第4回 以前の持ち主のフェチがわかる!痕跡本の愉しみ。『新・薔薇の快楽』

去る者日々に疎し」という。過ぎてしまったものは、次第に忘れられていくという意味だ。実は、昨年の暮れから年明けにかけて立て続けに3人も友人知人が逝ってしまった。その2人までもが、僕と同年代か若くして亡くなったのだ。なんともやるせない。長く生きていると人の死に立ち会うことも多くなるが、こればかりは馴れるということはない。親しければ親しかったほど、その悲しみはなかなか忘れることが出来ない。

その内のひとりが、『薔薇族』の第二書房が出した「ホモ・ポルノ 衝撃短編集」である。編者は、仁科勝。

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「新」というぐらいだから、これに先立って出版された『薔薇の快楽』という本もある。巻末の広告ページによれば、「男同士の歓喜の神髄を、汗と精液の匂いの中に描いた、爽快な男の愛と性の讃歌! ホモ写真多数を挿入した、ホモ秘蔵本! 一生の愛読書! ついに世に出た幻の傑作! これほど早く売れた本はありません!」とのこと。
もちろん僕は『薔薇の快楽』の方も古本屋で購入し、所蔵している。「一生の愛読書」というわりには、手放して古本屋に売られちゃったわけだ(笑)。それにしても、「これほど早く売れた本はありません!」と高らかに謳われているが、思わぬ売り上げでホクホクの伊藤文學の笑顔がまぶたに浮かんでくるのは気のせいか

事実、当時の第二書房は雑誌『薔薇族』以外に「苦悩する青春の手記シリーズ」や「現代世界ホモ文学選集」など、数多くの単行本を次々と出版していたのである。『薔薇の快楽』も早々に続編発行が決まったのだろう。ホモ本の売り上げだけでも相当なものであったろうことは想像に難くない。

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写真左/仁科勝 編『薔薇の快楽』(第二書房 発行)
写真右/仁科勝 編『新・薔薇の快楽』(第二書房 発行)

それはさておき、『新・薔薇の快楽』は7篇の短編からなる。その内の、鹿島九州男著『男裸体』にのみ、赤鉛筆でおびただしい傍線が引かれているのだ! 試験勉強の参考書でもあるまいに(笑)。

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どうよ? この傍線の数(笑)。見開きで30行の内、13カ所、15行にわたり赤々と線が引かれているのである! しかも、ヌードグラビアのページが丸ごと切り取られてしまっている。オカズ専用ファイル(!)に整理してしまったのか? もしかしたら、タイプじゃないモデルだったので、読書の興をそぐからと切り取って捨ててしまったのか? 想像はふくらむ(笑)。

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物語は、26歳になったばかりの主人公が、性に目覚めた小学6年生から「バラ色のもやのかげ」から「自分でも数えきれぬほどの性の経験」を思い出しながら綴った「小生のソドムへの生い立ちの告白」である。上級生から教えられる自慰や精通といったごくごく当たり前に行われる子供同士の性の戯れから、同性を意識しはじめ中学3年生で転校してきた同級生と初めてのセックスをするまでが手記の形で書かれている。

ま、正直いえば、大して面白くはない。文章も良くはない。……が、しかし、びっしりと引かれた赤線のおかげで、かえって面白く読めるようになったのである。その箇所をかいつまんで書き出してみる。

かむっている外皮を引くと
ブリーフをはき
小生のもの
パンツを脱がせ切った
裸の
全裸の
守のちぢんでしまったようなものを再び手にして
先まですっぽりかむっている皮をめくろうとした。
パンツ
いそいでパンツを
素っ裸
パンツがふくれ上がっていた
パンツのすそからサポーターへ手を届かせた。
サポーターの外へものを出した。
パンツの

といった具合だ。やたらと「ブリーフ」「パンツ」「サポーター」という下着関連の言葉の出てくる箇所には赤線が引かれている。それと、「裸」「全裸」「素っ裸」という語は、前後の文章は関係なくその語にだけ赤線が引かれている。また、包皮についての記述にもしばしば赤線が引かれている。きっとオカズにする時に、お気に入りの箇所がすぐわかるようにマーキングしたんだろうなぁ……。もしかしたら、いつも本に傍線を引くのがクセの人で、読みながら興奮した箇所についつい線を引いてしまったのだろうか……。本文よりも、赤線を引いた人物、つまり以前の持ち主のことが気になってしょうがなくなる(笑)。きっとこの本の以前の持ち主は下着フェチで、しかも包茎好きだと断言できる!などと、残された痕跡からプロファイリング遊びが楽しめるのも古本の魅力のひとつではなかろうか。

 

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実はこの本を買ってしばらくして、同様の愉しみ方をしている人の書いた『痕跡本のすすめ』という本を見つけた。著者は、「古書 五つ葉文庫」の店主古沢和宏氏。「稀代の痕跡本コレクター」だという。そもそも「痕跡本」という言葉も古沢氏の考案である。氏の痕跡本コレクションを紹介しつつ、その痕跡の味わい方を伝授してくれるブックガイドだ。面白い! 非常に面白い!! 古本好きにはおすすめの一冊である。この本の魅力は、次の一文を読めばわかってもらえるだろう。

今までは、古本の価値基準の枠外で、むしろマイナス要素とされた痕跡。でも、そこには、ともすると本そのものの内容を超える物語が含まれており、さらに、痕跡とはひとりの持ち主と本の関係で生まれるものだから、そこに流れる物語も世界にひとつだけの「一点もの」。

ただのゴミも、見る人が見れば宝物になります。そして、それに気付くか気付かないかで、世界の見え方は大きく変わるのです。

ちなみにこの本には、著者が、痕跡本から以前の持ち主を想像し書き上げたショートストーリー『痕跡物語』が掲載されている。その一篇に『楽園を求めて ─ 「愛の島々」』と題された、母親から執拗にお見合いを薦められる隠れホモの話がある。これも、ほんわか面白い。

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古沢和宏著『痕跡本のすすめ』(太田出版発行)1300円

友人の死に際して、僕ももう死んでもおかしくない歳なのだと身にしみて思った。桜のようにパッと散っておしまい……などと嘯いていたのは若い頃のはなしだ。業績などというものとは無縁のつまらない人生だったが、いまとなってはせめても自分が生きた痕跡をすこしでもいいから残して死にたいと考えるようになった。いじましいし、みすぼらしい考えだが、もしかしたら、それが歳をとったということなのかも知れない。

とはいえ、自分に出来ることといえばホモ本蒐集と女装ぐらいしか取り柄がない(笑)。せめても女装界にささやかな爪痕でも残しておきたいものだ。というわけで、今週末も女装漬けである。まずは、木曜は、例の“ノンケのハッテンバ”での営業。金曜日は、先週のこの連載でお知らせした新イベント「UGLY」。そして、土曜日(4/26)は、「the RING」! 日本でもっとも長く続いているゲイ・ミックスのパーティだ。ゲイノンケ問わず、イイ男が多いという評判も。ぜひぜひ遊びに来てね!!

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the RING」4月26日(土)、西麻布・FREQ.にて開催。詳細は、
 

 

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