第5回 I have a Dream

8月28日(水)
ワシントンD.C.最終日の今日は、ある意味、IVLPのハイライト的な位置づけでもあります。思い返せば、昨年の春くらいにIVLPについてのご紹介をいただき、日本のアメリカ大使館の担当者に履歴書や活動内容等を提出。面接インタビューを経て合格のお知らせを頂いて以降、今回のプログラムにて訪問したい先、学びたいことを何度もやり取りしてきました。IVLP自体が参加者の希望をなるべく実現できるようにという方針を持っていて、4人それぞれがウィッシュリストを提出し、国務省とInstitute of International Educationが1つのプログラムに作り上げてきた形です。井戸さん、大悟さんはLGBT全般の動きに加えて、政治や選挙との関わりについて。小野ちゃんは、養子縁組やステップファミリー等のLGBTファミリーのサポート体制について。そして僕は、グッドが将来掲げるLGBTフレンドリーなホームづくりを視野にいれた、高齢者LGBTのサポート体制について。それぞれのフォーカスしたい分野が、今日一日に集約されていたりもするので、気合いも入ります。でも、さすがに朝から肉は断念。Beans and Eggs Placeにて控えめに、謙虚に。

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卵と野菜だけなのに、このボリューム

まず、9時半からは、Gay and Lesbian Victory Fund and Institute(Victory Fund)へ。20年以上もの歴史があるVictory Fundは、連邦レベル、州レベル、市町村レベルを問わず、政界にてLGBTのリーダーが活躍できるようなサポートを行う、という非常にシンプルな目的を持って活動しています。LGBT当事者が政府にてコミュニティの顔となり声となり活躍することが、LGBTにも平等な人権を勝ち取る確かな力になるとのことで、オープンなLGBT候補者を基金を通じて、資金面、人材面、教育面で支えてきました。また、The Victory Instituteでは、国際的に活躍できる次のLGBTリーダーを育てる様々なプログラムを実施しているそうです。

オフィスビルのワンフロアがVictory Fundの事務所ですが、とても開けた雰囲気。フロアの真ん中に、ソファやオフィスチェアやスツールを円形に並べて、グループセラピーのようなスタイルで会議が始まりました。アメリカっぽい!まずは理事会の代表として、Derekさんから団体概要をお聞きします。事業の2大柱のうち、LGBT当事者の立候補者サポートに関しては、連邦レベル、州レベル、自治体レベルあわせて約25,000議席全てが対象で、2012年はサポートしたうち68%にあたる123人が当選したそうです。過去実績でいえば累計500人強とのこと。すごい数字です。サポート方法は、政治献金上限額の4,900ドルに収まる範囲での資金面でのサポート、援助してもらえる団体や企業の斡旋、インフラや事務所立ち上げから電話やメール対応等の人材面でのバックアップ、コンサルタントによる選挙キャンペーン立案やメディア対応等の教育面でのトレーニングサポートをしています。

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Victory Fundでの打合せの様子

「どのようにすれば、そんなにFundへの資金が集まるのですか?」という井戸さんの質問に対し、「Fund Raisingチームという特別チームがいます。と言うとシステマチックに組織化されたチームに思うかもしれませんが、実態は企業やお金持ちの個人の情報をあちこちでリサーチし、アポイントメントを取り、企画書を提出し、ひとつずつ口説いて行く活動。とても地味で根気のいるものなんです。笑。日本と違う点は、キリスト教文化が背景にあること。何か後ろめたいことをしている人が懺悔のために寄付をするように、油田関連の企業から突然多額の寄付金が舞い込んでくるんですよ。」との返答。どこまで本当かはわかりませんが、アメリカにはFund-Raiserという職業があるくらい、寄付文化が存在することは確かです。ちなみに、現在ニューヨークで行われている市長選挙のレズビアン候補者Christine Quinn氏には、Victory Fundが30万ドルの資金を調達したそうです。また、ニューヨーク市議に立候補していて当選確実との呼び声も高いFtMトランスジェンダーのMel Wymore氏にも資金提供を行っています。資金力がものを言う政治の世界で、コミュニティとして当事者候補者を支援する仕組みは、女性解放運動を推進してきたEmily’s Listという団体をモデルケースにつくられているとのことです。

