第17回 マンガ家 トウテムポールさんとの対話(前編)

2007年、『星のやうにさよなら』(志ろう名義)で、『アフタヌーン』(講談社)の四季賞秋にて池上遼一特別賞を受賞。2008年から同人誌で描いていた『東京心中』シリーズが、2013年に一挙4冊の単行本として発行されると、『このBLがやばい! 2014年度版』でランキング1位を獲得する人気作に。『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』では、「職業もの」BL作品の代表格として考察させてもらいました。現在、『OPERA』での『東京心中』の続編連載と並行して、『スピリッツ増刊 ヒバナ』で非BL作品『或るアホウの一生』を連載中と、精力的に活動しているトウテムポールさんに、「対話編」にご登場いただきました。

 

第17回ゲスト:トウテムポールさん

 

インタビュアー:溝口彰子

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©Katsuhiro Ichikawa

 

ネームを描いてはボツの繰り返しの中で

作画をしていないことに気づき

マンガ”を描きたくて同人誌を描き始めました

 

溝口:「トウテムポール」って変わったペンネームですよね。あとがきなどを読むと、一人称は「ポール」のようですが。「トウテム」が苗字で「ポール」が名前なのでしょうか?

 

トウテムポール(以下、ポール):いえ、同人誌をやっていた時のサークル名がトウテムポールで、ペンネームがポールだったんです。なので、今はペンネームがトウテムポールなのですが、自分語りの主語はポールになるんです。そもそも、サークル名を自分で考えるのが恥ずかしかったので、友達に「何かないかい?」って聞いたら、「トウテムポールでいいんじゃない」って(笑)。で、ま、いっか、と。雑につけました。

 

溝口:ポールって外国人名前ですけど、それについての抵抗感はなかったのですか?

 

ポール:全然(笑)。インパクトがあって読みやすくて、覚えやすいから、いいんじゃない、って(笑)。……今となっては、たしかに、たとえば『或るアホウの一生』の取材で将棋連盟さんに行って、「はじめまして。トウテムポールです。よろしくお願いします」とか言うのは恥ずかしいですし、取材中、先方の方が名前を呼んでくださらないっていう現象にはなりますけど。でも、すぐ覚えてはいただけるので、まあよかったかな、と。

 

『OPERA』編集長さん:某作家さんが、「この人、コール・ミー・ポールとか言ってるんだろうね。カッコいいね」っておっしゃってましたよ。

 

ポール:そうですか。言ったほうがいいですかね。「コール・ミー・ポール!」(笑)。

 

溝口:「シュア(Sure)! 」(笑)……ということでポールさんとお呼びしますね(笑)。私、2015年10月に『このBL〜』で『OPERA』編集長さんと対談させていただいたんですが、その時点で『東京心中』シリーズ5冊の累計販売部数が25万部だとうかがって、BLマンガとしてはものすごい大ヒットだなあと。あらためまして、おめでとうございます!

 

ポール:ありがとうございます。

 

溝口:人気のある少年マンガからキャラクターを2人選んできて、「攻」と「受」をわりふって同性愛関係を描く二次創作の同人誌は、「アニパロ」と呼ばれていた1970年代からずーっと盛んです。で、二次創作の作家さんをリクルートして、商業誌でオリジナル作品を描かせるっていうルートはBL業界では重要。でも、ポールさんのように、オリジナルの物語を同人誌で長期間、発表し続けていたっていうのはとても珍しいですよね。二次創作の活動はなさったことはないのですか?

 

ポール:いえいえ、あります。それこそ、地元のちっちゃいイベントにコピー本を持って出るというところからカウントすれば、中学生のころからずっとやっていました。でも、『アフタヌーン』で賞をいただいてから、二次はやめて、プロのマンガ家を目指そうと。

 

溝口:では、『東京心中』を同人誌で描き始めた理由は何ですか?

 

ポール:賞をいただいて担当編集者さんがついたからといって、すぐにお仕事がいただけるわけではなくて、まず、ネーム(ラフコンテ)を描いて見てもらうんですよね。それで、良ければ、これで描いてください、掲載しましょう、となるのでしょうけど、私の場合、全然ダメで。ネームを描いてはボツ、の繰り返しで。もちろん指導していただけるので勉強になるのですが、ずっとそれだと作画をすることがなくなってしまって。マンガを描きたくなった。だから同人誌で描き始めたんです。

 

溝口:なるほど。最初から長期連載にするつもりだったのですか?

 

ポール:はい。勝手に長期連載の実験を始めた、という感じです。それと、当時の私は、「思いついたものは全部入れる」っていう謎の目標をたてていたんです。なので、BL要素も入れるし、女の子キャラも入れるし、と、いろいろ盛り込みました。

 

溝口:それでいろいろと型破りなんですね。まず、BLでは、主人公がアイドルとか人気俳優とか、TVに出る側を描いた作品はけっこうあるのですが、作る側はすごく珍しいです。もしかしたら初めてかもしれません。そもそもこの設定にしようと思われた動機は何なのでしょう?

