第11回 ロビン・ウィリアムズが示した「人生のセンス・オブ・ユーモア」

突然のことでなにがなんやら……。命は無限じゃなくて、その終わりは年功序列でもないことは重々承知の上ではあるんです。今年だけでも、有名人ではドラッグの過剰摂取でフィリップ・シーモア・ホフマンやピーチズ・ゲルドフ(「Do They Know It’s Christmas?」のボブ・ゲルドフの娘)などがこの世を去り、自殺だと2012年にトニー・スコット(リドリー・スコットの弟で映画監督)が橋から身投げ……。でも、ここまで愛され、自分から命を絶ったことを惜しまれた人はいなかったでしょう。ロビン・ウィリアムズ

普段、国内芸能界のことしか報道しないような日本のテレビ番組ですら特集コーナーが組まれるほどのインパクト。当然のことながらアメリカでは大騒ぎで、当日はニュース速報扱い。翌日は悲しみに暮れるハリウッドスター、大手スタジオ、ブロードウェイなどが追悼のメッセージを送りました。近年は目立った大作主演はなかった彼だけど(なんせ『ナイト・ミュージアム』のセオドア・ルーズベルト役くらい……)、これほどまでに愛されていたことが亡くして初めてわかったということですね……。かくいうあたしも、ニュース一報を知ってから茫然自失。数日はうまいことしゃべれなくなったほど。

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彼の影響力って人によって違うと思うんです。たとえば『ジャック』の純粋無垢な姿が好きという人もいれば、『オールド・ドッグ』のようなバディものが好きという人もいるし。はたまた、声優で出演した『アラジン』なんて「ジーニーに抱かれたい」なんていってた人もいたっけ……。彼の素晴らしさって、スタンダップコメディアンからスタートしたキャリアに裏付けられた「センス・オブ・ユーモア」に尽きると思うのです。

特にLGBTの人達に愛された彼の作品といえば『バードケージ』『ミセス・ダウト』が挙げられるでしょう。前者はマイアミのゲイバー「バードケージ」の経営者カップルと大学生の息子の婚約騒動を描いたコメディ。後者は甲斐性なしで離婚をつきつけられた男が、なんとかして子供達に接近するために60代のメイドに化けて潜入するというコメディ。どちらも彼の真骨頂である、ファミリーで観て楽しめるコメディ映画。なのに、見終わった後、多様性と寛容性を感じる名作です。

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まず、『バードケージ』。こちら、96年の作品ですよ! なのに、ゲイペアレンツvs保守的な息子の婚約者両親という対立構造をコミカルに見せるというチャレンジ。今作られていたとしたら、笑いに落とし込むのではなく、『チョコレートドーナツ』のようなエモーショナルな作品に仕上げることができたかもしれませんよね。でも、当時としては革新的なリベラル映画だと思います。たしかにかなりキワモノなカップル設定だけど、愛する息子の結婚のためなら、と大奮闘する姿は誰が観ても共感できるし、ジーン・ハックマン演じるカタブツな保守パパの偏見も小馬鹿にした感じ。

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『ミセス・ダウト』はパタパタママ的なドタバタ喜劇で、ゲイ映画ではありません。だけど、愛する子供達と一緒に暮らしたい一心で、特殊メイク&女装をいとわず彼らにアプローチする男の姿からは、どこにも偏見を感じませんよね。しかもメイドさんになりきるために、彼は必死に家事をマスターしていく姿なんて、家事を人任せにしがちな同居人に見せてやりたい……、と思う人、いるでしょ? じつはこの映画、つい最近、監督のクリス・コロンバスがロビンと続編製作のサインを交わしたばかりで、「いよいよ特殊メイクなしでミセス・ダウトか!?」なんて言われていたんですが……。

(C)Touchstone Pictures.