Victory Fundのもうひとつの柱、LGBTコミュニティにおけるリーダー育成支援事業についてはマネージャーのJaanさんから。選挙時にサポートした議員とは当選後も関係作りを維持し、議員事務所を優秀な学生を送り込み現場体験をさせる場にしたり、Victory Fundの事務所にも毎年100名近くの学生がインターンシップ希望、スタッフ希望の問い合わせがあるそうです。驚いたのは、Harvard大学のKennedy Schoolにおける3週間のリーダーシップ養成プログラムの中に、Victory Fundとしての受講者枠を持っていること。厳しい条件をクリアした80名程度の応募者の中から、地方自治と連邦政府のパラドックスの中で如何に課題を解決していくかをLGBTでない人たちとともに学ぶ場に、毎年6名程度の当事者を送り込んでいるそうです。「僕たちの役割は、普通では経験できないようなプログラムをつくること。LGBTの人たちがストレートの人たちとプロフェッショナルとして協業できる機会をつくること。現在は、ゲイやレズビアンに比べ政治参加が遅れているトランスジェンダーの候補者の援助や次期リーダーづくりにフォーカスを置いています。ちなみに、僕もトランスジェンダーだけどね。」と語るJaanさん。言われるまで全く気づきませんでした。「Jaanさん、めっちゃイケメン!私、好き。好き。好き!写真撮りたい〜。」とキャーキャーはしゃぐ小野ちゃんは、韓流スターを追いかける関西のおばちゃんのようでした。

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一番右の眼鏡をかけているのがJaanさん。見えないですが、カラフルなストライプのソックスをはいてます。

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スタッフの方々と記念撮影

ランチタイムはいつもより時間があり、一度、ホテルに戻ることに。僕は溜まった洗濯物をクリーニングに出す、溜まった訪問先の書類を整理する、溜まった2CHOPOの原稿をまとめる等、毎日の研修と毎晩のパトロールでできなかった、いろんな溜まったものを一気に処理。そんな中、井戸さんはワシントンD.C.の街中をあれこれ探索にでかけた様子。アメリカで人種差別の撤廃を訴えたキング牧師が大行進を行ってから今日でちょうど50年なので、あちこちに記念グッズを売り出すお店もあったそうで、短いお昼休みに、お土産袋いっぱいにあれこれ仕入れてきました。井戸ママ、強し。ちゃっかり、大悟さん、小野ちゃんとお揃いで記念Tシャツをもらっちゃいました!

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お揃いのI have a Dream Tシャツ

午後はServices and Advocacy for GLBT Elders(SAGE)のオフィスへ。お話をして頂いた連邦政府関係局のディレクターであり弁護士でもある Aaronさんは、軍隊におけるLGBTの保護する法律づくりや、特に退役軍人問題に関わって来たことがきっかけでSAGEに入ることになったそうです。1978年に設立されニューヨークに本拠地を置くSAGEはアメリカ最大の高齢者LGBTサポートNPOであり、23のブランチ、National Resource Center on LGBT Agingを通じて、当事者や介護関係者に対して具体的なサービス提供、高齢者LGBTに関する政策提言、高齢者施設やLGBT関連団体への教育支援を行っています。実は、2008年の7月から半年間、会社の研修プログラムを活用して(なんだか研修オタクみたいですが。笑)、ニューヨークの地元のイベント会社にてインターンをしていたのですが、その際にSAGEの活動内容に触れたことがグッドを仲間たちと立ち上げるきっかけのひとつに。聞きたいとことは山ほどあります。

Aaronさんは、アメリカの高齢者LGBTに関しては3つの課題があるといいます。1つ目は社会的孤立の問題。一般のアメリカ人の80%は家族からの介護を受けているが、LGBTはストレートの4倍の確率で子どもがいない状況で、事実上のパートナーの有無も含めて独身率も非常に高いとのこと。2つ目は貧困問題。高学歴高収入で可処分所得も多い裕福なLGBTという一般的なイメージとは真逆で、都市部のゲイ以外は貧困層に属する場合が多く、加齢とともに割合も増えるとのこと。3つ目は健康格差。現在の高齢者LGBTは社会的に偏見や差別が多く精神的な疾患を抱える割合が多いだけでなく、セクシュアリティを明かせないためソーシャルサポートを受けないまま悪化するケースが稀ではないとのこと。また、ストレートに比べて、アルコール中毒、ドラッグ中毒、喫煙、肥満などが高い傾向にあるそうです。上記の課題を、アメリカ各地に増やしている世界初の高齢者LGBT向け施設であるSAGE Center(宿泊施設を持たないデイサービス型)を通じたサービス提供によって、少しでも解決に向けて活動をしているとのこと。

