第20回 DVと離婚とLGBT

9月12日(木)
ポートランドの2日目は、1977年から続く、DVを受けた女性と子どものサポートを行う団体、Raphael Houseが運営する施設の視察からスタートです。被害者にとってのアドボカシーセンター、ハウジングセンターでありながら、同時に11部屋からなるシェルターを併設していることもあり、IVLPのプログラム資料にも「住所は非公開」と書かれていて、その場所はドライバーのBillさんにしか伝えられてない様子。DVの加害者が突然おしかけてしまうケースも多いからとのことで、11年前に元々高齢者向けの福祉施設だった建物をたった1ドルで譲り受け、改装を経て運営開始して以降、そのポリシーは変わらないそうです。プログラムディレクターのEmmyさんがお出迎えしてくれましたが、挨拶をしてメインフロアの二階にあがるやいなや、守秘義務書へのサインを依頼され、写真を撮ることは大丈夫だが、建物の場所がわかるような窓の外の景色込みの写真はNGという注意事項を伝えられました。さすが、24時間相談窓口、常設のケースワーカー、緊急シェルターを完備し、昨年だけでも3,500人以上の女性と子どもたちにサポートを提供して来たというポートランド最大の組織、被害者のプライベートを守るための手続きも徹底されています。

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プログラムディレクターのEmmyさん。笑顔が素敵。

まずは、Emmyさんが、館内の各施設を案内してくださることに。現在および過去のシェルター入居者が利用可能というソファラウンジや交流スペース、ヨガや言語学習のプログラムを行う教室、憩いの禅の間に加え、女性が仕事の面接にいくためのスーツや靴、カバンなどが置かれたワードローブもあります。とても軽快に、そして誇らしげに館内を説明してまわるEmmyさんに、「Emmyさん、とっても素敵!シェルターと言えば暗いイメージがあるけど、あなたみたいに素敵な女性が働いていれば、被害者の女性たちも憧れて目標にすると思います!」と声をかける井戸さん。「ありがとう!今日のこの水玉の赤いワンピは、私のステップマザーが選んでくれたの。実は、こうやって施設の中を紹介することは、プライバシーの問題もあり殆どないので、私、すごく緊張してて。そう言ってもらえると嬉しいです。」とEmmyさん。ステップマザー?もしかして、彼女も何か生い立ちや人生で苦労してきたのかな?と一瞬勘ぐってしまいましたが、それを吹き飛ばすくらい大きな口で笑うEmmyさんを見ていると、シェルターではシステムや手続き、プロのサービスも大切だけど、働いている人の人間力が果たす役割は非常に大きいんだろうなと感じました。ちなみに、現在、11部屋あるシェルターのうち9部屋が子どもといっしょに避難してきた女性とのこと。DV家庭で子どもがいた場合、女性だけでなく子どもにまでDV被害がおよんでいて、加害者の父親が執拗に追いかけてくるケースが多いため、部外者に実際の住所を知られることを最も避けるそうです。警察とは密に連絡を取り、ご近所付き合いもほぼゼロ。「近隣の住民の方も、何となく薄々は気づいているかと思いますが、最近までは怪しい宗教団体だと思われていました。笑」

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落ち着いた雰囲気のソファラウンジ。

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仕事の面接向けに自由に借りられるワードローブ。

館内ツアーが終わり移動した先の大きな打合せスペースには、短髪鼻ピーのファンキーなザ・レズビアン(見た目で判断しちゃいけませんが。やはり当たってました。)が僕たちを待っていてくれました。Raphael Houseのファミリーサービス局にて警察との連携を中心としながら働きつつ、大学院にも通っているというMelissaさんは、Emmyさんが今日のために声がけをしてくれた方。Emmyさんとも仲良しだという彼女は、Raphael Houseにくる前、Bradley Angleという同じくDV被害者のシェルター機関にて働いていたそうで、そちらで、オレゴン州で唯一の「LGBTQ Survivors」というセクシュアルマイノリティへのDVに特化したプログラムに従事していたとのことでした。「LGBTQのカップルのうち、約30%にDV被害があると言われています。異性カップルと同じくらいの発生率なのに、各種の公的機関やNPOが対応策を講じるに足りる研究事例や情報が少ないのが問題。『表に出てこない、見えない』というのが、LGBTQコミュニティにおけるDVの一番の課題だと思います。」と丁寧にお話を始めるMelissaさん。鼻ピーなのに、めちゃくちゃプロ、というギャップに既に僕はやられてしまっています。「そもそもLGBTQということで、社会に知られないように、社会と距離をおいて暮らす人が多く、ストレート向けにつくられたDVサポートへのアクセスが難しい。家族内やコミュニティ内でのサポート体制が脆弱。警察との関係も悪い。二重、三重もの壁が目の前に立ちはだかり、全てを諦めてしまう当事者が多いのです。」

