第89回 共同生活という愛の形

2chopo 89

 

もうすぐ80歳になるゲイの大先輩をインタビューするために、メモした住所を頼りに静かな住宅街を歩いていた。朝から降っていた雪は雨に変わって、微かに春の匂いがする。目的の場所に辿り着くと、手入れの行き届いた前庭と赤レンガが綺麗な家が目に入った。こんな可愛い家にいつか住んでみたい。そんなことを夢見つつも、トロントの不動産バブルという壁を思い出して元気のないノックをした。玄関を開けたのは、銀色の髪の毛が似合うお洒落な人だった。ここまで年上のゲイの人と関わる機会自体が珍しくて、つい念入りに観察してしまう。自分が80歳まで生きたとして、こんな素敵な人になれるのだろうか。

 

リビングルームに案内されて、生活感があるのに整理整頓されているインテリアにメロメロになった。彼は独身だと聞いているが、こんなに大きな家に住んで寂しくないのだろうか。ソファーの上で昼寝している太ったネコと一緒なら、こうして静かな暮らしも悪くないのかもしれない。そんなお節介なことばかり考えていても仕方がないので、さっそくインタビューを始めることにした。ボイスレコーダーのスイッチを押して、最初の質問をしようと口を開けたら、後ろからドアが開く音が聞こえた。振り向くと50代くらいの男性がキッチンに入っていくのが見えた。

 

「その人は恋人でもセフレでもなくて家族の一員だよ」

 

まだ何も質問していないのに、隣に座っている大先輩は笑って答えてくれた。頭の中で考えていることがバレているみたいだ。若い頃は数え切れないセックスと恋を楽しんできた彼だが、さすがに年齢には勝てずにそうした生活からはリタイアしていると教えてくれた。今はストレスの少ない平穏な毎日が何よりの贅沢だそうだ。それでは、「家族の一員」というのは何を意味するのだろう。急に好奇心が湧いた。

 

この築百年の大きな家の中で、彼は20年以上親友の家族と共に生活している。その親友はストレート男性で、パートナーと子供と一緒にここに住んでいる。静かな暮らしだと想像していたが、普段はきっと驚くほど騒がしいのだろう。彼らはただ単にシェアハウスをしているわけではない。お金を出し合って家を買って、毎日食卓を囲んで、とても近い距離を保ちながら共同生活を送っている。彼にとって、これは生涯で一番長続きした家族関係だという。そして、これから死ぬまでこの心地いい家庭を維持したいと語ってくれた。

 

「周りから奇妙な目で見られるときもあるけど、私たちが幸せならそれでいい」

 

そう言って、彼は銀色の前髪をかきあげてコーヒーをすすった。そんな自信満々な仕草に少し痺れてしまった。彼に比べればまだまだ青い自分は一体どんな家族を築くのだろう。このインタビューを終えてから、そんなことばかり考えている。

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