性転換したアイツの恋愛論

灼熱のカタルーニャの風に吹かれながら、そっと不気味な笑みを浮かべて笑うアイツ。彼と知り合ったのは約3年前だ。私とホセが結婚するかしないかの時期に、カタルーニャ語で私をけたたましく祝福してくれたのがアレハンドロ。スペイン男子の1/3以上がアレハンドロなんじゃないかと思う位ありふれた名前の彼は、とにかくセーラームーンが好きな男子だった。私の旦那も三十路を過ぎて、セーラームーンロッドを振りかざし、魔法の呪文を唱えているようだから、特にこれといった違和感は感じなかったが……まあもう少し大人の趣味というか、色々と落ち着いて欲しいのが本音ではあるが。(絶対無理)

 

毎年数回行われるスペイン全土のコミックイベントが行われ度、スペイン風の奇妙なカスタマイズが施された着物を着こなし、セーラームーングッズを買い漁る姿に、思わず「クスッ」とするのが毎年の習わしだ。英語もそこそこ堪能な彼は、勿論私達と同じくLGBT当事者の1人。気高いカタルーニャの精神性を兼ね備えた底抜けに明るい彼は、イベント会場の片隅でそっと耳打ちした。

 

「アタイ、今度タイで性転換するの」

 

30数年、ゲイとして生きてきた。新宿二丁目で色んな性を見つめてきた。だから別に性転換する彼に驚くこともなく、新天地で勇気ある決断をする彼にエールを送った。滅茶苦茶親しい訳でも、ゲイ同士の特別なフィーリングを感じることは無いけれど、こんな身近に新たな性別で人生の再スタートを送る人がいることに、なんだか世界の広さを感じたりした。

 

現在スペインでは自身の性嗜好に戸惑いを感じホルモン治療を行う人に対して、性別適合手術なしで性別変更することも可能だ。そしてスペインの健康保険がホルモン治療や性別適合手術をカバーしている州もあるくらい、性に寛容な国家なのだ。いくら経済がダメダメで不法移民に街が占拠され、もはやスペインのアイデンティティーを感じなくなった21世紀でも……LGBTが1人の人間として幸せを実感できるくらい、政教分離が進んでいるのはなかなか素晴らしいことなのだ!

 

いやはやどうも垢抜けないセニョ~ル・アレハンドロだが、彼はホルモン治療の末に結局はスペイン国内の手術ではなくバカンスを兼ねてタイで手術を行ったわけだが。家族の滞在費に手術費用、そしてバカンスのお金をポーンと出せる豊かなカタルーニャ人にちょっと嫉妬。一抹の不安があったのは事実だが、数週間後の彼いや彼女のFace  Bookには、オリエンタルな町並みをバックに浅黒い肌をセクシーにひけらかす彼女の姿にホッとしたものだ。

 

本当に女になったんだなあ……しみじみ。

 

なんだか信じられかった。逞しい二の腕に処理されていないムダ毛が、まさに典型的なスペイン女子のそれであった。今彼女はアレハンドロじゃない。ちょっぴり文字ってアレクサンドラに生まれ変わったのだ!

 

日本語もアニメの影響で堪能な彼女だが、つい先日はるばるアラゴンまで遊びにきた。化粧っ気のないナチュラルなスペイン美人(多分)の彼女の薬指には、キラリとシルバーのリングが光ってる。光り物に目がない私はすかさず彼女の手を取り、彼氏の名前を聞こうと、彼氏の写真を見ようと奔走する。カタルーニャ語が混じるスペイン語を駆使する彼女を理解するのはなかなか困難を伴うが、結果わかった新事実。

 

アレクサンドラはレズビアンだった。ということ。

 

私は少し混乱した。元♂⇒今♀で、男性には性的魅力を感じず、セクシーな女性がオナニーのネタになるってこと。。。うーん、確かに元男性の現女性が必ずしも男が好きとは限らない、私の狭い価値観が一瞬で崩れ去った瞬間であった。でもなにはともあれ、彼女が自分の性を満喫し、そして毎日幸せを噛み締めて生きることができるのなら、もはやそんなもの関係ないか!

 

でも恋愛経験に乏しいアレクサンドラは結局奥手のまま、バスク人の彼女に振られてしまったらしい。失恋の痛手を新たな人生で初体験した彼女の心の痛み……私も痛いほどわかるから、余計辛くなる。でも前を進んで、新たな恋愛の欠片を探して行ってほしいと願った矢先にきたショートメッセージ。

 

アレ「アタイ好きな人ができたの!」

 

自分「フムフム、名前はなんていうの? 今度は誰長続きしそう?」

 

アレ「勿論よ、名前はネプチューン。私達永遠に一緒なの!」

 

ハア……と大きくため息をつく私。

 

彼女が恋した相手、それはセーラーネプチューンであった。ウン、二次元の恋愛もいい。必ずしも人間が恋愛対象である必要なんかない。飼い猫と結婚したり、車の滑らかなボンネットが愛らしく感じる人もいるくらいだ。傷つかないからいい、いつでも愛してくれるし裏切らないから。でも、だけどさ……色んな愛の形があるのは頭で理解している、だけどやっぱり腑に落ちない私であった。

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