第9回 『トスカーナの休日』

第23回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭、行きました〜?あたしも『アゲインスト8』、『フリーフォール』、『湖の見知らぬ男』を見直しに行きました。今回は非常に多くの人に足を運んでいただけて、あたしとしては超うれしいです。ご来場いただけなかった方々、来年は是非!とっても楽しいイベントですよ〜。今回の人気の理由は、ひとえにプログラムにあったんじゃないかと思っています。例年よりもキャッチーな作品が多く、またそれらがセクシュアル・マイノリティ当事者だけでなく、ストレートの人にもちゃんと多様性を訴えかける作品がそろったから。これも実行委員会の皆さん、会場のオペレートを支えたボランティアの皆さん、そして映画祭を応援する協賛企業の皆さんのおかげだです。あたしからも御礼!

さて、そんな映画祭では、この連載の名前を冠したイベントを行いました。さんざっぱら紹介させていただいた7月7日の動画サイトに編集版がアップされておりまして、当日いらっしゃれなかった方も観ることができます。映画祭出品作の話はもちろんのことですが、「にじいろ☆シアター」らしくセクシュアル・マイノリティの映画事情やマーケティングの話もしているので是非ご覧いただきたい!

今回紹介したいのは、そのイベントの中で紹介した一作です。「DVDなどで観られるLGBT映画のオススメは?」というコーナーであたしがさんざん「映画としてはクソなんですが」とクソ連発した『トスカーナの休日』という作品。この作品はDVDもBlu-rayも発売中ではあるんですが、あいにく劇中写真の使用許諾がとれないのでジャケ写のみの掲載で申し訳ないです……(なので、今回は文字だらけ。がんばって読んでちょ!)。

ダイアン・レイン主演で、共演はドラマ『グレイズ・アナトミー』や映画『サイドウェイ』などで知られるサンドラ・オー。ゲイ的にはサンドラ姐さんにピンとくる人が多いんじゃないかしらね〜。なんせ見た目インパクト強すぎる女優なんで。

この作品をクソクソ、と連発しておいてオススメをするのにはワケがあります(本当のクソ映画だったらオススメしませんよ〜)。その理由をイベントのときに説明しきれなかったあたしの技量不足ゆえに、今回はちょい解説をば。

なんせこの作品、超単純なんです。「離婚で傷心の中年女が自分探しでトスカーナに行って、第二の人生を始める」という、ありていなラブロマンスもんだから。この部類の映画だと『食べて、祈って、恋をして』とかあるんですが、映画ファンからすると「またかよ!」的な話でございまして。使い古された設定とネタで全く新しさはないし、むしろ「イタリア・トスカーナの美景と美食を楽しむ映画」みたいな位置づけになってしまった作品でもあるんですね。

ところがですよ。これをLGBTの方々が今観ると、ちょっとした「へぇ〜」がたくさんつまっているという作品に見えてしまうマジック!理由は一つ。サンドラ姐さんの演じるパティは、主人公フランシスの親友であり、子供を育てる決意をしたレズビアンだから。

ストーリーを紹介しますね。
LGBTに寛容なサンフランシスコで作家・書評家として活躍するフランシスは、ひょんなことで夫の不貞を知り離婚を決意。ところが離婚のために家を手放すことになり、傷心と孤独のひもじい思いをする。そんなとき、親友のパティは彼女を励ますためにガールフレンドと3人の会食を開く。パティは精子バンクからの提供を受けて妊娠に成功し、ホントはガールフレンドと一緒に行く予定にしていたトスカーナ10日間のツアー旅行をフランシスにプレゼント。フランシスは旅先で見かけた古い家屋に運命を感じ、ツアーを途中離脱して家を衝動買いし、新しい生活を始める。

これ、パティがいなかったら本当にクソだと言うことをわかっていただけますでしょうか?(大事なことなのでしつこくクソ)ありていすぎる主人公のキャラ設定には正直げんなりする人もいるでしょう。ええ、わかっております。

これを敢えてオススメするために強調したいのは、この映画が制作された時代、フランシスとパティの関係性とパティのキャラです。

まず製作年。2003年なんですよ! 『ハリー・ポッター』や『ロード・オブ・ザ・リング』、『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』が大ブレイクした11年前。よもや、こんなにLGBTフレンドリーな設定を活かした大手スタジオ映画ができたな、という意外性は評価すべきでしょう(タッチストーンはディズニーの実写映画部門の一つ)。それも、物語の起点となるのがLGBT人権運動の震源地であり、北米でもっともセクシュアル・マイノリティに寛容な街で知られるサンフランシスコというのもムリがない設定。

そしてフランシスとパティの関係性が自然なんですね。この作品が今作られても全く違和感のないほどで、ストレート女性とレズビアン・カップルの3人の会食風景は、現在進行形であるかのよう。これをLGBTに不寛容な監督が撮っていたら、きっとただの女子会の図にしたことでしょう。パティが「妊娠したのよ!」とフランシスに告白したときのリアクションなんて、本当に絶妙。10年以上前にこのシーンが描けていたのがうれしい事実。

そのパティのキャラも最高なんですよ。男前なきっぷのいい女性で、めそめそしてるフランシスと好対照に描かれて見事なアンサンブル。フランシスのトスカーナ生活が始まってしばらく経った物語中盤から、ある理由からパティもトスカーナにやってきちゃうんですが、その理由も至極納得できるんです。そこは観てからのお楽しみにしたいので伏せておきますが、パティがトスカーナにやってきてからはフランシスとパティの関係がグッと縮まり、物語が転がり始めるんですね〜。この2人の関係があることで、セクシュアリティや恋、個々の生活様式を超えた「真の友情」と「多様性」を浮き彫りにすることに成功しているんです。

しかもしかも、この作品のラストなんかはあたしにとっては絶品。女性の自分探し映画というと、とかく次なる恋の予感や恋の成就でハッピーエンド〜♪みたいなもんが多いんですが、この作品はそうしなかった。恋愛じゃなく、いかにして深い人間関係、家族を築き上げるか、というところに落とし込んでいるんです。それって、近年大流行している「家族のキズナ映画」に通ずると思いません? ぶっちゃけこの映画がクソと言うのは、10年以上前だったから。もし、これが今作られて新作として公開されていたら、けっこういい線いけたと思うんですよね。

いわゆるラブロマンスもの、ラブコメものがお好きな方には少々物足りない部分もあるとは思いますが、この連載を読んでくださっている方にはきっと響くものがあるはずなので、是非一度ご覧になっていただきたいわ〜。「ゲイツアーよ〜〜〜!」と大はしゃぎする旅冒頭のシーンなんてクソ笑えます(最後までクソ言う)。

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<作品情報>
トスカーナの休日
監督・脚本:オードリー・ウェルズ
原作:フランシス・メイズ “UNDER THE TUSCAN SUN”
出演:ダイアン・レイン、サンドラ・オー、リンゼイ・ダンカン、ラウル・ボヴァ、ヴィンセント・リオッタ ほか
販売・発売:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ホーム・エンターテイメント
Blu-ray 2381円、DVD 1429円 発売中

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