ボーダーライン 第12話

私は女しか知らない。
私は男も知っている。
私は男しか好きにならない。

同じ女でも各々の世界、見えない線の中で生きている。

「男」とか「女」とか、考えるから縛られる。
ただ好きになった人と一緒に居たい。
それじゃイケナイという理由を探すのは何のため?

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「私が女だから、付き合えないんでしょ?実は気持ち悪いって思ってるんでしょ?」
泣きじゃくるナミを抱きしめる。
「違う。そうじゃないよ。
ナミのことは好きだよ。だけど、恋人として好きにはなれないんだ…。
ナミが女の子だからとか、そういう理由じゃないんだ。」
「私の気持ちなんか分かんないくせに…。同情しないでよ!」
ただ涙が止まらなかった。

泣き疲れて眠ったナミの背中。
痛々しいその背骨をぼうぜんと見つめたまま朝になった。
「付き合ってみれば良いじゃない!」ナミの言葉がリフレインする。
そんな身も蓋もない言い方、したこともされたこともなかった。

あの夜を境にアタシとナミは連絡を取らなくなった。
大学生活が始まり、毎日授業や課題を詰め込んで、新しい友達、新しい恋人との生活に没頭した。
出来るだけ刺激を取りこんで、振り返らないようにした。
親友を失ったことを他で埋め尽くして、見えないようにした。
でもふとした瞬間に想い出しては、恋愛感情さえ絡まなければ良かったのに、と意味のない後悔をした。
明るい太陽の下で出来る自分の影さえも少し憎んだ。

「香は束縛しないから居心地が良い。」
彼氏からそう言われる女になったのは、ナミのおかげでもあった。
好きな人のすべてを強烈に欲しがる女の狂気じみた重さ。嫉妬心。
それを自分が当時の彼氏にやっていたことに気付き、愕然としたのだ。
恋人と言えども、良くも悪くも感情垂れ流しでわがまま放題の女、そこに振り回されて逃げる男。
アタシはその両方を経験したようなものだった。

大学を卒業した後は絵を続けながらWEBデザインの仕事に就いた。
忙しくも充実した生活の中で彼氏にプロポーズされた。
薬指に華奢なプラチナの指輪をはめた。
そんな矢先、新宿二丁目のクラブで開催されたイベントにアタシの絵が採用された。

唇を重ねている女と男がそれぞれにもう一人の女、そして男と交わっている絵。

それを出典したイベントに行ったあの夜。
アタシとナミは再会したのだった。

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「そっか…。やっぱダメか。香には振られっぱなしだな。」
体を離したナミは平静を装って、冗談混じりに言った。
アタシは動悸を抑えようと深呼吸をするのが精いっぱいだった。

テーブルの上にある飲みかけのビールを一気に飲み干し、ナミが言った。
「あの絵を見た瞬間、絶対展示したいって思ったんだ。
誰が描いたのかって聞いたら、香って名前を聞いてさ、ものすごいびっくりしたんだ。」
「…そう。ナミのイベントがきっかけだったね。」
「うん。再会してからはもう一回ちゃんと友達でやり直したいって思ってた。」
「アタシも。せっかくまた会えたんだから、仲良くやりたかった。」
「ごめんね、香。マユさんのこと、元気出しなよ。さて、彼女とデートにでも行くかな。」

ナミは視線を合わせず、私の肩を軽くたたいて出て行った。

狂ってる!

アタシは空いたビールの缶を壁に投げつけた。

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