「アクセスやサポート体制の話以外に、LGBT独特のDV被害の傾向などはあるのですか?」という、僕からの非常に曖昧な質問に対しても、Melissaさんはわかりやすく答えてくれます。「DVが生まれる一番の原因は、社会的なパワーバランスの違い。ストレートのカップルにおけるDVの場合は、圧倒的に社会的権力を握る男性側が加害者になることが多いのですが、LGBTQカップルの場合、加害者と被害者が明確でない、というのが特徴です。相談の電話をかけてきた人が相手の力に怯えているのか自己防衛のために語っているのか、相当の訓練と経験を積んだ相談員でないと判断がつきません。両者が被害者だと確信して相談をしてくるケースも稀ではないですし。また、LGBTQ独特の相談内容と言えるのが、加害者側が被害者側に対して自殺をほのめかし脅す、ということ。ストレートカップルが金銭的、社会的な依存関係が強い傾向にあるのに対して、精神的な依存関係が強いのがLGBTQで、被害者がどんなにDVを受け苦しい思いをしていても、それは自分に責任があるのだと思わせたり、相手を失うくらいならDVを受けても良いと思わせたり、複雑なマインドコントロールがなされていたりします。」日本にいても、少なからず聞こえてくるカップル同士の悩みや相談内容に通じることも多く、ハッとすることばかりです。見えていないDV被害が本当に多いのかもしれません。「トランスジェンダーは、LGBTQコミュニティの中で一番DVの可能性が高いとも言われています。特に居住地域で生まれる差、トランジションのどのフェーズにいるか、メンタルヘルス系の併発など、課題は山積みです。連邦警察には同性愛者間のDVマニュアルというものが近年作られましたが、そこからも漏れているので。」

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Emmyさんと鼻ピーMelissaさんと。

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Emmyさんの靴。大悟さんのお気に入り!?だそうです。確かに素敵。

続いて、本日2つ目の訪問先、ポートランドのMultnomah郡庁事務所へ。Loretta Smithさんという、2010年11月に郡内第2区から選出された女性議員との面会です。いじめ対策や高齢者差別対策に長年関わってきたというLorettaさんは、絵に描いたような強い女性!吸い込まれるような真っ黒な瞳をこちらに見開いて、息継ぎをしているのかどうかわからないくらいの早口で一気にお話されます。「私は、この郡で二人目の黒人議員です。8人の候補がいて、ほんとに選挙戦は大変でした。特に選挙資金集めには苦労しました。寄付をしてくれる人は、どうせ渡すなら男性のほうが、という態度が如実に現れていて。もし私に渡してくれる場合も、男性よりは額は少ないし。世の中、本当に男性社会!というのを肌で感じました。しゃべり方一つとっても、男性でジョークを交えながら話すのはOK。女性で同じことをすると生意気扱い。だけど、そんなことには負けてられません。私は私らしくと、如何に共感を集めるかという戦略を中心に、女性だけでなく若者からシニア層に至るまで幅広く声がけを行いました。Food Pantry Programという、低所得者向けに食事を提供するプログラムを推進したり。結果は、なんと黒人女性同士の決戦投票でした。史上初です。そして私が勝利したことを契機に、いろいろな要職への女性登用も積極的に進めているという状況です。」

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パワフルウーマン、Lorettaさん。LGBT magnetの匂いがプンプンします。

「日本はLGBTどころか、女性の権利だって侭ならない状況です。あなたのような女性が、このように活躍できるアメリカは、日本よりかなり先に進んでいるとさえ感じます。オバマ大統領が、黒人として初めて当選したように、今後LGBTのアメリカ合衆国大統領が誕生する日がくると思いますか?」と大悟さんの質問に対し、迷うことなく答えるLorettaさん。「アメリカという国は、ここ数年で、もの凄いスピードで変化していますし、LGBT新大統領が誕生する可能性はすごくあると思います。私自身は、2008年にオバマが出馬した時にヒラリー側のサポートをしていて、デンバーにヒラリーの代理として出ていったこともありました。彼女は最も聡明でパワフルな女性なので、アメリカ史上初の女性大統領になるべき人だと今でも信じていますが、もう歳をとり過ぎているかも、という声もあります。もし、LGBT新大統領が生まれるとしたら、やはりLGBT以外の人たちを如何に引きつけられるか、ではないでしょうか?私の今の政策方針の中心は、高齢者。高齢者の中に、LGBTもいれば、有色人種もいれば、貧困層もいます。一部の人ではなく、より広くの人に訴えかけられる政策が必要です。ニューヨーク市長選のQuinnさんが駄目だったのは、LGBTへの壁があったからなのでしょうか?」勝てる政治家の人は、誰かの話をしながら自分の話をする、という展開が本当に上手です。

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井戸ママが3週間で一番ときめいた!というLorettaさんの秘書さんと一緒に。

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大悟さんは、Lorettaさんの靴にも釘付けだったとのこと。こちらも確かに素敵。

