第10回 『アナと雪の女王』に観る、ディズニー映画の変革

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劇場はバカ当たり、ソフトも売れに売れまくっている“アナ雪”こと『アナと雪の女王』。もうここまで社会現象になってしまった映画ってのも(しかも洋画でアニメーション)、本当に久しぶりですわよね。ディズニー的にはそれまで『ライオン・キング』と『ファインディング・ニモ』が持っていた記録を抜いたばかりか、全世界的にも興行収入12億ドル突破の記録。小さい国の国家予算くらいですな……。ここまで大当たりするとは誰も予想はしていなかったけど、売れると出るのが批判というものです。

ものはついでなので、あたしの気持ちを正直に申しますと、アナ雪はディズニー・アニメーションの中ではけっしてベストとは言えるモノではありません。たしかにキャラヨシ、曲ヨシ、物語ヨシと三拍子そろってるんだけど、『塔の上のラプンツェル』のほうが映画的、映像的な挑戦は大きかったし、デキもよかったと思うのです。とはいえ、悪いとは言ってませんよ。あたしも初めてアナ雪観たときは、すごく楽しかったし、1カ月くらい「レリゴー♪」が頭の中でリフレインしまくりましたから。でも、ベストではないんじゃね? ということだけです。

"FROZEN" (Pictured) ELSA. ©2014 Disney. All Rights Reserved.

楽曲に関しては、なんといっても「レリゴー♪」で知られる「Let it go」が素晴らしくキャッチーでしたよね。この楽曲ができて、それを聴いた製作のジョン・ラセターが「エルサを悪役にするつもりだったけど、やめやめ。姉妹の話にしよう」と方向が決まったという逸話もあります。それほどまでの名曲ぞろいだったのは、ミュージカルシーンのサントラを手がけた作詞作曲家が最も今エッジィで才能ある作家によるものだからなんですねー。この作品でオスカーも獲得し、世界で11人しかいないという音楽界のグランドスラム「EGOT」(E=エミー賞、G=グラミー賞、O=オスカー/アカデミー賞、T=トニー賞)を達成したロバート・ロペスさん。彼は、ブロードウェイで大ヒットしているミュージカル『Book of Mormon』で一躍注目を浴びた作曲家です。『くまのプーさん』でお試し起用のワンクッションがあったとはいえ、彼をアナ雪に大抜擢したというディズニー製作陣の判断はものすごく革新的・挑発的じゃーありませんか(なぜなら、ディズニーにはレジェンドと言われる作曲家が何人もいるから。メインの大作で新人が入るなんて、まさに挑戦!)。

 

"FROZEN" (Pictured) ANNA. ©2014 Disney. All Rights Reserved.

さて、批判。いろいろありましたねー。いいんですよ、だって映画は主観で観るものですから、それこそ「ありのまま」に観ていただいて、十人十色の意見が出て当然なんです。それが出なけりゃ、共産国のプロパガンダ映画になっちゃうってもんですわ。ただですね、この作品のことを「同性愛を助長する! けしからん!」と批判する人達がいたことは解せませぬ。

北米公開時から、キリスト教会の保守層からその手の意見が出始め、日本の公開後には日本でもそれを盛んに言う人がおりました(気になる人は「アナと雪の女王 同性愛」もしくは「Disney’s Frozen Gay agenda」とかGoogleに入れるとゴッソリと出て参ります)。中でも過激だったのは「5歳の子供を同性愛に導く!」とラジオで言った牧師さんがいたとかいないとか。その反面、「キリスト教的な自己犠牲を描いている」と言う学者もいたりしたんですけど(ちなみに自己犠牲は、原作のアンデルセン童話『雪の女王』のメインテーマ)。

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たしかにゲイが弾圧されていた時代のハリウッド映画には、クィア・リーディングすることで「あぁ、作り手はゲイへのメッセージを込めたかったんだ」と解することができるものが数多くありました。でも、皆さんどうです?アナ雪を観て「子供が同性愛になっちゃう!」って思いました?少なくともあたしは思いませんでした。たしかに「レリゴー♪」の歌詞の内容の中で「隠さなければならない秘密なんてもう気にしない」というのは、あたしら世代のゲイにとっては非常に響くもので、「カミングアウトしてもしなくてもいいけど、自分らしく生きることが一番大事よね」と勇気づけてくれるものではあります。でも、だからといって、小さい子がそれを聴いたところで同性愛になるなんて発想は愚の骨頂。むしろ、そんな風に思って観た親御さんに連れられた子は、別のトラウマを抱えそうな気がする……。要は、その手の批判をされる方は、ステレオタイプなライフスタイルが全てで他は罪。寛容性を受け入れきれないんでしょう。いいよいいよ、ステレオタイプが好きで絶対に曲がらないって人はそのままで。ムリするこっちゃない(そしてあたしの知ったこっちゃないし、関わらないでくで)。だけど、10年後には確実に恐竜扱いよ。お気をつけアソベ。

