新宿二丁目ヘルタースケルター(3)〜タフすぎた「おこげ女」の行き着く先〜

あっという間に8月ですね……
私事で恐縮ですが、こないだビーチパーティに行くべく、友達のドンキで新品のでかい浮き輪とか買って気合十分で鎌倉の海に臨んだのですが……
浮き輪盗まれる(目撃者によると親子連れ……民度低い……)&財布から出しといた現金一万五千円落とす、というダブルパンチを喰らいました。
べ、別にカードとかじゃないから平気なんだからねっ!

さて、今日はゲイじゃないけど二丁目から産まれた、タフなタイガー・リリィのお話。

今でこそ万人に開かれている新宿二丁目、ストレートの女の子の姿を見かけることは珍しくありませんが、昔、この街に遊びに来るレズビアン以外の女性といえば「観光目的で連れてこられた誰かの情婦(イロ)」と、そして「おこげ」(※1)でした。

おこげとオカマは、「性」が絡まない関係という点において、利害が一致していました。
女にとって、多かれ少なかれ、男たちの「性欲」にさらされることは(※ただしイケメンに限る)という言葉を生み出したように、ヤル気がある時以外は基本的に面倒くさいもの。

そして、オカマにとって、二丁目でのオカマ友達は「友達でありながら、うっかりすると性対象にもなるもの」。顔やカラダで選んだ友達(※2)は、思いのバランスが崩れてしまうと簡単にダメになります。心の底からは信用できない(けどとってもイケる)友達に囲まれた空虚なオカマにとって、性欲の絡まないおこげは心を許せる存在だったのです。

さらに、おこげたちは社会で戦う女が多く、お金持ちも多数(※3)。
金払いに渋いゲイに比べて、シャンパンを入れまくるなどの男らしい振る舞いは、プロガマにとっては営業的にも美味しいという一面もあったのです。

何年か前、私がよく行くゲイバーによく来ていたTちゃんも、やたらとお金持ちでした。
初めて見たのは、そのお店の周年パーティ。万札で作った首飾りをママの首にかけてあげて、湯水のようにシャンパンを抜いてたのをよく覚えています。
結局年を聞いたことはなかったけど、その時点でたぶん40くらい? きれいな服を着ているけど、落ち着きすぎているというか、おばさんっぽい格好だったから、ひょっとしたらもっともっと、若かったのかもしれません。

Tちゃんはいろんなオカマと仲良くしていましたが、メシ代・酒代はもとより、旅行代やらプレゼントやら、まあとにかく羽振りがよくて、一緒に売り専のお店にも飲みに行ったりしていたようです。
二丁目の売り専のお店は、歌舞伎町のホストクラブなんかと違って、お金を払えばすぐ気持ちよくしてくれる。面倒くさくないのがTちゃんにフィットしたのか、よく、売り専の男の子を連れてゲイバーに来るようになりました。

その後しばらくしてから、Tちゃんは「ボーイと付き合い始めた」と言い出し、ゲイバーであまりお金を使わなくなっていきました。
そのボーイさんはどうやらプッシャー(クラブとかを主に仕事場にしている薬剤師さん)を兼務していたようで、Tちゃんはクラブ通いを始めます。

その頃はたぶん、売るお手伝いもしていたと思います。

Tちゃんは、見る度に格好が若くなっていき、露出の多すぎる高そうなギャルファッションに身を包み、覗く肌は蝶々の鱗粉を纏ったように輝いていました。そして、何が入っているか怖くて聞けないハンドバッグを肩にかけ、新木場や西麻布なんかで男の子に囲まれてはしゃいでいたのを何度か見かけました。

たまに二丁目に来たかと思えば「殴られちゃったー」とか「浮気されたー」なんて言いながら、アザをファンデで潰してJINROを飲んでいたTちゃん。どっかのビーチパーティでは、たぶん娘くらいの年齢の女と殴り合いをしていたTちゃん。
一晩にシャンパンを何本も抜いていたTちゃんは、悲しみをJINROのお茶割りで埋めて、たかだか三千円くらいの錠剤1個で誰かと揉めるようになっていたのです。

お金がなくなったわけではないと思います。
肌を晒すのも、鱗粉を纏うのも、クラブでお商売をするのも、そうしないと好きな男の子に嫌われてしまうから。
最初は、たった1人の男の子のために始めたはずの小さなタイガー・リリィの「冒険」は、好きな男の子が何度変わっても、もう止まることはありませんでした。

自分を綺麗に見せるために、そして相手の言うままに、湯水のようにお金を使って、キメてバキバキに踊り狂って、更にドロドロに追加してセックスをする……もはや、高速で自分と相手の……いや、もう相手なんて関係ないでしょうね。自身の欲望を、ものすごいスピードで処理するだけの、まさに「欲望処理装置」。

そうなるきっかけを作ってしまったのは、皮肉なことに、彼女にとって男たちの性欲から開放されていたはずの、新宿二丁目だったのです。

その後、すっかり二丁目に来ることはなくなったTちゃんと、西麻布とか六本木とかあんまり行かない私は3年くらい会うことはありませんでした。
去年の夏だったでしょうか、珍しく西麻布のクラブに遊びに行った帰り、Tちゃんが遠くの方、また別のクラブの入り口から私を呼びました。

流行は変わっていくはずなのに、あの頃と寸分違わぬヤリマン系ギャル・ファッションに身を包み、若者たちに囲まれたTちゃんは、遠くから「今度DJするから~」とか、言ってたような気がします。(前は「VJするの~」って言ってた気がします……)

彼女の冒険は、まだまだ続いていくのでしょう。
そうですね、西麻布か六本木のクラブで、鱗粉を撒き散らしながらDJだかVJだかをやってる二丁目で産声を上げたタイガー・リリィを見かけたら伝えて下さい。

「あの時のボトル代、払ってよ……」と。

(※1)おこげ=オカマにこびりつくから、という風流な語源です。

(※2)私の大親友がそんな、友達をイケる人で固めたいタイプだったようで「俺、友達でセックスできないのお前くらいだよ」みたいな事を最近言われました。光栄に思っていいんでしょうか……。

(※3)もちろん江國香織の「きらきらひかる」みたいな、共存型おこげもいたとは思いますが、派手なおこげはだいたいそんな感じでした。

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