第84回 バレンタインデーなんてもう必要ない?

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バレンタインデーは学校に行きたくない日だった。同級生の女子たちがラッピングされたチョコレートやクッキーを抱えて登校するのを見て見ぬ振りして、何事もないかのように装うのはしんどい。バレンタインデーという行事に参加できるのは限られた人気者だけの特権だ。別に参加なんてしたくはないが、そんな意見を持つことさえ許されない。義理チョコの一つももらえない自分がそんなことを言ったところで負け犬の遠吠えにしか聞こえないからだ。バレンタインデーが一刻も早く過ぎればいいのにと祈りつつ、休み時間はヘッドホンをつけて寝るふりをした。

 

そんな憂鬱なバレンタインデーに少しだけ光を灯してくれる同級生がいた。ベーキングが趣味の彼は、男子なのにも関わらずバレンタインデーに手作りのクッキーを持って来る。とんでもないルール破りだ。そんな彼の行動に他の同級生たちは戸惑っていたが、本人は周りの反応なんてお構いなしだった。自信満々の彼を遠くから眺めながら、いつも羨ましいと思っていた。美味しそうな彼の手作りクッキーを食べたことはない。自分のところに回って来る前に無くなってしまうからだ。もちろん、それでも彼は変人扱いされていた。

 

26歳になって、このビタースイートな行事にやっと参加できるようになった。高級なフレンチレストランを予約して、薔薇の花束も用意して、お洒落に着飾った。ずっと仲間外れにされていた反動でちょっと気合いが入りすぎたのかもしれない。イルミネーションが綺麗な繁華街を一緒に歩いて、豪華な食事を楽しんで、実にデートらしいデートとなった。一方で、ちょっとお金がかかっている以外、いつもと何ら変わらないデートだった。わざわざバレンタインデーという大げさな祭り事として騒ぎ立てる意味はあるのだろうか。

 

今の時代に生きる人たちにバレンタインデーは必要とされていないのかもしれない。バレンタインデーの由来はキリスト教聖職者のヴァレンティヌスという説が有力だ。結婚を禁止されて悲しむローマ帝国の兵士たちを見兼ねて、ヴァレンティヌスは法律を破って内緒で結婚式を執り行った。それを理由に彼が処刑された214日が恋人たちの記念日になったとされる。不自由なく恋愛できる現代では、そんなロマンチックなエピソードが商業主義にまんまと利用されるようになった。むしろバレンタインデーによって作られた社会的なルールが強力すぎて、それで苦しむ人たちの方が増えてしまった。皮肉である。

 

「どうして女子だからってチョコレートなんて用意しなきゃいけないんだろう」

 

自分の隣に座っていた同級生の女子は毎年バレンタインデーを鬱陶しいと感じていた。本当に心からバレンタインデーを楽しんでいる人はどれほどいるのだろう。最近は肝心のバレンタインデーに負けないくらいアンチバレンタインデー運動が盛んになった。もしかしたらバレンタインデーに抗議する人たちの方が、人助けのために社会のルールを破るヴァレンティヌスの精神に則っているのかもしれない。

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