第16回 マンガ家 スカーレット・ベリ子さんとの対話(後編)

2008年、『ウィングス』で少女マンガデビュー。2011年、『シェリプラス』でBLデビュー。同時期にイラストレーションを担当した『ラブシーン・デッサン集』をはじめとする「マンガ家と作るポーズ集」シリーズがBL業界内外で話題に。電子書店パピレスRenta!で配信された『みのりの手』と『四代目・大和辰之』が2014年、2015年連続でBLコミック部門第1位を獲得。両作品が2015年に単行本化されると、紙派のBL愛好家にも熱狂的に迎えられ、一躍人気BL作家になったスカーレット・ベリ子さん。新連載『ジェラシー』開始、新刊『ジャッカス!』発売と、勢いに乗る2016年夏、前編に引き続き、「対話編」にご登場いただきました。

 

第16回ゲスト:スカーレット・ベリ子さん
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インタビュアー:溝口彰子
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©Katsuhiro Ichikawa

 

私は競争心、嫉妬、焦燥感すべてを抱えるネガティブな人間です
でも、だからこそ、次回作も読者の方に喜んでいただけるように頑張れるんです

 

溝口:スカーレット・ベリ子さんの作品では、セックス・シーンもすごく読みどころです。いろんな体位で、いろんな行為を(笑)、しっかり描いていらっしゃいますが、ゲイビ(デオ)を参考にしたりもされるんでしょうか?

 

スカーレット・ベリ子(以下、スカベリ):ゲイビは趣味で見ることはあります(笑)。筋肉が綺麗な男性が多いので。しかしゲイビデオはあくまで男性向けに作ってあるものなので、女性が読むためのBLで参考にする時は女性が感じる男性の色気、艶っぽさが必要なので、そこをプラスしています 。

 

溝口:「艶を足す」というのは具体的には?

 

スカベリ:いろいろありますが(笑)、絶対にやらなくちゃならないのは、アウトラインの艶っぽさです。あごから、のど、のどぼとけがあって、鎖骨のへこみ。で、腕を上げた時の筋肉のしなやかさ、伸び。腕を上に伸ばしたら、伸びている側の筋肉のうねりが大切だから絶対に描きます。

 

溝口:あ、たとえばこれ(『四代目・大和辰之』129ページ左上)とかこれ(『女王と仕立て屋』96ページ右上)とかですね。

 

スカベリ:そうそう。(絵を示しながら)こに肺があって、ここに骨盤があるから、その間が多少へこむ。それと、脇腹に腹斜筋が多少あって、脚につながっていく。

 

溝口:腹斜筋っていう言葉がさらっと出てくるのがすごいですね。それはやっぱりデッサン集を手がけられたからでしょうか。

 

スカベリ:そうですね。元々身体を描くのは好きではあったんですが、きちんと筋肉の位置を意識するようになったのはデッサン集を出してからです。人が参考にする資料ですから、まずは私がきちんと身体を知らなければいけないと思って。

 

溝口:腹斜筋が多少ありつつも、あんまりマッチョじゃなくてしなやかに細いのがいいですよね。私、『みのりの手』の最後のほうで、「受」の壮太が、「ちゃんとくっついてないと嫌だ」っていう、とても可愛らしいセリフを言った流れで、みのりが、背後からぴったりくっつきながらバックから挿入する、2本のスプーンがぴったりあわさるような、いわゆる「スプーニング」の一種にいくところ、うわわ! って思いました。乙女チックな可愛らしさ、親密な密着度と、激しさが一体化していて(笑)。この体位、BLであんまり見かけない気がします。

 

スカベリ:あ、そうなんですか? 私はこれ、一番好きな体位です。「寝バック」って呼んでますけど(笑)。

 

溝口:寝バック……たしかに、「受」の人がほぼうつ伏せで寝てますもんね。BLでよく見かける、「受」の人が顔をベッドにつけて、ひざをついて下半身を突き出す感じのバックと違って。ところで、2013年前半に描き始めた『女王と仕立て屋』ではHシーンが比較的おとなしめで、同年末からの『みのりの手』以降は絡んだ全身を引いた構図でも描き、汁も多め、というのは、電子連載だったのでエロを強化したということですよね。

 

