第20回 「ドイツで第三の性が認められた」は誤解 性カテゴリをめぐる歴史

 

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§ ←この記号、「セクション」って読むのね。

マジで!? って思ったらちょっと試しに変換してごらんなさいよ。

まきむらよ。

毎週月曜、こちらの連載、世界のニュースから性を考える「まきむぅの虹色ニュースサテライト」をお送りしております。

前回は「豆腐食べるとゲイになる説」のような、日本のモノが海外で誤って伝えられたニュースに続いては、逆に

海外のモノが日本で誤って伝わってしまっている例

をご紹介します。

テーマは、「ドイツの新生児出生届において、性別に関する第三の選択が認められた」というニュース。こちらについての解説を、

★ ドイツ、性別に関する新法を制定
★ 「ドイツで第三の性が認められた」は誤解
★ 「第三の性」の中身いろいろ

以上の流れでお届けします!

★ ドイツ、性別に関する新法を制定

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今月はじめ、日本含む各国のメディアで、下記のような内容が報じられました。

ドイツの新生児出生届において、性別に関する第三の選択が認められた。具体的には、新生児がいわゆる性分化疾患の状態にあった場合、出生届の性別欄に男性とも女性とも書かず空欄にしておくことができるというもの。

性分化疾患とは、人間がある個人の性別を判断する要素――つまり外性器(ペニス/ヴァギナ)、内性器(精巣など/卵巣など)、性染色体(XY/XX)といった要素が男性型・女性型いずれにも統一されていないか、もしくはいずれとも判断しがたいさまざまな状態のことを疾患として言う総称です。

よく「両性具有」と混同されますが、これは平たく言えば「ペニスもヴァギナもついてる(両方の性器を具体的に有している)」状態のことを指す言葉であり、主に神話や美術作品などでモチーフとして使われるものだと思った方がいいでしょう。なので、現実世界の性分化疾患とは別の概念です。性分化疾患≠両性具有ってことね。おさえといてね。

さて、ドイツ国内においては、年間150~340人の新生児が性分化疾患であると診断されています(出典:heise online)。つまりこれはドイツだけの問題でなく、もちろん日本にも世界各国にも性分化疾患と診断される方はいらっしゃるということです。

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以上、「性分化疾患」という言葉をおさえたところで、最初のニュースの話に戻りましょう。

ドイツの新生児出生届において、性別に関する第三の選択が認められた。具体的には、新生児がいわゆる性分化疾患の状態にあった場合、出生届の性別欄に男性とも女性とも書かず空欄にしておくことができるというもの。

このニュースを受けて、日本の一部メディア、およびSNSでは

「ドイツで男でも女でもない第三の性が認められました」

「第三の性の人たちの権利が認められたって! すてき!」

などと、「第三の性」という単語が飛び交う事態に。

ところが

これね

はっきりいいますよ

いいですか

「ドイツで第三の性が認められた」は誤解です

厳密にいうと、誤解なんです。続いて解説しますね。

★ 「ドイツで第三の性が認められた」は誤解

はーい、ここでちょっとドイツの法律原文を見てみましょうねー

PStG § 22 Abs. 3(3) : Kann das Kind weder dem weiblichen noch dem männlichen Geschlecht zugeordnet werden, so ist der Personenstandsfall ohne eine solche Angabe in das Geburtenregister einzutragen.

英語メディアにも英語訳が載ってます

うちの妻がかわいいことはともあれ、法律原文を見て頂いてご説明したとおり、これって

×「ドイツで第三の性が認められた」

○「ドイツで性別欄を空欄にしたまま出生届を出すことが認められた」

ということなんです。あくまで「性別欄を空欄にしたまま出生届を出すこと」が認められたということであり、「第三の性」なるものが制度として新しく作り出されたわけではありません。

現行法では「一生『性別:空欄』のままでいつづける」ことも理論上可能なので、「ということはそれって要するに『空欄』という第三の性じゃん」という意見もあるかもしれませんね。

しかし、性分化疾患と診断された方々の多くは、誰が何を言おうが、自らを「男」もしくは「女」であると考えていらっしゃいます。同時に「男でも女でもないです」とか「今は選ぶ時期でないと思います」とか、「男」「女」以外の様々なアイデンティティを持つ方だっていらっしゃいます。そんな多様な意見をバッサリしちゃって

要はみなさん、第三の性なんですよね! 認められてよかったですねー^^

しちゃうのは、あまりにも乱暴すぎることです。

具体的に名前を挙げることはしませんが、一部日本語メディアでは「第三の性の選択」などと表現されています。恐らく一部英語メディアで使われた「third gender option」という言葉を翻訳したものですね。

