第11回 Open Door & New Closet

9月3日(火)
まる一日のんびりできたこともあり、4つ目の都市、シンシナティでの研修プログラムは清々しい気持ちでスタート。朝から夕方までタイトに4つの訪問先がスケジュールに組まれていますが、なんでも吸収できちゃいそうな気分。先ずは、Cincinnati大学にあるLGBTQ Centerから。2006年にWoman Centerの隣に小さく場所を借りるところからスタートしたという、LGBTQ(LGBTに、Q:QueerというLGBTに含まれなかったり、規定されたくなかったりする人たちを加えた呼称)の学生をサポートするための団体。常設スタッフとして3年前から働くLeisanさんいわく、Cincinnati大学の学生全員から徴収している学生費の一部により運営されている学生組織という位置づけで、大きな部屋に2人の正職員と2人のサポートスタッフが籍を置いているとのこと。Open Door Policyというのが大きな運営方針となっていて、LGBTQの当事者でもAllyでも、学生でも大学職員でも、白人でもアジア人でも、誰でも自由にセンターに入室しリソースやスペースを利用することができ、他のマイノリティの団体、宗教や文化を考える勉強会グループともできるだけ意見交換をしていくことを大切にしているそうです。卒業生でありキリスト教やヒンズー教などに関わる牧師さんたちが、セクシュアリティと宗教について語ってくれることも。

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Cincinnati大学の広大なキャンパス。

LGBTQセンターの活動の柱は、当事者が主体となって実施するプログラムのサポートと、学内でのAllies を増やして行く施策、の大きくわけて2つ。当事者学生によるプログラムには、一番参加者も多く学生同士のネットワーキングと情報共有、大学施設への働きかけを目的に活動するUC Alliance、主にトランスジェンダー、インターセックス、アセクシュアル、ポリアモリー等のセクシュアルマイノリティの中でも理解がなかなか進まない人たちやそのAllyが集まり課題や解決方法を共有するGender Block、黒人やヒスパニックをはじめとした有色人種のLGBTにとってのより居心地のよいキャンパスライフづくりを目指すColors of Prideの3つがあり、それぞれ週に1回程度集まり勉強会を開催しています。LGBTQセンターは場所や情報を提供するだけでなく、3者を横でつなぐブリッジ役として機能しているとのこと。「最近の一番の成果は何ですか?」との質問に対して、「キャンパス内にAll Genderのトイレを設置することを大学側に承諾してもらったこと。既に幾つかできているけど、目標は1つのビルに1つのトイレの設置かな。ただ、どこにもロゴ掲出などしてないのでLGBTQセンターによる施策だと知っている人は皆無かも。広報活動が今後の課題ね。」と答えるスタッフTさんは、自身もトランスジェンダーであり、Cincinnati大学にて心理学を学ぶ大学院生。

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LGBTQセンターのミーティングスペース。

興味深かったのは、学内にてAllyを増やしていくためのプログラム。当事者サポートとAllyづくりは同時に進めていくべき、と語るのはプログラムコーディネーターのRebeccaさん。耳に大きなピアスをあけて、舌が蛇のように縦に二つに割れているパンクなルックに一瞬度肝を抜かれましたが、とても優しくわかりやすくお話してくださりました。特に、彼らのオリジナルプログラムである「Safe Zone Training」は非常に人気で評価も高いらしく、色々な学部の先生から授業の一環として依頼されたり、大学職員の教育フローの中に積極的に組み込まれていたり、時には学外での講演や企業研修にお声がかかることもあるとのこと。しっかりとしたテキストがあり、基本的な用語解説から多様なセクシュアリティについて、LGBTQの人が答えやすい質問や嫌な質問、気になる言葉や差別にあたる言葉、カミングアウトされた時の受け止め方などを、レクチャーとペアを組んだロールプレイングにより体系立てて学んでいく2時間程度のプログラム。最後に「私はAllyになります」とサインをし、プログラム終了者には有効期限3年という日付入りのAlly認定マグネットがもらえるとのこと。これまで600名以上の方々がAlly認定マグネットを手にし、デスクなどにはって「ここはカミングアウトしてもOK!自分らしくセクシュアリティについて語ることのできるSafe Zoneだよ」という場を広げていってくれているそうです。とても参考になります。Leisanさんからは、センターにとってのチャレンジとして「いかに興味の無い人にリーチし、大きなうねりにつなげるか。規模を拡大するための資金拡大も挑戦です。毎年4,000人の新入生が入ってくるのでシステマチックに進めることも重要だけど、学生の自主性も大切にしたいし。バランスが大切ね。」との言葉を頂きました。

