第37回 「営業オネエ」「百合営業」~異性にアピる同性愛

 

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まきむらよ。

毎週月曜、こちらの連載「写真:PAKUTASO

さて、「百合営業」とはなんのことでしょうか。

ちょっとここで、「百合営業」とGoogle検索した予測検索結果を見てみましょう。

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声優さんの個人名がガンガン上がってきたよ

百合営業とは、ずばり言えばこういうことなんです。「声優をはじめとする女性芸能人が、女同士でキャッキャウフフすることにより、男性ファンに『男いないですよ』アピールをして清純感をかもす営業行為」

さて、こちらの百合営業ですが、いわゆる処女厨とも言われる「女の価値は処女であること」信仰と深く関係します。

女性声優・女性アイドルを応援する男性ファンの一部からの、「あの娘は絶対に清純な処女でなければいけないんだ」プレッシャーは相当なものです。

このことは、例えば毎年のクリスマスイブに、某大型掲示板において、女性声優に彼氏の影がないかどうか監視するための

クリスマス女性声優監視スレ

なるものが恒例行事化していることからも窺い知れます。

声優やアイドルらは、そもそも一部ファンから「あの娘は男となんか関係してないはずだ、まだ女の子同士でキャッキャと盛り上がるだけのピュアなお年頃のはずだそしてもちろん間違いなく処女だ」という期待感を持って見られています。

ですから、たとえ声優やアイドル本人が本当に女の子好きだったり、本当に百合作品(※女の子同士の関係を描いた作品)好きだったとしても、結果としてそれは「営業」として機能してしまうという側面があるんですね。

あの国民的アイドルのPVも、こんなんなってますしね。「百合営業」はもはや、メソッドとして確立したといっていいでしょう。

さて、こうした異性へのアピールとしての同性愛的ふるまいは、女性同士のものだけではありません。

★ 「営業オネエ」とは?

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「オネエって、男の気持ちも女の気持ちもわかるんだよね~!」

「オネエって、みんな毒舌キャラがスカッとするよね~!」

「男の美容師さんより、オネエの美容師さんに触られる方が、女の子どうし☆ って感じで安心する~!」

「オネエってコミュ力高くね?」

「オネエってみんな辛い過去があるから、人生相談とかマジ的確!」

「オネエってファッションセンスすごいよね~! 美意識高~い!

百合営業がメソッドとして確立するよりもおそらく前に、「オネエ」はブランドとして確立しています

「牛肉」より「神戸牛」みたいに、「タレント」より「オネエタレント」みたいなね。

このムーブメントはオネエタレントにとどまらず、もはやオネエ住職/オネエ演歌歌手/オネエ漫画家/オネエモデル/オネエブロガー/オネエ精神科医/オネエ占い師/オネエ教育評論家などなどなどなどを輩出し、果てはなんとオネエ料理本まで出版されるにいたりました。

なぜ、ここまでの盛り上がりを見せたのか? 専門的な分析はいろいろありますが、表面的に言えばこういうことでしょう。

(1)キャラ立ちする
上記に挙げたような「オネエキャラ」のイメージを、オネエの3文字を名乗るだけでまとうことができるので、個人をキャラ立ちさせて印象付けるのに役立つ。

(2)ある種の特権的ポジションから物が言える
厳しい批判やストレートな物言いも、語尾が「~わよ!」になるだけでなんとなくキャラ的に許されてしまう、もしくは、許されたように見えてしまう。(例:「アンタ、おブスよね!」)

(3)警戒心を解くことができる
男性とされる者がオネエを宣言することによって、他の(異性愛)男性からは「同じ男として女を奪い合う」という敵対心を向けられずに済むし、また他の女性からは「男じゃなくてオネエだから、自分が性的対象として見られることはないだろう」というように警戒心を解くことができる。

こうしたメリットだけを目当てにオネエを演じることを、俗に「オネエ営業」といいます。わたしもついこないだ、とある美容関係者さんに、

「ひゃだ! アぁンタちょっと枝毛多いんじゃなぁ~い?? ロングだからってサロン行くの半年に1回でいいとか思ってんじゃないわよ、ちゃぁ~んとトぉリートメントしなさいよぉ~! これだから黒髪ロングはズボラ女が多いのよぉ~もぉ~、お・こ・だ・ぞっ☆」