「アメリカの都市部、特にニューヨークやカリフォルニアでは、LGBT向けの高齢者施設などが幾つか生まれているとニュースなどで見たのですが、SAGEでも同様の取り組みはあるんですか?」と質問したところ、Aaronさんからは「SAGEは多くの高齢者LGBTの課題に取り組むことを目的にしているので、よりアクセス性の高いSAGE Centerをベースにしていく方針です。高齢者施設や老人ホームにて対応できるLGBTの数が限られているし、民間企業がビジネスとしてターゲットに合わせて多様なサービスを提供していく分野だと思っています。SAGEは、そのような民間業者にノウハウの提供やコンサルティングサポートをしたりもしています。」という明確な答えが。納得です。ちなみに、SAGE CenterはLGBTだけでなく、ストレートの方の利用もOK。ニューヨークではブロードウェイとも連携していて、文化的コンテンツも充実。1食2ドルというプランもあり人気も高いそうです。「High quality of life for LGBT older adults」というのが、最近のSAGEのモットー。何から何まで、グッドとして将来目指したい方向性を模索する上で、非常に参考になります。何より、僕が生まれたころから存在する団体だというのが驚きです。

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Aaronさんと。ちょうど、画面ではオバマ大統領がスピーチに登場したところ。

グッドとして今年に入り高齢者LGBTのインタビュー調査を始めたこと、日本では調査データどころか調査をする対象としての高齢者LGBTへのアクセスが少ないことなどを伝えると、「SAGEも最初は想像することしかできなかったんですよ。そこから実際の高齢者に一人ひとり話を聞いて少しずつ曖昧な輪郭を濃くしていくしかないのかなと。事を動かすためには、説得力あるデータが命。ただでさえ社会で見えにくいLGBTですから。インタビュー調査、ぜひ続けてくださいね。なんと、アメリカの国の調査でさえ、昨年までは64歳までは5歳刻みなのに65歳以上は、65歳から74歳というグループと75歳以上というグループしか無かったんですよ。笑。一歩一歩ですね。」とAaronさん。また、SAGEが様々なプログラムで参考にしているLGBT調査を実施しているUCLA付属のシンクタンクThe Williams Instituteにアプローチすること、日本でも専門的な研究機関とどんどん連携することをお勧めいただきました。いまは、アメリカでも高齢者支援の形が変わるタイミングとのこと。オバマ政権として、高齢者庁なる機関をハブに56局の州機関から629区域へ、その先の20,000強のサービス提供者へのサポートを行う構想も。その中にLGBTの条項を入れてもらえるよう、国勢調査にGIDの項目を入れてもらうよう、ロビイングを積極的に行っているとのこと。精力的です。

本日最後の訪問先は、Family Equal Council(FEC)。コミュニケーション・ディレクターのSteveさんを中心に話を伺い、ディスカッションしました。FECは、アメリカ国内の約300万人にのぼる子どもを持つLGBTと、約600万人の子どもたちをつなぎ、支援し、政府に対して彼らを代表して活動を行っています。30年の歴史を持つNPOですが、LGBTファミリーということで、一般的なLGBTと比べてプライバシーに関してセンシティブなこともあり、その認知は30年かけてゆっくりとひろがってきたそうです。ボストンでの立ち上げ当初は、子どもを持つLGBT同士が情報交換をするような小さなピアサポートグループだったものが、いまでは50,000人の会員を抱え、ひとつの大きな当事者団体へと変化し、メディアや企業、政府機関に対して、団体としてLGBTファミリーの支援体制の整備を訴えかける存在になっています。「特に、メディアへの働きかけと、メディアとの協業に非常に重点をおいています。新聞、雑誌、テレビ、映画の中に、リアルなLGBTファミリーの姿を登場させることが、世の中にいる多くの人に、LGBTファミリーについての実感をもって自分ごと化してもらう一番の方法だと思っているので。」と語るSteveさんもLGBTペアレントの一人。彼らの働きかけもあり、Hillary Clinton国務長官はアメリカ人のパスポートの両親欄の表記に関して、「父」と「母」から「親」と「親」へと変更を命じたそうです。