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スタッフのみなさんと。

続いて、市内を移動しHamilton County Public Healthという病院へ。まずは、ハミルトン地区におけるHIV予防活動コーディネーターであるToddさんから、シンシナティの同地区におけるHIV感染者の数字的なデータとHIV予防プログラムの現状について。現職に就く前も、16年間HIV/AIDS関連のNPOにて活動してきたというToddさんは、GIジョーに出てきそうなマッチョ兄貴ですが、スライドを使いながらのプレゼンテーションは、身振り手振りから時々ウィンクまでとてもおねえさん。ひとつひとつ丁寧に説明してくださいます。同地区でもHIV感染者は年々少しずつですが増加しているとのことで、2012年のデータによると70.8%が黒人、23.3%が白人、その他が5.8%。特に、MSM(Men who has Sex with Men)に加え、近年はHRHF(High Risk Heterosexual Females)の感染率があがっているとのこと。HIV/AIDSがゲイの間だけでの病気ではなく、男女間でのセックスでの感染リスクが高いということを如何に社会に浸透させていくかという、日本と共通の課題をもっているようです。

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Toddさんは、HIV/AIDSのために約20年活動してきたというマッチョなオネェさん。

実際にHIV検査のサポートから、薬を飲む治療プログラムの斡旋までをコーディネートしている窓口的な役割を担っているというKaneさんはレズビアンで、医学的な部分のコーディネートがメインのToddさん連携して、心理面でのサポートも行っているとのこと。「家族にセクシュアリティについてカミングアウトしていない若者が多いので、感染がわかり、薬を飲み始めるまで、私が親戚のおねえさんのようにサポートするの。こちらのオネェさんと一緒にね。絶望感で連絡がとれなくなっても、ストーカーのように何度も電話して追いかけるわ。」とお茶目に笑うKaneさんからは、多くの感染者が心を許してバックアップをお願いできる何とも言えない人間力のオーラが出ています。「HIV/AIDSは、いまはきちんと薬を飲み続ければ、一生仲良くお付合いしていくだけの病気になっているのに、みんな怖くてなかなか医者に会ってくれないわけ。その情報さえちゃんと伝わっていれば、と学校などに出向いて話をすることも結構あります。」

最後は、Toddさんが検査と治療プログラム、Kaneさんが検査から治療プログラムまでのブリッジとするならば、HIV/AIDS患者向けの施設にて生活全般のサポートを担当するBrentさんから。オハイオ州にて1987年に初めて設立されたCaracole Houseでは1,300名以上の陽性者ケアを行っていて、22床ある24時間体制の設備を通して当事者とその家族が治療をしながらいっしょに暮らせる場所を提供しています。その他、患者の方が適正な価格にて住宅を借りるためのサポート、高額医療費の補助に必要な膨大な書類作成、英語が母国語でない人のための高度医療通訳、地域の介護施設やCincinnati HIV Youth Hospitalという子ども病院との連携など、幅広いサービスを行っているそうですが、連邦政府から支援を受けているということもあり、一部援助金の使用用途が限られてしまうことも。施設の設立当初は、患者の方が「尊厳をもって死を迎えられる家」を目指していましたが、現在では利用者は平均14ヶ月で状態が安定期に入れば、最初のアパートの家賃を払えるくらいの援助金のサポートを受け施設を出ていくそうです。Brentさんは、それを「卒業」と呼んでいましたが、オハイオ州は都市部以外の地域はとても狭いコミュニティで、利用者の個人情報と秘密保持が非常に重要となるため、「卒業」した後のケアについても細心の注意を払いながら他のNPO等を紹介していくそうです。

「お三方に質問です。Toddさんが、社会全体への予防啓蒙活動ではなく、陽性者サポートに注力するようにシフトした、とおっしゃいましたが、その意図は?」という大悟さんからの質問に対しては、「特に若い人の周りにはAIDSにて亡くなった人が殆どいないというのが現状のため、どれだけ啓蒙活動を行っても、自分のこととして情報が吸収されて行きません。そのアプローチはいくら予算があっても足りません。それよりは、陽性者の方々の精神的なサポートを行い、自身のウィルス量を減らして他の人への感染率を下げるとともに、感染しにくいセックスの方法を理解してもらい実践してもらうアプローチに予算投下していくほうが効率的だと考えた結果です。」とBrentさん。「インターネットの登場で、LGBTの人たちは多くの人は表に出てくること無く、出会いやセックスを手にする方法を見つけました。HIV/AIDS陽性者、陰性者問わず、本当に情報を届けなくてはいけない人にはアクセスできない状況が加速しています。ある意味、新しいクローゼットですね。」