こうしたわかりやすくLGBTQ的なネタに触れるものもハマり役だったけど、『グッドモーニング、ベトナム』で演じた空軍兵DJエイドリアン役も深読みすると多様性の象徴として挙げられますよね。戦時下ベトナムで戦う米兵たち向けのラジオで、ロビンらしいマシンガントークとモノマネなどを交えたエイドリアンの視点で描く戦争の虚しさ。ベトナム戦争のマクロではなく、ミクロでとらえた名作です。エイドリアンが問題視する米国のあり方、人種差別やベトナム女性への蔑視などが浮き彫りにされるばかりか、エイドリアン自身が戦時下においてマイノリティという皮肉を描くのです。この作品が87年の作品じゃなかったとしたら、おそらくロビンはオスカーを獲得していたと言われているんですよ(ちなみにこの年の対抗馬でオスカーをかっさらったのは『ウォール街』のゴードン・ゲッコー役、マイケル・ダグラスでした)。

そんなロビン自身はもちろんゲイでもバイセクシュアルでもなく、ストレート。仕事とはいえ、こんなにリベラルな視点を持った生き方を示してくれたのには、彼が暮らした環境にあると思います。彼がキャリアをスタートし、最期を迎えたのは北米のLGBTQカルチャー拠点、サンフランシスコ。彼はハリウッド俳優の誰よりもLGBTQに近いところに暮らし、ふれあってきた人なんですね。思慮深く気遣いの人、と会った誰もが言い、悪い噂は過去のアルコール依存とドラッグ依存くらい(あと、取材時にジョークを言いすぎてタイムアップする記者泣かせの常連でもありました)。そのウィークポイントですら、自ら厚生施設に入り克服してきたんですよ。晩年は初期のパーキンソン病と重いウツに悩まされていたと明らかにされた彼の心の強さとやさしさ、そして寛容と多様性の表現者が失われたことが、どれだけの痛手か……。

近年の彼は、コメディ俳優としてだけでない挑戦と、体調管理をするため、敢えてインディペンデントの小規模作品(ほとんど日本未公開)に好んで出演していました。オスカー俳優だけに大手スタジオの出演となるとギャラがハンパないことから、スタジオ側からも扱いにくいとされる立ち位置だったこともありますが、大作になかなか主演しなかったのはキャリアと体調だったのね……と、今さらながら納得。中でも、日本未公開の『The Night Listener』という作品では、ラジオDJを務める初老のゲイ役を演じていますので、機会あれば是非(みんな大好きサンドラ・オー姐さんも共演)。

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長くなってしまいましたが、最後にもう一本だけ。これを観れば彼の存在がどれだけ大きいかを証明できる作品。あたしが個人的に「墓場に持ってく1本」にしている『いまを生きる』はぜひご覧ください。今や劣化激しい困り顔イーサン・ホークが美しかった時代を観られるだけじゃなく、ロビンが演じるキーティング先生の教えには涙腺崩壊間違いなし。人生で何が一番重要か? それは多様性を受け入れる寛容、そして感性とユーモアだってことを教えてくれます。これぞ、ロビンが示した「人生のセンス・オブ・ユーモア」の全てが詰まった傑作。ロビンは先をいってしまいましたが、我々はコレを観て今を生きましょう。

<作品情報>

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いまを生きる
監督:ピーター・ウィアー
出演:ロビン・ウィリアムズ、ロバート・ショーン・レナード、イーサン・ホーク ほか
販売・発売:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
Blu-ray 2381円 発売中

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アラジン
監督:ジョン・マスカー、ロン・クレメンツ
声の出演:ロビン・ウィリアムズ、スコット・ウェインガー、リン・ラーキン、山寺宏一 ほか
販売・発売:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
Blu-ray 2800円 発売中

???????(C)Hollywood Pictures Company.

???????(C)Hollywood Pictures Company.

ジャック
監督:フランシス・F・コッポラ
出演:ロビン・ウィリアムズ、ダイアン・レイン、ジェニファー・ロペス ほか
販売・発売:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
DVD 1429円 発売中

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オールド・ドッグ
監督:ウォルト・ベッカー
出演:ロビン・ウィリアムズ、ジョン・トラボルタ、マット・ディロン ほか
販売・発売:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
DVD 1429円 発売中

(C)Touchstone Pictures.

グッドモーニング、ベトナム
監督:バリー・レヴィンソン
出演:ロビン・ウィリアムズ、フォレスト・ウィテカー ほか
販売・発売:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
DVD 1429円 発売中

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バードケージ
監督:マイク・ニコルズ
出演:ロビン・ウィリアムズ、ネイサン・レイン、ジーン・ハックマン ほか
販売・発売:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント
Blu-ray 4700円 発売中

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ミセス・ダウト
監督:クリス・コロンバス
出演:ロビン・ウィリアムズ、サリー・フィールド、ピアース・ブロスナン ほか
販売・発売:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント
Blu-ray 2381円 発売中

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