第53回 空に憧れて空をかけてゆく あの子の命はひこうき雲

春はお別れの季節です。
みんな旅立っていくんです。

(おニャン子スタート)

金曜日。

Campy! barの金曜ママとして、3年半以上一緒に頑張ってくれたキムコさんが、卒業しました。

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あ、女装ママ業を卒業するだけで、女装自体を引退するわけではありませんのよ。

キムコさんが卒業するにあたって、周囲から「一体、何があったの?」と聞かれまくったそうです。
「ブルボンヌにいじめられて」とか「ギャラの交渉でモメて」とかの真相を期待していそうなゴシップガールどもめっ!

一応、難易度の高い資格試験を受けるために、勉強に本腰を入れるというのが理由です。

彼は、東北のご実家を大切にしていて、いつかは帰り、地元でも仕事ができるような資格を取りたいと望んでいるんですね。

こんなことを勝手に書いてしまうのは失礼かもしれませんが、
自分がネンゴロ兄貴と株式会社Campyを立ち上げて、お店を構えた時に、キムちゃんも社員にお誘いをしていたんです。
でも彼にとっては、東京の歓楽街で女装をする仕事に本格的に取り組む未来は、ご実家のことを考えると、ありえない選択でした。

キムちゃんは以前、アタシの母親ユキママらと一緒に、一週間のタイ旅行にも行っていて、ユキママとはとても仲良くしてくれました。
ゴールデンウィークのユキママCampy! bar来店時にも顔を出してくれたりと、自分とユキママのあけっぴろげな親子関係を、とても楽しそうに見守ってくれていたんです。

そんな彼自身は、カミングアウトをしていません。
東北という土地柄や、ご実家のお仕事的にも、厳しい条件なのを聞いています。

東京でしていたオカマ仕事は、自慢できるどころか、絶対に言えないものなのでしょう。

結局、キムちゃんが一番大事だというご実家への想いを、アタシも応援することにしました。

彼が何度も、アタシたちやお客さんに、繰り返し話していたことが忘れられません。

「うちの実家ではね、オネエタレントがテレビに出ると、
親は何も言わずにチャンネルを変えるの。
絶対に、認めてもらえない家なのよ」

アタシもきっと、オネエタレントのはしくれです。
エンターテイメントの宿命で、時に誤解を生むような演出になることもあるけれど、
えらそうなことは言えない身分なりに、できる限り、表現は選んでいるつもりです。

そしてその仕事を通して、
子供が、ゲイやレズビアンやトランスだったとしても、拒絶しないでいてくれるような親御さんが、
世の中に少しでも増えてくれれば良いな、と願っています。

しょっちゅう遅刻したりのいい加減なアタシと違って、
キムちゃんはいつも、トイレ掃除までちゃんとしてくれた立派な女装ママでした。
好き嫌いがはっきりしていて、ついつい接客にムラが出るアタシと違って、
キムちゃんはいつも、誰にでも対応できる優しい女装ママでした。

そんな人柄もあって、卒業パーティには、びっくりするほど大勢のお客様が集まってくれました。
もちろん、女装仲間もいっぱい。

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3年半、いろんな人がアタシたちの作った空間に来てくれて、笑ったり大騒ぎしたり、仲良くなったりしたんだもの。
たとえ、親には言えない仕事でも、心の中では、そのことを誇りに思ってほしいな。
お互い、信じる道を進みましょう。

女装ママ業、お疲れ様。
キムちゃん、ありがとうございました。

土曜日。

早朝、卒業パーティを終えて帰宅したアタシに、訃報が届きました。
ポルノスター、真崎航くんが29歳の若さで急逝したのです。

彼と出会ったのは、地方イベントでの飲み会の時。バブリーナさんに紹介されました。
当時すでにゲイビデオ男優として人気だったらしいのですが、実はアタシは、彼のような美しい顔だちの方が出ているゲイビデオにはあまり関心がなく、ノンケのエッグい洋モノビデオとかを中心に楽しんでいるような変態だったので、「ふーん」くらいの気持ちで名刺を受け取りました。(航くんファンごめんなさい)

ところが、その名刺がすごかった。
彼の名刺には、出演したビデオレーベルのロゴがどっさり印刷されていたのです。

アタシもゲイ雑誌編集などを長くやっていたので、ゲイビデオ男優というものの現状はわかっていました。
モデルの大半は、お金欲しさのノンケさん。
だんだんと、スキモノのゲイ自身がモデルとして出る作品も増えていきましたが、やはり「同じゲイに観られる」ということもあり、ゴーグル使用者も多い世界でした。
ビデオに出ていることは内緒、という感覚が主流だったのです。

そんな中で、彼はゲイビデオモデルとして、自信満々に自分を伝える名刺を渡してくれたのです。

そして真っ白な歯を見せて笑って、「この歯には200万かけました」と続いたもんだから。

アタシは心の中で
「プロだわ! ついにゲイ男優のプロの誕生だわ!」
と興奮したものです。

その後の、
浜崎あゆみさんPV出演や有名デパートでのモデル出演、大物写真家さんとのコラボ、アジア各地での活躍などは皆さんご存知の通り。

性に関する、恥ずかしいと思われがちなことを、
堂々とオープンにした上で、華麗にステップアップしていく姿には本当に惚れ惚れしました。

なのに、しょっぱい芸風の汚めお笑い女装なアタシたちCampy!ガールズをえらく気に入ってくれて、
ショウイベント『Campy!飲み会』では、アタシやサセコさんとのコラボで、彼の大好きな航空ネタでのお笑いショーまで作ってくれました。

仲良くなってからは、一緒にご飯を食べたり、旅行先のタイで合流してプール遊びを楽しんだり。

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正直、彼が美しすぎる顔立ちで良かった。
もし、好みのイモ系男優だったら、きっとアタシは片想いに苦しむブスになっていたことでしょう。

ただ、彼は高いプロ意識で自分を律して、次々に今までのゲイ男優ではなし得なかったことを見せてくれた分、傷つくことも多かったようです。

人に見られること、受け入れられることを望んでいた分、目立ったものの宿命ともいえる、アンチの声にも敏感でした。
とてもとてもナイーブな内面を持っていたのです。

アタシは彼から相談を受け、「そんな中傷、自分から見ちゃ絶対ダメだよ」なんて返したりもしていたのですが、心のどこかで彼のそうした重い面からは距離を置いていました。

きっと、アタシ自身が同じような弱さを抱えている人間なので、そこを語り合うことで、負の意識の共倒れになってしまいそうで怖かったのです。

夕方、彼に会いに行きました。
目と口が少し開いていて、伏せ目がちに照れ笑いをしているようでした。
あいかわらず、とても美しかった。

航くんは、間違いなく、日本のゲイ史上に残る革命児です。
人には言えないゲイ、人には言えないセックスワーク、だったものを、
鮮やかに開いて見せつけてくれました。

その裏であなたが抱えていた苦しみを、きちんと受け止めてあげられなかった、中途半端な友達でごめんね。

ゲイの世界で知り合った、つながる想いのあった人たちとお別れする時は、
いつもバトンを渡されたような気持ちになります。

彼らと自分が望んでいた世界。
そこに少しでも近づくように、
残ったアタシたちは走り続けなければと。

ただひとり
あの子は昇ってゆく
何もおそれない
そして舞い上がる

空に憧れて
空をかけてゆく
あの子の命はひこうき雲

『ひこうき雲』荒井由実

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