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Toddさん、Kaneさん、Brentさんのスーパーチームと。

市内のレストランでランチを済ませた後はバンにて橋を渡り、IVLPの5都市目ケンタッキー州ハイランドハイツへ。Northern Kentucky大学にて、今回のシンシナティとケンタッキーでのプログラムを組んでくださったGreater Cincinnati World Affairs CouncilのMichelleさんと合流し、シンシナティ・北ケンタッキーにてHuman Rights Campaign(HRC)のSteering Committeeとして活動する方々とのミーティングです。ワシントンD.C.のHRCがアメリカの連邦政府とするならば、彼らは州政府として具体的な草の根活動を行っているメンバー。普段はGE Aviation にてセールスマネージャーをしながら、HRCシンシナティの共同代表を務め活動する、パンツスーツがバシッときまりザ・パワーレズビアンという雰囲気のKarenさんは、彼らが掲げる活動の3つの柱を、LGBTコミュニティの健康で安心できる生活を確保すること、LGBTファミリーを守りケアすること、LGBTの労働者にとってフェアで平等な職場環境をつくりだすことだと語ります。現在は、同性婚制度の導入を働きかけるために積極的に動いていて、アメリカ全土で現在14州が認め、2014年にはオレゴン、イリノイ、ニュージャージー、ハワイが加わるとされる中、その次に続くべく署名活動やロビイングを行っているとのこと。あわせて、LGBTにやさしい医療機関や病院を指標化するプロジェクトも最近スタートしたそうです。

続いて、HRCの名をアメリカ全土に知らしめることとなった、LGBTにとって働きやすい職場環境であるかを計るCorporate Equality Indexについては、普段はグローバル調査会社のニールセンにて勤務するというMichaelさんから。自分のプロフェッショナルを社会に活かすというプロボノの考え方にまさにピッタリの方。商品やサービスだけでなく、人材雇用や教育や福利厚生のようなヒューマンリソース分野においても競争原理が強く働くアメリカの企業にあったシステムだと言います。100点満点にて企業をランキング化するだけでなく、細かく分けた項目においての点数も公開し、それらをiPhone等のアプリの「Buyer’s Guide」として一般に無償提供。LGBT当事者やAllyの人たちが買い物をする際に、検討の材料のひとつにできるようになっており、各企業が毎年点数をアップさせようと社内制度の改善を行う動機付けとして機能しています。制度は整っていたとしても、実際の働きやすさは、企業文化や風土の改善や職場での差別的な発言や雰囲気をなくさないと生まれないのでは?という質問すると、「もちろんHRCでは同じことを重要だと思っています。Degrees of Equalityという定性ヒアリング調査も2009年から試験的に始まったところ。定量的なCorporate Equality Indexを補完する意味で、企業が如何に制度や方針を運用していくかをデータとして蓄積しようとしています。」との回答が。さすがです。

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HRCのシンシナティ支部のお二人とのミーティング風景。

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全員で記念撮影。

「何でも聞いて。どんなことでも答えるわ。」という頼もしいKarenさんに、井戸さんから「Karenさんは、会社でもカミングアウトしているとおっしゃっていましたが、ここシンシナティはアメリカの中でも保守的な州だとお聞きしています。どのような経緯でアウトしようと思ったんですか?」との質問。すると、大きく深呼吸をしてKarenさんが、椅子に深く腰をかけ脚を組み直して、ゆっくり語り始めました。「実は、私は、大学を卒業した後、男性と結婚していたことがあったの。もちろん自分がレズビアンであることはわかっていたけど、その頃は、そんなこと言えるような世の中でなくて。やがて離婚を機に、前職の会社に勤めることとなり、女性のパートナーができたのですが、それでもいつかバレてしまうのではないかとビクビクしながら暮らしていて。同僚に対して週末彼女と過ごして楽しかったことも、すべて男性との作り話として塗り固めて。そんな時、取引先であるGEと出会いその職場ポリシーを知り、ここしかないと決めたの。何よりも、愛するパートナーのこと、自分のことについて嘘をついている自分自身に納得ができなかったから。GEに転職してすぐにカミングアウトし、私と同じように苦しむ人をひとりでも減らしたいと、HRCの活動をはじめることに。」パートナーの子供が3人、自分の子供が3人で、6人の子供を育てているという話を聞き「Karenさんの勇気に本当に感動しました。日本の状況はまだまだ厳しくて。。。」と目にうっすら涙を浮かべながら声をかける小野ちゃんに、Karenさんからは「I did ! You can do it!」という心強い一言。この人、まじで、カッコいい。

