第18回 マンガ家 トウテムポールさんとの対話(後編)

2007年、『星のやうにさよなら』(志ろう名義)で、『アフタヌーン』(講談社)の四季賞秋にて池上遼一特別賞を受賞。2008年から同人誌で描いていた『東京心中』シリーズが、2013年に一挙4冊の単行本として発行されると、『このBLがやばい! 2014年度版』でランキング1位を獲得する人気作に。『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』では、「職業もの」BL作品の代表格として考察させてもらいました。現在、『OPERA』での『東京心中』の続編連載と並行して、『スピリッツ増刊 ヒバナ』で非BL作品『或るアホウの一生』を連載中と、精力的に活動しているトウテムポールさんに、「前編」に引き続き、「対話編」にご登場いただきました。

 

第18回ゲスト:トウテムポールさん

インタビュアー:溝口彰子
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©Katsuhiro Ichikawa

 

人が作ったものを楽しむだけじゃなく、

“作る側”に行かなくていけないと思って。

そこにいないとわからん楽しさもあるんですよね

 

溝口:「暴露」(『東京心中』シリーズ3冊目『愛してるって言わなきゃ殺す-東京心中・2-』収録)で、同僚のユカさんから「付き合ってるの?」って質問されて、「攻」の宮坂はうろたえていますが、矢野さんが「そうだ」ってあっさり肯定します。

 

トウテムポール(以下、ポール):ちょうど私が、同人誌で連載を続けることにモチベーションが保てなくて、ぐれていた時期です。何がいいのか自分でもわからなくなっていたので、「もういいや、ばらしちゃえ」ってなったんです(笑)。なぜ隠しているのかがわからなくなっちゃって。とにかく動きのある状態にしようと思って、ユカさんにバラしたんです。

 

溝口:でも、ユカさん、あっさり、「あっそ気になってたのよねー。これでスッキリしたわ」って受け入れています。

 

ポール:そうなんです。矢野さんがよくわからないキャラなので、もっと一般的な感覚をもったキャラが「こうなんじゃない?」って言ったりして動きを出そうかと思ったものの、結果、ユカさんもあんまり「マンガ的にふつう」の人ではなかったので、事件にはならなかったです(笑)。

 

溝口:現実的に考えると、今の日本社会、ましてやTV業界で、上司や同僚が男同士で職場恋愛していることをあっさり受け入れるって考えにくいですよね。でもこのお話を読んでいると違和感がない。で、それはなぜかなと、再読しながら考えたんですが、「職業ものBL」を徹底していることによって、「愛の定義の再検討」を展開しているからこその説得力なんだなと。宮坂が、女性の恋人のいずみちゃんから矢野さんに乗り換えることも含めて。

 

ポール:そもそも宮坂はなんとなく生きていた人なんです。なんとなく、モテるから、なんとなく、彼女ができて、なんとなく付き合っていた。そんな宮坂が変わっていったことを描きたかったんです。

 

溝口:はい。いずみちゃんは、再登場した時には、彼女自身、そもそも自分にとっての「好き」ってなんだろう、と考えるところまで気持ちが変化します。そのことで、単なる「当て馬的脇」キャラじゃなくなるのが素晴らしいと思うのですが、当初は、「アタシと仕事どっちが好き?」なんて言っちゃう人でした。宮坂も以前はそれになんとなくあわせていたけど、矢野に出会って変わった。矢野は映画が一番好き、映像作りの仕事が好き、人と恋愛するのを当然とはまったく考えていない。その矢野の仕事への情熱に宮坂は惹かれる。さらに矢野が、宮坂と過ごすうちに、「宮坂と一緒にいると映画も仕事ももっと好きになる気がする」「だから一緒にいたいと思う」「これがお前が好きだってことなのかわかんねーけど」と言うようになる。つまりこれって、「仕事がとても大事。ひとりでいても仕事はするけど、誰かといることで、仕事により強く取り組めるなら、その人といるのが正解」ってことですよね。

 

ポール:そうですね。

 

溝口:で、ユカさんも長谷川くんも、映像制作の仕事に命がけで取り組んでいる仲間であることが、読者の腑に落ちているから、その共闘関係にマイナスにならない限り、本当に・・・上司の矢野が後輩の宮坂と男同士で付き合っていることが気にならないんだな、っていうのも腑に落ちる。仕事の中身の具体的描写を積み重ねた「職業もの」だからこそです。リアリティ描写の積み重ねによって、ホモフォビア(同性愛嫌悪)が存在しない世界という、現実とは違う世界が説得力をもっている。フィクションとしての足腰が強い。それと、仕事談義が一種のクリエーション論になっているところも物語の跳躍力になっていると思います。矢野さんが「主題は細部に宿る」と言ったり。

 

ポール:細かいとこに気をつけないとならんよ、っていう。いろんな業界で言われることですよね。

 

溝口:具体例として、ほんのちょっとしたシーンだけど、キャラクター設定にあわせて、一般の新聞ではなくスポーツ新聞を用意してこなくちゃいけない、ということが説明されます。

 

ポール:そこは、恥ずかしながら、私自身が、マンガの技法を勉強している最中に考えたことを反映させています。それらしくするには、細部が締まっていないとダメ、という。それを、ドラマ撮影だったら、として、矢野に説明させました。

 

溝口:「矢野さんの映像編集講座」もとても具体的で、面白かったです。同じシーン、AからB、を3種類、違うように撮影しておいて、編集の時点でどれからどれにつなげるかで、何が起こったかは一緒でも、印象が変わる、編集時点まで演出の可能性を残すという話。

 

