<特別版>BOYSLAB(ボーイズラボ)との対話(前編)

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「BL」とはもちろん「ボーイズラブ」の略で、主に女性作家が女性読者のために描く、美男同士の恋愛を軸にしたマンガやイラストつき小説群(およびドラマCD、アニメ、映画、ゲームなど他メディア作品)のこと。つまり、提供するのも受容するのもほとんど女性で、描かれているのが男性キャラなのがBLの特徴。ところが、「本物のイケメンが魅せるボーイズラブの世界」をうたい、生身の男性によるラブやセックスを女性にも見やすい作風で制作されたAVレーベル「BOYSLAB」(ボーイズラボ:男子研究所の意味)があると知り、3年ほど前からちょこちょこ鑑賞していたのですが、本当にBLにしか見えない。GV(ゲイビデオ)ではなく。これってどういうこと? その謎を胸に、「BL進化論 対話編」の<特別版>として、「BOYSLAB」のプロデューサーKATSさんとディレクターMATSさんとお話ししてきました。

 

特別版ゲスト: KATSさん&MATSさん(写真はBOYSLAB作品より)

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インタビュアー:溝口彰子
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©Katsuhiro Ichikawa

 

BOYSLABの作品には、

モデルたちの仲の良さや関係性が

反映されていると思います(KATS)

 

溝口:BL好きの延長線上で、ゲイ男性向けのゲイビデオを見たことのあるBL愛好家女性はけっこう多いと思います。BL雑誌でも、「GV鑑賞エッセイマンガ」が掲載されていたりしますし。でも、BOYSLABのように、明確に、女性にも鑑賞しやすい実写アダルトBLだとうたっているレーベルは、世界でも珍しいか、もしかしたら唯一かもしれません。

 

KATS:レーベルとしてはいくつかあるとは思いますが、実写アダルトBLをメインで打ち出している制作会社はおそらくうちだけではないかなと思います。

 

溝口:いわゆるGVでは、故・真崎航さんのようにカミングアウトしたゲイのポルノスターとして活動している人は日本では少数派で、むしろノンケ(異性愛者)の若者がアルバイト感覚で何度か出演するものが多いようです。現在(2016年8月)BOYSLABで活動する7人のモデルさんも、ゲイの友達がたくさんいるレズビアンの私から見て、ノンケにしか見えません。その点はGV一般と共通かもしれない。でも、スカウトされたての若者の「初脱ぎ」とかではなく、活動10周年を超えたモデルさんを筆頭に、7人のモデルさんのほとんどが数年以上のキャリアがあるベテランです。で、どの2人の組み合わせでも、「ラブ」い。そして、「攻」「受」、ときどき「リバ(—シブル)」の、アナル・セックスをしてみせる。まさにBLだなあとびっくりしました。(注:GVでは演者を「男優」ではなく「モデル」と呼ぶ。BOYSLABでもこの呼称を採用している)

 

KATS: うちの作品の特徴はモデル同士の関係性が作品に反映しているところなんです。モデルもスタッフも含めて、このメンバーだから出せる作風なんだと思います。みんな、本当に仲が良いんです。

 

溝口:そういう感じはDVDからもすごく伝わってきます。

 

MATS:ここが「第2の家族」と言ってくれるモデルもいます。

 

KATS:うちの作品には大きく分けて、ドラマを作り込んだ設定ものと、ドキュメンタリーというか、モデルたちが素で料理したり運動会したり語り合ったりしてからセックスするものがあるんですが、どちらにしても、モデルたち同士の仲の良さ、先輩後輩だったり、ライバルだったり、相棒だったりしながらも仲が良い感じが反映されています。これは、長年つちかってきたからこそです。

 

溝口:BOYSLABさんのDVDの特徴として、絡み(セックス・シーン)を含めたチャプターが3つあって、それ以外に、休憩時間にモデルさんたちがじゃれあっていたりするところを撮った「オフショット」が必ず、かなりの長さで収録されていることがあります。また、モデルとスタッフが一緒に旅行に行く「旅もの」の場合は、移動や観光、そして食事シーンが「旅のオフショット」みたいな感じです。そもそもこういう「オフショット」はGVでもあるものなのですか?

 

KATS:おそらく、GVでは、オフショットといってもNG集とか、モデルに軽くインタビューしたところや本編とは関係のないイメージ的な映像などを収録するくらいではないでしょうか。そもそも、ゲイの視聴者の方たちは本編でも、早送りして、脱ぐところから見る、という人が多いように思うのであまり需要がないのではと思います。

 

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溝口:「オフショット」ではKATSさんをはじめとするスタッフさんもよく登場されていますが、スタッフさんはみなさんゲイかなと思ったのですが。

 

KATS:そうですね(笑)。うちのスタッフはみんなゲイです。

 

溝口:そこでお聞きしたいのですが、BOYSLABでは重要なコンテンツである「オフショット」は、ゲイの視聴者向けではなく、BL的な「萌え」ごころのある女性視聴者向けなわけですよね。少年マンガを原作としたいわゆる「2.5次元」ミュージカルでも、舞台だけではなくて「バックステージ」映像もついたパッケージのほうが売れるそうですが、そういうのとも近いと思います。スタッフのみなさんはゲイ男性でいらっしゃるけれども、「腐女子的」「萌え」ごころ(笑)もお持ちなのでしょうか?

