第8回 ハッテントイレでびっくり! マーガレットの交友録&身辺雑記

 

764_1

先日、芝居の招待券が手に入ったので、誰を誘おうかとアドレスブックを繰ってみた。ダムタイプ」のメンバーでもあった。そして、南定四郎氏が始めた映画祭を引き継ぐ形で、第3回目より「ONE Archive」所蔵の資料をもとにパフォーマンス作品を作り、公演するというプロジェクトだそうだ。さらに、彼が選んだ資料というのが、『Laud Humphreysは社会学者で、彼が60年代に「Tearoom」、つまり、発展トイレでの男性同性愛者の性行動について調査研究したものだ。とても面白そうな本なのだが、日本語訳が出ているはずもなく、しかも、僕が見つけたのはフランス語版。英語を読むのさえままならないというのに(笑)。フランス語が堪能で興味のある人、この本を貸すので、読んで訳して!!(笑)

このプロジェクトが興味深いのは、過去の本や資料が形を変え新しい作品となり、そして、LGBTの歴史を新しい世代へと継承していこうというところだ。アーカイブがあれば、そんなことも出来るのだ。僕も世界最大とはいわないまでも、こんな面白い利用の仕方をしてもらえるアーカイブを作りたいと、心を新にしたのである。川口君の『Tearoom Trade』のパフォーマンスは、来年後半に東京でも公演を予定しているとのこと。楽しみだ。

764_2

Laud Humphreys『Tearoom Trade』のフランス語版『Le Commerce des Pissotières』(Éditions La Découverte 発行)

さて、今週はなんやかやと忙しかった。月曜日は、今月末に出演する上海のゲイ・パーティ「HEAVEN CIRCUIT」のため、TOY BOYの天天くんとの衣裳合わせ兼打ち合わせ。上海、楽しみだ。

火曜日は、新宿2丁目のバー「FOLSOM BLACK」のことで相談があると、「小原くんに呼び出される。用件はといえば、ラバー(ゴム)フェチのホモを紹介してくれとのこと。ちょい前の本連載で「九州男」で一杯。

その後、次回開催の「BUMPY!」へ。話は脱線につぐ脱線。この10年の日本のHIV/AIDS予防啓発対策は失敗だったのか? “LGBTマーケット”に感じる胡散臭さは一体なにか? 京都のイケズの構造はキャンプなのか? そして、お決まりの「あのコ、どうよ?」まで(笑)。ケンケンガクガク。言葉をやりとりしながら、なんとなく相手を確認し合う。近づくことも、理解することも、ましてや相手を変えることなど出来ないけれど、そこにいてくれることを確認し合う。そんな「対話」「会話」の時間が好きだ。色恋が億劫になってしまった老いたアタシにとって、この濃密な時間はもはや言葉による“セックス”とも呼べるものなのである! お互い、全然、シュミじゃないけどね(笑)。んでもって、アタラとの楽しいおしゃべりの時間は、お客さんでやって来た第7回 仏のマーガレット怒る! 『日本における 男色の研究』から巡る、同性愛の呼称問題。」については、各方面からご意見をいただいたこともあり、言葉を使う身として、こんな本が気になって読んでみた。『日本語誤用・慣用小辞典〈続〉』。言語学者であり東京大学名誉教授の国広哲弥氏が、テレビ、新聞、雑誌などで間違って使われている日本語を指摘。バッサリと斬る、爽快な一冊。具体例を多く挙げながら、言葉が誤用され、変容していく構造がわかりやすく書かれている。取り上げられている誤用の例は、「一瞬先は闇」「怒り心頭に達する」「いやが応にも」「飛行機を下車」などなど。僕の悪文など読まれたら、ひとたまりもないだろう。相手にしたら恐ろしい(笑)。

とはいえ、国広氏、「当店では客寄せのため、採算を度外視した値段で……。という宣伝のはり紙」について書かれた文章では、「お客に対して失礼な言葉遣いである『客寄せ』とは、客を寄せつける側が内輪の使用語として用いる言い方であり、当のお客に対して言うべき言葉ではない。(それを注意したところ、ニヤニヤ笑って相手にしてもらえなかった)女店員の態度そのものも失礼である。自分が感性が鈍くて何と答えてよいか分からないなら、ともかく「はい申し訳ございません。店長に伝えておきます」ぐらいは言うべきである。それが接客の礼儀というものだ。」とムキになって憤慨している様子もうかがえて、ちょっと可愛い。

ちなみに、この本の中で「ホモ本」的な部分があったので、紹介しておく。

にやける この動詞は〈男が女のように色っぽい様子をしたり、変にめかし込んだりする.男が変ににやにやして弱々しい態度をとる〉(大辞林)という意味であり、一般にマイナスのイメージを伴う。語源的に言うと、「にやけ」という名詞を動詞化したものであって、「にやけ」(若気)は昔貴人の男色相手をした少年を指した。

「にやける」がホモ由来であったとは、この本ではじめて気づいた。いまや、表情や態度を表すだけの言葉となっているが、「一般にマイナスのイメージを伴う」とあるから、差別語とまでいかずとも、そのニュアンスを含んだ言葉でもあったのだな。ふむ、勉強になる。

言葉だけとは言わないが、人が考えを伝えるための重要な道具のひとつであることは確かである。そのためには言葉の由来や成り立ちにまで理解を深め、言葉尻や字面だけに惑わされることなく「対話」「会話」をしていきたいものだと、肝に銘じた。最後は、国広氏のこの一文で。

一般の人々が言葉について抱いている大きな誤解は、意味の伝達はそこに用いられた表現つまり単語とその並び方によってすべてなされている、と考えることである。実際は、言語表現は、そこで伝えられるはずの意味の総体のほんの一部しか表していないのであり、意味の総体を汲み取るためのほんの手がかりを与えているに過ぎないものなのである。
われわれはこの手がかり的な言語表現に基づき、あらゆる予備知識、言語知識、論理的な思考などを、ほとんど無意識のうちに駆使して、意味の総体を汲み出すのである。


国広哲弥 著 講談社現代新書1250『日本語誤用・慣用小辞典〈続〉』(講談社 発行/1995年5月20日 第1刷/650円)

Top