オシャレなレストランで有名なHawthorne Blvdにて、素敵なヨガスタジオとのコラボカフェレストランを見つけ、こだわりのマクロビ風ランチを楽しんだ後、本日の3つ目の訪問先Multnomah County Courthouseへ。離婚、養子縁組、DV、未成年者犯罪など、家族に関する案件を多く扱う、Maureen McKnight判事からお話を伺います。所内に10人いる判事のうちの一人というMaureenさんは、「どうぞどうぞ、判事席に座って記念写真撮ってくださいな。一生に何度もこないでしょ、こんなとこ。笑」と声をかけてくれる、知性と愛嬌を両方もったかわいらしいオバさん。2002年に判事になる前は、裁判に関わることになった人のうち86%は低所得のため弁護士を雇うことのできない人たちと言われていて、そのような人たちサポートするLegal Aid Services of Oregonにて、10年以上働いてきたとのこと。「みなさん、聞きたいことがたくさんあってこちらまで来てるんでしょ?お好きに何でも聞いてくださいませ。それに答えることにするわ。」というMaureenさんの言葉に、さっそく質問を投げかける井戸ママ。「私は、日本にて議員をしている時に、離婚届に養育費に関するチェック欄をつくってもらうように活動してきました。日本では、夫が養育費を払わないケースが多く、妻は妻で、二度と夫とは関わりたくないという思いから養育費を取り立てるような行動にでないんです。こちらでは、政府がその取り立てに大きく関与しているとか?」井戸ママによる日本での現状や課題についての話、次々と養育費の取り立てシステムや家族を守る福祉システムについて丁寧に説明してくれるMaureenさんの話を聞きながら、どうせ自分は結婚とほど遠いから、関係ないから、という理由であまりにも多くのことを学んでこなかったこと、情報を右耳から左耳へと受け流してきたことを、再認識。。。汗。意外と僕以外のみなさんも同じだったりして?

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Hawthorne Blvdにある、ヨガスタジオとのコラボカフェレストラン。天井が高くて気持ちいい。

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五穀と野菜のキムチ味丼。スタッフさん曰く、お通じに抜群とのこと!

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裁判所の入り口。「結婚証明書、ドメスティックパートナーシップはこちら」という案内発見。

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セキュリティチェックのスタッフたち。アイスクリーム食べながらお仕事。このゆるさが、ポートランド。

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お茶目なMaureen判事。

続いてトピックは同性婚と法律について。「オレゴン州では、異性婚でも同性婚でも、子どもには何の罪もないので、同様の権利が守られています。子どもの養育費の扱いについても異性婚と同様のものが適用されることになります。ただし、州法などはまだ実態に追いついていないものが多いので、異性婚向けの法律の内容を適用して現状に対応しているというのも事実です。例えば、子どものいるレズビアンカップルの場合、どちらか一人が生物学上の親、どちらか一人は血のつながらない親になることが多いわけですが、彼女達が離婚し生物学上の親が親権をもったとしても、もう一人の親のほうも過去6ヶ月において親として機能していたら、Psycho Parent(心理的親)として面会などができるという、連邦法を適用することになります。子どもは曖昧な存在にせず、法律上、きちんと養子にしておくことをお勧めしますね。」とMaureenさん。「アメリカでは、DOMA以降、各州で同性婚の動きが加速していますが、同時に都会の州では同性婚離婚のケースも増えてきています。州を越えると全く違う法律が存在するアメリカのため、結婚した州と離婚した州が違う場合、思いも寄らない問題が発生することも。それらは当人同士だけでなく子どもにも大きな影響を与えることになるため、判事も含め法律に携わるものは常に新しい社会情勢を学ぶ姿勢が必要だと感じています。」パートナーシップ法、同性婚制度、日本でも少しずつ話題に出始めてはいますが、まだまだ議論が進まないのは、法制度上の課題や重要性などについて、LGBTコミュニティ内の多くの人たちが知識や認識を持てていないということもあるかもしれませんね。

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判事のお言葉に甘えて、判事席に座らせてもらいました。

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みんなで記念撮影。本当は、黒いガウンも着てみたかった。。。笑

訪問先からホテルに戻った後も、ポートランドで一番大きいという本屋に行きLGBT関連の書籍を探したり、お土産のレインボーグッズを探索したり、最後の最後までポートランドをしゃぶりつくそうとする4人をつなぐもの、それは、ご飯。明日の夕方には、井戸ママが一足先にポートランドを出るということで、通訳Fredさんのお勧めレストランにて4人でのラストディナーを楽しむことにしました。話題の中心は、この3週間の経験をいかにコミュニティのために、自分たちのために活かしていくのか、ということ。あちこちでお会いしたNPOやNGOと日本が連携する術はないか?尾辻かな子さんに続くオープンリーLGBT国会議員を生むためには?このIVLPにもっとたくさんのLGBT当事者やアライの人が参加できるように米国政府に働きかける作戦は?などなど。他のお客さんがいなくなり、店員さんが片付けを始めるまで、美味しいワインを飲みながら語り明かしました。

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ポートランド最大の書店には「Gay & Lesbian Studies」のコーナーもありました。

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松茸のリゾット。日本も秋になるんですね。ちょっと恋しくなりました。

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ラストディナーで、ラスト乾杯!(ピンぼけでごめんなさい。)

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