第60回 デートの最中に政治の話をしてはいけない?

 

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夏の終わり、初デートに出かけた相手が不器用にアイスクリームを食べる姿がとても可愛かった。暖かい日差しと少し冷たい風を感じながら、二人は微妙な距離感を保ちながら公園のベンチに座っている。お互いのことをまだよく知らないから手探りの会話がぎこちない。それでも、目が合うと彼の顔が赤くなったのがわかった。きっと相手にも自分の顔が赤くなっているのがバレているのだろう。話のネタが尽きようとした頃、彼はこんな質問を投げてきた。

 

「オリンピック凄く良かったよね。2020年の東京オリンピック、楽しみでしょ?」

 

無難な話題としてオリンピックを選んだのかもしれないが、答え方によってはお互いの顔が違う意味で真っ赤になってしまう。彼が今年のオリンピックを楽しんで、2020年の東京オリンピックを待ち望んでいるのはわかった。しかし、自分はオリンピックを一切見ていないし、2020年の東京オリンピックもまったく楽しみにしていない。オリンピックで唯一興味があるのはそれで浮き彫りになる社会問題と競泳水着のもっこりくらいだ。ここでその意見を明らかにすれば、せっかく盛り上がっているデートに水を差すことになるかもしれない。

 

政治の話はデートの最中に持ち出してはいけない話題とされている。デート相手が自分と真逆の意見を主張すれば反論したくなるからだ。反論せずに我慢して話を合わせることもできるが、どちらにしろ気持ちのいいものではない。大統領選挙が控えているアメリカでは、ヒラリー・クリントンを支持する人とドナルド・トランプを支持する人はもはや真逆の人種とされている。もう同じ空間には存在できないところまで議論が炎上している。デートどころの話ではない。隣のカナダにもその緊張感がひしひし伝わってくる。日本で例えれば、改憲賛成派と反対派のようなものかもしれない。

 

こんな白黒ハッキリ分かれていて、主観的な善悪があって、共存が難しい話題は面白いように人間を踊らせる。iPhoneかAndroidか、任天堂かソニーか、塩かタレか、そうやって派閥が出来上がると、人間の視野はぎゅっと狭くなって、相手を論破することばかりに夢中になってしまう。多様な意見に耳を傾ける余裕はどんどん減っていく。それをインターネット越しでやってしまう人もいれば、目の前にいる友達や家族とやってしまう人もいる。そして、デート相手と同じようにやり合えばどんな状況陥るかは想像に難くない。

 

人間はそれぞれ違う意見を持っている。その違いがあるから人間は面白いし、お互いに惹かれ合う。意見というものは流動的なプロセスでもある。新しいものを学んで、見たこともないものに触れて、自分の考えを疑うことで、意見は常に変化していく。だから、その瞬間の意見だけで判断しても相手がどんな人なのかはわからない。その意見の向こうにあるものにも目を向ける必要がある。うまく関係を築いている保守とリベラルの両極端なカップルだって珍しくない。考え方に食い違いがあっても、もしかしたら意外な部分で繋がっていることもある。

 

交際して長い彼氏とは政治の話をあまりしないようにしている。新しい食器を買うだけで細かい色の違いを長時間議論してしまう私たちにとって、これ以上炎上する燃料はいらない。彼がリスペクトと思いやりのある人だということはわかっている。今はそれだけで十分だ。

 

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