スカベリ:もちろん電子書籍だからエロを中心にしたというのはありますが、それよりもその作品とキャラクターに濃厚なエロが似合うか似合わないかで決めています。汁多め、は私の趣味としては好きなんですけど(笑)、仕立て屋さんの2人はあの2人の距離感とキャラクターで濃厚なエロは、キャラ自体が崩れてしまうので似合わない。新刊の『ジャッカス!』も、Hシーンはありますけど、初めてのセックスでガツガツやりそうなキャラではありませんから。キャラクターの性格を曲げてまで濃厚なエロを描くのは、ちょっと違うなと。

 

溝口:なるほど。そういえば、『ジャッカス!』は、ストッキングをはいた脚に興奮するっていうフェチ的なエロ要素が中心にありますけど、セックス・シーンでの汁や絡んだ全身像を引きで見せる描写は少なめですよね。ところで、このお話、メインキャラが多いですね!

 

スカベリ:そうですね。今回は主人公を取り巻く環境も含めた話を描きたかったので、気が付いたらなんか人多くない……? と(笑)。

 

溝口:主人公は原啓介で、幼馴染の克己、姉の亜希子、で、啓介と性格が真逆なのにうまがあって仲良しのイケメン・篠田正行、まででメインキャラは終わりかと思ったら、克己が付き合っている相手の保険医・荒巻。克己をうらやんでいる(好きかもしれない?)三好。荒巻の知り合いのデザイナーの保坂。と、7人もメインがいて、全員のキャラがたっているのでびっくりです。で、克己が啓介を大事な家族だと思っている、っていうところで感動させられるところまでは予想の範囲内ですが、後半、三好が、恋敵の荒巻に向かって、「俺じゃダメだからここに来てんだよ!」「俺にこんな事言わせんなよ」「アンタ大人だろ!」「会ってやれ」って言うところは、まったく予想もしていなかったので完全な不意打ちで、ぐっときました。……キャラもエピソードも要素が多いのにコミックス1冊できれいにまとまっていますが、プロットの段階でかなり綿密な設計図的なものを作ったのでしょうか?

 

スカベリ:エピソードや場面に関しては、実は私はそれほど複雑だとは思ってなくて、それぞれのキャラクターの物語自体はとてもシンプルなんです。啓介の物語だけを一言で説明するならば「パンスト履いてるのがパンスト好きの親友にバレて恋愛に発展。最後はセックスしてハッピーエンド」。これだけ(笑)。馬鹿っぽいですけど(笑)。他のキャラについても、最初にスタートとゴール地点だけ決めておいて、あとはキャラに好きに動いてもらいました。最終的に戻ってくる場所さえ決めておけば、どんな道のりだろうと意外と帰ってきてくれます。あまり細かくエピソードや関係性を決めてしまうと、そこから動かせなくなってキャラの動きを狭めてしまう事にもなりかねないので。どちらかというと「こいつらでどう遊んでやろうか」という事ばっかり考えていましたね(笑)。

 

溝口:そうなんですねー、すごい。で、あとさきになりますが、そもそも、メインのパンストで男子高校生で、っていうのはどこから発想したのでしょう?

 

スカベリ:まず電子の連載なのでパッと見て分かりやすい要素というのは必ず必要だと思っていて、これまでの「整体師」だったり「ヤクザもの」だったり、何をやっているお店か、という看板ですね。それを今度は何にしようかなと考えていて、整体師の時に同時に候補に挙がっていたのがパンストだったんです(笑)。当時は「パンストのネタなんてどう逆立ちしても降ってこない無理無理!」と、思ってボツにしたのですが、『みのり』『四代目』『女王』と、物語を完結させることができて、自分の描き方というものが少し見えてきたので、パンストを看板に掲げてやってみよう、チャレンジしよう、と(笑)。パンストのお店だけど店内をよく見まわしてみるといろんなものが置いてるよ、という感じでしょうか。

 

溝口:はい、パンストだけじゃなく、胸キュン、さわやか、葛藤、なさけない大人、家族愛、など、いろいろあります(笑)。ちなみに、「ジャッカス」って何かと思ったら「jackass」。「アホ」とか「間抜け」を意味するスラングですね。わりときつめの言葉かなと思います。私自身はアメリカに住んでいた時に、直接、言ったり聞いたりしたことはないです。そもそもカタカナ言葉になっていないと思いますが、なぜこれをタイトルに?

