第11回 ちんこに乗せたカタツムリのたたり! J.T.リロイ『かたつむりハロルド』

うっとうしい雨が続く。梅雨である。梅雨といえば、なにはさておきカタツムリである。都会ではその姿を見ることも珍しくなったけれど。ところで、親愛なる読者諸兄は、ちんこの先にカタツムリを乗せたことがおありだろうか? 私は、ある(笑)。

思い起こせば、自慰をおぼえたての頃。10歳か、12歳か。そのぐらいの年頃であった。股間に生えた突起状の器官が、ある日、それまでの、単なる排泄用の道具ではなくなった。それは、劇的な変化だった。ちんこを中心に、世界が変わったのである。体のどこかからか生まれ、突き上げてくる、名状しがたい「何か」。「何か」は出口を求め、下腹部のあたりにぐるぐると渦を巻いて居座った。これを外にひっぱり出して正体を見届けてやりたいと、幼い排泄管を弄ぶことに熱中した。犬猫に舐めさせるのは当たり前(笑)。なにかで読んだ、刑務所で囚人がちんこの先にハエを乗せたというのを真に受けて、昆虫採集にいそしんだ。アリは痛かったなぁ(笑)。庭から捕まえてきたアリをコップに入れ、おそるおそるちんこを突き込んだのだが、アリにしてみれば、押しつぶされそうになって必死だったのだろう。噛まれた。これには、参った。しかし、あくなき追求は止むことはなかった。それが私の思春期だった。

そして、ついにカタツムリである。もう、完全にバカである。この時の情熱と努力と熱意と真剣さを学業に向けていたなら、天才とまではいかなくても、もう少しは賢くなれたはずだ。もう少しは良い学校に行けたかもしれない。いまよりもうちょっとマシな人生を送れていたのかもしれない(笑)。

さて、私の中で渦巻いていた「何か」は、次第に質量を増し、おぼろげな輪郭を描きはじめた。それは、おぞましく、最悪の結末だと思っていた姿であった。同性愛者、である。無論、自分が同性愛者だなどと認めることは出来なかったが、はじめて男とセックスをした時、カタツムリなどとは比べようもないほどの気持ちよさと同時に、螺旋のような闇の中に落下していく感覚を味わったのである。そうして、私の思春期は終わった。

時が経ち、カタツムリのことなどすっかり忘れて、初老のホモ(!)となったある日。一枚の写真を見て、腰が抜けるほどの衝撃を受けた。天才アラーキーこと、雌雄同体の生き物である。子供の頃にカタツムリをちんこなんかに乗せたから、そのたたりなのだろう。私は天才にはなれず、男みたいな女みたいな、しがない女装オカマとして生きていかなくてはならなくなってしまったのである(笑)。

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荒木経惟『エロトス』(リブロポート/1993年 発行/3150円)

男とは、ちんこである。おそらく多くの男子にとって、自分のちんこが気持ちよくなることが思春期の至上命題である。己の欲望の落としどころを探すのが、この時期の人生のすべてだといって構わない。それはすなわち、自分とは何者であるかを探すことでもあった。セクシュアルアイデンティティとはよくいったもので、性は、その人間の重要な構成要素である。男は(たとえ心では否定していたとしても)興奮すれば、股間のカタツムリが♪ツノ出せ、ヤリ出せ、アタマ出せ〜なので、セクシュアルアイデンティティなるものが非常に分かりやすい。

一方、女子はといえば……分かりにくいんだそうだ(伝聞推量)。身体構造的に、マンコが見えにくいところにあるせいらしい(伝聞推量)。おまけに、自分のマンコを見たことがない人が沢山いるらしい(以下、略)。そんなことを女の友人から聞かされたことがあるが、正直、ホントかよ?と思ってしまう。自分のマンコを見たことないって、いつの時代の話だよ!?って感じである。そりゃ、知的好奇心が無さ過ぎだろ。自己の身体への怠慢だろ。それを棚に上げて、男社会の抑圧とかって言われてもねぇ……(笑)。男と女の間には、まだまだ深くて暗い川があるのかもしれない。

ところが、このところ、女の書いたエロ小説がブームである。世界中でベストセラーが数多く出ている。やおい、腐女子、BLなども、そうであろう。♪ツノ出せ、ヤリ出せ、アタマを出した女性作家の勢いは止まらない。多くは陳腐なポルノか、過激な濡れ場のある「聖獣ジャカロープ、きらびやかな衣裳、不思議な魔力を持つ娼婦たち…。奇妙で危険なおとぎの国に迷い込んだ“サラ”を待つ運命とは─。自分を忌み嫌う母への愛憎、純粋さと残酷性を持った少年の微妙な心の揺れを繊細に描いた、自伝的青春小説。(『サラ、神に背いた少年』紹介文より)

へ? 「自伝的青春小説」ってことは、作者は男? 女じゃないの? 18歳となった少年が母親から買春を強制された実体験をもとに書いたとされる本書は、その内容の過激さが話題を呼び、ベストセラーとなった。ウィノナ・ライダーなどなどの著名人からも絶賛され、金原瑞人の訳も良く、グイグイと読める。この一件で、彼女の作家としての人気は失墜。その後、あまり名前を聞かなくなった。残念である。

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J.T.リロイ『サラ、神に背いた少年』(アーティストハウス/2000年 発行/1080円)
J.T.リロイ『サラ、いつわりの祈り』(アーティストハウス/2002年 発行/1080円)

さて、今週、紹介するホモ本は、ローラ・アルバートがJ.T.リロイ名義で出した最後の本、『かたつむりハロルド』だ。

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ポーク・ストリートにたむろするヘロイン)なんかとはモノが違うよ」興奮してオレはうなづいた。「シートベルトをしなさい」オレたちはラリーの家に向かった。

家もなく、金もないストリートチルドレンの話。不幸とは、何も持たないことではない。愛すべきものを得て、それを失うことの方が、より悲劇的で不幸だという寓話。わずか30ページたらずの短編だが、J.T.リロイ=ローラ・アルバートの才能が光る。すぐれた作品は、深くて暗い川を超える。誰が書いていたっていいじゃんか! そんな風に思わさせられたひとつの例である。しかしなぁ、こんな作家が埋もれちまうのは残念至極。こりゃ、きっと、作品の中で邪険に扱ったカタツムリのたたりに違いない(笑)。

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J.T.リロイ『かたつむりハロルド』(株式会社USEN/2006年 発行/1800円)

さて、来週金曜日(6/20)は、深くて暗い川も軽々と越えた才能豊かなドラァグクイーン達の共演! 大好評だった「UGLY」の2回目が開催!! 今回のゲストは、コニョ・スナッチ・ズボビンスカヤ。お越しをお待ちしとりやす。

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「UGLY」20014年6月20日 23時〜/新宿二丁目・doop tokyo
詳細は、二十歳の微熱』『ぐるりのこと』のゼンタイ(=全身タイツ)愛好家たちの“可笑しくて、痛い”オムニバス・コメディ。これまでとはうって変わっての低予算映画であるが、橋口監督のターニングポイントともいえる意欲作。橋口ファンなら、観ておくべし。ちなみに、特典映像として初日舞台挨拶の模様も収録されている。んで、司会をさせていただいたアタシの全身タイツ姿も見られる(笑)。

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橋口亮輔監督作品『ゼンタイ』(バンダイビジュアル/2014年/4104円)
詳細は、

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