つい先日、8月3日から10日にかけて「Family Week 2013」と題して、マサチューセッツのプロビンスタウンにて第18回目のLGBTファミリーが参加するサマーイベントを開催したとのこと。ビーチピクニック、キャンプファイア、プライドパレード、カクテルパーティー、ダンスパーティー、パジャマ映画ナイト、親のためのカフェセッションなど60を超えるコンテンツが詰まったFEC最大のイベントだそうです。日本でもピクニックイベントを主催している小野ちゃんは、その規模感にただただ圧倒されていました。そんな彼女に勇気をあげたいと思ってか、Steveさんから。「法律を変えることのカギ、文化を変えることのカギは、考え方を変える、心を変えること。キング牧師はすばらしい演説で人の考え方を変えた。だから法律が変わった。私たちもその伝統を受け継いでいる。LGBTの権利は人権です。キング牧師の夢。私たちにはまだやらなければならないことがある。あなたの活動を誇らしく思い、応援しています。」今年の5月3日に、彼らがInternational Family Equal Dayとして声がけをして世界40都市以上で、LGBTファミリーに関するイベントが開催されたことにあわせて、小野ちゃん主催のにじいろかぞくもTokyo Rainbow Week 2013の一環としてピクニックイベントを開催したことを伝えると、心から喜んでいました。

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Family Equality Coucilにて。

夜は、昨日講義をしてもらったGeorge Washington大学のKane教授に誘われ、キャンパス内のLisner Auditoriumにて開催された記念式典に参加しました。公民権運動の歴史をまとめた映像が会場に流された後に、ゴスペル隊が会場の後ろから登場。客席と客席の通路に20名くらいのゴスペル隊が並び、パフォーマンスがスタートしました。そのパワーたるや。「DREAMGIRLS」のEffieの2倍くらいの体格の黒人コーラスが、全身をバランスボールのように右に左に揺らし歌い上げます。カラダまるごと音楽でできているみたい。好きな映画は?と聞かれて迷い無く「天使にラヴソングを」と答える僕。最後にはみんなが立ち上がり全員で大合唱という、この上ない幸せでした。何より、9割が黒人の客席のみなさんが、イベントの終わりに抱き合ってこの日の喜びを噛みしめ、お祝いしている姿が印象的でした。

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レセプションの様子。黒人家庭での伝統、レモネードが振る舞われました。

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圧巻のゴスペル隊。めちゃくちゃかっこ良かったです。

イベント後、キャンパス内にあるLGBT Research Roomへ。Kane教授はこのコミュニティルームの顧問とのことで、あれこれ紹介してくれました。アメリカの大学の殆どに最近はこのようなスペースが設けられつつあるそうですが、George Washington大学では、ほぼKane教授が大学側とかけあい、資料提供などを企業に交渉したりして、作り上げたそうです。GleeやLの世界をはじめLGBTが登場したりテーマとなったドラマや映画のDVDがたくさん棚に並んでいますが、全てKane 教授の力。「企業に電話して、LGBT学生の未来のためなの!と話せば一発OK。軽いもんよ。」とのこと。こんな先生が日本にも増えるといいな。

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LGBT Research Roomはレインボーだらけ。

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かわいいレインボーバッチをねだる小野ちゃん。

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本棚にはDVDがたくさん。自由に借りられるそうです。

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全米でLGBTについて学ぶことができる大学がランキングされたものも。

「ひとつ、ここだけの話、教えてあげる。」とKane教授が取り出したのは、Bayard Rustinという人権活動家の生涯を綴った「I must resist」という書籍と「BROTHER OUTSIDER」という映画のDVD。ワシントン大行進を行ったキング牧師を含む6名の人権活動家が現在、アメリカ政府から功績を讃えられ没後に最高勲章もらっているのですが、Bayard Rustinは当時その存在が表に出てこなかった7人目の男とされています。その理由は、彼がゲイだったから。キング牧師と最も親しかったのがBayard と言われていて、今度、ようやくオバマ政権となり彼にも最高勲章が送られることになったとのこと。Kane教授いわく、「I have a Dream.のDreamには、黒人の公民権獲得の裏に、実はゲイとしてのキング牧師の声に出せない思いもこもっていたのかも。」本当??

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Bayard Rustin関連の書籍と映画DVD

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I have another Dream?

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