ドリアングレイと私

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いつからだろう、外見と若さにこだわりを持ち出したのは……毎日鏡を見るのが怖い、写真を取られるのが嫌だ。そんな恐怖心はいつも私のココロを歪ませる。

 

「この女優はイイ歳の取り方をしている」

 

「元々老け顔の人は、逆に老化しても若く見える」

 

これらの言葉を聞くたびに、童顔で浮雲のような生き方をしている私という存在が嫌になる。誰しもに訪れる老化という足音に酷く臆病なのは、きっと過去の経験から起因するのだろう。

 

私がまだ10代、20代の青春街道を歩んでいた頃、それはそれは肌荒れで悩んだ時期があった。どんなに高価なコスメティックを使っても、どんなに著名なドクターの施術を受けても治らなかった肌荒れ。たかだかニキビ、色素沈着だろう?ほっとけば治るさ!そんな無責任極まりないアドバイスは、全く私のココロに響かなかった。だんだん卑屈になる私は、全ての失敗を外見のせいにし始める。引きこもりとまではいかないが、極端に人の目を避け、そして希死念慮に包まれる日々を送っていた。

 

私の大切な夢、そしていつかは訪れる愛の到来。そんな不確かなものを追いかけながら、必死に働き、なんとか生き延びた20代。こんな卑屈な日々を送っていると、やっぱり集まってくるのは私に負けんばかりの猛者ばかり。ストーカー、社会不適合者そして詐欺師……人生というラビリンスに迷い込み、そして出口の見えない迷宮から抜け出せなくなった私。きっと外見ばかりに囚われ、そして人並みの社会生活を送れなかったのは誰でもない自分の責任。

 

誰しもが歩む辛い日々、そんな過去はきっと未来へと繋がっているはず……

 

そんな言葉で私自身を励まし、なんとか肌も回復。夢は叶わなかったけれど、訪れた最愛の日々。これが理想なのか?これが私の望んだ未来地図なのか?そう問われると分からない、だけどきっと心底安心できる環境を手に入れた私は幸せ者なのだろう。

 

でも怖いのだ。トテモコワイノダ……30を過ぎてから直面する、自身の老化が。しばしアジア人特に日本人は実年齢より若く見られる、とか言うけれど。それは生まれ持った顔貌と日々の努力に依存する。私は極力ヘルシーな食生活だけでなく、ストイックに肌、ムダ毛、そして歯と目に見える美へベクトルを向けすぎてしまう。人の容姿なんて関係ない、ココロが一番なんだよ!と言い聞かせる自分を思い切り蹴り飛ばすもう1人の自分。いつもそんな悪魔が勝利を掲げ、毎度毎度楽天で素敵な化粧品を買い漁る。帰国の度に駆け込むのは行きつけの新宿にある美容外科。私の旦那は日々美活に望む私を遠くから見つめては

 

「ソンナバカナコトシナクテイイヨ」

 

と私を制止しようと試みる。でもね、それ無理だから!ただ素直に老化する自分を客観的に見つめられたら、向き合えたのなら、どんなに楽だろう。これから怒涛のように迫り来るシミ・シワ・そして毛穴の開き!あぁ、私はきっと最愛の旦那にも敬遠され、そして職場仲間にもキモイとか言われてしまうのだろうか。といつもの調子で卑屈になってしまうのだ。

 

何事もカテゴリーの中に自身を押し付けるのは好きではないが、強すぎる外見への自尊心はドリアン・グレイ症候群というものなのだろうか。醜形恐怖な自分が追いかけるものは果てしなく、そして永久に掴めないもの。こんなクダラナイことに固執する前に、しなければならないことはたくさんある。

 

そう思いながら仕事をこなし、スペイン語に悪戦苦闘する日々。進歩の見えない日々が私の時間という概念を狂わせて、そして時間さえも逆戻りさせられればいいのに。

 

そんな苦悶に悶える私の目の前で、鼻が高い白人の青年がスヤピピと寝息を立てて眠っている。彼の名はホセ、私の旦那だ。まだまだ若い青年は、老いを知らない美貌の青年ドリアン・グレイの如く美しく映る。真実を写す鏡の姿に溜息を付きながらも、美容なんて全く眼中に無い旦那が美しいのは何とも皮肉なものだ。

 

どうにもならないこんな思いを胸に私は今日もせっせとパックをしたり、美白ケアに余年がない。溢れんばかりの美への欲求は、オスカーワイルドが美貌の恋人アルフレッドに向けた激情に似ている。燃え上がった恋の炎も、永遠の若さも同じ、ふとした瞬間にフッと消えてしまう儚い夢なのだ。

 

仮に悪魔が私の代わりに歳を重ねてくれる肖像画を与えてくれるのなら、迷わず私は悪魔にココロを渡してしまうのだろう。だけど無邪気にシエスタを楽しむ旦那を見ていると、やっぱりモラルにココロを捨て去るのはよくない!自然に歳を重ねていくのが一番と、天使な彼がいつも私を苦しめる。今の私の肖像をキャンバスに移したら、そこには酷く変貌した醜い姿が映るのだろうか。

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