)。でも、デッサン集の収入があったので、マンガのほうの修行に、落ち着いて取り組めたのはありがたかったです。

 

担当編集者さん:デッサン集を描いているうちに、ベリ子先生、どんどん絵がうまくなっていったんですよ。千本ノックみたいに(笑)。

 

スカベリ:(笑)。……で、2013年に電子で『みのりの手』を発表して、そこでみなさんに知っていただけるようになりました。あ、その少し前に、『シェリプラス』で『女王と仕立て屋』を描いていたんですが、いったん終了して、『みのりの手』を始めたんです。

 

溝口:『みのりの手』が初の電子連載だったんですね。紙との違いで、意識したことはありましたか?

 

スカベリ:電子書籍の特徴としてエロを求められるということを感じました。とはいえ、ストーリー性のあるものを嫌いな人はいないと思ったので、エロを重視して、なおかつストーリーもおざなりにしなければ評価は頂けるのではないかと思いました。

 

溝口:電子の読者さんって若い方が多いのでしょうか? 声は届きましたか?

 

スカベリ:一度Renta!さんのメッセージ企画で頂いたメッセージを見る限りでは、あまり年齢層の差は感じませんでした。ただ、誰にも知られずに読めるという点でエロを多めに求められている実感はありましたが(笑)。

 

溝口:紙でずっとBLを読んでいるベテランの読者さんは、気に入った作品があると作家さんにどんどんお手紙を書いて自分の声を届ける方が多いですけど、電子の読者さんの声は、そういったメッセージ企画で伝わるのですね。

 

スカベリ:電子は感想を送ってもらうという場がそもそもないので、評価いただいているのかどうなのか、読み手の人の顔が見えなかったというのは少し苦労しました。というのも、担当さんですらよく私の描く「受」と「攻」を逆だと勘違いされることが多かったので(笑)。読み手の方は尚の事混乱されるのではないかと心配していました。

 

溝口:たしかに、逆なのが面白いなーと思っていました。例えば『四代目・大和辰之』では、より男っぽい辰之のほうが「受」で、背はちょっと高いとはいえより女っぽいというか優しい感じの幼稚園の先生である望が、「攻」です。このカップリングは、あえてBLの王道と逆にされたのか、ナチュラルに発想されたのか、どちらでしょう?

 

スカベリ:あえて外したつもりはなくて、私としてはこのカップリングが正しい方程式なんです。弱っている男がいれば、それを受け入れて癒してくれる男がいる。私が好きな男はそういう、包容力があって「ケツの穴がひろい」男性なんですよ。

 

溝口:「ケツの穴がひろい男性」(笑)。すごく説得力のある表現ですねえ。一般的な「器が大きい」「懐が深い」みたいな表現に、アナルセックスがほぼ必須なBLが重なっていて(笑)。……とくに、『四代目・大和辰之』では、望が子供時代に父親から性的虐待を受けていたという、おおざっぱにいえば、広義のBL史でのジルベール的なキャラですよね。『風と木の詩』では、ジルベールは大人になる前に死んでしまいますが、望は大人になって、ちゃんと幼稚園の先生をやっている。でも、トラウマは抱えている。だから、「男らしい」辰之のほうが「受」になる、というのは納得できました。

 

スカベリ:そうです。女として扱われてきた望をちゃんと「男」として受け入れて肯定する事。そうすることで望は癒されるし、辰之が腹をくくるきっかけにもなる。抱くことで癒されて抱かれることで癒される。『四代目・大和辰之』で私の、一見して「攻」「受」が逆転していることに私なりの理由があることを理解してくださった方が多かったみたいです。

 

溝口:望のトラウマということでは、子供のころ、女の子の服を着せられて父親に性的虐待を受けた直後の、布団の上でこちらを見る45ページの姿がものすごくインパクトがあります。かわいいんだけど仄暗い表情で。で、同じページの左下のコマでは、「ちっちゃいスカジャン着てカッコつけ」た子供時代の辰之に励まされて、ほんのり笑顔になっている。これが2人の出会いなんですよね。それと、大人になった望が、まだ春先なのに、着衣のまま海に入っていくシーンにはドキドキしました。シャワーをあびながら「海に行きたい」というセリフがあって、数ページ後に着衣のまま海に入っていく。で、足だけかと思ったら横イチのコマ割で、どんどん深くまで入っていって、頭までもぐってしまう。コミックスのまだ80ページ目くらいなのに、「まさかここで死ぬとかないよね!?」って思って。

 

スカベリ:あそこは、私にとっては、望の自傷行為という位置付けなんです。リストカットについて調べたことがあるのですが、あれは、死にたいから切るのではなく生きたいから切るのだと。体を傷つけることでこころの痛みをやわらげる。望が海にはいるのも、それと同じで、冷たい海に入ることで、自分が生きていることが感じられるようになる、そういうつもりで描いていました。望が救われたことで自分も救われた、とお手紙をくださる方もいらっしゃいました。

 

溝口:海になぜ入っていくのか、モノローグで説明しないところが秀逸だと思いました。子供時代に虐待を受けていたことをフラッシュバックで表すシーンも同様で、望が辰之に、物語の現在の時点で、実際に語ってきかせています。父親がヤクザに連れていかれてホッとした、「もうこれで女の子の化粧とか服とか着せられて 気持ち悪いもんねじ込まれずにすむんだもん」というセリフが驚く辰之の顔のアップに重なっていて、さっき言及した布団の上に座っているコマになる。読者にとって、望の心中がモノローグの形をとって直接開示されることはなく、常に、その場で話を聞いている辰之と一緒に知る、あるいは、第三者として目撃することが求められます。それは、望の名前と仕事先が明かされる時も同様で、望が置いていった名刺を辰之が見た時に、名刺のアップは描かれないので、読者は、辰之が幼稚園に出向いて「小鹿望」ってフルネームで呼びかける時に初めて知る。そこには園児もいて、園児と一緒に「聞く」わけです。幼稚園で園児の保育をする日常の仕事、生活の文脈でなんですよね。その前夜には、酔っ払った辰之を望が「お持ち帰り」して、レイプに近い形で激しいセックスシーンが繰り広げられているんですが、そういったいかにもBL的なエピソードと、地に足のついた生活感とが、両立、接続しているのがベリ子さん作品のおおきな魅力だと思います。

 

スカベリ:辰之に「生きろ」といわれた以上生きなければいけませんから。生活してお金を稼ぐのも生きる事。恋愛してセックスするのも生きる事。どちらも捨てたくないんです。

(後編につづく)


■参考作品
四代目・大和辰之』(新書館
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