ポール:それも、私が、自分がなんとかしてマンガを描く上で、考えた編集方法を、映像らしくアレンジしただけです。ただ、たしかに、友達に、映画を見るとマンガの勉強になるよっていわれて、いろいろ見てはいます。『青い春』(豊田利晃監督、2001年)については『東京心中』でも言及していますが、その予告編で知った『ハッシュ!』(橋口亮輔監督、2001年)を見て、おお、これが演出ということか、と思ったシーンがありまして。

 

溝口:『ハッシュ!』は私も、『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』の補遺でとりあげました。私が着目したのは、ゲイ・カップルがゲイ・カップルのままで、父親になるかも、という、一般的な「ホモ嫌い」の家父長は嫌いな話のはずなのに、なぜ、男性映画評論家たちに評価されたのか、と。それで、改めて見直してみたら、ゲイ・セックスのほのめかしを、ゲイ当事者やゲイよりの視点を持っている人には通じるけれども、そうではない人は見過ごすような形で描いているなと気づくシーンがいくつかありまして。

 

ポール:私が注目したのは、脚がちょっと不自由な女の子が、夜中の公園で、主人公の片方、理系サラリーマンの勝裕ともめるシーンです。あそこが、キャラクターのクロースアップだったら、いたたまれない感じになると思うんです。でもあのシーンはずっとロングの、遠くからの映像で、キャラクターの顔もはっきりは見えないくらいで。で、バタバタしている。だから、すごいもめ方なのに、見ていて、「ふーっ」って思いつつも、ユーモラスな感じもする。そこに感嘆しました。きつい場面をアップを使わずに、ロングで描くっていうのはマンガでも演出としてアリだなーと。

 

溝口:「何が描かれているか」だけではなくて「どのように描かれているか」は、本当に重要ですよね。「矢野さんの映像編集講座」に話を戻すと、3種類、撮影しておいて編集のときにどれにするか決める、っていうのは実際的には効率が悪そうなので、絵コンテの段階か何かで検討して、実際の撮影は1種類に絞ることが多いかもしれません。でも、3種類撮影にしたことで、その撮影を経験した俳優さんの証言から宮坂が学んで、宮坂が矢野さんに話をする、という流れができていて、読者にとって、とても追いやすくなっています。……ところで、「モノを作るってこと自体がもう楽しいんだよ」という矢野さんのセリフも印象的ですが、それもポールさんの思いと重なっているのでしょうか。

 

ポール:そうですね。もともとゲームが趣味なんですけど、人が作ったものを楽しむだけじゃなくて、作る側にならなくちゃいけない、と、誰かに言われたことがあって、それはそうだな、と思ったんです。それで、マンガ家という作る側に、一生懸命、なろうと思って、なった。それは大変ではあるんですが、作る側にならないとわからん楽しさもある。そのことを矢野さんに言わせました。

 

溝口:脚本家の牧村さんという女性キャラも印象的ですが。

 

ポール:原作ありきで脚本を書く人、そうでない人がいて、牧村さんはいちから書きたい人だと思うのですが、今は、原作ものがすごく多いから、書かせてもらえない人が多いのではないかと。もっと背景を言えば、私自身の経験があります。仕事がなかった時期に、某有名アニメを新人マンガ家がマンガにする企画があったので、挑戦してみたんです。でも、その原作アニメが、きれいな純愛の話なので私には全然、向かなかったんです。私が描くと、キャラの性格が悪くなるので(笑)。で、苦労して描いたんですが他の方の作品が採用された。その経験から、原作ものってなんて大変なんだ、原作のファンの方に納得してもらうマンガ化をするって、と思って。で、悔しかったんですよね。だからそれを牧村さんに託しているところはあります。

 

溝口:悔しさが原動力なんですね。

 

ポール:そうです(笑)。なので、たぶん次の次、の単行本に入るエピソードで、牧村さんが、宮坂の同僚の橘くんに言われて、すっごい苦労して、キレながら脚本を書くところを入れています。そういえば、すでに雑誌に掲載されたユカさんが怒るエピソードは、私が友達にものすごく腹を立てたことがあって、それで、どうしても描きたくなったんです。

 

溝口:あ、この(『OPERA』VOL.58を示しつつ)、10/1発売のコミックス『はるのしんぞう-東京心中・6-』予告ページにある、「でも恋して彼氏ができたらきっともっと仕事も楽しくなると思うの!! このステキな気持ち! ユカにも分けてあげたいのよ!!」ってふわふわヘアの女性が言ってて、ユカさんがこわーい顔しているやつですね。

 

ポール:それです(笑)。すみません、私、ほんと悪口ばっかりで(笑)。

 

溝口:いえいえいえ、悪口が原動力でも、マンガとして面白ければ全然オッケーです! それに、多かれ少なかれ作家さんご自身が作品に反映されるものですが、ポールさんの場合、予想以上にご自身と作品が近いことがわかって、なんだか嬉しくなりました(笑)。いや、さっき述べた、矢野さんが宮坂と一緒にいたい、と言った後で、それは相思相愛ってことだ、と宮坂の言葉で確認して、「そうか」と矢野さんがやさしく微笑む。で、甘い雰囲気になってHになるのか、と思いきや、矢野さんが準備体操したり冷蔵庫から出したドリンクを飲んだり手をパンパン叩いたりしてキアイを入れて「来い」って(笑)。こんな展開どう思いつくんだろう、グルーヴ感あって最高だけど! って思っていたんですけど、そっかポールさんご自身からだな、と納得しました(笑)。

 

次回の対話編ゲストは小説家のC.S.パキャットさんのご登場です!


■参考作品
はるのしんぞう-東京心中・6-』(茜新社

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