これは要は

第三の性 の選択

ということではなくて

第三の 性の 選択

という意味です。ここは誤解しないようにしないといけません。

ということで、「ドイツで第三の性が認められた」という表現は厳密には誤りですよ、というお話でした。

★ 「第三の性」の中身いろいろ

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こういう「ドイツで第三の性が認められたって!」という誤読が広まったのは、実際に今まで人類史上、たびたび「第三の性」という言葉が使われてきたとからなんじゃないかしら。とわたしは考えています。

昔から色々な場面で「第三の性」という言葉は使われてきたわけですが、その意味するところはいろいろでした。ちょっとここでいくつか例を挙げてみますね。

▼「第三の性」の中身いろいろ

▽ネパール「第三の性」
対象:自分を男だとも女だとも自認していない人
場面:国勢調査、IDカード
背景:性自認や性的指向に基づく差別撤廃を要求する最高裁判決(2007)

▽タイ「カトゥーイ」
対象:男性として生まれ、女性の装いやふるまいをする者
場面:専用トイレ、専用の就職枠など
背景:文化的に継承されてきたもの。「前世で悪い行いをしたらカトゥーイに生まれる」と信じる者もおり、職業選択が(望む望まざるにかかわらず)性産業に限られるといった問題も解決しきったとはいえない。

▽欧米諸国「第三の性」
対象:主にゲイをはじめとした同性愛者
場面:各種の書物など
背景:1700年頃から、LGBT権利運動が活発化した1970年頃まで、同性愛者は「第三の性」として考えられていた。やがて性自認(自分の性別をなんだと思うか)と性的指向(どの性別を恋愛および性愛の対象とするか)が別の概念として切り分けられると、この考え方は廃れた。

いろいろずらずら書きましたけど、要はムリヤリ現代日本の言葉に直せば
・同性愛
・性同一性障害
・女装子ちゃん
・Xジェンダー
・性分化疾患
とかとかなんとかとにかくぜんぶ「その他」のカテゴリにブチ込む感じで「第三の性」と言われてきたというわけです。例は挙げきれませんが、こういった「男でも女でもない性」という概念は各国語でみられます。古い日本語にも「はにわり」という単語がありますね。

こうして、各国語に「第三の性」的な概念が存在する事実は

人間の性別は、男と女のふたつですよ。男は女と、女は男と恋をするようにできてるんですよー

っていう男女二元論と異性愛主義がいかに雑だったかということを物語っているんじゃないかなって、わたしは思うわけです。

また、そもそも雑なものである

人間の性別は、男と女のふたつですよ。男は女と、女は男と恋をするようにできてるんですよー

に加えて

人間の性別は、男と女のふたつであるべきですよ。そして男は女と、女は男と恋をするようにするべきですよー

論というのもあるわけで、これはもう、ほんとうに、なんていうか、

どうしたもんかしらねえ

って感じです。その「どうしたもんかしらねえ」という試みのうちのひとつが、今回のドイツの新法案であるわけですが、しかしこの法案で性分化疾患にまつわる問題が全て解決したとはとてもいえません。

「『性別:空欄』となっている子どもが例えば男女別の体育の授業でいじめられたりする可能性にも対処しなきゃいけないでしょ」

「そもそも性分化疾患の当事者団体が求めていたのは、新生児のうちに性器への手術を行うことを禁止するという措置であり、『性別:空欄』を選べるようにすることじゃなかったんだけど」

などなど、この件、まだまだ向き合うべき問題が残っています。

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色々あるんだけど、この件から一人一人が学べることと言えば、

「あなたつまり両性具有なの? 第三の性ってこと?」

とか

「あなた自称バイだけど、男と結婚してるなら異性愛者だよね」

とか

そうやって性をカテゴライズする言葉を人に押し付けないっていうことではないでしょうか。わたしも本物のレズビアンだとかそうじゃないとか色々言われ続けていますが、そもそも性に対するあり方って百人百通りに違うんだから、分類しきれないものなのよね。

それでも制度や学問上カテゴライズしなければならない必要というのは、社会の上で出てきたりします。それはまた別に向き合うべき問題として、少なくとも個人と個人の関係においては、「カテゴライズしないこと」を意識していたいですね。

ということで、ちょっと真面目にこってりめの記事でした。読んでくださってありがとう! また来週月曜日にね。まきむぅでした◎

 

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