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Northern Kentucky大学のキャンパスは緑がきれい。

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あすなろ白書ごっこ。

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キャンパスを後にするKarenさんたち。後ろ姿もカッコいい。

本日4つ目の訪問先は、またCincinnati大学に戻り、法学部大学院に属するMorgan Institute of Human Rights(MIHR)というアメリカで一番古い人権に関するプログラムのBert Lockwood教授の元へ。まずは、教授からMIHRの概略について簡単に説明をいただきます。法学部大学院の学生のうち、人権分野に興味のある人たちに対し大学から奨学金の援助を行い、修士号をとる3年間の過程の中で、人権に関する学術論文「Human Rights Quarterly」の編集作業に携わり、世界各地の現場で活動する人権団体のインターンシップを経験してもらう、というプログラムとのこと。教授自身は、今年でJohn Hopkins 大学出版から発行しているというこの学術論文集の33年目の編集長となるそうです。IVLPのスケジュールに、「Cincinnati大学にて夕食を食べながら講義」と書いてあったため、通訳のFredさんとマリエさんを含め6人で首を傾げていたのですが、教授の説明が終わって研究室から移動し、やっと謎が解けました。そこには、研究室の生徒さんたちがたくさん待ち構えていました。

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Morgan Institute of Human RightsのBert Lockwood教授。

「これも、学生たちにとっては学びのひとつ。ぜひ、みなさんが日本で抱えている人権の課題を彼らと共有してやってくれませんか?」という教授の挨拶の後、ビュッフェスタイルの軽食をつまみながら、学生さんたちとの交流が始まりました。自分の家族のルーツである中東における女性の人権の改善に関わる仕事に将来関わりたいという大学院2年目のJoanne、アフリカにおける立法機関にて法律づくりに関与したいという1年目のAlex、みんな将来の目標がとても具体的なことにびっくりしました。自分の大学生時代を思い出し、ちょっと反省。。。LGBTの当事者の学生はいなかったようですが、話をした学生のみんなが日本に未だ差別禁止法がないことに驚いていました。最後に、僕たち4人から挨拶。僕からは、素敵な機会を設けてくださった御礼を伝えつつ、「日本では、保守的で古い考えをもった年配層が政治家や司法界にもたくさんいて、まだLGBTの人権に関しては大きな進展はないかもしれないということを伝えたら、年寄りはいつか死ぬので大丈夫だよ、という極めて専門的なアドバイスをもらいました。」と、冗談混じりのAlexとの会話を絡めて。学生さんは爆笑、Bert Lockwood教授はとても不機嫌そうでした。汗。

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ひとりひとり学生さんたちにご挨拶。

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ビュッフェ、いただきます!

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二人とも、大学院1年生とのこと。キラキラしてます。

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全員で集合写真。

ホテルに戻り、4人で夜のパトロールに出かけることに。朝いちのLGBTQセンターにて、「シンシナティはまだまだ保守的なのでゲイバーなどは少ないけど、こちらの店はみなさんにも入りやすいかも。」と教えてもらった「Diamond Palace」という場所に向かってみるも、大悟さん、僕だけでなく、井戸さんも小野ちゃんも方向音痴だということが発覚。どこを探してもお店が見つかりません。仕方なく、ランチの帰りにバンの中からレインボーフリークの小野ちゃんが街中にレインボーフラッグがかかっているSHOPを見かけたということで、そちらを当たることに。方向音痴の4人にとっての唯一の手がかりは「絶対、こっちだと思う。」という小野ちゃんの記憶だけ。だんだん夜が更けてくると同時に、周りの景色も荒びれてきて、ちょっと危険な雰囲気。目の前の路上にて柄の悪い(多分。悪いと思う)黒人3人組がたむろしているのを見て、これ以上先に進むことは断念しようということに。ホテルへの帰り道にあった韓国料理のお店に入り、久しぶりのアジア料理に安心感を覚えながら、明日の明るい時間にリベンジすることを4人で誓いあいました。

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韓国料理レストランに、寿司。日本食、もっとブランディングしないと!

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大好きなタッカルビ。

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明日への決意とともに。アニメ声がカワイイ店員さんと。

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