 

ポール:とある低予算の番組があって、その番組は出演者の代わりに結構ADさんが画面に入ってきて出演者をフォローする役をやっていたりしたんです。それを見ていたら、上京してきたばかりのADさんがだんだん垢抜けていったりという様子が見えて。それこそ、最初は方言だった人が標準語になっていったり。で、一定期間たつとその人が出世してディレクターになったりするみたいで、そうするとまた方言の抜けないADさんが登場する。で、ディレクターになった人の指示の声は聞こえる、とか。それが面白いな、とずっと見ていて。

 

溝口:「攻」の、宮城出身で方言の抜けない宮坂はそのADさんからインスパイアされたんですね。「受」の矢野さんはかなり不思議な性格ですけれど、矢野さんのキャラ設定はどこからですか?

 

ポール:矢野もその番組で見かけたADさんです。その人はずっと出演者をフォローする役割ではなかったので、ちらっと見かけただけなんですが。

 

溝口:えっ、矢野さんみたいな「美人」のADさんが出ていたんですか?

 

ポール:はい、きれいな人で。ホワイトボードの前でちらっと映るだけで、まつげの長さが際立っている方でした。

 

溝口:172センチで「美人」な「受」キャラが上司で、189.5センチの長身「攻」キャラが新入りADという設定もその番組からですか?

 

ポール:全部真似をしている訳ではないです。宮坂などほぼ私の想像の産物といえる位、モデルとかけ離れていきましたし、背も自分の好みの別の人をかけ合わせたらそんな感じになったり……。あと、ADさんの座談会っていうのを読んだこともあって。そこで、「先輩が厳しかったけれども尊敬している」という話をしているADさんがいて、そういうこともちゃんと描きたいな、と思いました。

 

溝口:なるほど。話は変わりますが、私は最近、モノローグのありなしを気にするようになったんですが、矢野さんってモノローグがないですよね。

 

ポール:はい、矢野は、ちらっと見かけたけど中身は知らない人、なんです。だからルールとして、モノローグを一切、入れないようにしようと。

 

溝口:たしかに、矢野さんにモノローグがないことで、ときどき矢野さん本人が不思議なことを言ったり、昔からのつきあいの脇キャラの人が、あの人はこうだから、って言ったりするので、ちょっとずつわかっていくんですが、それでも全部はわからなくて、宮坂と一緒にやきもきします。

 

ポール:そもそもは、たとえばこうしてお話している時に、相手が何を考えているかはわからないじゃないですか。だから、マンガでもちゃんとそうしたかったんです。で、視点人物である宮坂だけにモノローグがある、というようにしたかったんですが、私が上手くできなかったために、ユカさんにもモノローグが入ったりしてしまいましたが。

 

溝口:TV番組制作会社の仕事内容がとても具体的で詳しいので、てっきり実際に制作の仕事をした方、あるいは家族とか恋人がAD経験者の方が描いているんだろうと思っていたら、インタビューやあとがきで、そんなことは全然ない、いちおう業界を知っている友達に相談はしているけれど、取材もしていない、と明かしていらっしゃったのでびっくりしました。1巻の冒頭から、スタジオの中の、天井のトラスとかしっかり描かれていますよね。

 

ポール:いやけっこうウソっぽいです(笑)。最近になって資料本が発行されたので、参考にしていますが、それまでは、テレビ番組を見ていて、写り込んでいたら一時停止して確認して、とかやっていました。

 

溝口:すごい。それにしても、商業単行本化される前に電子書籍になっていたとはいえ、何年間もオリジナル作品を同人誌で連載するのは、モチベーションを保つのが大変だったのではないですか?

 

ポール:大変でした。というか、保てていませんでした。今、見直しても、明らかに絵がぐれているエピソードがありますが、それは私がぐれていたからです(笑)。

 

溝口:えっ、「絵がぐれている回」ありましたっけ?

 

ポール:「暴露」ですね。シリーズ3冊目、『愛してるって言わなきゃ殺す-東京心中・2−』に入っています。10冊目の同人誌でした。「なんのために私はやっているのか。よくわからない」っていう事態になっていまして。矢野が幼児化しているんです。

 

溝口:た、たしかに、矢野さんの目が顔の真ん中にでっかくあって、真っ黒くベタ塗りしてあって、すごいインパクトですね。とはいえ、物語的には、ユカさんに「付き合ってるの?」って質問されて、「そうだ」って矢野さんが答えるっていう重要な展開のところで、私、付箋貼っています。

 

後編につづく


■参考作品
東京心中 上』(茜新社
71ndsffrull東京心中 下』(茜新社

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