……

「……みたいなキャラどうですかね」

っていう相談を受けました。いや、「たまらん人には、たまらんでしょうなあ」としか言えなかったけど。

そうです、たまらん人にはたまらんのです。オネエが大好きな女性というのは一定数存在します。中には残念ながら、特にオネエキャラじゃないし友達でもないしカミングアウトもしてないゲイを指して「アタシのゲイ友(ゲイトモ)がさぁ~」とかドヤ顔で言っちゃう人もいるわけですが。

ちなみに、オネエ的なふるまいをしているからといって、男性を恋愛対象にしているとは限りません

「百合営業」が女性同性愛を直接的に演じてみせるという形で行われるのに対し、「営業オネエ」は多くの場合、男性同性愛を間接的に暗示するにすぎない形で行われます。かりに直接やったとしても「やっだ~イケメン!!」的な形で、つまり「オネエとイケメン≒女と男」という形で、イメージ上は異性愛として行われるのです。

このあたりに、「百合営業」が男性に売り込むものと、「営業オネエ」が女性に売り込むものの違いが見てとれますね。「百合営業」が異性愛男性にアピるものは処女性であり、「営業オネエ」が異性愛女性にアピるものは親近感なのです。

ということで、「百合営業」「営業オネエ」とはなにか? ということをご紹介してまいりました。最後に、こういった「異性にアピる同性愛」は、日本国内だけでもないしむしろ人間界だけでもないようだということをご紹介したいと思います。

★ 海外でも、おさかな界でも……異性にアピるための同性愛

かの有名なアメリカのニュース雑誌「TIME」は、2010年に「女にキスする女たち:トレンドを解説」という記事において、女性同士のキスをある種のトレンドとして紹介しています。ブリトニーとマドンナ、スカーレット・ヨハンソンとサンドラ・ブロックといった、女性同士でキスをした名だたるセレブたちの名前を添えて。

記事によれば、パーティなどといった公衆の面前で女性同士がキスをする狙いのひとつに、「男性の気を引きつけること」があるといいます。もちろん、記事は「女性は必ず男性の気を引きつけたがっている」という論調ではなく、異性愛に限らないさまざまなセクシュアリティを視野に入れながら展開されているのですが。

一時期ツイッターで「異性の気を引くために女の子大好きアピールする女」のことをビジネスレズビアン呼ばわりするのが流行りましたけれど、日本だけの現象ではないということですね。

また「ビジネスレズビアン」という物言いには「この女は女の子大好きアピールしてるけど本当は男が好きなはずだ」前提がありますが、対してこの記事では、「私は女性同士でキスしてるけどこれは男性にアピールするためのものなの、と自分に言い聞かせるというような、セクシュアリティの複雑さや揺らぎにまでも言及しています。

そうよね、きっと、百合営業とか営業オネエとか言われる人たちの中にも、「これは営業だから、自分はノンケだから」と自分に言い聞かせてる方がいそうな気がする。わたしも女の子大好きな気持ちを、一種の「レズキャラ」を演じて「やだかわいいわぁ~」することで発散しつつ「自分はノンケだ」と自分に言い聞かせていた時期があったわ。

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両性愛の魚は交尾のチャンスが増大、独研究」という記事において、メスをひきつけるためにオス同士で交尾しているとみられる、スリコギモーリーという魚のことを紹介しています。

スリコギモーリーのメスは、「他の個体と交尾しているオスに興味をもつ」という性質があるのだそうです。よってオス同士の交尾は、相手の性別関係なく「オスが交尾中の姿をメスに見せてアピールしたいから」という理由で行われているのではないか、と研究チームは推測しています。

この推測もまた「同性愛の魚も本当は異性愛行為をしたいはず」前提に基づいてるような気がしますが、まあとにかく生物の性の多様さ複雑さを感じるお話であることに変わりはないですね。

ということで、異性アピールとしての同性愛的ふるまいをご紹介してまいりました。
ともあれ同性愛は、っていうかいかなるセクシュアリティも、自己演出の道具ではありません。女性同性愛者やオネエとしての振る舞いを、ただメリット目当てに演じることは控えたいものですね。

読んでくださってありがとうございました! また来週月曜日にね。まきむぅでした◎

 

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