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また、そのような批判をされる方々は、「アナとエルサの姉妹関係が怪しい」とか「結局エルサは男を欲しない」とか言ってるんですね。でも、それってじつは本題をぼかしてる。彼らはアナ雪の主軸が「白馬に乗った王子様とかよわき姫の物語」ではなく「強く自分らしく生きようとする女性の物語」だったことに腹を立てているんでしょう。なんせあのオチ、もう「王子様なんてウソばっか。男なんていらん!」と言ってるようなもんでしたからねー。ただ、それは時代にあわせたディズニーの変革なんですよ。なんせ、今の世の女性は(一部ゲイ男性も)「白馬の王子がいるわけない」って思ってるし、アニメーションだったとしても実際に現れたら子供ですら「プー……クスクス」ってもんでしょーよ。たくさんの人に観てもらう娯楽が映画だとするならば、ディズニーが世相にあわせた変化をみせるのは至極当然のこと。

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そして、もっというと、その変革はアナ雪に始まったことじゃないんですよ。ピクサー・アニメーション・スタジオのアート部門トップのジョン・ラセターが、本家ディズニー・アニメーション・スタジオのアート部門トップも兼任するようになって初めて放った『ボルト』からずっと、変革に次ぐ変革をトライし続けてるの。いわゆるディズニーの定番だった『眠れる森の美女』的なプリンセス・ストーリーを卒業し、老若男女がエモーショナルに感じる「ストーリー重視」のアニメーションを作る方針に切り替えたからなんですね(これはピクサーでもずっと貫いているモットー)。ピクサーは比較的新しい会社だから自然と受け入れられてるけど、ディズニーはなまじ歴史が長く名作の数も多いだけに、いきなり現代的な構成にしたことで出る反発は予想していたことでしょう。ただ、あたし的にはそれは『塔の上のラプンツェル』で出ると思ってたんだけどなぁ……。あれこそ、これまでのディズニーじゃ全くありえなかったオチなんだもん!とらわれのプリンセスが自分のポテンシャルに気づくとともに、生まれた土地へ戻って生き別れた両親と再会を果たす、なんて、『リトル・マーメイド』とかのディズニー平成黄金時代では全く受け入れられないストーリーでしょ?

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それを支えたのは、これまたディズニー・アニメーションとしては初めてとなった、女性監督起用。プロジェクト発足時はクリス・バック一人だったところ、途中からジェニファー・リーが参画。彼女が伝統的ディズニーのミュージカル仕立てにするアイデアを出したんですね〜。でかしたよ、ジェニファー! これ、ストレートプレイだったらここまでヒットしなかったもん! この女性起用っていうのも、アナ雪のタイミングだったのが良かったんでしょうね。なんせアメリカはもはや次期大統領選の話題で、ヒラリーくるくる話で持ちきり(著者調べ in 米国西海岸)。そうでなくともこの数年、大手企業も女性がトップを務めることが当たり前になってきたわけで。ディズニーがその波に乗らないなんてありえないわけです。

ということで、アナ雪を「同性愛助長映画」とするのはノー(というか、よくそこをこじつけた、と感心するばかり)。セクシュアリティとかライフスタイルとか、どうでもよくない? それより自分らしく生きることが大事よね、という「現代社会らしく未来を見つめた寛容の映画」とするならイエスです。

はぁはぁ……長くなってごめんちゃい。その分写真も多くしたわよ!

<作品情報>
アナと雪の女王
監督・脚本:クリス・バック、ジェニファー・リー
声の出演:クリスティン・ベル、イディナ・メンゼル、松たか子、神田沙也加 ほか
販売・発売:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ホーム・エンターテイメント
MovieNEX(Blu-ray、DVD、デジタルコピー同梱)4000円 発売中
(C) 2014 Disney. All Rights Reserved.

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