 

スカベリ:私は「クソ野郎」くらいの意味だと思っています。2000年くらいに、海外の超おバカ集団が子供の好奇心のままにいろんな危ない事や汚い事にチャレンジする番組があって、そこから取りました。調べないほうがいいですよ。本当に汚いので(笑)。でも、キャラ全員に当てはまる言葉だなと思いまして。ただのいい子はひとりもいないので(笑)。

 

溝口:なるほど。ところで、人数の多いキャラの描き分けがが可能なのはもちろん画力の高さは大前提ですが、とくに気を配ったことがありましたらおきかせください。

 

スカベリ:それぞれキャラクターの性格に応じた表情の作り方は意識しました。凄く細かい事を言えば素の表情の時の目、眉、鼻、口の位置や、怒った時の眉と目のつりあがり方や喋る時の口の開け方、横顔の鼻の高さや顎の長さと角度、等々です。それでもやはり読み返してみると最初の方はキャラを掴んでないなと思います。要修行です。

 

溝口:私、220ページのスマホの画面にオオウケしました。克己が荒巻と再会してセックスした、ことを篠田と啓介に報告してきた、という伝達内容もですが、荒巻がベッドにうつ伏せで腰に湿布が貼ってあって、克己がドヤ顔でタバコくわえていて、タイトルが「食った(星マーク)」って(笑)。

 

スカベリ:私の漫画は1コマの情報量が多すぎるんですよね。本当はもっと削った方が読みやすくはなるのですが、つい遊び心の方が勝ってしまって、あんなことに(笑)。

 

溝口:1コマのなかでの情報量ということでいえば、小さなコマでもパースがちゃんとしていて奥行きがありますよね。『ジャッカス!』の冒頭の、洗濯物の向こうが夏の空に抜けていくななめ下からのショットがあって……「ショット」は映画用語ではありますが……、3コマ目のベランダの奥に3段棚があって、鉢植えとか何かスプレーとかのってて、部屋の内側のすみっこにゴミ箱らしきものがある、とかも、奥行き感と生活感があるので、キャラのイメージにも厚みが出ますよね。

 

スカベリ:キャラクターの部屋に何があるのかを考えるのは好きですね。このキャラはマメだろうから棚の中にボックスを入れて管理してそうだとか。お掃除便利グッズに目がなさそうだとか(笑)。 小さなコマでも奥行きを描けば狭く感じませんし、そのページの中で一番強調したいコマに目を向けてもらう事もできますから。

 

溝口:なるほど。それと、最近のBLマンガでは紙のはじっこまで描いている断ち切りが圧倒的に多いのですが、『ジャッカス!』では、枠線をひいて、ページのはじまでの余白を残している、版面(はんずら)のページも多くて、端正な印象があります。

 

スカベリ:そうですね。版面が好きなんですよ。小さい枠の中にチマチマ描く作業が楽しくて。時々ネタを仕込んで、読んだ人は気づいてくれるかなーなどと思いながら(笑)。

 

溝口:『ジャッカス!』は『四代目・大和辰之』が電子でも紙でも大ヒットした後での、スピンオフなどではないまったく新しい連載ということで、プレッシャーがあったのかなという気がするのですが。

 

スカベリ:新しい事を始める時はいつもプレッシャーを感じています。前作を評価いただけたからといって新しい作品も受け入れてもらえるというわけではない、というのは全然売れなかった頃から常に肝に銘じている事なので、数に対する緊張はありませんでした。

 

溝口:ストイックですね。

 

スカベリ:私、競争心、嫉妬、焦燥感も全部抱えているタイプなんですよ。すごくネガティヴで。読者さんからの応援のお手紙はもちろんとても嬉しいんですが、それは過去の作品を認めてくださった、楽しんでくださった、ということの証拠であって、これから先も自分の作品を好きになってくれる保証ではない、と考えてしまうんです。だからこそ、次も好きになってもらえるように、描く。がんばる。

 

溝口:なんてハングリーな……。

 

スカベリ:自分のネガティブな部分をマンガを描くという為のモチベーションに変えないと、きっと潰れちゃうんですよ。だから今度の新連載もまんま、『ジェラシー』です(笑)。よろしくおねがいします!

次回の対話篇ゲストはマンガ家のトウテムポールさんのご登場です!


■参考作品
ジャッカス!』(新書館
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