 

KATS:最初はとにかくびっくりしたんですよね。休憩時間にほっといてもわーわー遊び始めるのを見て。私は東京でこの業界の仕事をしてから大阪に来たので、「これが大阪ノリか!」と。東京のモデルは、静かにそれぞれ携帯をいじっているイメージだったので。で、ある時、彼らのごっこ遊びがあまりに面白いのでちょろっとカメラをまわして、DVDに収録してみたら、女性のお客さんにとても評判が良かった。それで、今に至るという感じです。

 

溝口:それは、昨年10周年をむかえた凪沙(なぎさ)くんはじめ、5人のモデルさんたちがかつて活動していたCOAT WESTさんでのことですか?

 

KATS:そうです。最近でこそ、休憩時間にカメラが回り始めたら、モデルも、ある程度はファンサービスのつもりではしゃぐこともあるかもしれませんが、最初のころはモデルたちは、カメラがまわっていることも知らなかったですから。

 

溝口:では、「オフショットだからぴったり寄り添ってみて」とか「小学生男子みたいにはしゃいで」とか「床屋さんごっこして」とか演出しているわけではないんですね。

 

MATS:一切、していません。第一、そんなことをしても、人工的な感じになると思いますよ。今の今までだまってスマホいじってたモデルたちに「はーい、顔よせてポッキー食べて」とかやらせても(笑)。

 

溝口:たしかに、自然に仲がいい空気感は大事ですよね。

 

MATS:ただ、「萌え」といった概念ではとらえていませんでしたが、ときどき「あれ、このコらなんで2人でこんなにひっついてるの」と思ったりしたことはあります。で、今ではそういうことがあったら、ぼくらスタッフは応援する雰囲気は作りますね。

 

KATS:BOYSLABは女性視聴者が多いBLレーベルですから、GVと違って、モデルの性指向をはっきりさせることは必要がないんです。ゲイの視聴者は、ノンケの若者がこんなことやあんなことを……! っていうことに価値をおく方が多いですが、女性視聴者からは、そこをはっきりさせないでほしいという要望が多いので。だから、新人で、BOYSLABで活動していくことになったモデルには、「ここに来たら、自分の性指向はいったん忘れて」ということは言います。それで、あとはのびのびさせていると、モデル同士で仲良くなっていきます。

 

2CHOPO編集長:モデルさんたちは撮影の時以外でも男性とお付き合いしたり関係を持ったりするんですか?

 

KATS:私たちからわざわざ質問することもないので、わかりません。ただ、うちのモデルは、長くやっているモデルほど、だんだん、性別の概念が抜けていくようです。

 

溝口:でも、だからといって、ゲイになるわけでもないですよね。長年、定期的に撮影の仕事で男性とセックスをして、しかもセックスする仲間のモデルくんたちと友達としても仲良くなって、ということをしているうちに、一般的なホモフォビア(同性愛嫌悪)が抜けていくということで。だから、ノンケっぽさは全然、減らないですよね。

 

KATS:ゲイになってしまったとか感じたことはありませんね。仕草なんかがゲイっぽくなるとかオネエっぽくなるとかも、一切ないです。

 

溝口:そこも、BLとして完璧だなと思います。もちろん、2000年以降のBLフィクションでは、「男と恋愛関係になったからには自分はゲイなんだ」ということを受け入れて、世間のホモフォビアと葛藤し、現実にも可能だけれど実際の現実よりも進んだ形で乗り越える物語も描かれていて、それを私は「進化形BL」と呼んでいるんですが。BOYSLABさんの場合は、「ホモフォビアを乗り越える進化」の別の意味での実験室のようでもあります。つまり、世間のホモフォビアから自由な空間で、友愛と性愛の垣根をとっぱらうことを奨励し、のびのびさせておくと、「ゲイではないけどヘテロ(ノンケ)とも言えない」ボーイズが発生し、彼らは、ゲイであるスタッフさんたちと家族のように和気藹々と過ごしている、という。そしてその実験を経済的にも、モチベーション的にも応援しているのは女性ファンたちです。このホモフォビックな日本社会で、たった7人とはいえ、貴重なユートピアのような実験に文字通り身を呈して参加しているモデルさんたちは、そう考えると稀有な存在ですよね。長い人は10年以上なわけですし。

 

KATS:そういう視点から見てみると確かにそうですね。だからこそ、モデルたちが危険にさらされずに、のびのびと活躍できる場を確保したいと思っているんです。

 

後編につづく

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