第37回 年末、LGBTと「帰省問題」

 

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写真はよしながふみさんの漫画、『きのう何食べた?』です。私もひろこさんも大好きな漫画で、全巻揃えています。新刊の第8巻は、もう読みましたか? 今回はその中のひとつのエピソードをご紹介しながら、「LGBTと帰省」について考えてみたいと思います。

シロさんとケンジはゲイカップル。シロさんは弁護士、ケンジは美容師。ふたりで一緒に暮らしています。シロさんの自炊は完璧で、スーパーで手頃な食材を上手に見つけては、毎日料理します。そのシロさんの手料理を中心にさまざまなドラマが展開していきます。

今回ご紹介するのは、シロさんとケンジの京都旅行のお話。(以下、ネタバレ)

いつもはクールで、人前で手をつないだり絶対にしないタイプのシロさんが、シロさんの方から手をつないだり、ケンジがずっと行きたがっていたお店へと次々に案内したりしていきます。そんな優しすぎるシロさんに、ケンジは「なにかあるのでは?」としだいに不安になっていきます。

そして旅館での夕食時に、ケンジは思いきってシロさんに尋ねます。「どうしちゃったの? 別れ話なの? それとも検診でガンでも見つかったの?」と。シロさんはこう答えます。

「来年の正月だけど、うちの親がもう実家に来てくれるなって言ってきたんだよ。ホンットーにゴメン!!」
「…..」

シロさんは電話で父親に、前のお正月はシロさんたちふたりが帰った後お母さんが倒れて寝込んでしまったこと、そして「ケンジ君が悪いわけではないがその方がお互いに気楽だろう」と言われていたのです。それを聞いたケンジは、そのときは「なんだ、そんなことか」と受け入れ、ふたりで旅館の夕食を楽しみます。

しかし…..
このあとの表現がみごとなのでした。

翌日になって、帰宅する新幹線の中で、ケンジはこう言います。

「ねえ、よくよく考えるとやっぱりひどいよね、昨日の話。(中略)何かボディーブローのよーにじわじわときいてきてるんですけど、今!」

全く同じではなくても、似ている状況で心を悩ませたことがある人は、とても多いのではないでしょうか?多くのLGBTにとって家族へのカミングアウトは、共通する大きな問題のひとつです。カミングアウトができたとしても、パートナーがいる場合はシロさんとケンジのように、「帰省問題」とでも呼びたくなってしまうような問題が浮上することは少なくないでしょう。

私はこのエピソードの中でもとくに、上記のケンジのセリフに強烈なリアリティを感じました。

あまりにもショックなことって、その瞬間にはうまく消化することができずに、痛みを感じるまでに時間がかかってしまうことがあります。ケンジが言う「ボディーブロー」なんですね。ゲイカップルの微笑ましいとも言える京都旅行のお話なのですが、その中には「家族との関わり」という重いテーマがあって、ほろ苦い。いえ、実はかなり苦いと思うのです。涙がこぼれそうになるとくすっと笑わされて、でもやっぱり…..という読後感が、素晴らしい。胸がぎゅうっとなります。まだの方は、ぜひお手にとってみてくださいね。

パートナーがいる人の「帰省問題」ですが、パートナーを持たない人も「帰省問題」を抱える場合があるでしょう。カミングアウトの問題、そして「結婚へのプレッシャー」「妊娠/出産へのプレッシャー」などを感じて、精神的に辛くなる人もいるかもしれません。

もしこの年末に「帰省問題」を抱えている人がいたら、覚えていてほしいことがあります。

家族からの言葉や、言葉ではないプレッシャー(目線ひとつ、笑顔ひとつからでも、それを強く感じることもあるでしょう)がしんどく感じたら…..

どうかその場を離れてください。
その場を離れてもいいということを心に留めておいてください。

具体的には「ちょっとトイレ」とか「コンビニ行ってくる」とか「あ、電話」とか、なんでもいいんです。そして深呼吸して、その場所に戻るか戻らないか、選んでみてください。

もしその場を離れられず、つらい気持ちになってしまったら、こんなふうに考えてみてください。

「ああ、この人は、今、そういう価値観を持っているのだな」と。

人は、変わっていきます。今現在は、その人は自分と違う価値観を持っている。ただそれだけのことです。関係性の近い人と、とくに家族と価値観が違ってわかりあえないのは、とてもつらいことです。でもそれも、「ああ、今はわかりあうことができない。残念だなぁ」と思う。そのことを「親と違う価値観を持つ私はダメだ」「親孝行できない私はダメだ」「親を悲しませている私はダメだ」と自分を否定する方向や、逆に怒りや憎しみの感情になるべくつなげないことです。なかなか難しいとは思いますが。。

家族との関わりは非常に難しく、セクシュアリティに関わらず本当にたくさんの人が悩んでいます。家族関係の本を読んでみるのも、自分が抱えるモヤモヤに名前がついて、気持ちが少しラクになるかもしれません。

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しんどいことがあったら、どうかたくさん自分に優しくしてみてください。日頃からその方法を、たくさんストックしておいてください。
どうか、少しでも、自分らしく年末年始を過ごすことができますように。

今年も一年、ありがとうございました。
また来年も、「レズビアン的結婚生活」をよろしくお願いいたします!

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